メルカトルさんの登録情報 | |
---|---|
平均点:6.04点 | 書評数:1835件 |
No.1595 | 6点 | スメル男 原田宗典 |
(2023/02/28 22:59登録) 岡山から上京して東京の大学に通うぼく・武井武留は、母親を亡くした喪失感のためか、無嗅覚症になっていた。東大で作物の研究をしている親友・六川が、ぼくのために「臭い」の研究もしてくれるが研究所で事故死する。悲嘆にくれていると六川の恋人だったというマリノレイコが現れ、六川からぼく宛の荷物だと言ってシャーレを持ってきてくれる。マリノレイコによるとチーズの匂いがするというシャーベット状の中身に触ったときからぼくの身に異変が起こり始める。最初は犬が騒ぎ出し、次にはぼくの臭いを嗅いだ人がみんな嘔吐。住んでいるマンションに警察が調べに来たり、ついには東京都内を巻き込む異臭騒ぎにまでなってしまう。解決の糸口が見つからないまま、こんどは謎の組織に狙われることになり、なぜか味方になってくれた天才少年たちやマリノレイコといっしょの逃亡劇に! Amazon内容紹介より。 SF、ファンタジーの要素を含みつつ、最初は些細な出来事から次第に大事に発展していく様は正にパニック小説ではないでしょうか。そしてその原因が主人公本人にあるという珍しい設定となっています。匂いを感じられないというのも結構難儀な物のようですが、事態はそれどころではなくなって、人前に出る事も叶わぬ程の臭さに苦悶します。しかも重要人物と思われた六川が早々に舞台から退場し、これからどうなるのかとやきもきさせられました。 全体的に抑揚に富み、ジェットコースター的な緩急が素晴らしくよく描かれていると思います。武井の一人称で描かれるため、彼の心理は手に取るように分かりますし、他の主要登場人物の個性も際立っており読み飽きるという事がありません。特にIQ200超えと400超えの天才少年が突如現れてから更に面白くなります。子供なのにまるで老成した大人の様な二人の振る舞いにちょっと感動してしまいました。 |
No.1594 | 6点 | ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかの殺人事件 橋本治 |
(2023/02/25 22:57登録) 長らく入手困難だった橋本治による幻の傑作が遂に復刊!! 僕、分ったんです。人を探るということは、実は、それと同じ分だけ、自分自身を探るということが必要なんだということに。 これが僕の探偵法、だったのです―― 1980年代、東京――東大出のイラストレーター・田原高太郎が、鬼頭家で起こった殺人事件の謎を解く、橋本治による青春ミステリーの傑作! Amazon内容紹介より。 これはアンチミステリの亜種でしょうかね。 同じ事を言葉を変えて二度三度繰り返し、しつこく念を押す表現方法が特徴的。くどいとも言います。加えて一章丸ごと使って私小説を書いてみたり、余分な東京の地下鉄の路線図を挿したり、色々捏ねくり回している印象が強いです。殺人事件自体は至ってシンプルで、謎めいたところもありますがそれほど魅力的な物ではありません。 後半で漸く主人公と刑事と下宿の私立の大学生による推理合戦が始まると思いきや、単なる捜査会議に終わってしまっているのは残念な限りでした。つまり、あらゆる可能性を論っているだけで、特に推理している訳ではなく、その辺りはアンチミステリとしてやはり弱いと感じました。もっと多重推理をやってくれないとダメですよ。せっかく盛り上がってきたと思ったら、脱線して興を削がれます。まあ読み易くはあったので、長尺があまり気になりませんでした。それが救いでしょう。 動機は分かったような分からない様な、ちょっとモヤモヤした読後感でした。『獄門島』+『犬神家の一族』の趣向は面白かったですけどね。 |
No.1593 | 6点 | 永遠のディーバ 垣根涼介 |
