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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1835件

プロフィール| 書評

No.1535 6点 罪悪
フェルディナント・フォン・シーラッハ
(2022/12/03 22:49登録)
ふるさと祭りで突発した、ブラスバンドの男たちによる集団暴行事件。秘密結社にかぶれる男子寄宿学校生らによる、“生け贄”の生徒へのいじめが引き起こした悲劇。猟奇殺人をもくろむ男を襲う突然の不運。麻薬密売容疑で逮捕された老人が隠した真犯人。弁護士の「私」は、さまざまな罪のかたちを静かに語り出す。本屋大賞「翻訳小説部門」第1位の『犯罪』を凌駕する第二短篇集。
『BOOK』データベースより。

全般的に言えるのは無味乾燥で文章に血が流れていない印象。~した、~だったという末尾の説明文が延々と続き物凄く鼻に付きます。極端に少ない会話文がそれに拍車を掛けている感じがしました。又、ドイツには起承転結という言葉がないのかと思った程平坦な物語が多いのにげんなりと。正直これが本屋大賞第一位とは俄かには信じられません。それでも6点としたのは中に結構面白い短編が含まれているからです。

面白いと感じたのは『ふるさと祭り』『イルミナティ』『寂しさ』『清算』『秘密』の五篇。短めの短編十五篇中五篇だから打率はあまり高くないですね。でもまあこんなものでしょう。あまり期待せずに読むべき本だと思います。そうすればある意味納得できるかも。


No.1534 6点 亡霊ふたり
詠坂雄二
(2022/12/02 22:57登録)
俺たちには夢がある。
「廃校の亡霊」の噂に導かれて出会ったのは
殺人志願者と探偵志願者だった。
相反するふたりの高校生を描いた鮮烈な青春小説の傑作!

「高校在学中に人を一人殺す」――自由の獲得という夢を叶えるため、殺人願望を抱く高橋和也。「廃校の亡霊」に導かれるようにして彼が出会ったのは、名探偵志願の同級生だった。彼女を最初の殺人対象に決めた和也は、「探偵に必要なのは謎に遭遇する能力」と嘯く彼女と行動を共にし、謎とも言えない謎を追っていくが……。自在に作風を変えつつも、シニカルで鋭利な文章は一貫してきた著者による、鮮烈なボーイ・ミーツ・ガール!
Amazon内容紹介より。

これは完全に詠坂ファンのための作品ですね。彼の小説を全く読んでいない人やあまり好みで無い人にはお薦めしません。青春小説としては優れていると思いますが、ミステリとしては日常の謎が主体でかなり弱いと感じられて仕方ありません。探偵志願の女子高生が謎とも言えない様な謎に挑みますが、結局真相は藪の中というか、はっきりと断定されていなかったりします。
 
終始高橋の目線で語られますが、何故一人称にしなかったのかが引っ掛かります。そうすればもっと彼の内面が深掘り出来たかもしれないのにと思ってしまいます。確かに心理描写はされているものの、何故そこまで殺人に固執してしまったのかがイマイチ理解出来ませんでした。過去に何かあったのかとかであればまだしも、この動機ではちょっと納得しかねます。
それでも探偵志願と殺人志願の絡みは歪んだ青春をなかなか良く描写されており、楽しめました。


No.1533 6点 探偵綺譚 石黒正数短編集
石黒正数
(2022/12/01 22:59登録)
今ホットな注目を集めている石黒 正数の短編集。表題作『探偵綺譚』は、ヒット作『それでも町は廻っている』の人気キャラクター「嵐山歩鳥&紺双葉」の先輩後輩コンビが登場する、『それ町』プロトタイプと言える作品。この先輩後輩コンビの系譜は「COMICリュウ」連載中『ネムルバカ』の主人公コンビへと繋がる。全10作品収録。
Amazon内容紹介より。

『探偵綺譚』ねえ。てっきりミステリ短編集だと思っていたら、ジャンル色々の漫画でありました。探偵、ハードボイルド、SF、ホラー、思春期等、バラエティに富んでいてこれはこれで楽しめました。たまにツボに入って大笑い出来るし、あまり深く考えずに気楽に読めるので、悪くないです。ただ、やはり『外天楼』と比較すると格段に落ちるのは否めません。

