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ミステリの祭典

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血みどろ砂絵
なめくじ長屋捕物さわぎ

作家 都筑道夫
出版日1978年08月
平均点7.44点
書評数9人

No.9 7点 クリスティ再読
(2024/07/27 12:25登録)
なめくじ長屋第一作。
半七ならば本当に江戸人の精神性を感じさせる「ミステリ」として空前絶後の捕物帖なのだけども、現代人に対して「捕物帖」の存在意義をどう示すのか、というのはなかなか困難な課題なのだ。これを作者が強く意識しているのが一番面白いところだと思う。
だからこそ、というか、砂絵描きのセンセ―を筆頭とするなめくじ長屋の面々は、江戸の身分制度の「列外の人々」になる。これには江戸人らしさを度外視してモダンなキャラとして造型してもいい、という作者の開き直りみたいなものを感じる。そうしてみれば意外なくらいにこのシリーズの味わいはモダンなものなのだ。しかしこの「狙ったレトロ」は、現代の科学捜査から見ればいろいろ無理もある、ケレンに満ちた不可能興味を実現するための仕掛でもある。この作者の狙いをまず楽しんでみよう。
センセ―が展開するパズラー的な論理も見どころだが、さらに言えばなめくじ長屋の面々が出動するのは自分たちの利益のためでもあり、この面々の各々の「芸」を生かした活躍っぷりにグルーバーを連想するような軽ハードボイルドの面白味も感じられる。
評者は意外なくらいに多面的な作品集だとも思うのだ。作者の江戸弁や江戸の地誌に対する強いこだわりも感じられて、異形ながら「捕物帖」入門編にいいシリーズなのかもしれないね。
個人的にはハードボイルドな味わいが出ている「いのしし屋敷」が好き。センセ―なかなかカッコイイ。
(今回は角川文庫版。挿絵が山藤章二で戯作っぽい面白味が出てる。)

No.8 6点 メルカトル
(2023/02/10 22:44登録)
とざい東西、江戸は神田の橋本町、ものもらいや大道芸人ばかりが住んでいるおかしな長屋に、センセーと呼ばれる推理の特技をもった砂絵かきがいた。当時珍しい合理精神の持ち主で、犯罪事件が起こると、わずかな礼金にあずかろうと、見事な推理で謎をとく。センセーと長屋の連中が、よってたかってとき明かした奇妙な事件の数々…。四季折々の江戸の風物を背景に、ユーモラスな本格推理を融合させた、異色の傑作捕物帖。
『BOOK』データベースより。

目茶目茶読み難かったです。
私は自分の馬鹿さ加減、読解力の無さ、集中力の無さ、記憶力の無さをよく分かっているつもりです。他人様に指摘されるまでもなく、そんな事は百も承知。なので、他の方の高評価に対して何も言う権利はありません。しかし、まあそうだろうなとは思うものの、正直個人的には期待していた程ではありませんでした。やはりここでも本作の良さを汲み取れていない己の愚かさを思い知らされた次第です。

何かこう、道中の慣れない言い回しやら、江戸時代の言葉遣い、情景が浮かんで来ないもどかしさ等を味わいながら、結局センセーの語る真相に成程と思わず頷いてしまう自分になんだかなーと妙な気分にさせられる作品でした。確かに意表を突いた仕掛けには感心するものがあり、その意味では面白かったと言えるでしょう。それでも十全に本作を堪能出来ていない事に対する腹立たしさは拭えません。

No.7 7点 レッドキング
(2020/07/13 21:58登録)
江戸の異形者達の本格ミステリ(魅筋点理)
・「よろいの渡し」 岡っ引きの注視と衆視の小舟。容疑者遊び人の渡川中消失のハウダニット。8点。 
・「ろくろっ首」 女の首無し死体と男の生首が相次いで見つかった事件のホワイダニット。5点。 
・「春暁八幡鐘」 奇妙な犯罪仕事依頼のホワイダニット。「赤毛連盟」連想の横を行った。7点。 
・「三番倉」 商人蔵からの刺殺犯人消失のハウホワイダニット。7点。
・「本所七不思議」 江戸の怪異伝説と見立て連続事件のフーホワイダニット。7点。
・「いのしし屋敷」 さらわれた女を取り返す仕事が、別の筋書きの役割にすり替えられて・・6点。
・「心中不忍池」 密室状態の待合部屋での心中事件。女の死体が老婆に入代わったハウホワイダニット。8点。 (8+5+7+7+7+6+8)÷7=6.85・・で、四捨五入して7点。

