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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1902件

プロフィール| 書評

No.1642 6点 バカミスの世界 史上空前のミステリガイド
事典・ガイド
(2023/06/17 22:21登録)
本書は、小説でも映画でも、ユニークなミステリ群を総称して「バカミス」と呼んでいる。本書を読んで、あなたもご自身のバカミスを見つけてください。
『BOOK』データベースより。

マジすか、こんなもの(悪い意味ではなく)が書評されているとは。しかも三人も。流石ミステリオタクが集う「ミステリの祭典」ってところですね。
読む前は単行本で225ページだからサクッと読めるだろうと思っていました。すると通常のサイズより一回り大きいし、表紙の写真が多目とは言え、基本三段組みなのでかなり手こずりました。それでも結構参考にはなりました。
そもそもバカミスとは何なのかという定義がはっきりしないまま、次々に作品が紹介されていて、何でもかんでもバカミスみたいな扱いになっており、クリスティ、カー、クイーン、ヴァン・ダインがみんなバカミス作家の範疇に収まってしまっていて、ええっ?と思いましたが、考えてみればほとんどミステリがバカミスの要素を含んでいるとも言えるかも知れないのかと首を傾げておりました。

ガイドの他に、書下ろしバカミス、未訳本の翻訳、対談、エッセイなど内容盛りだくさんでお腹一杯です。霞流一の書下ろし短編はおまけ程度と思っていたら、これがなかなか面白くこれだけでも読む価値はありました。そして最後を飾るバカミスベスト100については、結構興味を惹かれる作品があり、その内の20冊以上を入手可能な範囲で読んでみたくなりました。
ただちょっと中身が偏り過ぎている印象はあります。99%海外の作品でその中でもバカハードボイルドと呼んでいるものが多かったですね。どの辺りがバカミスなの?という素朴な疑問を消し去ることが出来ないのも少なくありませんでした。


No.1641 5点 う○こ文学
アンソロジー(国内編集者)
(2023/06/15 22:54登録)
人間は、食べて、出します。しかし、食事と違い排泄は人に見られた場合ずっとトラウマになることもあります。漏らす悲しみを知る人のための17編。

「万人に共通する悲劇は排泄作用を行うことである」芥川龍之介
生きるかなしみとしての排泄を、漏らしたときのせつなさを、見事に描ききった文学作品を集めたアンソロジー!
Amazon内容紹介より。

タイトルの通り、飽くまで文学なのでグロくはありません。それどころか下品ですらありません、内容に比べて上品だと言っても良いでしょう。逆にそこが私にとってはやや物足りなかったりしますが。取り上げられている作家は本サイトでも登録されている山田風太郎や筒井康隆、他に谷崎潤一郎、阿川弘之、吉行淳之介、佐藤春夫、山田ルイ53世ら。

最初の尾辻克彦と山田風太郎は両者とも私小説で、シチュエーションなどよく似通っています。どちらも道中で我慢の限界を超えて遂に・・・そして切ない後始末をという物語。
個人的に印象深いのは、全然面白いと思ったこともないお笑いコンビ髭男爵の片割れ山田ルイ53世のエッセイというか、体験談。結構笑えて意外なセンスの持ち主だと気づきました。彼はこの事件以来暫くしてから六年間もひきこもりになったそうです。そして筒井康隆、発端は女性のお漏らしでありながら、その後ぐんぐんストーリーの広がりを見せ、地味にパニック小説に仕上がっていくのがらしいと思いました。

最後に書いておきたいのは、タイトルの事です。本サイトでは禁止ワードが存在し、それに引っ掛かるとペナルティが課されます。私はまだ出禁にはなりたくありませんので、あえて伏字を使っています。これをお読みの方はそこの処ご了承願います。それと親切心を起こしてタイトルを変更したりしないようご注意下さい。


No.1640 7点 合唱 岬洋介の帰還
中山七里
(2023/06/10 22:49登録)
幼稚園で幼児らを惨殺した直後、自らに覚醒剤を注射した“平成最悪の凶悪犯”仙街不比等。彼の担当検事になった天生は、刑法第39条によって仙街に無罪判決が下ることを恐れ、検事調べで仙街の殺意が立証できないかと苦慮する。しかし、取り調べ中に突如意識を失ってしまい、目を覚ましたとき、目の前には仙街の銃殺死体があった。指紋や硝煙反応が検出され、身に覚えのない殺害容疑で逮捕されてしまう天生。そんな彼を救うため、あの男が帰還する―!!
『BOOK』データベースより。