私としてはラスト二作の、作者自身が出てくるパチスロの話が一番面白かったですね。こんな絵も描けるんだと素直に感心しました。全然タッチが違うと云うか、まるで『北斗の拳』の様だと思いました。誰が見てもパロッてるなと感じるでしょう。


No.1532 6点 ロリータの温度
白倉由美
(2022/11/30 22:59登録)
大人になる前に死んでいく永遠の少女、名前はロリータ℃。透明で柔らかくはかなくて冷たい存在の「彼女たち」を描く幻想的な写真と6つの物語を収録した、ビジュアルストーリー。
『BOOK』データベースより。

「僕は六回死んだ少女を知っている」で始まるこの物語。果たして一人の少女が六回死んだのかどうか、一応十二歳の少女が一度死んで、その後脱皮するように甦るシーンがありますので、おそらく同一の少女だと想像されますが、各章ごとにシチュエーションが違うので何とも言い難い所があります。其処は読者の想像にお任せって事の様で、それ程重きを置いていないみたいですね。
ファンタジーと言うより、幻想小説の趣があり文体も詩的である種のイマジネーションを喚起させます。挿入されている写真も見開き2ページを目一杯使ったり、思い切った構図が見られ、それに一層拍車を掛けます。

個人的に好みなのはちょっとブラックなオチが味わえ、ミステリ的趣向を盛り込んだ第一章と、唯一少年の一人称で描かれ、途中でいきなり衝撃の事実を告げる第五章ですね。
第六章ではマイナーな小説のあの人物が登場し驚かされます、だったら良かったのですが、あるサイトでネタバレ告知無しのレビューでネタバレを読んでしまい、事前に知っており非常に残念でした。
写真の少女は設定十二歳の、それ相応のあどけない顔立ちとやや大人びた表情が印象的です。

ところでこの小説はロリータ℃という、前述の小説の作者が原作の漫画に登場する架空人格と同じ少女を起用していて、更に彼女のCDまで出ています。色々コラボしてややこしいですが、白倉由美と深い関係のある人が先の原作者という事で、キーパーソンとなっています。


No.1531 6点 江戸川乱歩名作選
江戸川乱歩
(2022/11/29 23:02登録)
見るも無残に顔が潰れた死体、変転してゆく事件像(『石榴』)。絶世の美女に心奪われた兄の想像を絶する“運命”(『押絵と旅する男』)。謎に満ちた探偵作家・大江春泥に脅迫される実業家夫人、彼女を恋する私は春泥の影を追跡する―後世に語り継がれるミステリ『陰獣』。他に『目羅博士』『人でなしの恋』『白昼夢』『踊る一寸法師』を収録。大乱歩の魔力を存分に味わえる厳選全7編。
『BOOK』データベースより。

『石榴』 7点。本格の中編、所謂顔のない死体の変形バージョン。
『押絵と旅する男』 7点。幻想的な小説でオチあり。ある作家の某作品に影響を与えたとの噂。
『目羅博士』 6点。ちょっと無理がある。もう少し説得力があれば。
『ひとでなしの恋』 5点。何となく既視感あり。他の作品で似たようなのがあった気がする。しかし、勿論こちらが元祖だろう。
『白昼夢』 5点。ショートショート、ミステリにはちょいちょい出てくるこのワード。この時代から使われてたのね。
『踊る一寸法師』 3点。他の作品集で既読だったので記憶で採点。どこが面白いのか分からない。乱歩はこれを描いてからしばらく空白の時期があったらしい。
『陰獣』 7点。やや冗長も面白い。どんでん返し的趣向、余りにも有名な作品。

全体的にレトロ感が漂っており、どこか懐かしさを覚えました。本作品集に関しては本格ミステリの方が面白かったですね。それにしても、今読んでも色褪せていないのは流石だと思います。


No.1530 7点 出版禁止 いやしの村滞在記
長江俊和
(2022/11/27 22:51登録)
読後、心身に変調をきたしても、責任は負いかねますので、ご了承下さい。大切な人、信頼していた人に裏切られ、傷ついた人々が再起を期して集団生活を営む「いやしの村」。一方、ネット上には、その村は「呪いで人を殺すカルト集団」という根強い噂があった。噂は本当なのか? そもそも、呪いで人を殺すことなどできるのか? 真実を探るため、ルポライターが潜入取材を試みるのだが――。
Amazon内容紹介より。