(2023/02/22 22:28登録) リストラ面接官・村上真介の今度の相手は、航空会社の勝ち組CA、楽器メーカーでくすぶる元バンドマン、ファミレスの超優秀店長、おまけに、破綻した証券会社のOBたち。企業ブランドも価値観も揺らぐ時代、あなたは明日をどう生きる?全ての働き人たちにパワーを届ける、人気お仕事小説第4弾! 『BOOK』データベースより。 単行本『勝ち逃げの女王』を改題した文庫で読了。最初のCAを被面接者とする単行本表題作を読んだ時、流石にマンネリ化は避けられないとの思いを強くしました。どう見てもワンパターンで、しかも今回は面接官で主役の筈の村上の影が薄い。その分、各被面接者の人生模様が色濃く描かれており、人間ドラマとしては楽しめます。 本シリーズは次作で終わっているようですが、作者もこれ以上続けるのは色んな意味で難しいと考えたのだと思います。正解でしょう。好評だったシリーズですが、一つ外すと読者は離れていくものですからね。人気を保ったまま終止符を打ったのは英断だった気がします。と言ってる間にいきなり復活するとかのサプライズはあるかも知れません。しかし、最終作を読んでみて、この人がどんなピリオドを打ったのかが分からないまま、勝手な事を書いても意味がないのでこの辺りでお終いにしましょう。 |
No.1592 | 8点 | 名探偵のままでいて 小西マサテル |
(2023/02/19 22:46登録) 「認知症の老人」が「名探偵」たりうるのか? 孫娘の持ち込む様々な「謎」に挑む老人。 日々の出来事の果てにある真相とは――? 認知症の祖父が安楽椅子探偵となり、不可能犯罪に対する名推理を披露する連作ミステリー! Amazon内容紹介より。 第21回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。 基本的に私は『このミス』受賞作を信用していないので、なるべく敬遠するようにしています。しかし本作は何故か私の琴線に触れるものがある気がして購入しましたが、結果的にこれが大正解でした。面白い、いや面白過ぎる。ベースは日常の謎の範疇に収まる連作短編集だと思いますが、殺人など物騒なテーマを扱った作品も含まれており、単純に日常の謎に一括りにする訳にはいきません。 なにしろ、レビー小体型認知症を患いながら、孫娘楓の話を聴くや否や事件の全貌を視認して解決してしまう老人(おじいちゃんと呼ばれるだけで名前は不明)が凄いです。様々な毛色の異なる事件をあくまでロジカルに詰めていく本格ミステリ的趣向は、日常の謎と本格ミステリの融合を思わせます。ただ、第五章に顕著に現れていますが、どうしてそこまで見通せるのか、これだけの手掛かりしか与えられていない筈なのにというジレンマはありますね。 余談ですが、この作者は相当なミステリ愛好家の様で、随所にその愛着ぶりが見られます。そしてその幅広い知識は只者ではない事を匂わせます。それもそのはず、本作は鮎川哲也賞の最終選考まで残った作品を改稿しての受賞だから。 |
No.1591 | 6点 | 量子人間からの手紙 捕まえたもん勝ち! 加藤元浩 |
(2023/02/18 22:47登録) 元アイドルの捜査一課刑事・七夕菊乃と天才にして壊滅的な変人・アンコウこと深海安公。二人が挑むのは、密閉された倉庫や監視カメラの密林をすり抜けて殺人を犯す「量子人間」と、警察官僚の権力争い!?捜査の舞台はアメリカから日本へ。FBIもお手上げの連続不可能殺人を阻止し真犯人を追い詰めていく。ミステリ漫画界きってのストーリーテラーが放つ本格ミステリ第二弾!新感覚警察小説! 『BOOK』データベースより。 これ程不可解で不可能趣向の高い密室殺人ミステリは滅多に出会えるものではありません。特に第三の、厳重な警備の中何もない所から弾丸が飛び出して、防弾チョッキを通過して被害者の身体にめり込むという、とんでもない現象にはかなり興味を惹かれました。全四回に及ぶ密室殺人、七人に及ぶ被害者、非常警戒態勢の警察を嘲笑うように暗躍する見えない敵量子人間。この様に書くと物々しい雰囲気の怪奇趣味に溢れた作品と思われるかもしれませんが、そうではありません。意外と軽いタッチですんなり読める小説と思って下さい。 で、肝心の密室トリックですが、結論から言えば脱力系。ややバカミス系と言っても良いでしょう。緻密なようで意外と雑、それよりも警察の杜撰な捜査ぶりが目立って、ツッコミどころ満載です。普通に捜査していれば(特に鑑識)、簡単に絡繰りがほどけるはずですよ。 まあそんな事より真犯人の正体には驚きましたけどね。最後の最後まで謎のままで、結局そんな馬鹿な、みたいな結果に。ハウダニットよりもフーダニットとして楽しめました。 |