こういうのを読まされると、やっぱり中山七里とは離れられないなあと思いますね。サブタイトルとなっている岬洋介始め、各シリーズの主役が次々に登場。御子柴礼司、犬養隼人、古手川和也・・・。まるでオールスターの様です。ストーリーは勿論よく練られていて、堅実な文体で読者を魅了します。

ミステリとしては法廷劇がメインとなりますが、それまでのプロセスが見逃せません。やや急ぎ足な感は否めません、それでもこれだけのキャストを揃え乍ら纏まりよく、必要最低限の情報を開示し、それらのピースを巧みに組み立てて事件の真相を白日の下に晒す手腕は大したものでしょう。その見せ方も堂に入っており流石だと思いました。
特に最終章は一気に読めます。誰が探偵役となるのかは伏せますが、とにかく圧巻の一言に尽きます。


No.1639 7点 漂流都市
嶋戸悠祐
(2023/06/08 22:11登録)
家電量販店売上高ナンバー1を目指すR電器は、未開の地であったK市へ出店をすることとなった。
しかしK市は、轟家電という量販店が一強となり、R電器の参入を許さない状況だった。
轟家電はK市の人口の多くを占める老人に対して細やかな接客対応をするとともに、どうやら街全体で老人の生活サポートを行うことで客を逃がさないようにしているようだ。
轟電器、そしてK市に潜む壮絶な事実とは一体ーー!?
Amazon内容紹介より。

全編不穏な空気に覆われているのをひしひしと肌で感じる、異色のサスペンス長編です。東北のK市で大手チェーン店でもないのに、一人勝ちしている轟家電とは一体どの様な手法を用いて顧客を獲得しているのか、それは謎に満ちた存在で、そこを中心に物語は進行していきます。そして徐々にそのベールが剥されていくごとにキナ臭い匂いが漂います。轟家電の舞台裏で実際に行われている真実とは何か。

プロット、ストーリー、人物描写等申し分なく、地味ながら作者の力量が伺える佳作となっていると思います。文章も読み易いし、エンターテインメント性に優れている為、ひと時も飽きることなく最後まで楽しめました。万人受けするとは思いませんが、ちょっと変わった小説をお求めの方にお薦めです。


No.1638 4点 ミステリー中毒
評論・エッセイ
(2023/06/07 22:31登録)
ヨーロー先生はアメリカの推理小説を四十年間、読み続けた。文庫本を二冊買って新幹線に飛び乗ったら、両方とも下巻で、しかも違う小説だった。なんだか説明不足だと思いながら読んでいたら、下巻だったこともある。それでも、あるいは、だからこそ相変らず推理小説を読むのが止まらない。スティーヴン・キング、ジェイムス・エルロイ、馳星周からマイケル・ギルモアまで、多彩な作品が取り上げられる。傑作エッセイ集。
『BOOK』データベースより。

人並由真さんには申し訳ないですが、意見の相違がかなり見られます。私は翻訳物素人なのでご了承願います。
そもそも本著が海外作家による推理小説のエッセイとは知らずに読んだ私が間違っていたのです。知っていれば読まなかったのにと後悔しています。おそらく70年代以降の海外ミステリを取り上げて紹介しているのだと思いますが、それがなんとも分かりづらく、内容もあまり興味を惹かれるものがありませんでした。ほぼ全作未読というのも、余計に退屈にさせられました。私の知っている作家は、最も多く触れられているのがスティーヴン・キングで他にローレンス・ブロック、マイクル・コナリ―、ディック・フランシス、ジャック・ヒギンズ、ジェフリー・ディーヴァ―、マイケル・クライトン、ピーター・ラヴゼイくらいですかね。まあ、私ごときが読むのは百年早いですよ。でも、本格ミステリが全然取り上げられていないのは残念です。