余りカタルシスを得られない様な、ちょとモヤモヤした終わり方で、個人的には好みではない結末でした。「ここまで書けばわかるだろ?あとは勝手に想像しろよ」と言われているみたいで、まず一旦読み終えてから最初に戻って読み直しましたが、やはりイマイチスッキリしません。まあ確かに最終局面で漸くその全貌が見えてきますが・・・。どうしてもルポルタージュの体裁を取っている為、こういった形式でしか書き様がなかったかも知れません。探偵役が現れて懇切丁寧に解説してくれるような物語でないことは確かです。

正直やられたとは思えませんでした。勘の良い人ならかなり早い段階で全体像が見えてくると思うからです。私みたいな鈍感な読者だから騙されたのであって、その意味では逆に幸せだったなと思わないでもありません。
しかし、書き手である私とある女性との淡い記憶やパラドックスに対する考察、呪いは実在するのかどうかなど、読みどころは幾つもあります。ですから色々ケチを付ける様な事を書きましたが、かなり面白い小説であることは間違いないと思います。


No.1529 6点 ネメシスⅡ
藤石波矢
(2022/11/26 22:51登録)
探偵事務所ネメシスを訪れた少女の依頼は、行方不明の兄の樹を探すこと。探偵風真と助手のアンナは、道具屋の星の力を借り、振り込め詐欺に手を染めた彼を捜索する。しかし、ようやく見つけた樹は、血濡れたナイフと死体を前に立ち尽くしていた。ネメシスは二転三転する真相を見抜き、彼を救うことができるのか!?
小説オリジナルストーリー「道具屋・星憲章の予定外の一日」も収録したシリーズ第二弾!
Amazon内容紹介より。

広瀬すずと櫻井翔主演でドラマ化されたネメシスシリーズの第二弾。本編とスピンオフの中編二作。
本編を読んでいる途中で、何度もAmazonの高評価(90に上る評価で平均点4、5)ってほんまかいなと思いました。キャラは魅力に欠けるし、ストーリーも平板、トリックと言える程のものもなく心に何も響かない、こんな私がおかしいのでしょうか。もう何を信じて良いのか、何を頼りに本を選ぶべきなのか分からなくなりそうです。

と思っていたところ、『道具屋・星憲章の予定外の一日』が殊の外面白く、同じ人が書いたとは思えない出来の良さで驚き。捻りも効いていて、短い中にトリックや仕掛けが盛り沢山で、なるほどこっちは7点だなと少し胸をなで下ろしました。結局本編が4点、スピンオフが7点、均して5、5点。四捨五入して6点としました。ああ、本当に本編だけじゃなくて良かったね。


No.1528 7点 変な絵
雨穴
(2022/11/25 22:25登録)
ホラー作家兼YouTuberである雨穴氏による、自身初となる11万字書き下ろし「長編小説」!
タイトルは『変な絵』。
見れば見るほど、何かがおかしい? とあるブログに投稿された『風に立つ女の絵』、消えた男児が描いた『灰色に塗りつぶされたマンションの絵』、山奥で見つかった遺体が残した『震えた線で描かれた山並みの絵』……。
いったい、彼らは何を伝えたかったのか――。9枚の奇妙な絵に秘められた衝撃の真実とは!?
その謎が解けたとき、すべての事件が一つに繋がる!
今、最も注目を集めるホラー作家が描く、戦慄のスケッチ・ミステリー!
※前作『変な家』の“キーマン”栗原も登場!
※購入者「全員特典」として、雨穴による第一章「風に立つ女の絵」オモコワ朗読動画(1時間)つき!
Amazon内容紹介より。

みなさん、この作品を色眼鏡で見てませんか?良くないですよ、そういうの。取り敢えず先入観無しで読んでみて頂きたい珍品だと思います。意外と本格で結構複雑な話です。嫌と言うほど親切に太字や傍点、かぎ括弧、歪み文字、それにプラスしてタイトル通り絵や表が散りばめられており、時系列のバラけた順序と相俟って、余計に全体像を複雑にしてしまっている印象を受けました。

