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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1835件

プロフィール| 書評

No.1635 5点 たったひとつの 浦川氏の事件簿
斎藤肇
(2023/06/02 22:43登録)
浦川氏のめぐる、極北でも究極でもない限界本格推理。
『BOOK』データベースより。

結論から言うと明らかな失敗作ですね。外堀から徐々に迫るじらしに、作者の読者を翻弄して陰で楽しんでいる姿が見え隠れして、一寸白けました。そもそも興味本位と、四作しか読んでいませんが、斎藤肇と云う人はまだ何かを隠しているのではないかみたいな、これまでの作品で発揮していない本領というものを、本作でもしかしたら見せているかも知れないという思いから読んでみたに過ぎません。だから、読後がっかりする気持ちとやっぱりなという諦めの境地が半々でしたね。
第一、フーでもなくハウでもなくホワイでもないものが本格ミステリと言えるのでしょうか。第一話『たったひとつの事件』は論理の飛躍があり過ぎて、もはやこじつけにしか思えませんし、第五話『どうでもいい事件』は本当にどうでもいいし。逆に既視感はあるものの人間の心理を鋭く抉った『壁の中の事件』やバトルロワイアル的趣向で意外性のある『閉ざされた夜の事件』は結構面白かったですが。

ラストに期待するも、当然の如く肩透かしを喰らいました。それまでの短編が有機的に結びつかず、結局こじつけじゃんとしか言い様がありません。作者のやりたかった事は分からないでもないですが、その目論見が成功したとはとても思えませんね。


No.1634 9点 ヨモツイクサ
知念実希人
(2023/05/30 22:50登録)
ヨモツイクサって一体何なんだって?そんな事は知らなくてよろしい。と言うより知らないほうが良い。これを読もうかどうか迷っている人、今すぐ書店に走りなさい。ネットで注文しなさい。図書館に予約しなさい。僭越ながら本サイトの参加者の中で最もホラーを読んでいると勝手に思っている私が言うのだから間違いありません。とは言え、保証は出来ませんし、責任は取り兼ねますが。本書は中短編は別として、長編ホラーではあの『黒い家』を自分の中で超えてきました。十年に一度の傑作だと思います。

内容には敢えて触れません。この点数を見たらついAmazonで検索したくなる気持ちは分かりますが、出来る限り予備知識なしで読んで頂きたい作品なので、まっさらな状態で本書を開いてみて下さい。そしてみりんさんのおっしゃる通り、最後の方のページは決して見ない事、これ肝心です。理由は最後まで読めば分かります。因みに私は奥付きを見ようとしてつい目に入ってしまい、少々後悔しましたので、私の轍を踏まないようして下さい。

『このミス』がダメなら(可能性はあるが)、いっそのこと本屋大賞(『硝子の塔の殺人』で逃しているので)を獲って欲しいです。


No.1633 7点 爆弾犯と殺人犯の物語
久保りこ
(2023/05/27 22:33登録)
空也が小夜子のスマホを拾ったことで、ふたりは運命的に出逢う。
小夜子は学生時代に事故によって左目に義眼を入れていた。
空也はその義眼に惹かれ彼女を愛したのだが、事故の原因がかつて自分が造った小さな爆弾であることを知る。
秘密を抱えた夫婦が紡ぐ不可思議な物語。
第43回小説推理新人賞受賞作を所収。
Amazon内容紹介より。

『小説推理』に収録された、表題作を含む二作の出来は素晴らしく、最早ミステリを通り過ぎて文学と称しても問題ないでしょう。無論ジャンルの違う小説形態を比較して、どちらが上かと云った次元の話ではありませんので誤解の無きように。
それらの短編は男女の、己の心の奥を悟らせない様に相手の気持ちを探る会話が何ともじれったく、例えば直情径行な方には不向きと言えるかも知れません。私自身はどちらかと言えばストレートな物言いの方が好みなので、やはりもどかしさを覚えずにはいられませんでした。

