メルカトルさんの登録情報 | |
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平均点:6.04点 | 書評数:1902件 |
No.1662 | 5点 | 仮面 山田正紀 |
(2023/07/31 22:10登録) 「最初の殺人事件が起こったときに、すぐに警察に連絡していたら、第二、第三の事件は防ぐことができたかもしれない、そうおっしゃるのですか?(中略)私が犯人なのです、刑事さん」―その晩、経営難に陥ったクラブのお別れの仮装パーティに、男四人、女三人が集まり、完全密室の店内で惨劇は起こった。冒頭で早くも犯人が確定?本書全体に仕掛けられた大どんでん返し!読者を欺く名(?)探偵・風水火那子シリーズ第二弾。 『BOOK』データベースより。 うーん、何だかモヤモヤした読後感ですね。その原因の一つは複雑な構成にあると思います。自転車と自動車の追跡劇は一体何だったのかとか、ある人物に対する叙述とか、地の文、手記、回想の展開の速さ等ですかね。これらが混然一体となって、ややこしさが先に立ってしまって、纏まりに欠ける印象が凄く強いです。 手記の仕掛けは目新しさを覚えますが、それも小手先のトリックとしてしか見られない感もあります。まあ、一般受けはしないでしょう。最初にミステリを読んだのがこれだったら、ミステリをもう読みたくないと云う人が多いんじゃないですかね。余程の作者のファンならともかく、あまりお薦めは出来ない作品です。 |
No.1661 | 6点 | 狼と香辛料 支倉凍砂 |
(2023/07/29 22:41登録) 行商人ロレンスは、麦の束に埋もれ馬車の荷台で眠る少女を見つける。少女は狼の耳と尻尾を有した美しい娘で、自らを豊作を司る神ホロと名乗った。「わっちは神と呼ばれていたがよ。わっちゃあホロ以外の何者でもない」老獪な話術を巧みに操るホロに翻弄されるロレンス。しかし彼女が本当に豊穣の狼神なのか半信半疑ながらも、ホロと共に旅をすることを了承した。そんな二人旅に思いがけない儲け話が舞い込んでくる。近い将来、ある銀貨が値上がりするという噂。疑いながらもロレンスはその儲け話に乗るのだが―。第12回電撃小説大賞"銀賞"受賞作。 Amazon内容紹介より。 ラノベファンでこの作品を知らぬ者などいない程の超有名作。確かに良作だと思います。ファンタジー要素はあまりなく、凡百のラノベとは比較出来ないレベルの作品。物語自体は地味でバトルシーンも少なく、経済や商業取引といった要素を取り入れた異色のライトノベルと言えると思います。行商人であるロレンスの商いの相手との駆け引きや、銀貨の価値変動を見据えた先物取引の様なやり取りは、それだけでもなかなか面白いです。 が、何と言っても本作の魅力を支えている8割がホロのツンデレぶりで、残りの2割がロレンスのリアクションと言えましょう。何故か花魁もどきの言葉遣いのホロがたまに本音を吐いて、心中を見せるシーンなどは心に刺さるものがあり、ついつい感情移入してしまいます。ロレンスがホロの言動に振り回されながらも、次第に惹かれていく心理描写も上手く、この二人の微笑ましい交流を読むだけで、心癒されるものがあります。 流石に24巻まで続いたシリーズだけのことはあったと思いますね。まあ作者もこれだけ永く続くとは思っていなかったでしょうけど。 |
No.1660 | 7点 | はるか 宿野かほる |
(2023/07/27 22:35登録) 賢人は小さな頃から海岸で、水入りメノウを探していた。ある時、何年も見つからなかったそれを、初めて会った少女が見つける。彼女の名は、はるか。一瞬で鮮烈な印象を残した彼女を、賢人はいつしか好きになっていた。 Amazon内容紹介より。 冒頭、典型的なボーイミーツガールで、純愛小説なのかと思いました。しかしそんな筈もなく、物語は予想もしていなかった方向に展開していきます。そしてある程度筋が読めてきても、どう転がるか分からない、先を読ませない作者の目論見に、見事に嵌っていく一読者としての私がいました。 もう後戻りできない愛の先に待つものは、果たして桃源郷なのか、それとも・・・。 何とも言えない読後感で、それが返って複雑な余韻を残します。終盤で衝撃を与えておいて、ラストでそれを超える残酷とも言える皮肉なエピローグが待っています。ストーリーはとにかく読んで下さいと言うしかありません。 結構好き嫌いが分かれる作品だと思います、私はかなり楽しませてもらいましたけどね。 |