しかし、もう一度読み直せば多分色々納得出来る面が出てくる気がします。流石に絵を使ったトリックは成程と思わせるだけのものを持っています。前作の事は知りませんが、Amazonなどでこれだけ多くのレビューがある事自体、本作の持つ引力の様なものを感じます。まあ、『変な家』で一気にブレイクした作者の二作目ともなれば当然とも言えるでしょうけどね。兎に角読んでみないと何も分からないって事ですね。普通に面白かったですよ。


No.1527 8点 逆転美人
藤崎翔
(2022/11/24 22:38登録)
私はジャンルに関係なく8点以上は余程の事がない限り付けません。それでも本作には8点を献上する以外の選択肢はありませんでした。
読後、15分間衝撃に打ちのめされて、座したまま身動き出来ませんでした。心の中では余韻に浸る余裕もなく、只管反芻していたのです、繰り返しこの本を。
本年のランキングのある意味でダークホースになり得る逸品と思います。
内容に関しては敢えて語りません。それは必要ないと判断しました。以下はネタバレを含みますので、未読の方は絶対読まないで下さい。


【ネタバレ】


「私は報道されている通り、美人に該当する人間です。
でもそれが私の人生に不幸を招き続けているのです」飛び抜けた美人であるせいで不幸ばかりの人生を歩むシングルマザーの香織(仮名)。
娘の学校の教師に襲われた事件が報道されたのを機に、手記『逆転美人』を出版したのだが、それは社会を震撼させる大事件の幕開けだった――。
果たして『逆転美人』の本当の意味とは!? ミステリー史に残る伝説級超絶トリックに驚愕せよ!!
Amazon内容紹介より。

厳密に言えばこのトリックは類似したものの前例が存在します。ですので、超絶トリックであるのは間違いありませんが、「ミステリー史に残る」とか「史上初」とかの惹句は当てはまらないと思います。それでも読者にヒントを与えながら本トリックを限りなく完成形まで押し上げたのは、おそらくこれが初めての快挙ではないでしょうか。一言で言うならば奇跡的な作品ですね。これが私の最上級の褒め言葉です。


No.1526 5点 悪魔のようなあたし
山下定
(2022/11/22 22:43登録)
私立・久米沢高校の悪夢の一日は、朝礼直後の地下室で始まった。一時間目の授業が始まるまでのわずかな間に、学園一の美少女・宮参里奈はサイボーグに変身し、里奈を恋する諸井京太は女悪魔に乗り移られて、ある時は男を蕩かすニューハーフに、それ以外の時は顔だけ京太の魔物に変身してしまったのだ。すべては、学園を牛耳るマッドサイエンティスト・神近理事長の仕業だった。二人の、独裁者への反乱が始まった。
『BOOK』データベースより。

山下定を読もうと思ったのは、昨年の一月に読んだアンソロジー『暗闇』の中で著者の短編『ブラインドタッチ』が最も面白かったから。本作を選んだのは何故だか今でも思い出せませんが。
で、結果これが終始ドタバタ劇で、主人公の京太は声や口調がオカマになったり、蝙蝠や蠍に変身したりするわ、ヒロインの里奈はサイボーグになって大暴れしたりと何が何だか。中学二年生位の子供が考えそうなチープなストーリーで、げんなりしました。

最終章だけはそれまでと様相が変わり、私好みのシチュエーションを生み出したため、本来4点以下の所を5点に押し上げました。ここで漸く作者がプロの片鱗を見せたので一安心しました。
ラノベと割り切って読めばある程度楽しめるかも知れませんね。表紙や文中のイラストは古臭く時代を感じさせます。


No.1525 6点 丑の刻子、参ります。
黒史郎
(2022/11/21 22:16登録)
誰かを呪ってほしければ、摩栖太羅神社の裏の神木に、黒い憎悪の念と、依頼書を収めた藁人形を打ち付けておけばいい。その願いを叶えるために、ひと打ちひと打ち呪いを込めて打ってやろう―私は“呪い姫”丑之刻子。とある会社のOLとして働く馬野時子。「幽霊」と揶揄される佇まいと愛想のなさで、社内でも浮きまくりだがそれは表の姿。彼女の本来の仕事は依頼された恨み事をはらすということなのだ。そんな刻子のもとに、とある頼みごとが持ち込まれるが―。
『BOOK』データベースより。