No.1590 | 6点 | ゴスロリ幻想劇場 大槻ケンヂ |
(2023/02/15 22:35登録) ロマンティックで残酷。せつなくて思わず号泣!!『ゴシック&ロリータバイブル』の人気連載が一冊に。怪奇、不条理、愛、狂気、恋、永遠の可愛い夢。書き下ろしの短篇5本を含む、全15篇を収録。 『BOOK』データベースより。 冒頭からゴスロリのグラビア写真が何枚か掲載され、どれも可愛く改めてゴスロリファッションの魅力を実感しました。其処には当然モデルの質の高さがあっての事ではありますが。その勢いでロリの世界に引き込んでくれるのかと期待しましたが、実際それ程ではありませんでした。各掌編が主人公を含め、多くがゴシックロリータ様式の洋装をしており、しかしながら全く違和感がありません。まあ出来不出来の差は大きいと言えるでしょう。中身はオカルト、ファンタジー、メルヘン、探偵、殺人、可憐、儚さ等々で構成されており、まさに分類不能の短編集です。 十五篇収録されていますが、ほとんどがすぐに忘れてしまいそうであまり印象に残りませんでした。逆に言えば再読に耐え得る作品集、忘れた頃にまた読んで気分を新たに出来るものだと思います。 心に残ったのは『ゴンスケ綿状生命体』『戦国バレンタインデー』『月光の道化師』『奥多摩学園心霊事件』『爆殺少女人形舞壱号』。特にミステリ要素の最も強い『奥多摩』は短い中にぎっしりオカルティック・ミステリが詰め込まれていて最もお気に入りの一編となりました。 |
No.1589 | 5点 | チェスナットマン セーアン・スヴァイストロプ |
(2023/02/14 22:24登録) コペンハーゲンで若い母親を狙った凄惨な連続殺人事件が発生。 被害者は身体の一部を生きたまま切断され、 現場には栗で作った小さな人形“チェスナットマン"が残されていた。 人形に付着していた指紋が1年前に誘拐、殺害された少女のものと知った 重大犯罪課の刑事トゥリーンとヘスは、服役中の犯人と少女の母親である 政治家の周辺を調べ始めるが、捜査が混迷を極めるなか新たな殺人が起き――。 Amazon内容紹介より。 まず文章が回りくどすぎて、兎に角じれったいです。そして衝撃のシーンでも生々しいシーンでも同じテンションで描かれていて、終始淡々とした文体で抑揚がありません。ですから長尺という事もありますが、大事な場面で読み落としそうになり、というか実際集中力が続かなかったのは否めません。 主役の刑事トゥリーンよりも相棒のヘスの方が好感が持てました。まあどっちもどっちですけどね。それ程人間描写に重きを置いていないと思いますし。 チェスナットマン(栗人形)の謎や手足の切断の理由などにはあまり期待しない方が賢明でしょう。何となく暈かしている感じもしますし、何らかのトリックがあるかと言われると・・・です。そして、意外な犯人かな?これ。そうでもなかった人すみません。 |
No.1588 | 6点 | 血みどろ砂絵 都筑道夫 |
(2023/02/10 22:44登録) とざい東西、江戸は神田の橋本町、ものもらいや大道芸人ばかりが住んでいるおかしな長屋に、センセーと呼ばれる推理の特技をもった砂絵かきがいた。当時珍しい合理精神の持ち主で、犯罪事件が起こると、わずかな礼金にあずかろうと、見事な推理で謎をとく。センセーと長屋の連中が、よってたかってとき明かした奇妙な事件の数々…。四季折々の江戸の風物を背景に、ユーモラスな本格推理を融合させた、異色の傑作捕物帖。 『BOOK』データベースより。 目茶目茶読み難かったです。 私は自分の馬鹿さ加減、読解力の無さ、集中力の無さ、記憶力の無さをよく分かっているつもりです。他人様に指摘されるまでもなく、そんな事は百も承知。