メルカトルさんの登録情報 | |
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平均点:6.04点 | 書評数:1835件 |
No.1615 | 6点 | ジウ 警視庁特殊犯捜査係 誉田哲也 |
(2023/04/15 22:55登録) 〈ジウ〉サーガ、ここに開幕――。都内の住宅地で人質籠城事件が発生。所轄署や捜査一課をはじめ、門倉美咲、伊崎基子両巡査が所属する警視庁捜査一課特殊犯捜査係も出動した。人質解放へ進展がない中、美咲は差し入れ役として、犯人と人質のもとへ向かうが……!? 籠城事件と未解決児童誘拐事件を結ぶ謎の少年、その背後に蠢く巨大な闇とは? Amazon内容紹介より。 私は2005年発行のノベルスで読みましたので、その後二度出版された文庫本に記されているⅠの文字はありません。つまり最初の時点ではシリーズ化される予定はなかったのかも知れないとも思えます。しかし、それにしては余りに続編を匂わせる終わり方だったので何とも言えないところですね。 本作は門倉美咲と伊崎基子という二人のヒロインが活躍する警察小説で、まだほんの始まりに過ぎない序章のような小説と言っても良いでしょう。読みどころはフワフワして何を考えているか分からない美咲、怖いもの知らずで向こう見ずな男勝りの基子の対照的な二人のそれぞれのドラマにあるので、言わばお仕事ミステリと捉える事も出来ます。同僚だった美咲は誘拐事件に携わり、基子はSATに招聘されてそれぞれに道を歩みだし、物語はその軌跡を追う様に語られます。個人的にどちらにも感情移入出来ず、それでも面白く読む事は出来ました。グロ描写もそこそこでらしさを見せています。 因みにドラマでは多部未華子と黒木メイサ主演で2011年にテレビ朝日で放映されていました。 |
No.1614 | 4点 | 千葉千波の怪奇日記 化けて出る 高田崇史 |
(2023/04/12 22:46登録) 永遠の浪人生と思われたぴいくんと慎之介が、大学に合格。学校帰りに居酒屋「ちの利」に通う日々が始まった。ところが、二人が通う国際江戸川大学には恐怖の七不思議、通称「江戸七」と呼ばれる言い伝えが。解決を依頼された、ぴいくんの従弟で、天才高校生の千波くんが怪奇現象に立ち向かう。全5編を収録。 『BOOK』データベースより。 端的ではあるものの、主要登場人物の個性はよく書けていると思います。だからと言って面白くなるとは限らない見本の様な作品。『怪奇日記』とあるように語り手のぴいくんが見聞きした摩訶不思議な現象を従弟の千波くんが合理的に解決して見せるもので、最早パズルとは無関係です。そしてラストには一捻りしてあり、その意味ではまあ面白くない訳ではないけれど・・・と云ったところです。 三話目まではそれなりに納得出来ますが、『箸が転ぶ』はさてここからと云うところで終わり何それって感じで、尻切れトンボも甚だしいし、最後の書下ろし作品『立って飲む』は内容が全然頭に入ってこない凡作だし、これは低評価もやむを得ないですね。 随分前に買ったと記憶している本作、過去に戻って自分に何故買った?と問い掛けたくなりました。 |
No.1613 | 6点 | UMAハンター馬子〈1〉湖の秘密 田中啓文 |
(2023/04/10 22:57登録) 日本でも珍しい「おんびき祭文」の語り部、蘇我家馬子。芸は一流だが、性格、素行に問題あり。弟子のイルカを筆頭に辺りかまわず大阪弁で毒を吐き、傍若無人なことこの上ない「最悪なおばはん」である。そんな馬子がえり好む地方巡業先には、何故かUMAの噂と不老不死の伝説がつきまとう。イルカにも明かされぬ馬子が探る秘密とは何なのか?そして、二人の行く手に必ず現れる謎の男・山野千太郎の目的は?本格伝奇ギャグミステリ、ここに誕生。 『BOOK』データベースより。 本シリーズ2篇の後6年の時を経て復活することになる蘇我家馬子。その際は何故か弟子のイルカとともにこなもん屋をしています。どの様な心境の変化があったのか分かりませんが、作風はまるで違います。