No.6 8点
(2020/07/07 04:49登録)
 江戸の身分制度から外れた、神田橋本町の巣乱(すらむ)にたむろする乞食や非人たち。砂絵のセンセーを筆頭に、願人坊主や乞食神官、野天芝居の役者や大道曲芸師など、まともな人間あつかいはしてもらえない連中をあえて探偵役に据えた異色の捕物帳、なめくじ長屋捕物さわぎシリーズ第一弾。
 昭和四十三(1968)年十二月号から翌昭和四十四(1969)年六月号まで、雑誌「推理界」に掲載された七篇を纏めたもので、キリオンシリーズ第一作目の『キリオン・スレイの生活と推理』や、短編集『十七人目の死神』収録の諸作とはほぼ同時期の執筆。長期に渡るシリーズ物で、文字通り著者の代表作と言えるでしょう。
 本書はその中でも粒揃い。さらに巻頭の「よろいの渡し」とトリの「心中不忍池」が内容的にも照応し、この巻だけでも富島町の房吉から、準レギュラー下駄常への引き継ぎ編として独立しています。
 とは言えこのシリーズでは岡っ引きは端役。むしろ江戸に起きた怪事件を元手に、なめくじ長屋の面々がそれをどう収入に繋げるかの駆け引きが、各編の見どころ。それでいて不可能性や論理性をなおざりにはしないのが、高く評価される所以でしょう。ともすれば筋の妨げになる作者の衒学趣味も、本書ではプラスに働いています。きびきびした文体で描かれる江戸情緒もまた、見どころの一つ。
 それが最も鮮やかなのは「よろいの渡し」。加えて衆人環視の状況でまっ昼間、渡し舟から人間がひとり消え失せるという謎を、シンプルに解決しています。アクシデントがトリックと自然に結び付いているのは見事なもの。
 逆に論理性で勝るのは「いのしし屋敷」。集中では地味な方ですが、流れるような筋運びの中に論理的な手掛かりを仕込み、間然とする所がありません。好みではこれが一番。キャラも良いし、もう少し肉付けされてても良かったかな。
 その両者を並立させたのは「三番倉」。一、二階とも二重の扉でふさがれた土蔵から、人間ひとり殺した男が脱出した謎を扱ったもので、ネタは大したことないものの「いのしし屋敷」同様、現場の状況からシチュエーションを類推したのち不自然な点に目を向ける推理が独特。事件を利用し己の目論見を遂げる手際は、これが最も冴えています。
 以上三篇がベストスリー。「ろくろっ首」が若干弱い程度で、他もハズレはありません。シリーズ中でも別格の作品集です。

No.5 8点 青い車
(2019/01/28 21:00登録)
 江戸を舞台に紡がれるトリック満載の短編集です。特に好みなのは『三番倉』で、倉での殺人事件を利用して他の事件を解決しようとするなめくじ長屋の面々の策略が光ります。時代物でありつつ作品世界の雰囲気を壊さず華麗な本格に仕上げている点も感心します。

No.4 8点 ボナンザ
(2014/04/08 01:06登録)
シリーズ第1弾だけあって意欲作が多い。作者の代表作といえよう。

No.3 7点 isurrender
(2012/03/09 00:44登録)
江戸が舞台となるミステリ
トリックは秀逸ですが、それ以上に単に犯人を捕まえることが結末でないところが面白かった
探偵役が犯人をゆするなんて斬新すぎます(笑)

No.2 9点 kanamori
(2010/05/11 20:49登録)
砂絵のセンセーを中心に「なめくじ長屋」のアウトローたちが奇怪な事件を解決する捕物帳、シリーズ全11作中の第1弾。
軽妙洒脱な文体で江戸の風物を楽しめると共に、奇想天外な謎と論理のアクロバットが光る傑作パズラーでもあります。
渡し船からの人間消失トリック「よろいの渡し」、見立て連続殺人もの「本所七不思議」、密室の蔵からの人間消失「三番倉」、心中した女が一瞬にして老婆に変わる「心中不忍池」など、物のけや神隠しの存在が信じられていた時代だけに、それぞれの設定が効果的で動機にも説得力がある点が秀逸です。

No.1 7点
(2010/01/11 23:40登録)
粋な江戸っ子ミステリ作家といえば、泡坂妻夫とこの作者の二人できまり。
名探偵砂絵かきのセンセーを中心とするなめくじ長屋の連中が活躍する時代物ミステリ連作の第1集です。冒頭2~3行目から「長さが七十八間、つまり百四十二めーとる弱」と、外来語をひらがな表記しながら現代の読者にも親切に説明してくれる語り口が軽妙です。
岡っ引きや同心が活躍する捕物帳でないのも、いかにも都筑道夫らしいひねくれた設定です。
話は後年の「退職刑事」シリーズ等とも通じるロジック中心の謎解きですが、時代劇ならではのトリックも利用されたりしていて、楽しめます。と思っていたら、『いのしし屋敷』では推理は緻密ながらむしろハードボイルド的な筋立てになっていたり(作者はチャンドラーも好きだったそうですし)と、目先を変える工夫もあります。

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