そして他の三編は表題作を補完する役割を果たしているのは良いとしても、何処か取って付けた様な印象が拭えません。それぞれ独立した小説と考えれば、それなりに面白く読めはしますが。
全体として複雑なミステリを期待するより、雰囲気や一見普通に見える人物の異常性を異常と思わせないテクニックを楽しむべき作品かなと思います。


No.1632 4点 殺竜事件ーa case of dragonslayer
上遠野浩平
(2023/05/25 22:51登録)
竜―人間の能力を凌駕し、絶大なる魔力を持った無敵の存在。その力を頼りに戦乱の講和を目論んだ戦地調停士・ED、風の騎士、女軍人。3人が洞窟で見たのは完全な閉鎖状況で刺殺された竜の姿だった。不死身であるはずの竜を誰が?犯人捜しに名乗りをあげたEDに与えられた時間は1ヵ月。刻限を過ぎれば生命は消え失せる。死の呪いをかけられた彼は仲間とともに謎解きの旅へ!
『BOOK』データベースより。

あー、くそー、こんな筈じゃなかったのに・・・とは私の心の声。もう少しミステリ色が濃いのかと思っていたら、ファンタジー9、ミステリ1でした。タイトルの通り、誰が何の為に、一体どうやって竜を殺したのかを三人の男女が容疑者を追って旅をする物語。旅の途中では様々な状況で怪しげな強者達と対峙し、論戦を繰り広げたり、博打で勝負したりと異国情緒も相まってそれなりに楽しめはしました。しかし、肝心の戦地調停士EDは特段推理する訳でもなく、全然ミステリじゃないじゃんと思ってしまいました。

結局最後の最後で真相は明らかにされますが、如何にもショボい印象は拭えません。大したトリックがある訳でもなく、動機も曖昧でイマイチ納得出来ませんでした。そしてその殺害方法も詳しく調べれば直ぐに判明する程度のもので、意外性が全くありません。
相変わらずAmazon評は意味分かりませんねえ。


No.1631 5点 ポケットに地球儀
安萬純一
(2023/05/22 22:38登録)
探偵作家アマンを担当する鹿堀は、雑誌ナゾーン誌上で読者の「謎」を募集する。それらをアマンに面白おかしく推理させようという腹づもりだ。ところが、応募者が体験した不思議なできごとを調査しに出かけると、なぜかいつも脱出不可能に思える空間に閉じ込められてしまう―。読者から次々に届けられる謎と、奇怪な密室魔からの挑戦を、ユーモア溢れる筆致で描く連作ミステリ。
『BOOK』データベースより。

日常の謎から始まり、ユーモアを交え小ネタを挟んでからの、楽屋落ち、そして最後は本格ミステリへと次々へと形を変えるパターンの連作短編集。プラス意味不明な密室が同じ場所異なる趣向でアマンと鹿堀を襲います。密室に閉じ込められた二人はあれこれ知恵を絞りますが、あまり緊迫感はありません。誰が何のためにアマンと鹿堀に密室を仕掛けてくるのかが全く見当が付かないだけに、不可解さだけが募ります。

まあ何とも言えない作品ですが、甘目の採点をしています。面白いのはアマンの提言する、ミステリのトリックに関するちょっとしたアイディアでしょうか。取り立てて物珍しいものではありません、ちょっと考えれば誰にでも思い付きそうな感じだけに、それだけで評価が上がる訳ではないですが、こうした遊び心はこうしたユーモアミステリにとっては意外なチャームポイントになり得ると思います。
でも結局この人も鮎川哲也賞受賞作でデビューしたものの、多くの読者に忘れられ、一作のみの一発屋もどきの様な存在となるのでしょうねえ。


No.1630 5点 漆黒の慕情
芦花公園
(2023/05/20 22:46登録)
塾講師の片山敏彦は、絶世の美青年。注目されることには慣れていたが、一際ねっとりした視線と長い黒髪の女性がつきまとい始める。彼を慕う生徒や同僚にも危害が及び、異様な現象に襲われた敏彦は、ついに心霊案件を扱う佐々木事務所を訪れる。時同じくして、小学生の間で囁かれる奇妙な噂「ハルコさん」に関する相談も事務所に持ち込まれ……。振り払っても、この呪いは剥がれない――日常を歪め蝕む、都市伝説カルトホラー!
Amazon内容紹介より。

