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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1835件

プロフィール| 書評

No.1575 7点 飛ぶ男、墜ちる女
白峰良介
(2023/01/17 22:56登録)
「男」が、飛び降りた。目撃者が駆けつけてみると、そこには「女」の死体が転がっていた。続いて起こる第2の殺人。被害者は死の直前に「オンナは逆から、オトコは反対へ、赤いシルシには裏がある」と謎の言葉を残した。全編にちりばめられた仕掛けと伏線。稀有の言語感覚を有する新人、新本格推理デビュー作。
『BOOK』データベースより。

どうしても読みたいと思い始めて20年以上。現在Amazonで4点出品されていますが、いずれも送料込みで48580円。私が随分前から見てきた限りでは誰も買っていません。そりゃそうでしょう、定価税抜き699円のノベルス本ですからねえ。それが5万近くのプレミア価格、結構な希少価値があるとは思います。しかしそれにしてもこの値段はボッタクリすぎじゃないでしょうか、とても手が出ません。私が入手したのは昨年の事、この価格に比べれば只みたいなものでした、しかも帯付き。私はラッキーでした。一生読めないかも知れないと思っていましたからね。勿体ないので、機が熟すのを待ってから漸く読み始めました。

さて前置きが長くなりましたが、本作一言で表現すると地味。外連味がないのは良いですが、その分文章のキレ味の鋭さが足りない感じがしました。まあ結果読み易くはあったのですが。そして何と言っても冒頭の不可解な状況の謎があまりに魅力的で、それに引っ張られて最後まで興味が薄れず読めたというのが率直なところ。
初期の新本格に並ぶ作品として帯裏に表記されているだけあって、人間が描けてないのはご愛敬。それでも、解決編では芋づる式に謎が解けていく様は、読んでいてスッキリしました。メイントリックも納得です、大技ではないものの、○○を駆使した秀逸なものでした。


No.1574 7点 恋物語
西尾維新
(2023/01/15 22:42登録)
“片思いをずっと続けられたら―それは両想いよりも幸せだと思わない?”阿良々木暦を守るため、神様と命の取引をした少女・戦場ケ原ひたぎ。約束の“命日”が迫る冬休み彼女が選んだのは、真っ黒で、最悪の手段だった…。「物語」はその重圧に軋み、捩れ、悲鳴を上げる―。
『BOOK』データベースより。

これは詐欺師貝木泥舟が探偵の真似事を行う、シリーズとしては珍しい探偵譚となっています、否、ハードボイルドと言って良いでしょう。どんな経緯で仙石撫子が蛇神となって、暦とひたぎを殺そうと計画しているのかよく分かりませんが、戦場ヶ原ひたぎの依頼を受けて撫子を騙そうとするダークヒーローのひたむきさに心打たれました。悪のイメージしかない貝木泥舟が何故かその身を投げ打ってまで、ひたぎとの約束を守ろうとするのかも、貝木の一人称で描かれている為、その心情がよく理解できます。

謎も幾つか用意されており、その意味でもシリーズ屈指のミステリ寄りの作品でしょう。
ラストの貝木対撫子の勝負はなかなか迫力があり、クライマックスとしてはかなり盛り上がります。後味も良いです。しかし、この物語の主人公は本来なら忍野メメだったのではないかと思うにつけ、返す返すも彼の不在が残念でなりません。いつか復活する日が来るのでしょうか。


No.1573 7点 オメガ城の惨劇 SAIKAWA Sohei’s Last Case
森博嗣
(2023/01/13 22:30登録)
「F」の衝撃、再び
孤島に聳えるオメガ城への招待に応じた六人の天才と一人の雑誌記者。
そこには、サイカワ・ソウヘイも含まれていた。彼らが城へやってきた
理由は、ただ一つ。招待状に記された「マガタ・シキ」の名前だった。
島へ渡るには、一日一便の連絡船を使用。帰りは、あらかじめ船を呼ぶ
必要がある閉じた空間。執事すら主催者の顔を知らず、招待の意図は
誰にもわからない。謎が多い中の晩餐をしかし七人は大いに楽しんだ。
そして、深夜。高い叫び声のような音が響き、城は惨劇の場と化した。
Amazon内容紹介より。