東大名誉教授の肩書を持つ著者、養老孟司なので、本人が知らず知らずのうちに読み難い文章を書いていたのかも知れませんが、相手は一般大衆ですし、私のように頭の悪い人間にももう少し親切に書いて欲しかったですね。推理小説のエッセイなのに、いつの間にか脱線し自分の趣味や世事に関する記述になっている事も多く、逆にそちらの方が面白かったりします。特に昆虫採集で海外に出かけたことや、マチュピチュ、ピラミッド、ナスカの地上絵の違う意味でのミステリーなど興味深く読めました。
ふと思ったのですが、この人はやはり自身の守備範囲である人間の死に関するエッセイなどの方が向いているのではないかという気がしました。


No.1637 5点 奇妙におかしい話 わくわく編
アンソロジー(国内編集者)
(2023/06/06 22:39登録)
増え続けるウサギに手を焼く小学校。校長先生の雌雄別居の提案に始まり、次々に対策をくり出すが、なかなかうまくいかない。最後の策は成功したかに見えたのだが…(最優秀作)。大好評をいただいた『奇妙におかしい話』の第2弾。笑いを誘う話、不思議な話など、前回を上回る一般募集作のなかから、作家・阿刀田高が厳選した“わくわく”の31編を収録する。
『BOOK』データベースより。

老若男女(20代は少ないが)の募集作から選ばれた、体験談なのか創作なのか一読では判別不可能な、ちょっと風変わりなショートショート集。31編もあると流石に文章力の差がありありと伺えます。読み出してすぐに物語に没入していけるものから、なかなか集中できず印象に残らないもの、抑揚がなくオチもないものなど様々。

最優秀作は確かに読ませはしますが、その称号に相応しいかと言われると疑問に思わざるを得ません。他にもっと上位に来そうな作品があった気がします。
まずまず良かったのは内容は省略して、『二人のラブレター』『エネルギー不滅の法則』『クロのいた季節』『スーパーに並ぶということ』『夏の日の猫又』『息子がそちらでお世話になっています』。動物が出て来るとどうしても評価が甘くなるのは人情として仕方ないでしょう。


No.1636 6点 憂鬱探偵
田丸雅智
(2023/06/03 22:43登録)
月曜日は気分が沈む……
注文した料理がなかなかこない……
スマホの充電がすぐなくなる……

「そんな依頼はおれにまかせ――
ないでほしい。ぜったいに。」

「憂鬱な出来事」の裏にひそむ〝秘密″をイヤイヤ暴く!
どこか冴えない探偵のショートショート。
Amazon内容紹介より。

ショートショートを多数書いている作者の、日常の謎を扱ったユーモアミステリ。上記の他にも、足をよく踏まれる、じゃんけんでいつも負ける、靴下をよくなくす等、本人にとっては憂鬱な悩みを無償で解決したりしなかったり、取り敢えず調査して謎を追う探偵と助手の物語。助手の若菜のキャラが前向きで元気で行動力があり、それを容姿や体型を描写することなく言動ですぐに分かるように描かれている辺り、この作者の力量を窺い知れます。只者ではありませんね。しかも、どの短編(ショートショートではない)も笑える要素が満載で、成程と頷かされるものばかりです。

最初は何でもない様な悩み、ある意味日常の謎と呼んでも良いでしょう、それらの謎を追っていくうちに、とんでもない現実を目の当たりにする事になるというパターンは全ての短編に共通しています。辿り着く先はまさに奇想天外で、SFの要素を含んだバカミス的な真相だった、みたいなものです。最後の一行で気の利いたオチがあり、息抜きに最適な一冊だと思います。


No.1635 5点 たったひとつの 浦川氏の事件簿
斎藤肇
(2023/06/02 22:43登録)
浦川氏のめぐる、極北でも究極でもない限界本格推理。
『BOOK』データベースより。