昼はちょっと変わったOL、しかし退社後は一転呪術により依頼人の恨みを晴らす、裏稼業を持った丑の刻子こと馬野時子。ホラーはホラーでも呪われる側ではなく呪う側が主役という異色作です。しかしながら、怖さという点ではそれ程でもなく、それどころかラブコメの要素まで含まれています。
愛だの恋だのに無関心で経験のない時子は、社内でも女子に人気の賀茂橋(カモノハシ)に猛烈なアプローチを掛けられながら、無表情でやり過ごしてしまいますが、その関係が微妙に発展してく様はまるで恋愛小説のようでもあります。

無機質で誰に対しても愛想のない、しかしある意味無敵な時子に最大のピンチが訪れ、其処をどう切り抜けるのかが最大の見せ場。勿論それだけではなく、様々な依頼にどのような呪術を仕掛けるのかも興味深いですね。
作者の黒史郎ってあまり知らていませんが、私は個人的に割と好きな人で、ホラーだけではなくミステリも書けるのに、余りこちらに寄って来てくれないのがつれないなと思ったりしています。本作も安定の面白さで、怖いの苦手という人でも意外とイケるのではないでしょうか。


No.1524 5点 自殺倶楽部
谷村志穂
(2022/11/20 22:30登録)
「私」は高校二年生。ある放課後、図書館で「海の泡同盟」と称する詩を読む会に誘われたが、その集まりは、実は自殺を目的とする集団だった。そこで「私」に課せられた役割は死を見守ること、他人の死を記録することだった―。「ヒカルモノ」である死と、その対照にある「ヨドムモノ」としての生。真っ直ぐに生きようとすればするほど、死に近づき魅了される十代の純粋な魂の軌跡を描く問題作。
『BOOK』データベースより。

自殺願望を持つ高校生男女五人で構成された「海の泡同盟」。目的は勿論集団自殺の決行です。果たしてそれが本当に実行されるのかどうか、文章からは余りに詩的な為その動向がはっきり掴めません。又、メンバーの個性もいまひとつ目立ったものが無く、動機も深掘りされません。ですから、Amazonのレビューにあるような衝撃とは程遠い内容となっています。三十年前なら問題作だったかも知れませんが、今となっては色褪せて見えてしまうのはやむを得ない所でしょう。

ミステリではないので謎等は存在せず、いささか読み進める推進力に欠ける気がします。唯一作中で何度も繰り返される、青木の言う「ヨドム」と云う言葉の意味が終盤まで隠蔽されており、謎と言えば謎ですが。
作者の意図は計り兼ねますが、自殺は良くない事だとの世間一般の常識はこの作品には通用しないと思います。むしろ強い意志を持った若者たちにとって、死が美化されている様にすら感じます。それが自殺にせよ「ヒカルモノ」であれば救われもするでしょうが、現実的とは言い難くその辺りにもう少し焦点を当てて貰えたら、もう少し引き締まった小説になったのではないかと思います。


No.1523 5点 狂乱家族日記 拾壱さつめ
日日日
(2022/11/19 22:25登録)
各国の要人を乗せた都市型飛行船マスカレイド号の船内で起こった、衝撃の不解宮ミリオン暗殺事件。その犯人も不明のまま、神聖合衆国に到着した凶華たち乱崎家一同は、得体のしれぬ不安と緊張の中にいた。そして、ついに開催された『世界会議』当日、彼らの眼前で展開される驚愕の出来事とは!?千年の時を経て、歴史の闇に葬られてきた『閻禍伝説』の真実の姿がついに白日のもとに!馬鹿馬鹿しくも温かい愛と絆と狂乱の物語。シリーズ白眉の巻。
『BOOK』データベースより。

壱さつめを読んだ後途中飛ばしてこれを読んだら、どう思うんだろう。きっと何が何だか分からなくて、混乱するのではないでしょうか。そう、本作では最早狂乱家族の手を離れ、見知らぬ世界にまで到達してしまった感があります。
今回のメインは「世界会議」ではあります。しかし、これだけ大規模な会議を開きながら一体何をしたかったのか判然としませんねえ。暗殺されたはずの不解宮ミリオンが復活した時は驚きましたけど。