森フリークはどこにでも一定数存在すると思っているので、世間の評価はその分差し引いて考慮する様に努めていますが、余りにAmazonの高評価ぶりに欲求を抑えきれなくなり購入しました。まあそんな事は置いといて、本作は最低でも『すべてがFになる』とVシリーズのいずれか、あと出来れば四季シリーズを読んでおかないと、どういう事?となり兼ねません。逆に森作品は全作読んでいるぞと云う猛者は必読でしょうね。

ストーリーは所謂孤島物ですが、ちょっと異色です。其処に関してはあまり語らないほうが良いと思いますので割愛しますが。途中までは典型的な型に嵌った孤島ものではあります。途中からね・・・。
まあ私なんぞは真賀田四季に遭えるのかとワクワクしながら読んだクチで、ミーハーなんですが、その期待は果たして叶うのか?乞うご期待。それにしても、犀川創平ってこんな感じだったかなと、ちょっとばかり違和感を覚えましたね。年月が経っているので仕方ないのかと思いましたけど。
最後残り少ないページ数になっても、一向に解決編が見えて来ないのに焦りましたが、杞憂に終わりました。見事に着地を決めて見せましたよ。


No.1572 6点 赤穂浪士伝
海音寺潮五郎
(2023/01/11 22:49登録)
本所・吉良邸において大石内蔵助を中心とした元浅野家中四十七人が本懐を遂げた元禄十五年十二月十四日。この大望の日を迎えるまでの浪士たちのそれぞれの日々を、丹念に綴った著者得意の列伝。上巻は、高田馬場の決闘で一躍名を挙げた中山安兵衛が堀部弥兵衛の養子となるまでの経緯を描いた「養父の押売り」他六篇を収録。
『BOOK』データベースより。

史実に虚構を交えた或いは完全なフィクションで描かれた、赤穂浪士達の討ち入り前の物語。ほぼ人情劇で、家族や想い人ら浪士を支えた人たちとの交情が叙情的に描かれており、止むに止まれぬ事情で別れを告げなければならなかった辛さ、悲願成就の為大切な人をも欺かねばならなかった武士道精神が心を打ちます。

登場順に、堀部安兵衛、堀部弥兵衛、奥田孫太夫、不破数右衛門、高田郡兵衛、矢頭右衛門七、大高源五が主人公。他に本所松坂町の吉良の屋敷の図面を恋人に用立てさせて苦悩する岡野金右衛門、片岡源五右衛門、磯貝十郎左衛門らも脇役で出て来ます。大石内蔵助は出番が少ない印象。
それにしても、みんな涙もろ過ぎです。


No.1571 5点 推理小説
秦建日子
(2023/01/10 22:38登録)
会社員、高校生、編集者…面識のない人々が相次いで惨殺された。事件をつなぐのは「アンフェアなのは、誰か」と書かれた本の栞のみ。そんな中、出版社に届けられた原稿には事件の詳細と殺人予告、そして「事件を防ぎたければ、この小説の続きを落札せよ」という要求が書かれていた…最注目作家、驚愕のデビュー作。
『BOOK』データベースより。

作中でフェアとかアンフェアとか叙述トリックだとか、ああでもないこうでもないと言及していて、ミステリを上から目線で弄んでいる様に思える事が、多くのミステリマニアの怒りを買っている気がします。どうせこんな感じで書いとけば良いんでしょ?みたいな不遜とも思える作者の姿勢が見え隠れしています。
作品としては大風呂敷を広げて、結局ショボい結末で終わってしまう典型的な竜頭蛇尾なものではないでしょうか。推理小説と言うより、安易なサイコ・サスペンスの様な感じです。