結論から言うと明らかな失敗作ですね。外堀から徐々に迫るじらしに、作者の読者を翻弄して陰で楽しんでいる姿が見え隠れして、一寸白けました。そもそも興味本位と、四作しか読んでいませんが、斎藤肇と云う人はまだ何かを隠しているのではないかみたいな、これまでの作品で発揮していない本領というものを、本作でもしかしたら見せているかも知れないという思いから読んでみたに過ぎません。だから、読後がっかりする気持ちとやっぱりなという諦めの境地が半々でしたね。
第一、フーでもなくハウでもなくホワイでもないものが本格ミステリと言えるのでしょうか。第一話『たったひとつの事件』は論理の飛躍があり過ぎて、もはやこじつけにしか思えませんし、第五話『どうでもいい事件』は本当にどうでもいいし。逆に既視感はあるものの人間の心理を鋭く抉った『壁の中の事件』やバトルロワイアル的趣向で意外性のある『閉ざされた夜の事件』は結構面白かったですが。

ラストに期待するも、当然の如く肩透かしを喰らいました。それまでの短編が有機的に結びつかず、結局こじつけじゃんとしか言い様がありません。作者のやりたかった事は分からないでもないですが、その目論見が成功したとはとても思えませんね。


No.1634 9点 ヨモツイクサ
知念実希人
(2023/05/30 22:50登録)
ヨモツイクサって一体何なんだって?そんな事は知らなくてよろしい。と言うより知らないほうが良い。これを読もうかどうか迷っている人、今すぐ書店に走りなさい。ネットで注文しなさい。図書館に予約しなさい。僭越ながら本サイトの参加者の中で最もホラーを読んでいると勝手に思っている私が言うのだから間違いありません。とは言え、保証は出来ませんし、責任は取り兼ねますが。本書は中短編は別として、長編ホラーではあの『黒い家』を自分の中で超えてきました。十年に一度の傑作だと思います。

内容には敢えて触れません。この点数を見たらついAmazonで検索したくなる気持ちは分かりますが、出来る限り予備知識なしで読んで頂きたい作品なので、まっさらな状態で本書を開いてみて下さい。そしてみりんさんのおっしゃる通り、最後の方のページは決して見ない事、これ肝心です。理由は最後まで読めば分かります。因みに私は奥付きを見ようとしてつい目に入ってしまい、少々後悔しましたので、私の轍を踏まないようして下さい。

『このミス』がダメなら(可能性はあるが)、いっそのこと本屋大賞(『硝子の塔の殺人』で逃しているので)を獲って欲しいです。


No.1633 7点 爆弾犯と殺人犯の物語
久保りこ
(2023/05/27 22:33登録)
空也が小夜子のスマホを拾ったことで、ふたりは運命的に出逢う。
小夜子は学生時代に事故によって左目に義眼を入れていた。
空也はその義眼に惹かれ彼女を愛したのだが、事故の原因がかつて自分が造った小さな爆弾であることを知る。
秘密を抱えた夫婦が紡ぐ不可思議な物語。
第43回小説推理新人賞受賞作を所収。
Amazon内容紹介より。

『小説推理』に収録された、表題作を含む二作の出来は素晴らしく、最早ミステリを通り過ぎて文学と称しても問題ないでしょう。無論ジャンルの違う小説形態を比較して、どちらが上かと云った次元の話ではありませんので誤解の無きように。
それらの短編は男女の、己の心の奥を悟らせない様に相手の気持ちを探る会話が何ともじれったく、例えば直情径行な方には不向きと言えるかも知れません。私自身はどちらかと言えばストレートな物言いの方が好みなので、やはりもどかしさを覚えずにはいられませんでした。

そして他の三編は表題作を補完する役割を果たしているのは良いとしても、何処か取って付けた様な印象が拭えません。それぞれ独立した小説と考えれば、それなりに面白く読めはしますが。
全体として複雑なミステリを期待するより、雰囲気や一見普通に見える人物の異常性を異常と思わせないテクニックを楽しむべき作品かなと思います。


No.1632 4点 殺竜事件ーa case of dragonslayer
上遠野浩平
(2023/05/25 22:51登録)
竜―人間の能力を凌駕し、絶大なる魔力を持った無敵の存在。その力を頼りに戦乱の講和を目論んだ戦地調停士・ED、風の騎士、女軍人。3人が洞窟で見たのは完全な閉鎖状況で刺殺された竜の姿だった。不死身であるはずの竜を誰が?犯人捜しに名乗りをあげたEDに与えられた時間は1ヵ月。刻限を過ぎれば生命は消え失せる。死の呪いをかけられた彼は仲間とともに謎解きの旅へ!
『BOOK』データベースより。