しかし、大阪のおばはん馬子のキャラは相変わらずで、その個性の強さで本作の半分は成り立っている感じがします。『こなもんや馬子』では弟子のイルカはあまり目立ちませんでしたが、ここではイルカ目線で描かれていて、馬子の行き過ぎた待遇に耐えながらも師弟の絆を思わせる叙述と少々のギャグが冴えています。 さて本作で取り上げられるUMAはネッシーならぬリュッシー、誰もが知っていて幾多の目撃情報がありながら捕獲されなかったツチノコ、そして狐、と言ってもただのキツネではなく人を化かすと言われる天狐。 どれもいまいちテンポが悪く話が前に進まないのが難点ではありますが、馬子が時折見せるどうでも良い蘊蓄で各UMAを分かり易く解説しており、その意味ではこれまたどうでも良い感じで勉強になります。多くの文献を参考にしたと想像されますし、このジャンルは作者の得意分野なので所謂色物とは一線を画す作品だと思います。 また、それぞれのイラストがあまりにリアルで本格的で、特にツチノコなどは実物を見て描いたのかと目を疑う様な出色な出来でした。 |
No.1612 | 7点 | 止まりだしたら走らない 品田遊 |
(2023/04/07 23:00登録) 都心から武蔵野の台地を横切り東京を横断する中央線車内を舞台に、 さまざまなヒトたちの個人的な問題をあぶり出す連作短編集。 現代人の共感を呼ぶ、あの人の、私の、誰かの、車内事情。 Amazon内容紹介より。 乾くるみの『イニシエーションラブ』が青春ミステリで登録されているなら、これも同じジャンルで問題ないだろうと考え登録しました。どうせ今後誰も読まないだろうし、少々のことなら見逃されると思うし。 さて本作は中央線車内にて描かれる本筋の間に、同じく電車内や駅のホームを舞台にした短編が挟まれるという、巧妙な構成になっています。短編の方はかなり突っ込んだぶっ飛びな内容のものもあれば、小学生の遠足で動物園に行った時の感想文の幾つかをそのまま載せた他愛のないものや、列車の飛び込み、つまり人身事故、露出狂の機縁など様々な人間模様を描き出しています。 そして肝心の本編で語られるのは、主に東京駅から高尾までの中央線内で交わされる大学生の先輩と後輩の交流。短編も良いけれどこちらの方がやはり長編としてきちんと纏まっていて好感が持てます。特に新渡戸先輩の風変わりな性格や考え方が面白く、かなり楽しませてもらいました。例えば電車内で飲食を許されるのはどこまでなのかという問題。ミンティアはOK、飲料水は人による、おにぎりはどうなのか?ところてんは勿論駄目だが、先輩にはそのボーダーラインが分からないらしい、という妙な感覚の持ち主だったりしてね。 ここで問題になるのは、この作品のどこがミステリなのか、でしょう。それは秘密ですよ、勿論。長編と短編を交互に並べる事によって、ある仕掛けを煙に巻く効果があるのではないのかと、いらぬ邪推をしてしまいました。そこまで計算していたのなら大した作者だと言わざるを得ません。本筋だけ最初から読み返したくなります。 |
No.1611 | 6点 | 生者のポエトリー 岩井圭也 |
(2023/04/06 22:49登録) “詩”は人をつよくする――。 トラウマを抱え言葉をうまく発することができない青年・悠平が、急きょ舞台で詩を披露することになり……。(「テレパスくそくらえ」) 最愛の妻を亡くした元気象庁技官・公伸は、喪失の日々のなかで一編の詩に出会う。(「幻の月」) 学習支援教室の指導員・聡美と、ブラジル出身の少女・ジュリアの心を繋いだのは、初めて日本語で挑戦した詩だった。(「あしたになったら」) ……ほか、人生の大切な一歩を踏み出す、その一瞬を鮮やかに描いた全6編。逆境のなかで紡がれた詩が明日を切り拓く、心震わす連作短編集。 Amazon内容紹介より。 老若男女が詩によって何かを掴んだり、救われたりする連作短編集。作風に比してその文章は意外にも淡々としています。その分読み易くはあったのですが、作者の力量からすればもっと情感豊かに描くことも出来たのではないかと思います。それだけが残念でした。 物語としてはどれもさして抑揚がある訳ではないのに、時として急に心揺さぶるシーンが出現したりして、なかなか評価が難しい作品だと言えるでしょう。しかし主人公の心情がよく描かれており、その意味では秀作なのかも知れません。私は詩に関してあまり理解が及ばない事もあり、いまいちピンと来ませんでしたが、上記にある『あしたになったら』の作中の詩にはああ・・・と思わず目が霞む感覚を覚えました。それはジュリアの境遇に同情してしまう己の未だ消えぬ感受性に戸惑う瞬間でもありました。 |