しかしながら、視点をコロコロ変え目先の面白さに拘り、犯人解明までの疾走感は評価出来ます。又、様々な工夫を凝らして読者を飽きさせない手法はアリだと思います。ただやはり、結末が貧弱。意外性もないし動機もうーんって感じでねえ。女刑事の雪平は魅力的。


No.1570 6点 少女には向かない職業
桜庭一樹
(2023/01/08 22:38登録)
あたし、大西葵13歳は、人をふたり殺した…あたしはもうだめ。ぜんぜんだめ。少女の魂は殺人に向かない。誰か最初にそう教えてくれたらよかったのに。だけどあの夏はたまたま、あたしの近くにいたのは、あいつだけだったから―。これは、ふたりの少女の凄絶な“闘い”の記録。『赤朽葉家の伝説』の俊英が、過酷な運命に翻弄される少女の姿を鮮烈に描いて話題を呼んだ傑作。
『BOOK』データベースより。

13歳、それ以上でも以下でもない等身大の少女の姿が窺い知れます。陽気で元気な、時には涙を流す喜怒哀楽が激しい主人公で語り手の「あたし」大西葵。そしてもう一人の少女宮之下静香は影のある図書委員。二人の少女の個性、陽と陰、陰と陽が重なり合う時、何かが起こる。

葵のセンセーショナルな告白で始まる、この物語は大人達への挑戦とも取れる無謀な戦いの様相を呈します。序盤はごく普通の青春小説の様でもあり、少女の心模様が手に取るように分かる、なかなか筆達者ぶりを作者は見せつけてくれます。それがやがて不穏な空気を纏ってきて、二人の少女の出会いがとんでもない事件に発展します。
まあ面白いと言えば面白いんですが、ただやはり子供のする事、犯罪計画はかなり杜撰でトリックとかロジックとかを重視する読者にはお薦めできません。そういう細かい事を気にしなければ十分楽しめる良作であると思います。ミステリとしてよりも青春小説として評価したいですね。


No.1569 6点 サクリファイス
近藤史恵
(2023/01/07 22:31登録)
ぼくに与えられた使命、それは勝利のためにエースに尽くすこと―。陸上選手から自転車競技に転じた白石誓は、プロのロードレースチームに所属し、各地を転戦していた。そしてヨーロッパ遠征中、悲劇に遭遇する。アシストとしてのプライド、ライバルたちとの駆け引き。かつての恋人との再会、胸に刻印された死。青春小説とサスペンスが奇跡的な融合を遂げた!大藪春彦賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

スポーツ青春小説として、如何にも万人受けしそうな作品だと思います。人間模様や自転車レースの定石やマナー等が分かり易く描かれています。自転車競技に興味のない人でも難なく引き込まれるでしょう。そりゃもう一気読み必至ですよ。とても良く出来ているとは思いますが、例えば誉田哲也の武士道シリーズに比べると、迫力や試合での熱さ、スポーツの持つ心理戦や奥深さに於いて、到底及ばないというのが個人的感想です。

私はみなさんと意見が少々違いますが、ミステリの部分に結構惹かれました。其処には期待していなかっただけに、逆にそうだったのかみたいな驚きを覚えました。主題は自転車レースにあるのは誰の目から見ても明らかです、だからと言ってミステリとして弱いとは私は思いません。
蛇足ですが、紅一点の香乃の扱いが雑だと感じました。雑と言うか、誰でも良いんかいと突っ込みたくなりました。