なので、他の方の高評価に対して何も言う権利はありません。しかし、まあそうだろうなとは思うものの、正直個人的には期待していた程ではありませんでした。やはりここでも本作の良さを汲み取れていない己の愚かさを思い知らされた次第です。 何かこう、道中の慣れない言い回しやら、江戸時代の言葉遣い、情景が浮かんで来ないもどかしさ等を味わいながら、結局センセーの語る真相に成程と思わず頷いてしまう自分になんだかなーと妙な気分にさせられる作品でした。確かに意表を突いた仕掛けには感心するものがあり、その意味では面白かったと言えるでしょう。それでも十全に本作を堪能出来ていない事に対する腹立たしさは拭えません。 |
No.1587 | 6点 | 伝説の雀鬼・桜井章一伝 柳史一郎 |
(2023/02/08 22:12登録) 桜井章一はいかなる相手にも状況にも決して屈しなかった。右頬に日本刀、左頬にドスを当てられ、親指の骨を折られたこともあった。それでも彼は、ただひたすらに牌を打ち続けた…。裏麻雀の世界を20年間無敗で駆け抜けた男の姿を克明に描いた幻の傑作、ついに文庫化。「雀鬼流」という哲学を見出すその陰には激しすぎる戦いの日々があった。 『BOOK』データベースより。 何だか小説を読んだ気がしません。それは著者があとがきで書いている様に、あくまでノンフィクションとして著したとしており、小説の持つ情感があまりなかったり勝負の裏にある背後関係等が薄かったりする為と思われます。人間ドラマとしてはそれなりですが、生々しさという点では物足りません。 桜井章一は所謂裏プロであり、仕事師であります。ですから勝負は牌を積んで親の場合サイコロの目を自在に出した時点で既に着いていると言ってもあながち間違いではありません。つまり積み込み(裏技)です。なので、闘牌シーンは白熱している様で実はそうでもありません。それよりも、対戦相手との洗牌からどう積み込むのかの勝負に注目が集まるのは、自然の成り行きと言えるでしょう。 20年間無敗の雀鬼、桜井章一の心情はよく描かれており、その意味では一読の価値はあると思います。しかし、麻雀のルールを知らない人は読んでも意味が解らないでしょう。 |
No.1586 | 6点 | 深泥丘奇談 綾辻行人 |
(2023/02/05 22:47登録) ミステリ作家の「私」が住まう“もうひとつの京都”の裏側に潜み、ひそかに蠢動しつづける秘密めいたものたち。古い病室の壁に、丘の向こうの鉄路に、長びく雨の日に、送り火の夜に…面妖にして魅惑的な怪異の数々が「私」の(そして読者の)日常を侵蝕し、見慣れた風景を一変させる。―『Another』の著者が贈る、無類の怪談小説集! 『BOOK』データベースより。 続編を先に読んでいて、最初の短編『顔』の途中であれ?もしかしてもう読んだやつかと思って即検索してみましたが、未読でした。それは例の片目だけをうぐいす色の眼帯をしている医者が出てきたからだったんですが、この深泥丘病院の主人公私の主治医、いつも出て来るのね。それで勘違いしてしまいました。まあそれにしても、その医者や推理作家の「私」、左手首に包帯を巻いている看護師など、いずれもどこかしら怪しげな人々ばかり登場しますね。そういった雰囲気は好きですが。 鉄道マニアに隠れた人気スポットらしき場所で起こる惨劇?を描いた『丘の向こう』、降り続く雨に「良くない」と妻にも言われ体調を崩す「私」が深泥丘病院を訪れ、怪しい会話からラストの衝撃に繋がる『ながびく雨』まで読んだ時は7点は堅いと思ったものです。しかも次の『悪霊憑き』は本短編集の白眉とも言える傑作。途中で何かのアンソロジーで既読だったのに気付きましたが、ほとんど忘れていて逆に凄く楽しめましたし、これはイケると感じましたが、それ以降やや下降気味で結局6点に落ち着きました。 しかし、怪談話としてはそれなりのレベルで後半残念でしたが、好感触です。 |
No.1585 | 7点 | プロジェクト・インソムニア 結城真一郎 |