No.1610 | 6点 | ABO殺人事件 清水義範 |
(2023/04/04 22:38登録) 表題作が長編で、他短編二作の連作作品集。 いずれも途中までは本格ミステリだけど、最後にSFになるという変わり種です。その中でも特筆すべきはやはり表題作で、様々な趣向がてんこ盛りの読者サービス溢れる佳作だと思います。二人の探偵の推理対決とそれを見守る警部補という図式がなかなか興味深く読めます。所謂多重推理であり、その後のミステリに与えた影響は結構強い気がします。又、警部補も意外にもなかなかの切れ者で、警察の捜査にも一応敬意を表しているのが好ましく感じました。 作中で宇宙のプリンセス的な存在だという探偵事務所の女性と、語り手の探偵との出会いがどんなものだったか分からないのが気になりました。当然シリーズ一作目から読みなさいって事ですが、彼女の不可解さがどうにも頭にこびりついて離れないのが難点でした。 まあ全体的に面白かったと言えるでしょう。合格点です。 尚、クリスティの『ABC殺人事件』のネタバレをしていますので、念のためご承知置きを。 |
No.1609 | 8点 | 忌名の如き贄るもの 三津田信三 |
(2023/04/01 23:03登録) 「この忌名は、決して他人に教えてはならん……もしも何処かで、何者かに、この忌名で呼ばれても、決して振り向いてはならん」 生名鳴(いななぎ)地方の虫くびり村に伝わる「忌名の儀礼」の最中に起きた殺人事件に名(迷)探偵刀城言耶が挑む。 Amazon内容紹介より。 こういうのに弱いんだよなあ、だからやや甘めの8点でお願いします。 まず第三章までのインパクトが強すぎて、それ以降が霞んでしまうのが何とも悲しいやら嬉しいやら。それまで夢を見ていたのが突然夢から醒めて現実に引き戻される様な感覚とでも言いますか。いずれにせよ妙味に酔い痴れる事が出来ました。 そして第十二章で数々の奇妙な地名や怪異の由来を解き明かす刀城言耶の、本来の姿、第十五章の真相解明と終章は大変読み応えがあり、作者の本領発揮と云ったところでしょう。これぞ本シリーズの面目躍如だと思います。 流石に『首無の如き祟るもの』には及ばないものの、それ以来と言って良い衝撃を受ける作品でした。恒例の迷走する推理も存分に発揮され、翻弄される事必至。そして明かされる真実とは・・・なんとまあ。あ、これ以上は書けませんねえ。 |
No.1608 | 6点 | ポオ小説全集4 エドガー・アラン・ポー |
(2023/03/29 22:56登録) アメリカ最大の文豪であり、怪奇と幻想、狂気と理性の中に美を追求したポオ。彼は類なき短編の名手である。推理小説を創造し、怪奇小説・SF・ユーモア小説の分野にも幾多の傑作を残した彼の小説世界を全四巻に完全収録した待望の全集! Amazon内容紹介より。 こんな私でも『黄金虫』や『黒猫』は知ってますよ。小学生の時に読みましたからね。どちらもなかなか面白かったです。『黄金虫』はまさか暗号が絡んでくるとは思ってませんでした。記憶もあやふやでしたし。『黒猫』はよく覚えています、特にラストはやはり忘れられません。そして『盗まれた手紙』、デュパンが登場した時は思わずおっ!?となりました。が、オチを知っていたので余計に、自身の推理を正当化する様な御託を並べていたのが、何だかなあという気持ちになりました。警察はそんなヘマはしませんよねえ。 『メロンタ・タウタ』はややこしい天文学を比較的分かり易く解説してくれて、かなり興味を持てましたし、『ミイラとの論争』のオチは好きです。その他はストーリー性や情緒と云ったものと無縁の世界で、見た事もない熟語が出てきたり、作者のやりたいことが全く分からない作品もありました。それはつまり、自分にとっては意味のない、厄介な作品群であり、読んでいていい加減嫌気が差してきたのが正直なところです。又、全体的に会話文が極めて少なく、文字も小さく改行も少なくびっしりと連なる文字列を前にして、読む気力が失せてしまい、辟易としました。 |