No.1659 | 5点 | スコーピオン 諸口正巳 |
(2023/07/25 22:32登録) 高校3年生の相馬圭一はスケボーとスノボー、そして格闘ゲームが趣味のどこにでもいるような少年。そんな圭一が大学入試の帰り道、受験生ばかりを狙う殺人鬼が出没するといういわく付きの地下道で遭遇したのは―まさにその『伝説』の殺人鬼だった。間一髪のところを、突然現れた黒いコートを着た謎の男に救われるが、そのことをきっかけに平凡で退屈な日々を送っていた圭一の運命は大きく変わっていく。「口裂け女」や「人面犬」のような都市伝説が、人間の恐怖や怯えといった負のエネルギーを糧に実体化したなら…!?危険な存在となった『伝説』を密かに抹殺する黒衣の男たちがいた。その名は―スコーピオン。 『BOOK』データベースより。 様々な都市伝説は噂が噂を呼んで密かに広まり、実物の怪異に変化し、それらを消滅させる為に雇われた男達が闇の死刑執行人、スコーピオンであるという設定は面白い。しかしそもそも誰が主人公かもはっきりしないし、誰目線という訳でもなく(敢えて言えばソーマだが)、一話一話が短すぎてバトルが今一つ盛り上がらなかったり、人物造形が出来ていない、ケモノとは一体何者なのか分からない等、結構な瑕疵が見られます。 中には『チェーン』のような佳作もある訳で、何か凄く勿体ない気がしました。結局どこを取っても平板で奥行きがないのが致命的であると判断しました。しかし、だからと言って発想の良さまで切り捨てるのはやや酷だなと思い、5点にしました。何も考えずにサラッと読めるので暇潰しには良いかも知れません。 |
No.1658 | 7点 | 回転寿司殺人事件 吉村達也 |
(2023/07/23 22:42登録) 和久井刑事の忘れえぬ初恋の人は、小学五年生のとき北陸の糸魚川市から転校してきた美少女・蓮台寺翠。十六年後、その彼女が「他人の心を読める超能力者」として世間に登場。志垣警部の忠告を振り切って彼女と対面した和久井は、実際に心を透視され愕然となる。それが回転寿司にヒントを得たトリックとも知らずに驚く和久井へ事件発生の追い討ち。旧親不知トンネルで発生した殺人に、初恋の人は関与しているのか。 『BOOK』データベースより。 巻末にある、恒例の作品紹介に「志垣警部シリーズ」とあったので、こちらにもそのように表記しましたが、今回の探偵役は部下の和久井刑事。しかも、本件には彼の因縁浅からぬ初恋の相手が絡んでおり、完全に主役です。 とにかく最初に披露される超能力のトリックが、余りにも不思議で全く理解不能です。いきなりのカウンターパンチに、その後も頭の中にチラチラその事が過ぎり、事件そっちのけで脳細胞を駆使出来れば良かったんですがね・・・。結果的には当然そのタネを見破る事は叶わず、驚かされることになりました。これは元ネタは手品にあったそうですが、成程よく考えられているなと感心しました。もうこれだけで高得点の価値は十分あったと思いますよ。 実在した「びっくり寿司」を舞台に、志垣警部と和久井が事件について、論戦を交わしますが、別にタイトルを『回転寿司殺人事件』にする必然性はないじゃないかと思ってもみました。しかし、読み終わって考え直しました。寿司ネタの蘊蓄ばかりでなく、事件そのものが回転寿司チェーン店を新たに開店させようとする中で起こるものだし、謎を解くきっかけも回転寿司にあったりして、結局タイトルに偽りなしと判断しました。 勿論、お腹が空いていない時でも楽しめます。 |
No.1657 | 6点 | 死者の中から ボアロー&ナルスジャック |
