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ミステリの祭典

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狩久探偵小説選
論創ミステリ叢書

作家 狩久
出版日2010年03月
平均点6.25点
書評数4人

No.4 6点 メルカトル
(2023/10/20 22:49登録)
才気あふるる奇才による異色の本格ミステリ集。「虎よ、虎よ、爛爛と―」ほか全13編。
『BOOK』データベースより。

短編にプラスして随筆、評論がおまけで付いている狩久作品集。
正直少々疲弊しました。昨今流行のソフトカバーの普通サイズと比べると、倍くらいの重さがあります。何しろサイズが一回り大きいですからね。で、ページ数が490ページで後半会話文と改行が極端に少なく・・・これは疲れますわ。最初の四編は瀬折研吉、風呂出亜久子の事件簿は軽妙なタッチで、二人のやり取りが楽しめる本格度の高い探偵小説と言えるでしょう。特に密室に拘りがあるようだし、自らの名前を出して来たりとメタな部分も見せています。ここまでは比較的読みやすく疲れませんでした。

その後、代表作であろう『落石』以降、やや私小説風ミステリが多くなっている気がします。事前の予想通り、『落石』を超える作品は残念ながら見当たりませんでした。しかし、この作品の裏話的でまるでノンフィクションかの様な『訣別――第二のラヴ・レター』を読めたのは大きな収穫だったと思います。自身のペンネームを捩った暗号に秘められたメッセージなど読んでいて、心が痛みました。
尚、作者は長編を生涯一篇しか書いていませんが、それはあまり書くと持病のため熱が出る為と自身で語っています。この人も早逝の悲劇の作家だったのかも知れません。

No.3 6点 蟷螂の斧
(2021/05/23 15:18登録)
①見えない足跡 4点 王道の足跡密室。ドジな証言をしてしまい・・・
②呼ぶと逃げる犬 4点 密室ですが、現実味がないというよりそんな手数をかける必要性はない(苦笑)
③たんぽぽ物語 3点 ダイイングメッセージもの。脱力系
④虎よ、虎よ、爛爛と――一〇一番目の密室 5点 犯人が密室の中、被害者が密室の外というアイデアは買いますが、ごちゃごちゃし過ぎ
⑤落石 9点 右腕をレールの上に載せ、にっと微笑んだ女。上記①~④のシリーズものと作風がまったく違いインパクトがあった。動機、トリックとも申し分ない
⑥氷山 7点 毒殺トリックはオリジナルとのことで+1点。日記が3冊あるのがユニーク
⑦ひまつぶし 5点 未亡人が黒ずくめの強盗に襲われ眠り薬を飲まされる。艶笑譚
⑧すとりっぷと・まい・しん 7点 結核でベッドに伏せたままでの殺人を思いつく。乱歩氏が題名の「っ」は不要と言った。著者は薬品名ではない。文中でストレプトマイシンと書いているのだから・・・が面白い
⑨山女魚 6点 密室、ホラー、笑い話がミックスされ、それぞれ面白いが今一つパンチ不足の感
⑩佐渡冗話 6点 船上でスリが毒殺され、犯人らしき男は海の中へ・・・
⑪恋囚 6点 近親相姦、一夫多妻もいとわずとする家庭教師は夫人に・・・
⑫訣別――第二のラヴ・レター 5点 著者狩久の元恋人は⑤の「落石」を読み、それが自分に宛てた暗号と気付き彼に会いに来たと言う・・・
⑬共犯者 7点 密室殺人は共犯ではなく単独犯。題名の意味は?

No.2 6点
(2021/04/14 05:10登録)
 梶龍雄とも親交があり、泡坂妻夫のブッキッシュなミステリ〈ヨギ ガンジーシリーズ〉にも影響を与えた、旧「宝石」誌古株の投稿作家・狩久初のロジック系作品集。収録作は年代順に 氷山/落石/ひまつぶし/すとりっぷと・まい・しん/山女魚/佐渡冗話/恋囚/訣別――第二のラヴ・レター/見えない足跡/共犯者/呼ぶと逃げる犬/たんぽぽ物語 の十二編に、十数年ぶり再デビュー後の雑誌「幻影城」発表中編「虎よ、虎よ、爛爛と―― 一〇一番目の密室」を加えた、十三本の中短編で構成されている。
 明るくユーモラスなものが中心だが、「すとりっぷと~」「恋囚」のように結核病者特有の鋭い感性が窺われるもの、それを敷衍したセクシャルなもの、果ては「訣別~」等の私小説めいた短編もあってバラエティに富む。だがその多くは、「呼ぶと逃げる犬」「虎よ、虎よ~」の安孫子教授邸や棟梁辰五郎の仕掛け屋敷に見られる怪建築群など、チェスタトン風の軽妙にして奇妙な論理や幾何学的思考に貫かれている。「落石」→「見えない足跡」→「共犯者」のように、基本となる発想に巧みなバリエーションを施したものもある。官能要素とロジカルな謎解きとの結合が、狩久作品の特長と言える。
 ベストは映画の主役を得んがために己の右腕を切断する、映画女優の鮮烈な行為を背景にしたトリックが光る名作「落石」。次いで病床に横たわる青年の犯罪と性幻想「すとりっぷと・まい・しん」、人里離れたバンガローの浴室から蒸発した美女が下流の淵に浮かぶ「山女魚」の三作。作者の地元編「佐渡冗話」や、官能+論理のせめぎあいの「恋囚」も捨て難い。また密室論理の「共犯者」は、杉本警部の二番目の仮説がなかなか。後の新本格先駆の匂いもする、トリックメーカー面目躍如の作品集である。

No.1 7点 kanamori
(2012/04/09 18:44登録)
奇才・狩久の、本格ミステリを中心に編まれたものとしては初の短編集。
瀬折研吉&風呂出亜久子シリーズは、ユーモアとチェスタトン風の逆説的ロジックに溢れた不可能犯罪ものが多い。
なかでも、中編の「虎よ、虎よ、爛爛と---101番目の密室」の”逆密室”の論理が有名ですが、これは誤って理解してました。被害者が外で、容疑者が密室内だから”逆密室”という訳じゃないんですよね。だから、”読者諸君はその密室の中にいた”となるのか。まあ、屁理屈のようにも思えますが。
どちらかというと、ノン・シリーズの作品の方が個人的には嗜好に合っていた。
女優の凄まじい執念がアリバイトリックに結びつく「落石」、密室状況の浴室からの消失トリックがユニークで、怪談話がオチで反転する「山女魚」、密室トリック解明過程が重層的でロジカルな「共犯者」がベスト3かな(やはり、出来のいい作品はみなアンソロジーに採られてますねぇ)。

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