No.1607 | 6点 | 大東京三十五区 夭都七事件 物集高音 |
(2023/03/26 22:56登録) 浅草に天から降った死骸、天神坂に出現する髑髏、日本橋の橋上で人間消失―早稲田の不良書生・阿閉君が持ち込む、珍聞奇聞から選りすぐった「夭都東京」の七事件!サテ、下宿館主人の“縁側探偵”こと間直瀬玄蕃は如何にしてその綾を解きほぐすのか?近代化を遂げんとする昭和初期の帝都を舞台に、猟奇の謎と仰天の推理が冴える“本格”探偵小説の傑作。 『BOOK』データベースより。 前作を読んだのが20年以上前になりますか。今でも最後のお話のトリックが印象に残っています。ですが、それだけで他は全く記憶にありません。まあそこそこ面白かったのと、独特の文体だったのは何となく覚えているくらいですね。で、久しぶりにこの作者の作品を読んだ訳ですが、謎だけ取ってみればまさに奇想天外と言える魅力的なものでしょう。ところが真相となるとまるでバカミスの様な感覚で、何とも説得力に欠ける感が否めません。説得力というかその様を想像すると、現実感が全く伴わないんですよ。 でもそれ程読み難くはありませんし、何も考えずただひたすら読書に勤しもうとする姿勢であれば問題なく楽しめると思います。良い意味で時代を感じさせてくれますし、珍品として少数派の読者には持って来いの作品じゃないでしょうか。 |
No.1606 | 6点 | 猫は心配症 高橋由太 |
(2023/03/24 22:54登録) 時は幕末、江戸の町にニセ金がはびこり、悪党たちは横行。為す術のないゆるゆる町奉行所に、有能すぎる与力がやってきた。人呼んで「鬼銕」の豪腕に、おネエ同心・中村様は真っ青。闇では新仕事人も暗躍、元仕事人の化け猫まるは、おちおち惰眠も貪れない―。書き下ろしシリーズ第3弾。表題作をはじめ3篇&おまけを収録! 『BOOK』データベースより。 シリーズ3作目からいきなり読みます、いえそんな事はどうでも宜しい。確かにそれまでのエピソードがどんなものだったのかは気になりはしますが、後から読んでも別段問題ないと思いました。一応一話完結の連作短編集ですし、それが少しずつ繋がりを持って来る手法もなかなか堂に入っており、流石安定の面白さだと感じ入りました。 物語としては化け猫のまるとその猫仲間達が仕事人として暗躍するものであり、全くもって必殺仕事人シリーズの丸パクリと言っても過言でありません。殺し方までそのまんまで、読んでいる身にとっては内心にやりでした。読む前から気になっていたのが、どうやって猫が人間と対決出来るのかという疑問ですが、これは読めば納得します。 本家では主人公中村主水の姑と嫁がせんとりつで戦慄だったのが、まるの飼い主である南町奉行所の同心佐々木平四郎の妻と娘の名前がさくとらんで錯乱というちょっとした言葉遊びまでする徹底ぶりに、成程となりました。 また、上司である筆頭同心の中村様も当然田中様のパクリで、完全なオカマです。 |
No.1605 | 7点 | 異世界の名探偵 1 首なし姫殺人事件 片里鴎 |
(2023/03/23 22:59登録) 元警察官でミステリマニアの私立探偵の「俺」はくだらないもめごとに巻き込まれて死んでしまい、記憶を持ったまま異世界の住人として転生し、ヴァンと名乗る。転生した先は、剣と魔法、モンスターとダンジョンがある世界。そこでヴァンは、持ち前の魔術の才能に前世からの知識や記憶を活かして、王都の名門校に入学する。入学から3年。王女から表彰を受けるほど優秀な成績を収めたヴァンだったが、その表彰式のさ中、惨劇は起きた。不可解と言えばあまりに不可解なこの事件を解決できるのは果たして誰か! 『BOOK』データベースより。 タイトル通り異世界での事件なので、まずそれを念頭に置かなければなりません。