No.1568 6点 MW ームウー
司城志朗
(2023/01/06 22:43登録)
バンコクで起きた日本人誘拐事件。巨額の身代金と二つの生命を奪い犯人は逃走した。捜査にあたる警視庁の沢木は二人の男と出会う。LA新世紀銀行勤務の結城美智雄と、山の手教会で聖職につく賀来裕太郎。「俺たちは一枚のコインの裏表さ」二人はある共通の過去を背負って生きていた。一方、事件の取材を進めていた牧野京子は、十六年前とある島で起きた酸鼻な事件と疑惑に行き着く。その先には、政府により闇に葬られた凄惨な過去と、そのとき島に残された二人の少年の真実が―。手塚治虫原作の映画「MW」を、本格ピカレスク小説に昇華させた至高のノベライズ。
『BOOK』データベースより。

主役級の四人、銀行員の結城、神父の賀来、警視庁警部補の沢木、ジャーナリストの牧野京子はキャラが立っているし、脇役に至るまで個性を際立たせて描いているので、その意味では本作は成功と言えるでしょう。原作は手塚治虫でその映画化のノベライズなので、どこまで原作に忠実に描かれているかは知りませんが、細かいディテールは多分色々変更されていると思われます。時代が違いますしね、当然手塚治虫が書いた頃には携帯とかなかった訳ですから。

スピード感が有り、場面の切り替えも速くテンポが良いので、読み易さはありますが、読み応えと言う点ではやや物足りないでしょうかね。
結城は天才的で人としては冷酷ですが、これはある事件の影響で、その前の人物像が知りたかったところですね。誰に感情移入するかで、印象も違ってくる作品だと思います。ちょっとした謎とか事件が収束されていない箇所があり、何となく消化不良な面もあります。


No.1567 7点 蜘蛛の微笑
ティエリー・ジョンケ
(2023/01/05 22:45登録)
外科医のリシャールは、愛人を眺める。他の男に鞭うたれ、激しく犯される姿を。日々リシャールは変態的な行為を愛人に強要し…無骨な銀行強盗は、警官を殺害してしまった。たりない脳味噌を稼働させる中、テレビ番組を観て完全なる逃亡手段を思いつくが…微笑みながら“蜘蛛”は、“獲物”を暗闇に閉じ込めた。自らの排泄物、飢え、恐怖にまみれた“獲物”を“蜘蛛”は切り刻んでゆく…三つの謎が絡む淫靡なミステリ。
『BOOK』データベースより。

上記の様に物語は、整形外科医のリシャールと愛人エヴの爛れた愛の物語、警官を殺害し身柄を隠すためある計画を練るアレックスの章、そして二人称の「おまえ」が“蜘蛛”によって監禁され辱めを受ける章の三つのストーリーが並行して進行します。短いながら改行が極めて少なく、内容がぎっしり詰まっているので、一体自分は何を読まされているのか、何が進んでいるのかがなかなか掴み切れませんでした。その上会話文が極端に少ない為、容易に全容を把握する事を許しません。よって、二人称の部分だけが妙に惹きつける魅力を有してしまって、全体的にアンバランスな印象を受けました。

しかし、ラスト30頁でやってくれました。衝撃の展開、禁断のトリック、これは!・・・。本書はそれだけで評点を一気に押し上げました。驚愕の事実が目の前で繰り広げられるカタルシスはなかなかのものでしたよ。いやー最後まで読んで良かったですー。



【ネタバレ】



キーワードは「お大事ちゃん」by頓知気さきな。


No.1566 6点 四十一番の少年
井上ひさし
(2023/01/04 22:51登録)
児童養護施設に入所した中学生の利雄を待っていたのは、同部屋の昌吉の鋭い目だった―辛い境遇から這い上がろうと焦る昌吉が恐ろしい事件を招く表題作ほか、養護施設で暮らす少年の切ない夢と残酷な現実が胸に迫る珠玉の三編。著者の実体験に材をとった、名作の凄みを湛える自伝的小説。
『BOOK』データベースより。

中編の表題作と短編二作の自叙伝的小説らしき連作作品集。
時代は相当昔で私の生まれるずっと前の話ですが、何故だか懐かしい気分にさせられます。養護施設で暮らす利雄が作者自身を投影した主人公で、彼をイジメる昌吉とのやり取りが中心となる表題作。勿論暗い時代を生きた辛い青春小説でありありながらも、分かり易い伏線を張った犯罪小説でもあります。ミステリとしては杜撰ですが、当時の時代背景を考えると安易に凡作と決めつける訳にはいきません。