(2023/02/04 22:52登録) 睡眠障害(ナルコレプシー)のせいで失業した蝶野は、極秘人体実験「プロジェクト・インソムニア」の被験者となる。極小チップを脳内に埋め込み、”夢の世界(ユメトピア)”を90日間共有するという実験だ。願望を自在に具現化できる理想郷は、ある悪意の出現によって恐怖と猜疑に満ちた悪夢へと一変する。口径の合わない銃弾の謎。次々と消えてゆく被験者たち・・・・・・はたして連続殺人鬼の正体はーー。大胆な伏線が鮮やかに回収され、超絶どんでん返しの末に現れる驚愕の真相に、涙が落ちる。一気読み必至! 最注目の新鋭作家による、大満足の長編ミステリー。 Amazon内容紹介より。 夢の中で殺されると現実でも死ぬという都市伝説を、丸ごと取り込んだ特殊設定の本格ミステリ。またまた新手の設定が出ましたよ。あまり期待してませんでしたが、読み進めるほどに面白くなります。中盤までは夢の中ならではの妙な話が続き、殺人等全く無関係な雰囲気で進んでいきます。最初の事件が起きてから、それが連続する事がほのめかされ、俄然生き生きして来ます。 ユメトピアで過ごす事に関しては様々なルールがあり、それが解決編で活かされます。解決編とは言っても概ねエピローグに集約されており、最後の最後まで目が離せません。その直前に意外過ぎる事実が明かされ、衝撃が冷めやらぬうちに更に追い打ちを掛ける様に読者を翻弄します。ちょっとややこしい感もなくはないですが、読み終われば充実、そして納得の一冊でした。 |
No.1584 | 6点 | 残酷依存症 櫛木理宇 |
(2023/02/03 22:30登録) サークル仲間の三人が何者かに監禁される。犯人は彼らの友情を試すかのような指令を次々と下す。互いの家族構成を話せ、爪を剝がせ、目を潰せ。要求は次第にエスカレートし、リーダー格の航平、金持ちでイケメンの匠、お調子者の渉太の関係性に変化が起きる。さらに葬ったはずの罪が暴かれていき......。殺るか殺られるかのデスゲームが今始まる。 Amazon内容紹介より。 うーん・・・『殺人依存症』の続編には違いないんですが、そっちじゃんないんだよなって感じで。私の勝手な願望をよそに物語は好まない方向に進んでしまいました。前作よりもストーリーの広がりが感じられず、絡み合う人間関係みたいなものも薄く、こちらの方がワンランク落ちる感触を覚えました。 前作で主役だった浦杉がなあー。私としてはどういった形であろうとも、決着を付けて欲しかったですね。まあ更なる続編が描かれるのなら、そちらで白黒はっきり付けて頂きたいと思います。 タイトル通り残酷描写は前作といい勝負でしょうが、どちらが心に突き刺さるかとなるとやはり『殺人依存症』の方です。何だか今回は全体の構図が逆転してしまって、それが面白いという人もおられるでしょうし、こちらを先に読んだ人は多分単体で十分楽しめたのではないかとは思います。ただ個人的には『殺人依存症』の方が好みです。 |
No.1583 | 3点 | 輝く断片 シオドア・スタージョン |
(2023/02/01 22:40登録) 雨降る夜に瀕死の女をひろった男。友達もいない孤独な男は決意する――切ない感動に満ちた名作8篇を収録した、異色ミステリ傑作選。第36回星雲賞海外短編部門受賞「ニュースの時間です」収録。 Amazon内容紹介より。 久しぶりにハズレを引かされました。『取り替え子』は発想が子供だし『ミドリザルとの情事』は訳が分からないし『旅する巌』は印象に残らない。その後読み進めるも、どれもこれも締まりのない箸にも棒にも掛からないものばかりで、いい加減投げ出そうかと思いました。それでも何とか読了しましたが、少し好みのシチュエーションだったのは表題作のみ。それも何の捻りもないまま終わってしまい、いささか不満が残りました。 本当なら1点にしようかと思いましたが、考え直し3点にしました。それ以上はどう考えても付けられませんね。世評は高いし、文春ミステリーベスト10では3位だし、全く世の中どうなってるんですかね。もしかして私だけですか、この作品の良さが分っていないのは。何とも情けないですわ。しばらく翻訳物はいいやと思わされましたが・・・。また読むけど。 読者を怒らせるのは作者の罪だが、退屈させるのは最もたちの悪い最大の罪だと私は思います。 |