つまり魔法が使える一種の特殊設定ものと捉えて、物語のどこかで何らかの形でそれが駆使されると覚悟して読み進めて頂きたい作品です。しかし、魔法がまかり通る世界では何でもアリではないかとの懸念も持たれる向きもあろうかと思いますが、ミステリとして決してアンフェアではありません。 本作は密室、首なし死体と云った本格ミステリの王道を往くものであり、間違っても色物とは言えない佇まいを持った印象を受けます。 事件後早々に登場した宮廷探偵団の副団長であるゲラルトが、らしくないのが残念です。仮にも名探偵と呼ばれる人物であるなら、もう少し個性的でそれなりの推理を披露して欲しかったところですね。まあそれは良いとして、問題はエピローグです。何とも曖昧なエンディングであり、読者によっては混乱を招きかねないものだと思います。いささか不親切な気がしました。正直もっとはっきりして貰いたかったです。 |
No.1604 | 6点 | 12星座殺人事件 光藤ひかり |
(2023/03/21 22:49登録) ミステリーと占星術のコラボレーション! 雑誌やテレビの星占いではあまり触れられない、占星術のダークサイドに焦点を当てて、ミステリー小説と星座解説を執筆しました。本当は怖い占星術!? さあ、その中身は? 12星座の物語の主人公はすべて男性です。お笑い芸人から美容師、刑事、作家など様々な職種の男性たちが恋愛のもつれで恋人を殺してしまうという設定で、光藤ひかりがちょっとエグい12本の短編小説を書き上げました。それぞれの星座に特徴的な性格から、殺意や殺し方も千差万別。小説の末尾には占星術家・水谷奏音が執筆した解説で、それぞれの星座の特徴がバッチリ分かります。ミステリー小説を楽しみながら星座の勉強にもなる一石二鳥の一冊。さあ、今宵、あなたが彼に殺されないために(笑)、さっそく読んでみてください。 Amazon内容紹介より。 西洋占星術の12星座ごとに、一人ずつその星座の典型的な性格をした男を主人公にした連作短編集。シチュエーションこそ違えど、男が恋人や許婚の女性に殺意を抱いて破滅に至るまでの物語であるのは固定されています。トリックやオチはない代わりに、12星座別の性格や言動を描写するのに腐心しており、ミステリと言うよりサスペンスフルな短編が多いです。 幾つかのアイテムや名前は同じで役どころを変えた人物が、複数の話で出てきているのが特徴的かと思います。各星座に水谷奏音(知らんけど)の解説が付帯して結構痛い所を突いていたりしてちょっと楽しめます。 個人的に記憶に残ったのは牡牛座、蟹座、天秤座、魚座辺り。最後の魚座ではそれまでなかった皮肉なオチが見られます。 私は今日の占いとかは殆ど信じませんが、占星術自体は半分くらいは信じています。だからそれなりに楽しめましたが、全然信じてない人は読んでもあまりピンと来ないかも知れません。そもそもそういう人は本作を読まないと思いますけどね。 解説は島田荘司。 |
No.1603 | 4点 | 希望荘 宮部みゆき |
(2023/03/18 23:00登録) 家族と仕事を失った杉村三郎は、東京都北区に私立探偵事務所を開業する。ある日、亡き父・武藤寛二が生前に残した「昔、人を殺した」という告白の真偽を調査してほしいという依頼が舞い込む。依頼人の相沢幸司によれば、父は母の不倫による離婚後、息子と再会するまで30年の空白があった。果たして、武藤は人殺しだったのか。35年前の殺人事件の関係者を調べていくと、昨年発生した女性殺害事件を解決するカギが隠されていた!?(表題作「希望荘」)。「聖域」「希望荘」「砂男」「二重身」…私立探偵・杉村三郎が4つの難事件に挑む!! 『BOOK』データベースより。 そこはかとなく眠気を誘う、物凄くゆる~い連作中短編集。正直こんなに詰まらないとは思いませんでした。あ、飽くまでマイノリティの意見です。優しいんですよ内容が。その辺宮部みゆきの人間性が滲み出ていると云うか、今一つ人間の深奥に踏み込めないところにこの人の限界を感じてしまうんですよね。 まず杉村の年齢が分からない、多分中年なんだろうけど。