色々残念な作品というのが個人的な意見です。所々切り取れば、かなり面白かったり怖かったりするのです。例えば学校の七不思議の件や電話越しに登場する、四国の拝み屋の青年物部の凄みなどはテンションの上がるシーンと言えるでしょう。ただし、全体的に俯瞰すると話があっち行ったりこっちへ行ったりと、煩雑になり過ぎだと感じます。視点も目まぐるしく変わり、読んでいてどうにも据わりの悪さを覚えました。結果纏まりに欠け、折角の極上の食材を美味く料理出来なかった印象が拭えません。

世評の高さも理解出来ない訳ではありません。ホラーとしての怖さはそれなりにありますし、キャラも立っていると思います。しかし、何処が見せ場なのかと問われると即答できないもどかしさが蟠っている様な感覚が消えません。ラストも驚くべきなんでしょうが、はあ?って感じでしたね。
どなたかが読んで高評価を下したとしても、率直に凄い読解力だなと思うだけです。本来なら読者としてはそうあるべきなのかも知れませんし。


No.1629 6点 眩暈
東直己
(2023/05/18 22:59登録)
私立探偵の畝原はある夜、なにかから逃げている様子の少女を目撃する。乗っていたタクシーで慌てて引き返すものの、少女の姿は忽然と消えていた。翌日、無残な遺体となって発見される少女。畝原は、自責の念から独り聞き込みを行うが、少女の両親の態度に不審を抱くのだった。さらに、かつて連続殺人を犯した少年が周辺に住んでいるという噂が…。果たして少女殺害事件との関わりはあるのか。そして第二の殺人事件が―。私立探偵・畝原シリーズ待望の文庫化。
『BOOK』データベースより。

こういうので良いんだよ。仕事が出来てちょっと格好良くて、家族を愛し、少しだけ哀愁を漂わせる。ハードボイルドはこういうので良いんだと思います。それにしてもとにかく気になるのが訳ありな家族構成。バツイチでシリーズ途中で再婚し娘が二人おり、言葉も真面に話せない少女を養女にしている、そこにどんなドラマがあったのか、やはりその辺りを知るためにシリーズを遡って読んでみなければならないのではないかと、今は思っていますね。

この人の作品は初めてですが、なかなか筆達者で特にクセ強めのキャラが次々と登場し、それらの人物たちの口調が一々異なり口癖まで加えて描き分けているのには正直感心しました。
主人公で語り手の畝原は探偵としての仕事はきっちりこなしますが、推理して犯人を追い詰めるというのとは違い、偶然による解決に落ち着いています。それが別に不満とは思いません、話の流れの中で自然に辿り着くので違和感がないのです。取り敢えずハードボイルドとして合格でしょう、ただ驚くような展開や仕掛けがある訳ではないので、シリーズを通してそこまでの高得点は得られないかも知れません。


No.1628 7点 まだ出会っていないあなたへ
柾木政宗
(2023/05/15 22:35登録)
孤独で、後悔ばかりで、将来が見えない。周りが皆敵に見えてしまい、誰も信用できない。自助が声高に叫ばれ、助けを求めることができない。
ーーでもきっと、あなたを見つけてくれる人がいる。

1.経験者採用面接での不合格者が自殺をしてしまった人事課長。
2.デビューしたものの2作目が出ずブラック企業で働く小説家。
3.SNSで「死にたい」と呟き続けるコンビニ店員。
4.取り立て先の子どもに好かれてしまったヤクザ者。
Amazon内容紹介より。

プロローグでまずは惹き込まれました。きっと期待できる作品に違いないとの予感がしました。四つのそれぞれ毛色の違うストーリーは取り立てて物珍しいものではありません。何時か何処かで読んだような気がする物語ばかりです。そして文章も決して上手いとは思えません。しかし、それぞれの登場人物が悩み苦しみ、人間の弱さや脆さ危うさをこれでもかと描き出しています。その意味で、ある種の群像劇と言えるでしょう。どこにでもいる、ヒーローでもヒロインでもない等身大の一人の人間として、当たり前の生活でありながら当たり前ではない物語を紡いています。