No.1582 | 7点 | 殺人依存症 櫛木理宇 |
(2023/01/30 22:14登録) 息子を六年前に亡くした捜査一課の浦杉は、その現実から逃れるように刑事の仕事にのめり込む。そんな折、連続殺人事件が勃発。捜査線上に、実行犯の男達を陰で操る一人の女の存在が浮かび上がる。彼女は一体何者なのか―。息をするように罪を重ねる女と、最愛の家族を失い死んだように生きる刑事。二人が対峙した時、衝撃の真実が明らかになる。 『BOOK』データベースより。 本格警察小説の佳作。 これ程胸糞の悪くなる小説は久しぶりに読んだ気がします。初っ端からエログロ全開で、その後も要所要所で同じような描写が見られます。その合間に堅実な捜査が行われ、犯人グループを追い詰めていきます。『ホーンテッド・キャンパス』シリーズしか読んでいないファンは、これを読んだら結構ショックを受けるでしょうね。この人はこんな作品も書いていたのかと嘆く声もあるでしょうし、称賛する人も当然いると思います。それでも文章は淀みなく流れるような筆致で、作者の実力の程が伺えます。 主人公の浦杉と隣の部屋の幼女との触れ合いと次第に深まっていく絆はある種清涼剤として、この殺伐とした物語を中和する作用を齎しています。 まあそれにしても、この世の中にはどうしようもない男どもがゴロゴロしている現状が浮き彫りにされ、なかなかの衝撃を受けました。後味は只管悪く、良くない余韻を残します。このままじゃ終われない、と続編を希望するも『残酷依存症』がそれに当たると思っていたのに違ったようで残念です。と思ったらやはり続編に当たるもののようでした。いずれにせよ私は本作を支持します。グロくても救いのない物語でも、嫌いにはなれません。 |
No.1581 | 5点 | 妖琦庵夜話 魔女の鳥籠 榎田ユウリ |
(2023/01/28 22:48登録) 都内に佇む茶室、妖〓(き)庵。美貌の主・洗足伊織はヒトとは僅かに違うDNAを持つ妖人であり、ある特別な能力を持っている。一方、警視庁妖人対策本部(Y対)の刑事・脇坂は、不可思議な事件を耳にした。聞き慣れない妖人属性を自称するふたりの女性が、同日、同じマンションで自殺を図ったというのだ。その裏に潜んでいたのは、母と娘の複雑な愛情と憎しみであり…。本当に怖いのは、人か、妖か。人気作第4弾、文庫書き下ろし。 『BOOK』データベースより。 キャラクター小説としては非常に素晴らしい、最高の作品です。妖琦庵の主洗足伊織を含めた妖人三人、そしてY対の刑事二人は各々確りとした世界を構築しており、誰に感情移入するもアリで、それは個人の好みに寄ります。この作者は女性だと勝手に思っています(年齢性別不詳)が、逆に男を描くのが上手いようです。 一方ミステリとしては早々にトリックがばれてしまい、初心者の方でもミエミエでしょう。最後に一捻りしているものの、評価は下げざるを得ません。 キャラ小説として8点、ミステリとして2点、均して5点ってとこでしょうね。安定した面白さは変わりませんが、今回はやはりこれまでのシリーズ中最も低レベルだと思います。Amazonの評価は当てになりません。ほとんどがファン投票でしょうし。 |
No.1580 | 6点 | ジョニーは戦場へ行った ドルトン・トランボ |
(2023/01/26 22:55登録) 【ネタバレ】注意 戦場で砲弾にあたり、目、鼻、口、耳をそぎとられ、両脚、両腕まで切断された青年ジョニーが過去から現在、現在から未来へとめぐらす想念…。発禁にあいながら反戦の想いをこめて版を重ねた問題作。 Amazon内容紹介より。 これは激しく読者を選ぶ作品ですね。上記の様に第一次世界大戦の為四肢を切断された上、五感の内四感を失ってしまったジョー(タイトルではジョニーになっているが作中では何故かジョーである)が主人公という設定なので、それに嫌悪感を抱く人はその時点で本作を忌避するでしょう。しかし一方で人間というものはどこか欠落した人を奇異の目で見て興味をそそられるさがを持っているもので、そちらに傾いた人達は躊躇うことなく読み進めるでしょう。 