彼の人間味はとても感じられますが、手付金が五千円とか信じられません。あり得ないでしょう。そんな親切な探偵が主役なので、まあ人情ものみたいな物語になるのはやむを得ないでしょう、その分中身がヌルいと感じられて仕方ありません。 得意の社会問題を取り上げたり東日本大震災を背景に語ったりしていますが、ミステリとして伏線を回収するとか、意外性を追求するとか、そうした姿勢が全く感じられず、いささか退屈でした。 もうね、自分の感性が信じられなくなりそうです。これだけ世間的に高評価なのに、私にはその面白さが理解できない、何度こんな苦汁を味わわなければならないのでしょうか。長尺だった分余計に辛さが増しました。 |
No.1602 | 6点 | The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day 乙一 |
(2023/03/15 22:47登録) この町には人殺しが住んでいる―。町の花はフクジュソウ。特産品は牛タンの味噌漬け。一九九四年の国勢調査によると人口は五八七一三人。その町の名前は杜王町。広瀬康一と漫画家・岸辺露伴は、ある日血まみれの猫と遭遇した。後をつけるうち、二人は死体を発見する。それが“本”をめぐる奇怪な事件のはじまりだった…。乙一が渾身の力で描いた『ジョジョの奇妙な冒険』、文庫で登場。 『BOOK』データベースより。 私はこれまで一度も少年向け漫画雑誌というものを買ったことがありません。子供の頃一度だけ母親に買ってもらった少年何とかを読んで、高校野球の漫画が大層面白かった記憶があるくらいですね。では何故今さら『ジョジョの奇妙な冒険』なのかと言えば、単に著者が乙一だったから。 昔友人が貸してくれた週刊少年ジャンプに多分連載され始めたばかりだったのが『ジョジョの奇妙な冒険』で、第一印象は妙にくねくねした絵だなと思ったくらいで、10ページほど読んだけれど面白くなさそうだったので、それ以来全く読む事はありませんでした。私が気に入っていたのは『ゴッドサイダー』でした。 前置きが長くなりましたが、本作は全然乙一らしさが出ていないのが誠に残念です。これなら誰が書いても良かったのではないかと思う程です 話が分散しているし、複数の視点で描かれている為、何処に焦点を置いているのか途中まで判然としません。所々面白いなと感じるシーンがあったり、終盤のバトルではなかなか熱くなれましたので、総合的に判断して6点としました。ただ描き様によってはもっと高得点が狙えた気もします。 余談ですが最後に言いたいのは、又しても煙草臭にしてやられたという事です。どうしたらこれ程の臭いが染み付くのか不思議でなりません。まあどこぞのヘビースモーカーの密閉された部屋に長年放置されたせいだろうとは思いますけどね。この臭いは100年経ってもいや、1000年経っても消えないでしょう。ちなみに読み始めてすぐに気付いて、ゴミ箱に叩き込んでやろうか、それとも即ブックオフ行きにしてやろうかとも思いましたが、我慢して読んだ自分を褒めてあげたいです。110円でしたしね、仕方ないです。購入時点で気付かなかった自分が悪かったと思うしかありません。 |
No.1601 | 7点 | なめらかな世界と、その敵 伴名練 |
(2023/03/12 22:54登録) いくつもの並行世界を行き来する少女たちの1度きりの青春を描く表題作や、ありえたかもしれないもう1つの日本SF史を活写する「ゼロ年代の臨界点」、伊藤計劃の『ハーモニー』にトリビュートを捧げた「美亜羽へ贈る拳銃」、未曾有の災害が発生した新幹線の乗客と取り残された人々のドラマ「ひかりより速く、ゆるやかに」など、人の心の隔たりと繋がりをめぐる奇跡の傑作集。 Amazon内容紹介より。 ハードSFに苦手意識のある私ですが、これは「読め」ました。難解でもないですが流し読みを許さないクセの強い文章の作品、如何にも青春していますと云ったラノベ風の作品など、一体この作者のスタイルはいずこにあるのか疑問を持たずにはいられない、バラエティに富んだ短編が並んでいます。どれが突出しているという訳でもなく、いずれも一定の水準をクリアしている佳作揃いです。 まあ個人的には気軽に読める表題作が最も親しみ易かったでしょうか。第二次世界大戦下での姉妹の絆を、妹の手紙のみで表現した異色作『ホーリーアイアンメイデン』も良かったですね。多分他の方とは随分好みが違うと言われそうですが。やや敷居が高いと思われますが、SFファンなら読んでみても損はないでしょう。 |