私は途中何度も何故わざわざ長編にしたのだろうかと疑問に思いました。これなら短編集で良かったのではないかと。しかし、それが大いなる間違いだと気づくのがあまりに遅かったのです。
第四章でえー!?となり、前に遡って読み返すことになろうとは思ってもいませんでしたよ。するとやはり・・・これ以上はネタバレになりそうなので控えましょう。

メフィスト賞受賞作でデビューし、本サイトでも散々こき下ろされた作者ですが、私は書評の最後に「この人は将来大成するかもしれませんね。それだけの力量を持った人だと思いますよ。」と書きましたが、もしかしたら本作がそれに当たるのかもなんて勝手に思ったりしています。いや、更なる傑作を期待しても良いんじゃないですかね。


No.1627 7点 隠蔽人類
鳥飼否宇
(2023/05/12 22:23登録)
アマゾンの奥地に調査に向かった日本の研究者たちが、未知の民族を発見した。驚くことに、彼らのDNAはホモ・サピエンスとは大きく異なるものだった!別種の人類発見に沸く調査団だったが、研究者の一人が殺される。犯人はどうやら仲間の中にいるようで―!アッと驚く怒涛の展開で読者を翻弄するノンストップ・ミステリーの驚愕の結末とは!?
『BOOK』データベースより。

これは評が割れるでしょうね。相当な異色作な気がします。章ごとに本格ミステリであったりSFであったりファンタジーであったりします。そんな変幻自在な本作、私はかなり楽しませてもらいました。ただ賛否両論あってしかるべき作品だとは思います。一章目が終わり、次に行く段階でもう既に先が読めません。どんどん話が進展して思わぬ方向へと読者を誘います。一体最後にはどこに着地するのかも全く想像できません。

物語の根底には隠蔽人類(新人類)がテーマとして常にあり、そこだけは全くぶれません。次々に視点が変わり、だからと言って混乱するかと思えばさにあらず。一連の流れの様なものが確りしているので、例え作風が変遷して行っても読者を置き去りにすることはありません。
そしてラストは、これまた評価が分かれるところですね。それまでが一体何だったのかと云う位スケールが大きくなり、ある種のカタストロフィが唐突に訪れます。果たしてこれで良かったのかと大いに疑問に思いますが、オチとしてはそれしかなかったのかも知れません。


No.1626 6点 美しき殺人法100
桐生操
(2023/05/10 22:52登録)
奇想天外な殺人法から、残虐きわまりない殺人法まで、人が人を殺すために様々な手法を編み出してきた。この本は、古今東西の殺人史を彩った殺人法の数々をサンプルした、怖るべき百選である。
Amazon内容紹介より。

古代ギリシャ、古代ローマ帝国から始まり、1900年代の主にヨーロッパ、後半は日本の新旧の殺人方法を収集した実話。タイトルは美しきとありますが、殺人に美しいものなどあるはずもなく、残酷な殺人法や拷問がズラリと並んでいます。ただ、毒薬にやや偏っているので、又かとの思いはありました。しかし、中には奇想天外なものもあり、凄まじい人間の変態性や残虐性が浮き彫りになります。

有名どころではエリザベート・バートリや石川五右衛門、阿部定、そして戦国時代の三英傑も登場。家康などは温厚なイメージが強いですが、意外な殺害方法を行っていたらしいです。
私がやられて一番嫌だと思うのはヒル、ですね。これはいけません。それにしてもありとあらゆる酷い殺人法を考え付く人間のさがって一体・・・。


No.1625 5点 魔法少女育成計画 episodes
遠藤浅蜊
(2023/05/08 22:45登録)
『魔法少女育成計画』『魔法少女育成計画restart』で、過酷な死のゲームを繰り広げた魔法少女たち。そんな彼女たちに魅せられた読者の声に応えて、本シリーズの短編集がついに登場! 少女たちのほんわかした日常や、不思議な縁や、やっぱり殺伐とした事件などなど、エピソード山盛りでお届けします! 本編と合わせて楽しんでいただきたい一冊ですが、この本からシリーズを読み始めるというのもアリ、かも!?
Amazon内容紹介より。