あー、くそー、こんな筈じゃなかったのに・・・とは私の心の声。もう少しミステリ色が濃いのかと思っていたら、ファンタジー9、ミステリ1でした。タイトルの通り、誰が何の為に、一体どうやって竜を殺したのかを三人の男女が容疑者を追って旅をする物語。旅の途中では様々な状況で怪しげな強者達と対峙し、論戦を繰り広げたり、博打で勝負したりと異国情緒も相まってそれなりに楽しめはしました。しかし、肝心の戦地調停士EDは特段推理する訳でもなく、全然ミステリじゃないじゃんと思ってしまいました。

結局最後の最後で真相は明らかにされますが、如何にもショボい印象は拭えません。大したトリックがある訳でもなく、動機も曖昧でイマイチ納得出来ませんでした。そしてその殺害方法も詳しく調べれば直ぐに判明する程度のもので、意外性が全くありません。
相変わらずAmazon評は意味分かりませんねえ。


No.1631 5点 ポケットに地球儀
安萬純一
(2023/05/22 22:38登録)
探偵作家アマンを担当する鹿堀は、雑誌ナゾーン誌上で読者の「謎」を募集する。それらをアマンに面白おかしく推理させようという腹づもりだ。ところが、応募者が体験した不思議なできごとを調査しに出かけると、なぜかいつも脱出不可能に思える空間に閉じ込められてしまう―。読者から次々に届けられる謎と、奇怪な密室魔からの挑戦を、ユーモア溢れる筆致で描く連作ミステリ。
『BOOK』データベースより。

日常の謎から始まり、ユーモアを交え小ネタを挟んでからの、楽屋落ち、そして最後は本格ミステリへと次々へと形を変えるパターンの連作短編集。プラス意味不明な密室が同じ場所異なる趣向でアマンと鹿堀を襲います。密室に閉じ込められた二人はあれこれ知恵を絞りますが、あまり緊迫感はありません。誰が何のためにアマンと鹿堀に密室を仕掛けてくるのかが全く見当が付かないだけに、不可解さだけが募ります。

まあ何とも言えない作品ですが、甘目の採点をしています。面白いのはアマンの提言する、ミステリのトリックに関するちょっとしたアイディアでしょうか。取り立てて物珍しいものではありません、ちょっと考えれば誰にでも思い付きそうな感じだけに、それだけで評価が上がる訳ではないですが、こうした遊び心はこうしたユーモアミステリにとっては意外なチャームポイントになり得ると思います。
でも結局この人も鮎川哲也賞受賞作でデビューしたものの、多くの読者に忘れられ、一作のみの一発屋もどきの様な存在となるのでしょうねえ。


No.1630 5点 漆黒の慕情
芦花公園
(2023/05/20 22:46登録)
塾講師の片山敏彦は、絶世の美青年。注目されることには慣れていたが、一際ねっとりした視線と長い黒髪の女性がつきまとい始める。彼を慕う生徒や同僚にも危害が及び、異様な現象に襲われた敏彦は、ついに心霊案件を扱う佐々木事務所を訪れる。時同じくして、小学生の間で囁かれる奇妙な噂「ハルコさん」に関する相談も事務所に持ち込まれ……。振り払っても、この呪いは剥がれない――日常を歪め蝕む、都市伝説カルトホラー!
Amazon内容紹介より。

色々残念な作品というのが個人的な意見です。所々切り取れば、かなり面白かったり怖かったりするのです。例えば学校の七不思議の件や電話越しに登場する、四国の拝み屋の青年物部の凄みなどはテンションの上がるシーンと言えるでしょう。ただし、全体的に俯瞰すると話があっち行ったりこっちへ行ったりと、煩雑になり過ぎだと感じます。視点も目まぐるしく変わり、読んでいてどうにも据わりの悪さを覚えました。結果纏まりに欠け、折角の極上の食材を美味く料理出来なかった印象が拭えません。