No.1600 | 6点 | 叔母殺人事件 偽りの館 折原一 |
(2023/03/09 22:57登録) 煉瓦造りの洋館で起きた驚くべき殺人事件。屋敷には底意地の悪い実業家の女主人とその甥が住んでいた。叔母の財産を狙う甥の殺人計画はいかに練られていったのか。その手記を入手するため、取材者の“私”は屋敷に住み込み、事件を追体験していく―そして明かされる衝撃の真相!!名手の叙述ミステリー。 『BOOK』データベースより。 叔母を亡き者にしようと計画する甥の日記と、その事件があった館に住む「私」の一人称の交互で綴られる折原一の最も得意とするミステリの形。どうですか、如何にも何かの仕掛けがありそうでしょ。匂います、プンプンと。それを承知で何とか作者の目論見を見破ろうと目を皿のようにして、どこかに綻びがないものかと邪推しながら読み進めました。結果、惨敗でした。 まさか読み始めた辺りでこの様なカタストロフィを迎えようとは思ってもみませんでした。 登場人物はそれほど多くないのに、これだけの物語を作り上げてしまうのは流石だと思います。ただ、舞台が固定しているだけに閉塞感は禁じ得ませんが、それもこの人持ち味だと考えれば問題ないでしょう。 尚類似したタイトルの『叔父殺人事件』がありますが、それとは全く趣が違います。どちらがどうとも言えませんが、個人的には『叔父』の方が好きです。 |
No.1599 | 6点 | 運命しか信じない! 蘇部健一 |
(2023/03/07 22:54登録) 六篇の短編連作で綴るドラマチックなラブストーリー。仙波莉子と京川俊は、絶対に出逢うはずのない二人だった。しかし、ある朝、太一の猫、タマがミルクをこぼしたことをきっかけに、いくつもの偶然が積み重なり、二人は恋に落ちる(「もしタマがミルクをこぼさなかったら…」)。風の強い日に、パンティが向かいのベランダに飛んでいったことが縁で、藍川奈都は入江敦広と出逢うことに(「パンティは風に乗って―」)。運命の恋を信じたくなる恋物語が満載。全ての短編を読み終えた瞬間に気がつく衝撃の結末。 『BOOK』データベースより。 もしあの時ああしていたらとか、こうしていなかったらこんな事にはならなかったかも、と云う割と誰にでも起こり得る現象が重なり合い、ハッピーな出来事に出会うある意味バタフライ効果的な男女の物語。偶然の連続の結果を運命と呼んで良いのなら、それは必然であるのかも知れません。 全体的に薄味で中身が希薄な気はしますが、まあたまにはそんな恋愛小説も悪くないでしょう。何かに付け「これは運命の出逢い」とか宣っているのが若干ウザかったりもしますが、それも恋に恋する乙女のあるあるだと思えば許容範囲ですかね。 最後にある仕掛けが施してあるのは秘密です。 |
No.1598 | 8点 | 密室は御手の中 犬飼ねこそぎ |
(2023/03/05 22:49登録) 事故によって弱体化した新興宗教『こころの宇宙』。瞑想中の修験者が密室をすりぬけ、山中で発見されたという逸話が数少ない拠り所だった。新たな密室殺人が起きるまでは――。第一期デビューの阿津川辰海のブレイクで注目を集める新人発掘プロジェクトKappa-Two、その第二期デビュー作。大胆なトリックと偽名の探偵の推理力に瞠目せよ! Amazon内容紹介より。 Amazonでは賛否両論あるようですが、私は全面的に本作を支持します。まず、山奥にある新興宗教の拠点が舞台であるものの、そこまで狂信的とかではないので物語が安定しています。そして教団代表の少年がなかなか魅力的で、自ら探偵役を買って出て、女名探偵との実質的な対決の構図が見えてきます。これだけでも心躍るものがあり個人的にかなり好みの範疇に収まる事に。 