前三作に登場した魔法少女に変身する前のありのままの少女達の日常を切り取ったスピンオフ作品集。ちなみに私の一推しのラ・ピュセルの元の姿は少年です。たった一人の男性なので貴重な存在ですが、ただ単に三頭身のイラストが一番可愛いからに過ぎません。三十三人全員登場しています。ただ、チョイ役で出演の魔法少女も多いので、全員と言ってもメインは半数程度ですね。

気になるのはAmazonの異様な評価の高さ。普通に考えればそれ程面白いとは言えないと思います。評価しているのがシリーズのファンのみだと考えるとあり得ない事ではないでしょうが。上にある様に、この本から読み始めるのはやはり無謀だと思います。何故なら本編の肝であるバトルや殺戮が殆どないので物足りない為。
色々なタイプの少女達、ごくごく普通の日常、可愛い女の子が牛丼を好んでいたりして意外な一面を見せる、そんなのほほんとした雰囲気に癒されたい方向けの作品と言えるかも知れません。取り敢えず肩の凝らない短編集です。


No.1624 3点 八百万の死にざま
ローレンス・ブロック
(2023/05/06 22:38登録)
アームストロングの店に彼女が入ってきた。キムというコールガールで、足を洗いたいので、代わりにヒモと話をつけてくれないかというのだった。わたしが会ってみると、その男は意外にも優雅な物腰の教養もある黒人で、あっさりとキムの願いを受け入れてくれた。だが、その直後、キムがめった切りにされて殺されているのが見つかった。容疑のかかるヒモの男から、わたしは真犯人探しを依頼されるが…。マンハッタンのアル中探偵マット・スカダー登場。大都会の感傷と虚無を鮮やかな筆致で浮かび上がらせ、私立探偵小説大賞を受賞した話題の大作。
『BOOK』データベースより。

以下はあくまで個人の感想です。これから酷い事を書きますので、気分を害したくない方は御遠慮下さい。
まず無駄に長い割りに肝心の事が描かれていない。この内容ならば真面に書けば半分以下の枚数で収められた筈です。次に文章が下手、訳も下手。これは色々受け止め方があると思いますが、私には中身が頭にすんなり入ってこなかったし、情景も浮かばず、心にささるものもありませんでした。そしてマットと誰かしらの会話文も、相手の人称が彼、彼女で通しているので、最初に注意深く読まないと誰と話しているのか分からなくなりそうです。また主人公が只のアル中。私立探偵マットに魅力が感じれず、ああだこうだと言いながら結局アルコールを断ち切れない情けなさ。ハードボイルド、これでいいのか?と思いますね。更に余計な要素やエピソード(特に禁酒断酒の集会)に多くのページが割かれており、事件そのものがそれらに埋没してしまっています。事件も地味で最後に取って付けた様な解決編がいきなり始まり、何処でどう調べたのか疑問。

まあ気になった点だけでこれだけあります。まだまだ書きたいことはありますが、嫌味になりますのでこの辺でやめます。最後にこれだけは言いたい、例えばこれを国内の無名の作家が書いたとして、日本の読者に果たして受け入れられるのでしょうか、否だと思いますよ。その前に編集者がストップを掛けるでしょう。こんなの読むのだったら、そこら辺に転がっているラノベを読んだ方がまだましです、少なくとも私は。少しだけ人生の無駄遣いをしましたね、そんな気分です。ああ、行き過ぎた感想をお許しください。決して他の高評価の方をどうこう思ってませんから。タイトルだけは良いです。


No.1623 7点 月灯館殺人事件
北山猛邦
(2023/05/01 22:46登録)
「本格ミステリの神」と謳われる作家・天神人(てんじん・ひとし)が統べる館、「月灯館(げっとうかん)」。その館に集いし本格ミステリ作家たちの間で繰り広げられる連続殺人! 悩める作家たちはなぜ/誰に/何のために殺されるのか?
絢爛たる物理トリックの乱舞(パレード)とともに読者を待ち受ける驚愕のラストの一文(フィナーレ)に刮目せよ!!
Amazon内容紹介より。

