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ミステリの祭典

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断頭台/疫病

作家 山村正夫
出版日2020年07月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 メルカトル
(2023/06/26 22:43登録)
過去より甦る怪奇と幻想の淵。彼らはその境目を歩み、やがて呑みこまれていく―。死刑執行人サンソンの役を与えられた売れない役者が、役にとり憑かれ、やがて自分を失っていく「断頭台」。古代マヤの短剣に魅かれる男がその理由を知る「ノスタルジア」。さらに女神アフロディーテの求愛を無視し、娼婦の少女に恋をしたゆえに苛烈な神罰を下される天才彫刻家の物語「疫病」のほか、日本探偵作家クラブの犯人当て企画のために書かれた「獅子」や単行本未収録の「暴君ネロ」といった、古代ローマに材を取った作品も収録。憎しみだけが惨劇を起こすのではない。ときには純愛や慈愛が引き金となるのだ。妖しい輝きを閉じ込めた、珠玉の異常心理ミステリー集。
『BOOK』データベースより。

ちょっとややこしいですが、角川のカイガイ・ノベルスに収録された六短編のうちの『免罪符』を削除し代わりに『暗い独房』を新たに加えたのが角川文庫の『断頭台』。それに新芸術社の中短編集『異端の神話』の『疫病』『獅子』と単行本未収録の『暴君ネロ』を加えた全九編を収録したのが本書となっています。
第一部として『断頭台』『女雛』『ノスタルジア』『短剣』『天使』『暗い独房』、第二部が『獅子』『暴君ネロ』『疫病』のラインナップ。そして巻末に森村誠一との対談が載っています。

対談で度々出て来る乱歩の存在がやはり大きいようです。第一部を読む限り山村氏は大っぴらに影響を受けたとは言っていませんが、私感では乱歩の時代性を作品に投影させているのは否定できません。特に『女雛』『短剣』『暗い独房』の作風ははっきりその色が出ていると思います。確かに森村氏が絶賛している様に『断頭台』は表題作に相応しい一作でしょう。第一部のテーマである異常心理を最も如実に表していると思います。しかし、私としてはミステリ的趣向が盛り込まれた『女雛』や『天使』に惹かれます。

また第二部に関しては古代ローマが舞台の『獅子』『暴君ネロ』はやや取っ付き難さはありますが、ミステリとして評価したいと思います。表題作の『疫病』はギリシャ神話の神々が何十人も登場し、正直猥雑で何がな何だかさっぱり分からないというのが本音。それでも最後に漸く本題に入ってからはスピード感も出て、何とか付いて行くことが出来ました。

山村正夫と言えば子供の頃に読んだネタバレ満載の推理クイズと『湯殿山麓呪い村』の印象しかなく、この様な異形の短編も書いていたのだと認識を新たにしました。本書には他にも多くの怪奇幻想をテーマにした作品が紹介されており、そうだったのかと更に首肯せざるを得ませんでした。

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