(2023/07/21 22:18登録) 高所恐怖症のために警察を辞めた男のもとへ、かつての友人から不可解な依頼が持ち込まれる。自殺願望のある自分の妻を監視してくれと…ヒッチコックを魅了したサスペンス小説の傑作。 『BOOK』データベースより。 パロル舎版で読みました。映画を観ていないので、この場面はこうしたカメラワークで撮っているのかなとか想像しながらの読書でしたが、訳者あとがきによると舞台がフランスからアメリカに変えられているので、おそらく映画とは別物なのだろうと思いました。映画は知りませんが、原作は個人的にはそこまでの傑作だとは・・・。謎自体はなかなか魅力的ではあるものの、それ一つで物語を引っ張るにはやや荷が重かった気がします。それにしても、フランスのサスペンスってこんなのばっかりなのですかね。そんな訳ないか、偏見はいけませんね。 残りページ僅かになってからの真相の提示には、ハラハラさせられましたが、納得でした。簡潔過ぎるきらいはありますが、ミステリ的解決というか、その整合性には成程と思わずにはいられません。よく練られていてそこに不満はありませんが、その道中がやや凡庸ではないかと感じました。 |
No.1656 | 6点 | 怪奇幻想ミステリ150選 ロジカル・ナイトメア 事典・ガイド |
(2023/07/19 22:36登録) 「週刊文春」「ジャーロ」「ダ・ヴィンチ」「このミステリーがすごい!」等でおなじみ気鋭の評論家がこだわりぬいて厳選。ビデオ化など映像情報も充実した“読むだけじゃない”ニュータイプ・ガイド。 『BOOK』データベースより。 まずこのガイドブックで語られる怪奇幻想とは、2002年時点でのホラー、オカルト、幻想などの要素を内包したミステリの事で、その中には国内の所謂変格と呼ばれる作品も含まれます。著者がその最たるものとして何度か例に挙げているのが、カーの『火刑法廷』の様に合理的解決を終えても、尚オカルト的な謎めいたラストが残される、みたいな作品です。 構成は年代別にまず国内のミステリを挙げています。そして笠井潔と山田正紀の対談が挿まれて、海外のミステリを紹介しています。最後に評論として、選に漏れた数々の作品や作家について触れています。海外の作家については初見の人ばかりでよくこれだけ調べ上げたものだと感心しました。又国内作家についてはほぼ全て網羅されていると言っても過言ではないと思います。聞いたこともない作家も少しばかり目に付きますが、ほとんどが知った名前であったのには、自分も少しはやるじゃんと思わずにはいられませんでした。内心ほっとしたのは言うまでもありません。 150篇の内、未読作品が当然多かったのですが、そのうち幾つかは読んでみたいと思わせるもので、取り敢えずメモして今後の参考にさせてもらうつもりです。 |
No.1655 | 7点 | 友が消えた夏 門前典之 |
(2023/07/17 22:28登録) 断崖絶壁の館に並んだ首なし白骨死体! 「まさか!」のつるべ打ちに驚愕必至 三冊分のトリックが詰めこまれた奇想の本格推理! Amazon内容紹介より。 このプロットは・・・折原一を彷彿とさせる構成ですねえ。しかもこちらは本格ミステリとサスペンスのハイブリッドと来ている。面白くない訳がありません。と言いたいところですが、本筋の鶴扇閣の殺人事件の方の序盤がイマイチ楽しくないです。若者達のやり取りがさり気なさ過ぎて、何ら事件の前触れが感じられなくて、一体どうしたらこの後陰惨な事件に発展するのだろうという気掛かりしかありません。一方、タクシー拉致事件の方も、最初こそハラハラさせられますが、その後延々拉致された仕事へ向かうはずの三十過ぎの女は、過去を回想するばかりで、なかなか進展しません。 一応蜘蛛手シリーズなので、探偵役として出ては来ますが、一点を除いて彼が探偵である必要性が感じられないのが残念。それでも、トリックは意表を突くもので、まあ密室はおまけとしても、事件の全容は思っても見なかった様相を呈して来ます。動機は・・・分かった様で分からない様な微妙なエンディング。いや、そんな事より、これ続編があるんでしょうねえ。なかったら怒りますよ。 |
No.1654 | 8点 | 世界でいちばん透きとおった物語 杉井光 |