又、他の短編二作は表題作を補完する形で著されており、いずれも悲しい話です。特に最後の『あくる朝の蟬』はどこにも居場所のなくなった兄弟の、暗い未来を暗示するラストが堪らなく切ない気分にさせられます。年明け早々読んで良かったのか悪かったのか、複雑な気持ちです。


No.1565 6点 極限冷蔵庫
木下半太
(2023/01/03 22:30登録)
渋谷の居酒屋でバイトをする女子大生・詩乃は、閉店作業中に四十歳独身の女性店長とともに業務用冷蔵庫に閉じ込められてしまう。当初は偶然の事故かと思われたが、なぜか冷蔵庫内の温度が徐々に下がっていく。誰かが扉の外で操作しているのか。いったい誰が、何のために…。命の危機を感じた二人は、犯人の心当たりを探すためにそれぞれの秘密を明かしていくが―。「極限」シリーズ第二弾。
『BOOK』データベースより。

この作者の作品を読む時は、B級グルメを味わう様な姿勢で臨む事にしています。今回も良くも悪くも期待を裏切らず、その味わいを堪能致しました。
何故か突然居酒屋の大型冷蔵庫に閉じ込められてしまうバイトの女子大生と女性店長の二人。狭いわ寒いわで物凄い閉塞感の中、彼女らは犯人が誰かを探る為に回想を続けます。バイトの詞乃は彼氏がいるのにパパ活をしており、彼らの内の誰かが怪しいと睨む一方、店長はパパ活の実態を一部把握しており、こちらはこちらで秘密を隠し持っていたりします。

ラストは二転三転、でんぐり返しし見事にこちらの読みを外してくれます。帯にある「すべての予想は裏切られる」の文句は伊達じゃありません。
木下半太にしては出来は良い方だと思います。それでもまだどこか喰い足りない感じがして仕方ありません。やはり冷蔵庫の中の密室劇と云う事で、全体的に動きが鈍いせいかも知れませんね。


No.1564 5点 魔女は世界に嫌われる
小木君人
(2023/01/02 22:13登録)
鍛冶職人の父親と幼い妹との3人で暮らす少年ネロの平穏な日々は、国王軍の襲撃により唐突に終わりを告げる。妹を連れて森へと逃げ込んだネロは、とある古城へたどり着く。そこで彼は、病の床に伏した魔女と、その娘・アーシェと出会った…。世界に忌み嫌われる魔女と、ネロとの間で交わされた約束。それは死んだ妹を生き返らせてもらうことを交換条件に、魔女の娘を安全な地へと護送すること。魔女に恨みを持つ人々や魔獣、さらには魔女を捕まえようとする軍隊までも敵に回し、少年は魔女の娘と、寄る辺なき危険な旅に出る。
『BOOK』データベースより。

所謂ボーイミーツガールもの。ただ、少年ネロは父親が重罪で殺されている、そして出逢うのは魔女と言うのが特徴的ではあります。あとはごくごく普通のラノベファンタジーです。魔女の母親は病に臥せっており、バトルもありますが特別凄みがある訳でもないけれど、何だかんだでそれなりに読ませます。

結局これは後続のシリーズへ向けての単なるプロローグに過ぎなかったのでしょう。一応三作目まであるので読んでみようかな、くらいは思いますが作風から見ると劇的な展開は望めそうにない気もします。今後の予定は保留という事で様子見ですかね。


No.1563 5点 ぽっぺん先生の日曜日
舟崎克彦
(2023/01/01 22:14登録)
「なぞなぞの本」のなかに入りこんでしまったぽっぺん先生は、なぞを解かなければ外に出られない。ところが、そのなぞ解きときたら、トンチやヘリクツばかり。おまけに出会うのは奇想天外な動物だらけ。さて、どうなることやら。小学4・5年以上。
『BOOK』データベースより。