一方閻禍の物語も並行して語られますが、こちらも一向に面白くなく、なんだかがっかりしました。乱崎一家の面々も今回ばかりはほとんど出番がなく、一話から読んでいる身としては淋しい限りですよ。
結局シリーズを引っ張り過ぎてあらぬ方向へ行ってしまった様な気がしてなりません。


No.1522 7点 トナカイはプロ雀士
古田丈二
(2022/11/18 22:58登録)
サングラスをかけたトナカイが牌を倒してみせた。「ロン、マンガンだ。これで終わりだな」伝説の雀士“赤鼻のトナカイ”が三星会というヤクザと繰り広げる麻雀戦争。狭い雀荘の一角で、壮絶なバトルが始まった。赤鼻のトナカイは命を失うことなく明日を迎えることができるのか。勝負が終わった時、さびしげな背中を見せ、男は立ち去っていく…。ユーモアを交えつつ本物の強さを問う麻雀小説。
『BOOK』データベースより。

短い、短すぎる。短編一本でたったの71ページ。そして薄い。カバーを外したら本体の厚みが僅か2ミリ位しかありません。私はかつてこんなに薄っぺらい小説を見た事がありません。よくもまあこんなのを出版しようと思ったなあと感心します。因みに出版社は新風舎文庫だそう、知らんけど。本屋で立ち読みされたらそれで終わりじゃないですか。書店の本棚に収まっている光景も想像できませんが。

しかし、ですよ。これが面白い。最強の雀士トナカイとヤクザの山下との命を賭けた戦いが今始まる。牌図もないのにその情景がありありと浮かんできて、手に汗握る攻防が読み応え十分です。
雀荘に客は他におらず、名もないおやじとマスターがなし崩し的に面子に入りますが、この二人を含めた四人の個性もなかなか良く表現されており、麻雀という特殊なゲーム性を遺憾なく発揮させています。ただ、伝説の雀士と呼ばれる割りにトナカイが弱気で、終始山下に圧倒されヒヤヒヤさせます。勝敗は最後まで分かりません。その勝負の行方は・・・これは意外な拾い物でしたね。


No.1521 6点 あなたまにあ
小川勝己
(2022/11/17 23:10登録)
背徳・妄執・恐怖が渦を巻く異空間の彼方に置き去りにされたあなた…あなた。あなた!愉悦にまみれたあなたの狂気は、どこへたどりつくのか。異能作家・小川勝己があなたに捧げる傑作怪奇小説集。
『BOOK』データベースより。

小川勝己らしいグロいシーンはあるものの、自身の他作品と違いしつこい描写がないのでサラリと読めます。どれもよく考えてみればそれ程面白くないストーリーを、群を抜くリーダビリティで十分に楽しめる作品に仕上げている感がします。しかし、深く印象に残りそうなのは『蘆薈』(アロエ)位のもので、すぐに忘れてしまいそうなものが多く、心に突き刺さる様な刺激が不足している気がします。

一応オチはあるものの、大凡読めてしまい意外性に欠けるものばかりです。結果、押し並べてお薦め出来る短編集とは言い難く、個人的には楽しめたけれど一般受けはしないだろうなとの感想を抱きました。文庫化されていないのも納得ですね。欲を言えば、もう少し気の利いたものか、思い切った奇想を感じさせる作品が欲しかったところです。


No.1520 6点 シークレット 綾辻行人ミステリ対談集in京都
評論・エッセイ
(2022/11/15 23:13登録)
綾辻行人が、それぞれのデビュー時からかかわりを持ってきた後輩作家たち10人と夜な夜な語る、ミステリの魅力と創作の秘密。それは、かけがえのない愉楽。読めば、小説がさらに面白くなる。読書欲に火をつける、極上の対談集!
Amazon内容紹介より。

2014年から2020年まで綾辻行人が携わった後輩ミステリ作家達と、京都で行われた対談を集めたもので、写真入り。
登場する作家は詠坂雄二、宮内悠介、初野晴、一肇、葉真中顕、前川裕、白井智之、織守きょうや、道尾秀介、辻村深月の十人。道尾秀介以外顔を見たことなかったんですけど(検索したこともなかった)、皆さん想像していたのと何か違うって感じでした。道尾秀介はテレビで観た時よりワイルドな印象です。一肇、白井智之、織守きょうやの三人はぼかしてあってはっきり映っていません。織守きょうやは男だと思っていたら女性だったという罠。対談当時は38歳でしたが、目から下を本で顔を隠した全身ショットがあって、それを見る限り前髪ありで若干垂れ目の可愛い感じがして好感度アップでした。前川裕だけは何となく容貌がしっくりきて、ちょっと西川きよしに似ています。