世評の高さも理解出来ない訳ではありません。ホラーとしての怖さはそれなりにありますし、キャラも立っていると思います。しかし、何処が見せ場なのかと問われると即答できないもどかしさが蟠っている様な感覚が消えません。ラストも驚くべきなんでしょうが、はあ?って感じでしたね。
どなたかが読んで高評価を下したとしても、率直に凄い読解力だなと思うだけです。本来なら読者としてはそうあるべきなのかも知れませんし。


No.1629 6点 眩暈
東直己
(2023/05/18 22:59登録)
私立探偵の畝原はある夜、なにかから逃げている様子の少女を目撃する。乗っていたタクシーで慌てて引き返すものの、少女の姿は忽然と消えていた。翌日、無残な遺体となって発見される少女。畝原は、自責の念から独り聞き込みを行うが、少女の両親の態度に不審を抱くのだった。さらに、かつて連続殺人を犯した少年が周辺に住んでいるという噂が…。果たして少女殺害事件との関わりはあるのか。そして第二の殺人事件が―。私立探偵・畝原シリーズ待望の文庫化。
『BOOK』データベースより。

こういうので良いんだよ。仕事が出来てちょっと格好良くて、家族を愛し、少しだけ哀愁を漂わせる。ハードボイルドはこういうので良いんだと思います。それにしてもとにかく気になるのが訳ありな家族構成。バツイチでシリーズ途中で再婚し娘が二人おり、言葉も真面に話せない少女を養女にしている、そこにどんなドラマがあったのか、やはりその辺りを知るためにシリーズを遡って読んでみなければならないのではないかと、今は思っていますね。

この人の作品は初めてですが、なかなか筆達者で特にクセ強めのキャラが次々と登場し、それらの人物たちの口調が一々異なり口癖まで加えて描き分けているのには正直感心しました。
主人公で語り手の畝原は探偵としての仕事はきっちりこなしますが、推理して犯人を追い詰めるというのとは違い、偶然による解決に落ち着いています。それが別に不満とは思いません、話の流れの中で自然に辿り着くので違和感がないのです。取り敢えずハードボイルドとして合格でしょう、ただ驚くような展開や仕掛けがある訳ではないので、シリーズを通してそこまでの高得点は得られないかも知れません。


No.1628 7点 まだ出会っていないあなたへ
柾木政宗
(2023/05/15 22:35登録)
孤独で、後悔ばかりで、将来が見えない。周りが皆敵に見えてしまい、誰も信用できない。自助が声高に叫ばれ、助けを求めることができない。
ーーでもきっと、あなたを見つけてくれる人がいる。

1.経験者採用面接での不合格者が自殺をしてしまった人事課長。
2.デビューしたものの2作目が出ずブラック企業で働く小説家。
3.SNSで「死にたい」と呟き続けるコンビニ店員。
4.取り立て先の子どもに好かれてしまったヤクザ者。
Amazon内容紹介より。

プロローグでまずは惹き込まれました。きっと期待できる作品に違いないとの予感がしました。四つのそれぞれ毛色の違うストーリーは取り立てて物珍しいものではありません。何時か何処かで読んだような気がする物語ばかりです。そして文章も決して上手いとは思えません。しかし、それぞれの登場人物が悩み苦しみ、人間の弱さや脆さ危うさをこれでもかと描き出しています。その意味で、ある種の群像劇と言えるでしょう。どこにでもいる、ヒーローでもヒロインでもない等身大の一人の人間として、当たり前の生活でありながら当たり前ではない物語を紡いています。

私は途中何度も何故わざわざ長編にしたのだろうかと疑問に思いました。これなら短編集で良かったのではないかと。しかし、それが大いなる間違いだと気づくのがあまりに遅かったのです。
第四章でえー!?となり、前に遡って読み返すことになろうとは思ってもいませんでしたよ。するとやはり・・・これ以上はネタバレになりそうなので控えましょう。

メフィスト賞受賞作でデビューし、本サイトでも散々こき下ろされた作者ですが、私は書評の最後に「この人は将来大成するかもしれませんね。それだけの力量を持った人だと思いますよ。」と書きましたが、もしかしたら本作がそれに当たるのかもなんて勝手に思ったりしています。いや、更なる傑作を期待しても良いんじゃないですかね。


