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ミステリの祭典

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鵼の碑
百鬼夜行シリーズ

作家 京極夏彦
出版日2023年09月
平均点6.17点
書評数6人

No.6 6点 文生
(2023/11/03 10:40登録)
お馴染みのシリーズキャラクターがそれぞれの立場から戦前に起きた怪事件の真相に迫っていく物語は捜査小説としてなかなかの面白さです。
ただ、『姑獲鳥の夏』や『魍魎の匣』のような強烈な怪奇性は感じられず、終始淡々としていたのは物足りなかった。事件の真相もそこまでの衝撃はなく、あの長さを支えるには少々薄味の感あり。

No.5 5点 人並由真
(2023/11/02 18:24登録)
(ネタバレなし)
 当方の「百鬼夜行シリーズ」長編遍歴は、

・『塗仏の宴』……ただでさえ、あの長さにひるんだ上に、無神経な知人にキーワードらしきものをネタバレされてしまい、興味が著しく減退

・『邪魅の雫』……ミステリを習慣的にはほとんど読んでない時期に、さすがに本シリーズの長編なら楽しめるだろと新刊で読み出し、しかし結局、どうにもつまらないので、途中下車
(読み出した長編ミステリをとにもかくにも最後まで読まなかったというのは、自分の人生の中でもめったにないこと、ではある)

 その2つを例外に全部読んでいる。
 傍流の「今昔百鬼拾遺」三部作も全部読んでいる。

 ということを前提に、久々の正編長編の新刊、お祭り騒ぎの気分のなかで手に取った。
 しかし前に書いたと思うけど、『夜の黒豹』(だったか?)で金田一耕助が休眠し、『仮面舞踏会』で復活するまでの期間、その倍前後の年月、ファンは待たされたんじゃないかしら(正確には調べていないけど)。

 で、内容ですが3~4つの謎が絡み合う構成、あっち側で追っかけている人が、実はこっち側の……的な趣向は楽しかったし、よくできていると思うけれど、とにかくこの長さに見合う面白さも、ミステリ&物語のときめきもない、という印象。

 人物メモを作りながら読んだおかけで人間関係や話の流れは理解できたつもりである。
 おかげで、記憶にある『邪魅』の途中までのシンドさ、つまらなさ(あっちは当時、人物メモは作らなかった)よりはずっとマシだが、さほど盛り上がらないまま、あ、もう終わりなの、という感慨。
 
 メインゲストヒロインの記憶のなかの殺人の真相に関してはちょっと面白かった。
 あと、昭和29年が舞台、大ネタがアレ、また別のメインゲストキャラの親類縁者の下の名前が……ということで、あのメタファーが出てくると期待したが……。
 まあ、ある意味では「出てきた」のかな? あのハリボテ感こそ比喩だよね(なるべくネタバレにならないように書いてるつもり)。

 妙な言い方だが、観念的な意味で実に印象的なモンスターを描いた、初期のあの作品の絶対性を、本作は逆説的に補完した面もあったような気がする。

 評点としては、正に「まあ、楽しめた」なので、こんなもん。
 なお都内の板橋区周辺の人は、池袋のブックオフ二階の、新書本コーナーを覗いてみてください。
 いま行くと、もの凄い光景が見られると思います(笑)。

No.4 5点 ボナンザ
(2023/10/15 17:30登録)
刊行できない理由として都市伝説的に語られていたものがまさか正しかったとは・・・。陰摩羅鬼や邪魅同様、長いものの初期作のような濃厚さはもう感じられない。

No.3 7点 虫暮部
(2023/10/06 13:07登録)
 基本的には、このシリーズにしては薄味だけど、ミステリ的小説として良く出来ており楽しめた。
 しかし、長いブランクのせいか、作品世界の連続性が保てなくなったようにも感じる。登場人物が微妙に現代人っぽくなっていたり。関口が妙にまともに久住の相談に乗っていたり。中禅寺はちょっと角が取れた感じがする。事件の諸要素に託けて令和の世相を斬る、みたいなメタっぽい台詞は後出しジャンケンのようで鼻に付く(あんな言い方、以前からしてたっけ?)。
 何より、闇が薄くなって、ヌエがあまり怖くない。
 旧作は読んでいる間あの時代にトリップ出来たんだけど、本作は窓から覗き見るに留まってしまった。
 相変わらずの榎木津、救いは貴君だ。