第一部ではジョーの回想がほとんどで、一応反戦小説の筈だけどと思ったりして、やや違和感を覚え大いに失望したものです。しかし第二部で、ジョーは病院の一室でベッドの振動を頼りに、どうしたら看護婦とコミュニケーションを取れるかを模索していきます。そして辿り着いたのが・・・。果たしてその願いは叶うのか。 そしてラストでは心の中で声高に反戦を叫ぶジョーの姿が痛々しく読者に迫ってきます。其処では己を見世物にして金を稼ぎ、それを元手に自分を介助してくれという自虐の心情も吐露しています。 発禁と絶版を繰り返した本作、間違いなく問題作でありますが、手持ちの本の奥付きには初版の昭和46年から平成4年までで50版の重版があり、やはり少なからず反戦運動、戦争反対の運気や個人的な興味の的になったとは言えるでしょう。 |
No.1579 | 7点 | 新・本格推理03りら荘の相続人 アンソロジー(国内編集者) |
(2023/01/24 22:51登録) 本格推理界の新しい旗手となり得るか?いつにも増して優秀な書き手が勢揃いした本書。アマチュアのレベルをはるかに超えた8作品がずらりと並んだ。特に全くの新人から驚くべき鬼才が登場。その才能をぜひ見極めていただきたい。このシリーズを誕生させ、10年間に亘って見守り育ててきた鮎川哲也。本書は氏監修の最後の1冊となった―。 『BOOK』データベースより。 『本格推理』は何作か読んでいますが『新・本格推理』は初めて。投稿者のレベルが上がっていた為か、編集者の二階堂黎人も書いていますが、今回の投稿作がたまたま粒揃いだったのか、予想以上にプロに近い水準だったと思います。特に3編も選出された小貫風樹に触れなければならないでしょう。『夢の国の悪夢』は他に比べると一段落ちる感じですが、『とむらい鉄道』は全作品の中でもトップクラスですね。登場人物が少ない中、どう謎を解明、ではなく解決するのかに焦点が絞られます。ただ途中の余計なトリックは邪魔だったかな。返って品位を落とす結果になってしまった様な気がします。この『とむらい鉄道』と『稷下公案』はトーンが似ています。どちらも陰鬱な雰囲気が漂っていて、余人には書けない作風だと感じます。又『夢の国の悪夢』はトリックは別として根底に横たわる悪意にはゾッとしました。何故この人が専業作家にならなかったのかが不思議です。 しかしそんな中、これらの作品を超えたと個人的に思ったのは大山誠一郎の『聖ディオニシウスのパズル』です。これは飽くまで好みの問題ですが、フー、ホワイ、ハウダニット三拍子揃っていますし、新興宗教と孤島のマッチングが素晴らしいです。『悪夢まがいのイリュージョン』も不可能趣味のサスペンス物で良かったです。イマイチだったのはバカミスの『ポポロ島変死事件』ですかね。途中までは良かったんですけどね、トリックがどうも。 |
No.1578 | 6点 | 本格ミステリ・クロニクル300 事典・ガイド |
(2023/01/21 22:23登録) 本書は、日本の本格ミステリ十五年史を概観するブックガイドである。編年体で作品を並べ、各年ごとの状況を素描するページを設けた。本書自体が年表の役割を果たせるような作りになっている。取り上げた作品は三〇〇冊。作品の選定にあたっては、単なるベスト作品選びではなく…あの時、その年、あるいは五年、十年、十五年のスパンで、本格シーンにおいて特徴的な役割を果たした作品をピックアップする。 『BOOK』データベースより。 新本格が開幕してからの十五年を振り返るミステリ・ガイドブック。一般的な単行本より一回り大きく、内容もぎっしり詰まっているので、読み応えは十分です。コラムや主だった作家たちによるショート・エッセイも挟まれています。しかし、チョイスが当たり前すぎて途中で飽きてきました、ディケイドの時はそうはならなかったんですけどね。これは読んでないなとか見逃していたと云った作品がほとんどなくて、ちょっとがっかりしました。もう少し隠れた名作や幻の傑作的なのが入っているともっと良かったのではないかと思います。 300冊中既読は174冊という結果に。如何にも中途半端な数字ですが、自分としてはよく読んだ方だと勝手に満足しています。約6割ですからね、打率としてはまあ高いほうじゃないですかね。 それにしても、これだけ取り上げられていて、未読でしかも読んでみたいと思った作品は2、3冊で、その意味ではあまり参考にはなりませんでした。ただ、ミステリ初心者には恰好のガイド本である事には違いないでしょう。 最後に思ったのは、どこかの出版社で裏ベストみたいなのを出してくれないかなって事でした。 |