No.1627 7点 隠蔽人類
鳥飼否宇
(2023/05/12 22:23登録)
アマゾンの奥地に調査に向かった日本の研究者たちが、未知の民族を発見した。驚くことに、彼らのDNAはホモ・サピエンスとは大きく異なるものだった!別種の人類発見に沸く調査団だったが、研究者の一人が殺される。犯人はどうやら仲間の中にいるようで―!アッと驚く怒涛の展開で読者を翻弄するノンストップ・ミステリーの驚愕の結末とは!?
『BOOK』データベースより。

これは評が割れるでしょうね。相当な異色作な気がします。章ごとに本格ミステリであったりSFであったりファンタジーであったりします。そんな変幻自在な本作、私はかなり楽しませてもらいました。ただ賛否両論あってしかるべき作品だとは思います。一章目が終わり、次に行く段階でもう既に先が読めません。どんどん話が進展して思わぬ方向へと読者を誘います。一体最後にはどこに着地するのかも全く想像できません。

物語の根底には隠蔽人類(新人類)がテーマとして常にあり、そこだけは全くぶれません。次々に視点が変わり、だからと言って混乱するかと思えばさにあらず。一連の流れの様なものが確りしているので、例え作風が変遷して行っても読者を置き去りにすることはありません。
そしてラストは、これまた評価が分かれるところですね。それまでが一体何だったのかと云う位スケールが大きくなり、ある種のカタストロフィが唐突に訪れます。果たしてこれで良かったのかと大いに疑問に思いますが、オチとしてはそれしかなかったのかも知れません。


No.1626 6点 美しき殺人法100
桐生操
(2023/05/10 22:52登録)
奇想天外な殺人法から、残虐きわまりない殺人法まで、人が人を殺すために様々な手法を編み出してきた。この本は、古今東西の殺人史を彩った殺人法の数々をサンプルした、怖るべき百選である。
Amazon内容紹介より。

古代ギリシャ、古代ローマ帝国から始まり、1900年代の主にヨーロッパ、後半は日本の新旧の殺人方法を収集した実話。タイトルは美しきとありますが、殺人に美しいものなどあるはずもなく、残酷な殺人法や拷問がズラリと並んでいます。ただ、毒薬にやや偏っているので、又かとの思いはありました。しかし、中には奇想天外なものもあり、凄まじい人間の変態性や残虐性が浮き彫りになります。

有名どころではエリザベート・バートリや石川五右衛門、阿部定、そして戦国時代の三英傑も登場。家康などは温厚なイメージが強いですが、意外な殺害方法を行っていたらしいです。
私がやられて一番嫌だと思うのはヒル、ですね。これはいけません。それにしてもありとあらゆる酷い殺人法を考え付く人間のさがって一体・・・。


No.1625 5点 魔法少女育成計画 episodes
遠藤浅蜊
(2023/05/08 22:45登録)
『魔法少女育成計画』『魔法少女育成計画restart』で、過酷な死のゲームを繰り広げた魔法少女たち。そんな彼女たちに魅せられた読者の声に応えて、本シリーズの短編集がついに登場! 少女たちのほんわかした日常や、不思議な縁や、やっぱり殺伐とした事件などなど、エピソード山盛りでお届けします! 本編と合わせて楽しんでいただきたい一冊ですが、この本からシリーズを読み始めるというのもアリ、かも!?
Amazon内容紹介より。

前三作に登場した魔法少女に変身する前のありのままの少女達の日常を切り取ったスピンオフ作品集。ちなみに私の一推しのラ・ピュセルの元の姿は少年です。たった一人の男性なので貴重な存在ですが、ただ単に三頭身のイラストが一番可愛いからに過ぎません。三十三人全員登場しています。ただ、チョイ役で出演の魔法少女も多いので、全員と言ってもメインは半数程度ですね。

気になるのはAmazonの異様な評価の高さ。普通に考えればそれ程面白いとは言えないと思います。評価しているのがシリーズのファンのみだと考えるとあり得ない事ではないでしょうが。上にある様に、この本から読み始めるのはやはり無謀だと思います。何故なら本編の肝であるバトルや殺戮が殆どないので物足りない為。
色々なタイプの少女達、ごくごく普通の日常、可愛い女の子が牛丼を好んでいたりして意外な一面を見せる、そんなのほほんとした雰囲気に癒されたい方向けの作品と言えるかも知れません。取り敢えず肩の凝らない短編集です。