みなさん、それぞれのミステリに対するスタンスみたいなものを中心に発言されています。自作に対しての自身の評価であったり、綾辻作品で印象深い物、影響を受けた作家など多岐に亘り対談しています。一読だけでは何とも言えませんが、それでも少しはその人となりが伝わって来ます。みんな真面目だな~と思いましたねえ。それぞれ執筆スタイルがあって、まあそれが当然なんでしょうが、興味深かったです。


No.1519 6点 脇役スタンド・バイ・ミー
沢村凜
(2022/11/14 22:27登録)
日々の暮らしの中で、ふと関わった誰かの悩み。あなたは見てみぬふりをしますか、それとも?アパートの上の階の女性が殺人容疑をかけられたら。尊敬していた先輩が定年後の再雇用を認められなかったら…。一つひとつの事件に隠された意外な真相。そしてすべての謎が解かれた時、いつもそばにいた「あの人」に浮かび上がる、切なくも優しい真実とは!?思わずもう一度読み返したくなる、連作ミステリー。
『BOOK』データベースより。

日常の謎、社会派、サスペンス、本格など様々な作風の短編を集めた連作ミステリ。途中で解説をチラッと見てみたら、連作短編集と書いてあり、何処が?と思いましたが、三作目で漸くその関連性に気付きました。作品は全体的にぼんやりとしてインパクトに欠ける気がしてなりません。その中でも最も印象深いのは第四話の『裏土間』。乱歩っぽい様な、乙一の様な・・・。これは際立った異色作と言えると思います。

最終話ではそれまでの主な登場人物が一堂に会し、脇田と名乗る刑事の事を語り合います。するととんでもない事実が目の前に現れます。このラストをどう解釈するのか、賛否が分かれるところでしょう。私は否の方で、この話は後付けらしいのですが、作者が上手く誤魔化してしまったと言うか、有耶無耶にすることで逃げに走ったとも受け取れるので、どうにも不満が残りました。
しかし、前言と矛盾するようですが、一つ一つ取ってみればそれなりに評価出来るものだと思います。


No.1518 6点 ノーゲーム・ノーライフ1 ゲーマー兄妹がファンタジー世界を征服するそうです 
榎谷祐
(2022/11/12 23:09登録)
ニートでヒキコモリ、だがネット上では都市伝説とまで囁かれる天才ゲーマー兄妹・空と白。世界を「クソゲー」と呼ぶそんな二人は、ある日“神”を名乗る少年に異世界へと召喚される。そこは神により戦争が禁じられ、“全てがゲームで決まる”世界だった―そう、国境線さえも。他種族に追い詰められ、最後の都市を残すのみの『人類種』。空と白、二人のダメ人間兄妹は、異世界では『人類の救世主』となりえるのか?―“さぁ、ゲームをはじめよう”。
『BOOK』データべスより。

ラノベファンに熱狂的な人気を誇っているらしいシリーズ一作目。確かにサクサク読めてそこそこ面白いし、読ませどころを心得ている感じがします。文体にはそれ程クセはないものの、傍点が多すぎます。ほぼ1ページに一か所以上は点が付いていて、そんなに強調したいのかと思ってしまいます。
異世界の神に勝ってしまった為、腹いせに十六の種族が存在しゲームの勝敗で全てが決められる世界に放り込まれてしまった兄妹。二人はそんな中で人類種の国の国王の座を賭けて一風変わったルールのチェスで勝負するが・・・。

作者によるとファンタジーもので、バトルをしない物語を書きたかったそうです。まああまり類のないラノベでちょっと異色かも知れませんね。
前述のチェス勝負が最大の見せ場ですが、意外と細かい所まで神経が行き届いており、設定も骨格もかなり確りとしていると思います。ラノベとしては評価して良い出来でしょう。因みにこの人、元々漫画家である事情から自分の原作を小説として売り出そうとしたのが本シリーズらしく、イラストも兼ねています。次巻を読むかは微妙なところ。