(2023/07/15 22:41登録) 大御所ミステリ作家の宮内彰吾が、癌の闘病を経て61歳で死去した。 女癖が悪かった宮内は、妻帯者でありながら多くの女性と交際しており、そのうちの一人とは子供までつくっていた。 それが僕だ。 宮内の死後、彼の長男から僕に連絡が入る。 「親父は『世界でいちばん透きとおった物語』というタイトルの小説を死ぬ間際に書いていたらしい。遺作として出版したいが、原稿が見つからない。なにか知らないか」 Amazon内容紹介より。 ラノベを多く書いてる作者だけあって、どうにもラノベ臭が漂う文体に正直うーむとなりました。まあそれはそれとして、なるべく予備知識なしで読もうと臨み、それが結果的に奏功したと思います。ただ早い段階で違和感を覚え、しかしそれが物語にどう関わってくるのかが全く分からない状態でした。 中盤までは主人公で語り手の「僕」が只管亡き父の遺稿を探し求めて、様々な相手に接触していく姿を描いており、余り抑揚は感じません。その時点では何ら事件の予感もしませんでした。 しかし、終盤第十二章から俄かにストーリーが動き始め、そのまま解決へと雪崩れ込んでいきます。成程確かに色々と伏線を回収しているし、これは紛う事なき本格ミステリだとかなり見直しました。お見それしましたと、作者に頭を下げたくなる心境です。ところがそれを遥かに超える衝撃が待ち受けていました。比喩ではなく本当に鳥肌が立ちました。もうこうなってはこの作品の前に、只々ひれ伏すしかありません。この人の努力と苦労に、最大の敬意と惜しみない拍手を送ります。 多くの人に読んで欲しいです、そして果たしてこれをどう評価するのか知りたいですね。 |
No.1653 | 6点 | ただしい人類滅亡計画 品田遊 |
(2023/07/13 22:36登録) 全能の魔王が現れ、10人の人間に「人類を滅ぼすか否か」の議論を強要する。結論が“理"を伴う場合、それが実現されるという。人類存続が前提になると思いきや、1人が「人類は滅亡すべきだ」と主張しはじめ……!? Amazon内容紹介より。 集められた10人の人間には名前はなく、ブラック、レッドなど色で呼ばれており、その中の二人(イエロー、ホワイト)だけが女性らしい。というのは、終始議論で埋め尽くされていて、性別などには全く触れられていない為、口調で判断するしかありませんので。 人類は存続すべきとする者が大勢を占める中、ブラックが絶滅論を繰り広げ、次第にどちらに傾くかが混沌とし始めます。特に悲観論者のブルーは自分を卑下しており滅亡の道に向かい、更にゴールドは自分以外の人間が幸福になる事を良しとしない利己主義者なので、こちらも自分の死後なら存続を断っても良いと考えるようになります。 自分のいない世界、自分の死後、生まれる以前、他種族との共存、生まれ来る者の幸福と災厄などを真面目に語っており、色々考えさせられます。ただ、何と言うか、堂々巡りの様な感覚にも陥ります。似たようなテーマが延々と議論されるため、どうしても変化に乏しく、あまり白熱した論戦となっている様には思えません。もっと地域猫活動や宗教論を例に挙げている様に話題を広げて行って方が、読者にとっては更に楽しめたのではないかという気がしました。そして、もう少し捻りがあるともっと良かったと思いますね。 |
No.1652 | 6点 | ローズマリーのあまき香り 島田荘司 |
(2023/07/12 22:40登録) 世界中で人気を博す、生きる伝説のバレリーナ・クレスパンが密室で殺された。 1977年10月、ニューヨークのバレエシアターで上演された「スカボロゥの祭り」で主役を務めたクレスパン。 警察の調べによると、彼女は2幕と3幕の間の休憩時間の最中に、専用の控室で撲殺されたという。 しかし3幕以降も舞台は続行された。 さらに観客たちは、最後までクレスパンの踊りを見ていた、と言っていてーー? Amazon内容紹介より。 『暗闇坂の人喰いの木』以降の、年一回ペースで刊行されたいた頃のシリーズ作品と比べると、やはり随分見劣りしてしまう感は否めません。ただその構成は相変わらず読み応えがあり、長いけれど冗長とは感じませんでした。 