No.1624 3点 八百万の死にざま
ローレンス・ブロック
(2023/05/06 22:38登録)
アームストロングの店に彼女が入ってきた。キムというコールガールで、足を洗いたいので、代わりにヒモと話をつけてくれないかというのだった。わたしが会ってみると、その男は意外にも優雅な物腰の教養もある黒人で、あっさりとキムの願いを受け入れてくれた。だが、その直後、キムがめった切りにされて殺されているのが見つかった。容疑のかかるヒモの男から、わたしは真犯人探しを依頼されるが…。マンハッタンのアル中探偵マット・スカダー登場。大都会の感傷と虚無を鮮やかな筆致で浮かび上がらせ、私立探偵小説大賞を受賞した話題の大作。
『BOOK』データベースより。

以下はあくまで個人の感想です。これから酷い事を書きますので、気分を害したくない方は御遠慮下さい。
まず無駄に長い割りに肝心の事が描かれていない。この内容ならば真面に書けば半分以下の枚数で収められた筈です。次に文章が下手、訳も下手。これは色々受け止め方があると思いますが、私には中身が頭にすんなり入ってこなかったし、情景も浮かばず、心にささるものもありませんでした。そしてマットと誰かしらの会話文も、相手の人称が彼、彼女で通しているので、最初に注意深く読まないと誰と話しているのか分からなくなりそうです。また主人公が只のアル中。私立探偵マットに魅力が感じれず、ああだこうだと言いながら結局アルコールを断ち切れない情けなさ。ハードボイルド、これでいいのか?と思いますね。更に余計な要素やエピソード(特に禁酒断酒の集会)に多くのページが割かれており、事件そのものがそれらに埋没してしまっています。事件も地味で最後に取って付けた様な解決編がいきなり始まり、何処でどう調べたのか疑問。

まあ気になった点だけでこれだけあります。まだまだ書きたいことはありますが、嫌味になりますのでこの辺でやめます。最後にこれだけは言いたい、例えばこれを国内の無名の作家が書いたとして、日本の読者に果たして受け入れられるのでしょうか、否だと思いますよ。その前に編集者がストップを掛けるでしょう。こんなの読むのだったら、そこら辺に転がっているラノベを読んだ方がまだましです、少なくとも私は。少しだけ人生の無駄遣いをしましたね、そんな気分です。ああ、行き過ぎた感想をお許しください。決して他の高評価の方をどうこう思ってませんから。タイトルだけは良いです。


No.1623 7点 月灯館殺人事件
北山猛邦
(2023/05/01 22:46登録)
「本格ミステリの神」と謳われる作家・天神人(てんじん・ひとし)が統べる館、「月灯館(げっとうかん)」。その館に集いし本格ミステリ作家たちの間で繰り広げられる連続殺人! 悩める作家たちはなぜ/誰に/何のために殺されるのか?
絢爛たる物理トリックの乱舞(パレード)とともに読者を待ち受ける驚愕のラストの一文(フィナーレ)に刮目せよ!!
Amazon内容紹介より。

外連味たっぷりの殺害状況は余りにも人工的過ぎて、これだけ盛り込んで大丈夫なのだろうかと心配しましたが、大丈夫なのでした。実際密室+首なし死体という本格ミステリの王道とも言える状況に加えて舞台がクローズドサークルで、館ものとして大いに作者の本領を発揮していると思います。つまり、得意の物理トリックを幾つも駆使して綱渡りの様な芸当を仕掛けるというもの。現時点でこの人の最高傑作ではないですかね。

ただ特に終盤十分に説明されていない部分があり、その辺りモヤモヤした感じが残りました。更に最終局面での「アレ」は一体何だったのだろうと・・・まさか、そんな馬鹿な事が、いやある筈がないと思いましたが、ネタバレ感想で検索したらやはり私の考えは間違っていませんでした。
これから読む人は細かな伏線や違和感に注意して読み進める事をお勧めします。兎に角悪魔的な作品であり、ある意味アンチミステリと呼んでも良いでしょう。やや不満なのは探偵役が弱いというか、名探偵と言い難いのは確かだと思います。

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