No.2 7点 メルカトル
(2023/09/24 22:11登録)
殺人の記憶を持つ娘に惑わされる作家。
消えた三つの他殺体を追う刑事。
妖光に翻弄される学僧。
失踪者を追い求める探偵。
死者の声を聞くために訪れた女。
そして見え隠れする公安の影。
Amazon内容紹介より。

内容が内容だけに、刊行が延ばされたのは分かりますが、それにしても17年は長かったですよ。まあ2、3年は駄目だったろうなとは思います、しかしせめて5年くらい空けて出して欲しかったですね。
まず本書を手にして確認したのは、次作が告知されているのかどうかでしたが、どやらシリーズは続くものとみて間違いないようで、正直ホッとしました。いつ出るかは作者のみぞ知るところですが、2年に一作位は出してもらいたいです。

さて本作、薄味との意見もあるようですが、十分濃いです。特に京極堂の蘊蓄には相変わらず付いて行けません。ただ、事件が現在進行形ではなく、過去に起こった出来事を追うものなので、スリリングな展開は望めません。この辺りはHORNETさんに全面的に賛同します。そして、個人的に榎木津の出番が少なすぎて物足りなかったりしました。まあその分、緑川という女医がなかなか物言いとか堂々としていて、好感が持てましたが。過去に関口らとどんな出会いがあったのか気になるところです。あと、チョイ役のセツという「悪いけど」が口癖のメイドが面白い存在でしたね、どうでもいいですけど。
物語やプロットは良いんだけど、ミステリとしては弱いよね。

No.1 7点 HORNET
(2023/09/18 22:01登録)
 古書肆の仕事で栃木県・日光に逗留する中禅寺秋彦に同行してきた作家・関口。宿泊するホテルで懇意になった男性に「部屋付きのメイドが、殺人の記憶を打ち明けてきた」と相談され、困惑する。同じ頃、薔薇十字探偵社の主任探偵・増田は、失踪人探しを依頼され、日光へ赴く。さらに麻布署捜査一係刑事・木場は、20年前に起きた「消えた三つの他殺体」の謎を解いてこい、と上司から私的な密命を受けてやはり日光へ―
 全く異なる3つの場で立ち上がった問題が日光の地で融合し、絡み合った糸が京極堂の「憑き物落とし」で解きほぐされる―

 長編はなんと17年ぶりの刊行。前長編「邪魅の雫」の巻末にはこの「鵼の碑」というタイトルは既に示されており、「今昔百鬼拾遺 月」の帯に「近日刊行予定」となっていたけど…。いやー京極先生の時間の感覚は我々一般人の理解は及びませんね 笑

 今回は、日光に逗留している京極堂、関口、+榎木津チーム、失踪した薬剤師の創作依頼を受けて日光に向かった益田チーム、20年前の不審な「死体消失」の謎解明を命じられた木場、の三者がそれぞれの謎を追っていく様子が代わる代わる描かれ、次第に一つになっていくという構成。
 相変わらず雑学、哲学論、蘊蓄が多い。始まって250ページぐらいはほとんどそれだと言っていい。今回は江戸末期の神道、理化学研究所による放射能研究あたり。まぁおそらく本作を読む読者はシリーズ読者だと思われるので、「ならではの味」として楽しめるだろう。刑事・木場のパートが一番そうしたこととは無縁で、ミステリらしい展開の部分。
 3つのパートの調査が進展していくにつれ、少しずつ読者にも重なりが見えてくるとともに、20年前の事件の真相も読めてくる(感じがしてくる)。もちろん真相はそんな単純なものではなく、よく織り込まれたストーリーではあった。
 ただ本作は結果として、過去にあった出来事の真相解明の物語で、作中現在(昭和29年)では何も起きていない。リアルタイムで事件が進行していき、不可思議性がどんどん高まっていく過去作に比べると、興奮度はそれほどという感触だった。

 蛇足だが、またもや帯に「次作予定」が…(「幽谷響の家」)。さすがに「近日」とは書いていなかったが…

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