冒頭の謎の提示は強烈で、文句なく読書欲を掻き立て、難なく惹き込まれます。一体何が起こって、どうすればこの様な不可解な謎を合理的に解決できるのか、いやでも期待は高まります。 しかし、真相は余りに貧弱でそれはないんじゃないの?と思わずにはいられませんでした。それに解決編があまりにあっさりし過ぎでしょう。何だかフィンランドの教授とかになって偉くなった御手洗はそれに見合った人格者で、かつての変人ではなくなってしまって往年の作品のファンからするとちょっと淋しいかなと思います。 まあ、Amazonの評価はあまり参考にしない方が賢明ですね。彼らは懐かしさのあまり過剰評価している気がします。いずれにせよ、定価で買って読む程の作品ではなかったです。ミステリとしては残念でしたが、それ以外の所での読み物、社会派の一面やメルヘンの世界に飛び込んだような記述、ユダヤ人と日本人のくだりは面白く読めました。 |
No.1651 | 6点 | 歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理 三津田信三 |
(2023/07/07 22:44登録) 瀬戸内にある波鳥町。その町にある、かつて亡者道と呼ばれた海沿いの道では、日の暮れかけた逢魔が時に、ふらふらと歩く亡者が目撃されたという。かつて体験した「亡者」についての忌まわしい出来事について話すため、大学生の瞳星愛は、刀城言耶という作家が講師を務める「怪異民俗学研究室」、通称「怪民研」を訪ねた。言耶は不在で、留守を任されている天弓馬人という若い作家にその話をすることに。こんな研究室に在籍していながらとても怖がりな馬人は、怪異譚を怪異譚のまま放置できず、現実的ないくつもの解釈を提示する。あの日、愛が遭遇したものはいったい何だったのか――(「第一話 歩く亡者」)。ホラー×ミステリの名手による戦慄の新シリーズ始動! Amazon内容紹介より。 刀城言耶の助手天弓馬人が様々な怪異を恐れながら謎を解く、刀城言耶シリーズのスピンオフ短編集。取り敢えず見た目はシリーズ本編のミニ版で、因習や伝説の描き方は流石によく似ており、不気味さを際立たせています。しかし、本作にはそれらの要素が真相やトリックと上手く噛み合っていないのが気になるところ。要するに、折角の怪異譚だというのに、トリックが浮いてしまっているのです。 竜頭蛇尾というか、あり得ない現象や不可能犯罪は確かに魅力的ではありますが、真相はバカミスだったり脱力系だったりと、やや肩透かしを喰らいます。それでも第四話の『目貼りされる座敷婆』は個人的には最も不可解な謎に対して納得の行く解決で、面白かったですかね。 シリーズ本編の固有名詞が何度も繰り返されるのは、ファンには嬉しいところでしょう。又、馬人と語り手の愛のキャラが立っているのも好ましい点ではないかと思います。 |
No.1650 | 6点 | 名無しの十字架 郷一郎 |
(2023/07/04 22:16登録) 虎と戦った人間がいる。そのフィルムを探し出せ―アンダーグラウンドフィルムの手配師・三上哲平に持ち込まれた怪しい依頼。莫大な報酬につられ、引き受けることにした三上は、瀕死の重傷を負いながら、今もどこかで生きていると噂される伝説の男を追うが…!?渦巻く欲望、交錯する男と女、顔も名前も失った哀しき男の復讐―退廃的空気漂う横浜で燃え上がる陰謀劇の行方は!?衝撃の都市伝説ノワールミステリー。 『BOOK』データベースより。 読まなければならない本があまりに多すぎて、どれから読んで良いのか迷いながら家中の本の群れからたまたま目に付いて手に取った一冊でした。いつ買ったのかも何故買ったのかも最早思い出せません・・・。 これはジャンル分けが難しい。ミステリの様でもありそうでない様でもあり、感触がハードボイルドっぽいのでそちらに投票しましたが、あまり拘らないで下さい。 それにしても、この人の文章は群を抜いて上手いです。言葉のチョイスが絶妙だし、情景描写も情緒的で素晴らしく、全く淀みの無い文体の流れも非常に心地よいものがあります。私はこの文章力に憧れに似た気持ちを抱きました。書けそうで書けないと云うね。しかし、これ一作で終わるのは如何にも勿体ないです。大物プロデュ―サーによるものではないにせよ、映画化されている訳だし。 最後まで7点にしようか迷いましたが、結局公平に見てそこまで突出したところがないと判断し、6点としました。ただ、エンターテインメントとして非常に優れており、その点では評価できます。無名の作家による無名の作品ではありますが、一部のマニア向けという訳では決してなく、一般大衆に広くお薦め出来る佳作だと思います。読んでみればとても丁寧に書かれたのが実感されるはずです。 |