如何にも児童文学然とした作品で、子供の頃に読んだらきっと面白かったんだろうなと想像出来ます。まあいい歳になっても楽しめたから文句は言えませんけど。ぽっぺん先生は謎を次々と解いて行かなければ前に進めない、そして絵本から抜け出せないという設定。その世界では言葉が話せる動物達に出会いながら、なぞなぞに挑戦してくのですが、そのなぞなぞが結構面白いし動物もユニークで読者を飽きさせません。

まあ何も考えずに読めてストレスフリーだし、挿絵も作者自身が書いている割りには上手いし、まずまず面白かったという事にしておきましょう。でもAmazonで表面に出ているレビューの全てが★5個は出来すぎですね。みなさん子供じゃないんだから、大人の読者の事も考えましょう。


No.1562 7点 死霊の誘拐
篠田秀幸
(2022/12/31 22:22登録)
カウンセラーの榊原久美子は、患者の少年加藤信二から恐るべき事実を知らされた。「山伏のような男を轢き殺してから、俺は能除太子の生まれ変わりだという怨霊にとりつかれている」というのだ。その夜、久美子は不倫相手の弘と車で帰宅中、なんと信二を轢いてしまう。信二は「の、能除太子」と呟きながら、息をひきとった。これも怨霊の呪いなのか?人間の孤独と不安を描くホラーサスペンスの傑作長篇。
『BOOK』データベースより。

あまり期待していませんでしたが、これは結構な拾い物だったようです。作者の描く本格ミステリと違ってテンポが良く、リーダビリティに優れ、ホラー、ミステリ、サスペンスの要素を存分に盛り込んでコンパクトに纏めているのは、褒められるべき点でしょう。ストーリーも二転三転し、やや詰め込み過ぎかと感じましたが、とてもスリリングでスピード感もあり、勿体ぶった所がなく好感が持てました。

以上、褒めポイントばかり挙げたので、逆にマイナス点を挙げるとするならば、登場人物が少ないので犯人が判りやすい事ですかね。それと最も不可思議な謎である、大袈裟に言えば死者の蘇りが論理的に解決されていない点でしょう。これはホラーとして捉えるならば許容範囲内です。だからこそレーベルがハルキ・ホラー文庫からの出版だったのも納得が行きます。


No.1561 7点 幼女と煙草
ブノワ・デュトゥールトゥル
(2022/12/30 22:51登録)
死刑を目前に控えた囚人は、最後の一服を要求した。しかし、刑務所の所長は完全禁煙の規則を盾にそれを拒否。事態は、煙草会社、法曹界、政治家を巻き込んで、奇妙な混乱へと陥っていく…。はたして、囚人は最後の一服を許されるのか?一方、禁煙の市庁舎のトイレで煙草をくゆらせていた職員は、幼い女の子に現場を発見される。威嚇して追い払ったものの、職員には告発の手が伸びる。やがて、囚人と職員の人生は、皮肉な形で交差する―注目の作家が放つブラック・コメディ。
『BOOK』データベースより。

ブラックではあってもユーモアではないと思います。大真面目に書かれたディストピア的な社会派です。煙草を忌み嫌い社会から排除する風潮があり、子供を過剰に甘やかし神格化するある国の物語。であるが故に主人公に起こった不条理な現実が痛々しく、やがて法廷にまで発展して・・・。そして一方では死刑囚が最後に煙草を所望した為に巻き起こる悲喜こもごもの、政治や社会に影響を与えた大事件。