No.1517 7点 君のクイズ
小川哲
(2022/11/11 22:47登録)
一作ごとに現代小説の到達点を更新し続ける著者の才気がほとばしる、唯一無二の<クイズ小説>が誕生しました。雑誌掲載時から共同通信や図書新聞の文芸時評等に取り上げられ、またSNSでも盛り上がりを見せる、話題沸騰の一冊です! ストーリー:生放送のTV番組『Q-1グランプリ』決勝戦に出場したクイズプレーヤーの三島玲央は、対戦相手・本庄絆が、まだ一文字も問題が読まれぬうちに回答し正解し、優勝を果たすという不可解な事態をいぶかしむ。いったい彼はなぜ、正答できたのか? 真相を解明しようと彼について調べ、決勝戦を1問ずつ振り返る三島はやがて、自らの記憶も掘り起こしていくことになり――。 読めば、クイズプレーヤーの思考と世界がまるごと体験できる。人生のある瞬間が鮮やかによみがえる。そして読後、あなたの「知る」は更新される!  「不可能犯罪」を解く一気読み必至の卓抜したミステリーにして、エモーショナルなのに知的興奮に満ちた超エンターテインメント!
Amazon内容紹介より。

意外にも深いクイズの世界。
これはテレビの、問題を読んでボタンの早押しを競うクイズ番組に特化した作品です。どうすれば相手に勝つことが出来るのか、早押しの極意などを追及した異色のエンターテインメント小説。根底に何故主人公である三島のライバルで決勝戦の相手本庄が、問題を読み上げる前に正答出来たのかと云う謎が横たわっており、その謎を解くために一問一問振り返っていくのが本筋のストーリーであり、それを補填するために様々な人物が登場します。勿論クイズに詳しい人達ですが、唯一恋人の桐島さんがだけが一般人です。

残念なのは短すぎて、もっと中身を充実させることも出来た筈なのに敢えてそれをしなかった事くらいでしょうか。初出が『小説トリッパ―』なので文字数に制限があったせいか?その為、桐島さんの扱いがクイズ在りきになってしまい、雑だったなと感じました。
クイズ自体はとても難解な、というかあらゆる事柄に通じていなければ正解できない問題が多く、素人の私などはとても答えられないものばかりでしたね。一問だけ私がオランウータンだと思ったら(本庄も同じ答え)違っていたのが惜しかった程度で、これまた残念な香りがしました。まあしかし、それはそれで勉強にもなりますし、関心もさせられましたし、何より読んでいて面白かったのが最大の収穫でした。


No.1516 6点 ザリガニの鳴くところ
ディーリア・オーエンズ
(2022/11/10 22:51登録)
ノース・カロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアは湿地の小屋でたったひとり生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女のもとを去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく…みずみずしい自然に抱かれて生きる少女の成長と不審死事件が絡み合い、思いもよらぬ結末へと物語が動き出す。全米500万部突破、感動と驚愕のベストセラー。
『BOOK』データベースより。

本作にミステリを期待する人は読むべきではありません。何故ならミステリとして評価するに値しないからです。一人の少女の成長物語だと思って読めば、それなりに面白いかも知れませんが。まあ私の場合、この湿地の少女と呼ばれたカイアにどうしても感情移入出来なかったので、この程度の点数しか付けられません。評価の分かれ目は彼女に共感するか否かによって決まりそうですね。

所々興味深いシーンはありました。しかしそれは虫の生態であったり、ソフトな性描写などであり、本筋とは関係ありません。読む前はもっと自然に満ち溢れた静謐な雰囲気の物語だと思っていたので、その意味では裏切られた感があります。
一番の見どころはやはり後半の裁判の攻防戦でしょう。確かにここだけ切り取ればかなり面白い。しかし、裁判が始まって直ぐその後の展開が最後まで読めてしまうのが辛いです。ミステリを少しでも読んだ事のある人は、いやそうじゃない人でも大抵はミエミエだと思いますよ。其処に衝撃も意外性も全くありませんでした。ここで素直に驚ける読者は幸せだと思います。
それにしても、本書が全米で500万部売れたんですか?信じられませんね。厳しいかも知れませんが、それが本当なら(勿論本当でしょうけど)、アメリカの文壇も底が知れていますね。

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