そして丁度良いタイミングで起こる密室バラバラ殺人事件。更にテンポよく次の事件へと移行していき、その間に二人の探偵が活躍するという、絵に描いたような新本格ミステリのスタイルと言えそうです。 密室トリックは、これがなかなか難しくて捉え方が色々あると思います、過去にあったトリックのバリエーションと言えなくもないですが、私にとっては斬新だと感じられました。 ロジックも申し分なく伏線を回収していますし、動機の点でも評価に値するものだと思います。そして、二転三転する怒涛の展開や多重推理には心奪われました、何度も心中でアッと言わされたり思わずニヤリとさせられたりと、そりゃあもう心酔でしたよ。 |
No.1597 | 5点 | 時間島 椙本孝思 |
(2023/03/03 22:44登録) 「お前たちは島から生きて出られない」―廃墟の島『矢郷島』でのロケ中、突如送られてきた動画メール。『5年後の未来』にいるという『ミイラ男』が、ロケ参加者9名が皆殺しにされると予言する。やがてその言葉通り、出演者、スタッフが次々と殺されていく。誰が殺しているのか。なぜ殺されるのか。一体この島で何が起きているのか。息つく暇もない展開、予想だにしない衝撃の結末!異色ホラーミステリー。 『BOOK』データベースより。 冒頭これは期待できると思いました。時間島と呼ばれる所以が語られ、真面なミステリではないのかも知れない、しかしそれも仕掛けの一部だろうと受け取りました。それが裏目に出ましたね、ガチガチの孤島ミステリかと思わせておいて、実はサスペンスじゃん。しかも、最後には現実と乖離した独特の世界観を強引に見せられて、ちょっと期待を裏切られた感じでしたね。 ただミイラ男の正体には驚かされました。しかしそれだけ。私の頭が固いのか、単なる説明不足なのか、どうにも納得できないしこりの様なものが残りました。そしてご都合主義が酷くて、そんなに上手くいくものかという疑問やわだかまりを覚えました。後味スッキリとは真逆の結果に、出来れば読みたくなかったと大袈裟ですが思いました。 |
No.1596 | 5点 | 死ぬほど怖いトラウマTVマンガ大全 事典・ガイド |
(2023/03/01 22:57登録) やたら過激だった80年代のアニメ 恐怖をあおり過ぎな覚せい剤の警告CM 殺人シーンが生放送された昔のニュース 本当は怖かった映画版ドラえもん…… 本書は、かつて見たテレビ番組やCM、マンガのなかから、 わたしたちの心に大きな傷を残した作品や放送事故、怪事件などを 年代順にまとめたものです。 Amazon内容紹介より。 1ページ或いは見開き2ページを使ってTV番組や映画、ゲームなどを紹介しています。中身はタイトル、サブタイトル、解説、作品の紹介、そして肝心の画像で構成されています。半分くらいが幾つかの画像で占められており、トラウマになりそうなものばかりを並べていますね。なりそうなというのは、私自身ほとんど観ていないものばかりなので、正直本当にそんなに恐怖心を煽るのだろうかと疑問に思うからです。 それでは掲載されている作品をほんの一部紹介します。 アニメから『天才バカボン』映画版『ドラえもん』映画版『北斗の拳』『まんが日本昔話』劇場版『エヴァンゲリヲン』『妖怪人間ベム』『ちびまる子ちゃん』『ダメおやじ』などメジャーからマイナーまで。 特撮ものから『ウルトラQ』『帰ってきたウルトラマン』『ウルトラマンタロウ』『仮面ライダー』シリーズ『超人バロムワン』など。 TV番組から『笑っていいとも』『探偵!ナイトスクープ』『ねるとん紅鯨団』など。他はCMが多いですね。 たまに教育番組や『みんなのうた』なんかもチョイスされています。 内容は生首が転がる、手足がもがれるなどのスプラッター、所謂心霊現象的なもの、例えば何かしらの霊や不自然な人間の顔が映り込んでいたりするものなんかです。 一番感心したのは、というのも何か変ですが赤塚不二夫の『天才バカボン』ですね。これは何と言うか、ブラックユーモアかホラーか分かりませんが、とにかく作家らしい発想が素晴らしいと思いました。あのギャグ漫画でこれをやるのかというね。 |