この二つの物語が並行して語られ、それらが交差する時本作は佳境を迎えます。
冒頭、これは相当な傑作かも知れないと思いました。その予感は半ば当たり半ば外れました。もっと死刑囚が注目を集めて主役に躍り出ても良かった気もします。そして最後はやや意味不明な感じで終わったのが残念でした。まあ主人公の「僕」の気持ちも分からないではないですが。
ストーリーは予期せぬ方向へ転がり、全く先の予測が付きません。その意味ではサスペンス小説とも言えますし、ジャンル不明とも言えると思います。


No.1560 7点 牧師、閉鎖病棟に入る。
沼田和也
(2022/12/29 22:46登録)
なぜ人を傷つけてはいけないのかがわからない少年。
自傷行為がやめられない少年。
いつも流し台の狭い縁に“止まっている"おじさん。
50年以上入院しているおじさん。
「うるさいから」と薬を投与されて眠る青年。
泥のようなコーヒー。
監視される中で浴びるシャワー。
葛藤する看護師。
向き合ってくれた主治医。

「あなたはありのままでいいんですよ」と語ってきた牧師が
ありのまま生きられない人たちと過ごした閉鎖病棟での2ヶ月。
Amazon内容紹介より。

本書を読んでいて思ったのは、たとえ牧師と言えども神様でも聖人でもない、一人の人間だという事。当たり前ですが、聖職者としては一個人として見られない面があり、精神科に入院することもあるのだという事実。そして、本当は覆面作家か誰かが書いたのではないのか思う程、文章が流麗でまるでプロの様である事です。

閉鎖病棟に二ヶ月、解放病棟に一ヶ月入って色々な経験をした作者、なかなか人生上手くいかないものですね。入浴時には若い女性看護師に監視されたり、おやつは火曜日と金曜日の午後三時にアルファベットチョコを2個だけだったり、トイレに関する事食事の事等々、健康的ではあるかも知れないけれど、人間的ではないなと感じたりしました。因みに私は毎日ガーナひと欠けとチョコまみれを1個食べています。贅沢してるなと思いますが、血液検査は至って正常でBMIは19くらいです。どうでもいいか。
又、著者は22歳の時に阪神・淡路大震災の被害に遭っており、それも人生を狂わせるのに一役買っている様です。蛇足ですが、精神科医自身が神経を病むことも結構あるそうですよ。


No.1559 6点 伝染ル
みくるやみっき
(2022/12/28 22:46登録)
話題の“プリスタ”で、彼氏との記念プリを撮ったえれな。だけど、プリに写ったえれなの首に、赤いシミのようなものが広がっていき…?恐怖の渦に巻き込まれた5人の少女のヤバイ体験…。
『BOOK』データベースより。

五篇のホラー短編集。一話、二話を読んだ後これはB級ホラーかと、ちょっとがっかりしましたが、三話目『リカちゃんのおまじない』四話目『伝染ル』で
グッと盛り返しました。最後の『腐臭』もまずまずでこの点数に落ち着きました。いずれもどこか既視感を覚える、言ってみれば普通のホラーでそれほど怖くありません。そもそも作者自身が怖がらせようと思っていないのではないかと感じました。

グロさとかとは無縁で直截的な描写はあまりありません。ストーリーも捻りがなく良く言えば王道ホラーでしょうかね。大体先が読めるし、結末もまあそうだろうなって感じで、驚きはありません。でもそれで良いんですよ、定番っていうのはそんな物でしょうから。作者名からして怖そうじゃないし。


No.1558 6点 賭博師たち
アンソロジー(出版社編)
(2022/12/27 22:42登録)
平穏な日々を嫌い、明日を拒み、ときには愛するものさえ裏切り、賭博師たちは凌ぎのために、一切の感情を捨て去る。己の神経を極限にまで研ぎ澄まし、“勝負”というただ一点のみに真実を見出そうとする彼らの生き方とはいかなるものなのか。人生の深淵を知り尽くした八人の作家が、非情の世界に生きる男たちの栄光と破滅を描破したベストアンソロジー。
『BOOK』データベースより。