No.1649 | 6点 | 呪い ボアロー&ナルスジャック |
(2023/07/02 22:16登録) 獣医ローシェルが知り合ったアフリカ帰りの女ミリアンには、どこか謎めいたところがあった。ふと見せる残酷な性格、事故死した夫にまつわる無気味な噂。女の虜になるにつれて、ローシェルの生活は暗い影に包まれてゆく。やがて妻の身に、恐ろしい災厄が……! 明晰な悲哀と詐術に心うたれ、魔術師たちの手腕を堪能する名作。 Amazon内容紹介より。 いや、名作って、そうなんですかねえ。それ程でもなかった気がします。 文章は問題ありません、訳も悪くない。しかし雰囲気が陰気でただでさえ眠いのに益々拍車がかかり寝そうになりました。ストーリー性は皆無でほぼ主人公の獣医の一人称で語られ、妻と愛人の間を行ったり来たり、ああでもないこうでもないと心情が詳らかになります。つまり、そうした心理サスペンスなのでしょう。劇的な展開がある訳でもないし、細かい字で改行無しにびっしり書かれていて、読み進める推進力に欠けるというのか・・・。どうにも面白味がありません。 そもそも私はこの作者の『私のすべては一人の男』が読みたくて、しかし簡単には入手出来そうにもないので、取り敢えず本作を先に読んでみようと思ったに過ぎません。少しは期待していたのですが、まあ期待通りとは行かなかったようでして。ただ、読み終わってみれば悪くはなかったと思わせてはくれました。特にラストは良かったです。この作品の肝とも言える記述に救われました。 |
No.1648 | 6点 | 笑殺魔 黒田研二 |
(2023/06/30 22:54登録) 「私の笑顔は呪われているんです」。過去の悲劇に囚われたまま、笑顔を封印した一人の女。保母でありながら子供たちに笑みを見せられない彼女にまたしても事件が…。ハーフリース保育園を舞台にした園児誘拐事件。犯人から現金運搬役に指名された彼女は、幼児図書の営業マン・次郎丸諒、保母の桜沢みどりらの助けを借りて、すべての悲しみの源に突きあたる。 『BOOK』データベースより。 サスペンスかと思っていたら本格ミステリでした。最初の章だけでも謎だらけで、それらが果たして合理的に説明されるのか心配でしたが、結局有耶無耶に。その辺りは改善点かも知れません。舞台が保育園という事で、意外にコメディタッチでメインの事件もどこか作り物めいた印象を受けます。それは作中でも語られているでの、そこに何かがあるのは間違いありません。 ある程度のミステリ読みなら犯人を当てる事は難しくはないと思います。が、その先の隠された真実には辿り着けないのではないでしょうか。想像以上にプロットがよく練られていて、あまり期待していなかった割には楽しめました。 各キャラの強めの個性もバランスよく描かれているし、最初からシリーズ化する事を前提としているのも納得です。 |
No.1647 | 6点 | クルイタイ 二宮敦人 |
(2023/06/28 22:38登録) 美しいからこそ壊してしまいたくなる衝動、自分の記憶が信用できなくなる恐怖、見方ひとつで、すべてが死骸に見える錯覚、そして呪詛の思いが自らを追い込んでいく戦慄――。4人の狂気に触れたとき、<男>に待ち受ける壮絶な運命とは!? 『!』シリーズなどのヒット作を連発し、ホラー小説界で今最も注目を集める著者が、温め続けた恐怖を炸裂させた新世代サイコホラーの傑作! Amazon内容紹介より。 惜しい、もう少しで7点だったのに。何か少し足りない、自分でもよく分かりませんが・・・残念です。