No.1577 | 7点 | 絶叫委員会 評論・エッセイ |
(2023/01/19 22:36登録) 町には、偶然生まれては消えてゆく無数の詩が溢れている。突然目に入ってきた「インフルエンザ防御スーツ」という巨大な看板、電車の中で耳にした「夏にフィーバーは暑いよね」というカップルの会話。ぼんやりしていると見過ごされてしまう言葉たち…。不合理でナンセンスで真剣だからこそ可笑しい、天使的な言葉の数々。 『BOOK』データベースより。 タイトルから想像される様な物々しさはありません。普通のエッセイです、いや違うな、巷に溢れる言葉達にフォーカスしそれらを考察したエッセイです。もしも誰かにこの本は面白いかと問われれば、躊躇なく面白いと答えるでしょう。数ページに一度は笑える楽しい読み物です。それだけで歌人らしい言葉遣いでサラッと読ませ、そのくせ何とも奥が深いです。それぞれの物語がまるで小宇宙のようにその世界観を繰り広げ、読者を引っ張り込んでいきます。 以下、太字で表記された言葉を印象深いものからピックアップしていきましょう。 「妊娠してなかったら何でも買ってやる」切実な男心。よくある話だけど、この言い回しはどうなの? 「Nが生き返るなら、俺、指4本切ってもいいよ」自殺した友を想う男の心情。しかし、何故4本なのか・・・それは本書を読んでみて。 「彼女が泣くと永遠を感じます」嗚呼、分かる気がする。平和な日常が一瞬にして変貌する瞬間。 「マツダのち○○はまるっこいです」小学生の汚れ無き一言。著者曰く大きいでも小さいでもなく、まるいでもなくまるっこいところが良いんだそう。 「どうして手に玉をもってるの」スポーツに興味のない女性が、ボクシングを観乍ら放った一言。確かに知らない人から見るとそうなのかも。 「放し飼い卵」スーパーの張り紙。言いたいことは解るが、卵が跳ねたりして楽しそうな様子を想像するようだ。 他に、例えば梅干しの種の毛やバナナを剥いた時にひも状のものがあるけれど、それは何と云う名称なのだろう、みたいなイマジネーションを掻き立てる様な本当に些細で何気ない事柄を見付けては、エッセイにしてしまう著者の観察力や洞察力に感心させられました。 |
No.1576 | 7点 | 電脳山荘殺人事件 天樹征丸 |
(2023/01/18 22:42登録) 新本格ミステリー作家、法月綸太郎氏が絶賛!「仮面劇(マスカレード)の舞台へようこそ。パソコン通信を使った虚構のゲームが、吹雪の山荘を見知らぬ者同士の血で染める。小説ならではのトリックは、まさに『絵にも描けない』面白さ」 パソコン通信の仲間が集まった山荘で皆殺しのゲームのスイッチが入る。完全オリジナル第3弾! Amazon内容紹介より。 法月綸太郎が褒めているだけあって、かなり面白かったです。前半ちょっとダレるというか、殺人が連続している割りには緊迫感が足りない印象でした。しかしその裏では着々と伏線が張られて、仕掛けもひっそりと進められていきます。それを見逃していた私は、まあいつもの事ですが、読者への挑戦状が挟まれていても全くどう推理して良いのかの切っ掛けさえ見当たりません。それどころか、これで果たして犯人が指摘できるだけの材料が揃っているのかと勘繰りたくなりました。 しかし、最終的には圧巻の真相解明が行われます。ここに至って漸くそうだったのかと、膝を打つことしきり。キッチリ伏線が回収されていくカタルシスを味わう事が出来ました。 敢えて苦言を呈するなら、吹雪の山荘にミステリマニアが集まっているのに、ミステリに関する話題がほとんど出て来ない事くらいでしょうか。もう少し読者サービスとしてミステリ蘊蓄を語って欲しかったですね。 |