黒岩重吾と樋口修吉(誰?)以外は十分楽しめました。それにしても八人の作家の中の二人が阿佐田哲也を主人公に持ってきているのには、流石に博打の神様、雀聖と呼ばれた男だと感じ入りました。その二人、生島治郎と清水一行は明らかにノンフィクションらしき短編で、阿佐田哲也の魅力を遺憾なく描写しています。特に有名なナルコレプシーという突然眠ってしまう奇病について両者ともページを割いています。何だかんだ言いながら最後にはかっぱいでしまう強者として描かれていて、又氏の意外は素顔をも知れます。

伊集院光はヒリヒリした博打と言うより官能小説の体を成しています。黒川博行はバリバリの麻雀小説で1ページ目から牌図が出て来ます。しかし、プロの主人公が簡単な絡繰りに気付かないのは不可解でした。佐藤正午は博打と恋愛を天秤にかけた様な作品で、最も小説らしい小説です。ただその分博打の醍醐味は味わえませんでした。


No.1557 6点 誰がこまどり殺したの
篠原一
(2022/12/26 22:24登録)
羽を失い、獣となった少年たちに約束の百年は訪れるのか。「天国のドア」はひらくのか。きみに喰われてきみの血肉になってゆくのが僕の愛なのかもしれない…。文学界新人賞デヴュー(『壊音KAI‐ON』)19歳天才女子大生作家、初の長篇。
『BOOK』データベースより。

長編だと思って読んでいたら短編集?でも結局長編だったし、ミステリだと思っていたら幻想小説或いはファンタジーだったと云う、大いなる勘違いを巻き起こした本作。『天国の扉』では痛い目に遭ったのでどうかなとかなり不安でしたが、面白かったですね。いや面白いという表現は失礼かもしれません。何と言うか感性で読む本じゃないでしょうか。だから感銘を受けたとか心に沁みたと言ったほうがしっくり来そうです。

最初は凛が男か女かも分からず戸惑ったり、瑞に振り仮名を打たれていないので何と読むのか終盤まで分からなかったりと、それも一つの個性なのかも知れませんが、不親切な気はしました。因みに瑞はみずきでしたが。
あらすじなどはあって無い様なものですし、ここでは書かない方が良いと思いますので割愛します。ただMという正体不明の女性の得体の知れない未来像にはゾッとしました。文体は儚げで美しく詩的でもあります。物語よりもその辺りを評価したいですね。


No.1556 5点 死者からの人生相談
吉村達也
(2022/12/25 22:22登録)
人気ラジオ番組「電話人生相談」にかかってきた一本の電話…。それは数日前に殺された女性と同じ名前だった。単なる偶然か、死者の魂の叫びか。残された手がかりは埼玉・川越と伊豆・新島の市外局番、そして録音テープ。捜査が難航するなか、同じ手口で第二の殺人が起こった。事件の謎を解く鍵となる「音」を追って舞台は新島へ。そこで待っていたものは意外な結末だった。目と耳で読む本格推理。
『BOOK』データベースより。

まあまあでした。一応フーダニットに属する本格ミステリですが、やはり最も興味を惹かれるのはタイトル通り、どんなトリックで死者からラジオの人生相談された様に思わせるかですね。結論から言えばあまりそれに期待しない方が賢明って事です。それよりも、作者が詳しいラジオ制作の現場の実情や進行の仕方、プロデューサー、ディレクター、パーソナリティの関係性などの内幕が描かれているところに注目しましょう。

ディレクター青木聡美はラジオ収録の人生相談のテープ、言わば耳からの情報から事件の真相に迫り、一方刑事畑聖美は正攻法で捜査し最終的に二人は偶然にも鉢合わせすることになります。
又話の要所要所に犯人の独白が挿入する事によって、アクセントとして物語に影響を与え締まりが出てきている気がしました。こういう心遣いは読者にとっては嬉しいでしょうね。速書きと言われていた作者ですが、決して手を抜いていたとかそうした感じは受けませんでした。

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