本書は自己崩壊型のホラー四編とあとがきという名の短編を加えた作品集。色は違いますが、いずれも狂った思考が招く男女の破滅の物語であり、単なるホラーとは一線を画すものばかりです。 出来としてはどれが突出している訳でもなく、平均して楽しめる作品ばかりです。短いのが物足りなさの原因かもしれませんが、その割には異常な心理描写を淡々とした筆致で描いているのが逆に怖さを増幅させます。この人の書くものはハズレがありませんので安心して読めます。 本作に関しては言葉を慎重に選びながら、時折ハッとするような記述を見せ、上手いなあと感心させられます。特に女の子の描き方が何とも言えず良いんですよ。 |
No.1646 | 6点 | 断頭台/疫病 山村正夫 |
(2023/06/26 22:43登録) 過去より甦る怪奇と幻想の淵。彼らはその境目を歩み、やがて呑みこまれていく―。死刑執行人サンソンの役を与えられた売れない役者が、役にとり憑かれ、やがて自分を失っていく「断頭台」。古代マヤの短剣に魅かれる男がその理由を知る「ノスタルジア」。さらに女神アフロディーテの求愛を無視し、娼婦の少女に恋をしたゆえに苛烈な神罰を下される天才彫刻家の物語「疫病」のほか、日本探偵作家クラブの犯人当て企画のために書かれた「獅子」や単行本未収録の「暴君ネロ」といった、古代ローマに材を取った作品も収録。憎しみだけが惨劇を起こすのではない。ときには純愛や慈愛が引き金となるのだ。妖しい輝きを閉じ込めた、珠玉の異常心理ミステリー集。 『BOOK』データベースより。 ちょっとややこしいですが、角川のカイガイ・ノベルスに収録された六短編のうちの『免罪符』を削除し代わりに『暗い独房』を新たに加えたのが角川文庫の『断頭台』。それに新芸術社の中短編集『異端の神話』の『疫病』『獅子』と単行本未収録の『暴君ネロ』を加えた全九編を収録したのが本書となっています。 第一部として『断頭台』『女雛』『ノスタルジア』『短剣』『天使』『暗い独房』、第二部が『獅子』『暴君ネロ』『疫病』のラインナップ。そして巻末に森村誠一との対談が載っています。 対談で度々出て来る乱歩の存在がやはり大きいようです。第一部を読む限り山村氏は大っぴらに影響を受けたとは言っていませんが、私感では乱歩の時代性を作品に投影させているのは否定できません。特に『女雛』『短剣』『暗い独房』の作風ははっきりその色が出ていると思います。確かに森村氏が絶賛している様に『断頭台』は表題作に相応しい一作でしょう。第一部のテーマである異常心理を最も如実に表していると思います。しかし、私としてはミステリ的趣向が盛り込まれた『女雛』や『天使』に惹かれます。 また第二部に関しては古代ローマが舞台の『獅子』『暴君ネロ』はやや取っ付き難さはありますが、ミステリとして評価したいと思います。表題作の『疫病』はギリシャ神話の神々が何十人も登場し、正直猥雑で何がな何だかさっぱり分からないというのが本音。それでも最後に漸く本題に入ってからはスピード感も出て、何とか付いて行くことが出来ました。 山村正夫と言えば子供の頃に読んだネタバレ満載の推理クイズと『湯殿山麓呪い村』の印象しかなく、この様な異形の短編も書いていたのだと認識を新たにしました。本書には他にも多くの怪奇幻想をテーマにした作品が紹介されており、そうだったのかと更に首肯せざるを得ませんでした。 |
No.1645 | 7点 | 殉教カテリナ車輪 飛鳥部勝則 |
(2023/06/22 22:51登録) 憑かれたように描き続け、やがて自殺を遂げた画家・東条寺桂。彼が遺した二枚の絵、“殉教”“車輪”に込められた主題とは何だったのか?彼に興味を持って調べ始めた学芸員・矢部直樹の前に現れたのは、二十年前の聖夜に起きた不可解な二重密室殺人の謎だった―緻密な構成に加え、図像学と本格ミステリを結びつけるという新鮮な着想が話題を呼んだ、第九回鮎川哲也賞受賞作。 『BOOK』データベースより。 何だか変なタイトルだなという印象しかなく、予備知識なしで読みました。いきなりカラーの絵画が載っていて、それも何やら意味ありげな感じだけど、とは思いましたが、そこから図像解釈学(イコノロジー)が展開される辺り、正に純文学の香りがプンプン漂います。後で考えればそれも意味のある記述ではあります、しかしそこまで画家は意識して描いたのだろうかと、あまりに深い掘り下げ方にかなり執拗さを感じました。それがどうとか云うつもりはありません、ただこれまで味わったことの無い異様な世界観を繰り広げており、これがただのミステリではないというのは伝わってきます。 問題の手記ではなかなかお目に掛かれない、同じ凶器によるほぼ同時に行われた二つの密室殺人事件の謎が描かれており、うーむとなりました。途中、ある二人の人物のぎこちない会話に違和感を覚え、んん?って感じでしたが、それも作者の計算の上だったとは、恐れ入りました。どこに伏線が張られているか分かりませんね、全く油断も隙もあったものじゃない。 尚、作中の洋画は作者自身が描いたもので、洋画家としても才能を発揮されています。個人的には『殉教』の中の少女の表情が素敵でした。作中での誰かの発言と全く同じ意見なのが、如何にも素人の感想だなと情けなくなりました。 |
No.1644 | 7点 | みんな誰かを殺したい 射逆裕二 |
(2023/06/20 22:43登録) 峠で殺された小太りの中年男。そして、その殺人事件を目撃した男。緻密なプロットが交錯し、物語の糸は思いも寄らぬ方向に収斂していく--。新人離れした完成度の超本格ミステリ。 Amazon内容紹介より。 途中までは例のあのトリックねと思いながら読みましたが、終わってみればそれどころではなく、かなり込み入った話だという事を思い知らされました。中盤でええーっとなり、終盤でまたええーっとなって、最後にまたまたええーってなります。しかし、読み終わった後の達成感みたいなものは得られます。非常によく考えられた物語で、やや煩雑さを感じる方もいると思いますが、じっくり読み込めばそれほど気にはならないんじゃないでしょうか。 本書は第24回横溝正史ミステリ大賞優秀作です。その際の選考委員は綾辻行人、内田康夫、北村薫、坂東眞砂子の各氏でしたが、それぞれの選評を読んでみると、たった四人なのにこれだけ意見が分かれるものかとちょっと驚きました。個人的には内田康夫の「横溝正史ミステリ大賞に最も相応しい作品」として推されていたのに同感でした。他に作品を読んでいないので何とも言えませんが、本作が大賞でも良かったんじゃないのかと思いました。それくらいのレベルの高さは保持した作品だと感じます。 |
No.1643 | 7点 | ベスト本格ミステリ2018 アンソロジー(出版社編) |
(2023/06/18 22:33登録) 本格ミステリ作家クラブが選んだ2017年のベスト本格ミステリ短編&評論のすべて! 小説◎ 夜半のちぎり 岡崎琢磨 透明人間は密室に潜む 阿津川辰海 顔のない死体はなぜ顔がないのか 大山誠一郎 首無館の殺人 白井智之 袋小路の猫探偵 松尾由美 葬式がえり 法月綸太郎 カープレッドよりも真っ赤な嘘 東川篤哉 使い勝手のいい女 水生大海 山麓オーベルジュ『ゆきどけ』 西尾維新 ヌシの大蛇は聞いていた 城平京 評論◎ 吠えた犬の問題 有栖川有栖 Amazon内容紹介より。 人気作家による、本格ミステリ作家クラブが厳選した2017年の短編アンソロジー。 全般的に高い水準を誇っており、それぞれが捻りの効いた、反転や意外な結末が味わえる本格ミステリに仕上がっていると思います。白井智之の『首無館の殺人』は荒さが目立つし、西尾維新の『山麓オーベルジュ「ゆきどけ」』はホワイダニットに拘っていますが、どうにも納得できない感があります。それ以外は特にこれといった欠点は見当たりません。各作家の特色がよく出ているのも好感が持てますし、十分満足のいくアンソロジーと言えると思います。 有栖川有栖の評論ははっきり言って余分だったですね。個人的にはいりませんでした。 尚、余談ですが読んだばかりの『バカミスの世界』に掲載されていた、霞流一の『わらう公家』が02に載っていたのはちょっと驚きました。しかし、この本格ミステリ作家クラブ、分かっているじゃないかと感心したのは確かです。 |