外連味たっぷりの殺害状況は余りにも人工的過ぎて、これだけ盛り込んで大丈夫なのだろうかと心配しましたが、大丈夫なのでした。実際密室+首なし死体という本格ミステリの王道とも言える状況に加えて舞台がクローズドサークルで、館ものとして大いに作者の本領を発揮していると思います。つまり、得意の物理トリックを幾つも駆使して綱渡りの様な芸当を仕掛けるというもの。現時点でこの人の最高傑作ではないですかね。

ただ特に終盤十分に説明されていない部分があり、その辺りモヤモヤした感じが残りました。更に最終局面での「アレ」は一体何だったのだろうと・・・まさか、そんな馬鹿な事が、いやある筈がないと思いましたが、ネタバレ感想で検索したらやはり私の考えは間違っていませんでした。
これから読む人は細かな伏線や違和感に注意して読み進める事をお勧めします。兎に角悪魔的な作品であり、ある意味アンチミステリと呼んでも良いでしょう。やや不満なのは探偵役が弱いというか、名探偵と言い難いのは確かだと思います。


No.1622 6点 キン肉マン 四次元殺法殺人事件
おぎぬまX
(2023/04/29 22:57登録)
『キン肉マン』がミステリ小説になって登場
キン肉マンが失踪した! 重臣・ミートはキン肉マンへのリベンジに燃えるキン骨マンを相棒に捜索へ繰り出す。
しかし、二人は行く先々で超人による殺人事件――すなわち“超人殺人”――に遭遇するのであった!
変形、分身できるのは当たり前で、身体が機械の者、顔面がブラックホールに繋がっている者、時間を止めることができる者、体に付いたトイレに全てを流し込める者……!
様々な異能力を持つ容疑者たちに、物理法則を無視したトリック……!
犯人は誰だ!? そして、キン肉マンはどこだ!?
Amazon内容紹介より。

子供騙しと侮る事なかれ。探偵役はキン肉マンの重臣アレキサンドリア・ミート君。そしておまけでキン骨マンが活躍する超人殺人事件に迫る連作短編集。
本格ミステリとしてはツッコミどころ満載ではありますが、キン肉マンファンにとっては大満足の出来だと思います。登場する超人は有名どころでバッファローマン、ウォーズマン、ペンタゴン、ブラックホール辺り。他にバイクマン、タイルマン、ベンキマン、カナディアンマン、スペシャルマン等。トリックは各超人の特徴を生かしたものばかりで、通常のミステリとは一味違います。原作を読んでいない人には何のことか理解できないケースもあるかも知れません。しかし一応この超人にはこんな能力があるという最低限の説明がなされている為、混乱する事態にはならないでしょう。

まあ数え上げればキリがない程細かい瑕疵はありますが、そこに目を瞑れば本格ミステリとしても十分楽しめます。意外性もありますし、少ない登場人物で完結させている手腕もお見事。決してお薦めはしませんが、暇な方は読んでみるのも一興かと。でも責任は負いかねますのであしからず。


No.1621 6点 成瀬は天下を取りにいく
宮島未奈
(2023/04/28 22:57登録)
2020年、中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。
コロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。
今日も全力で我が道を突き進む成瀬あかりから、きっと誰もが目を離せない。
発売前から超話題沸騰! 圧巻のデビュー作。
Amazon内容紹介より。

世間で評判になっているので読んでみました。確かに面白いんですが、浅いんだよなあ。はっきり言って成瀬あかりの個性で持っているだけな気もします。無論周りを取り囲む仲間や同級生達にも焦点は当てられています、特に相方とも言える島崎は成瀬の人間離れした性格に引けを取らない対等の立場として描かれています。でもやはり主役は成瀬で、常識に囚われないその個性の強さには誰も付いて行けません。

普通真面目に二百歳まで生きると宣言する少女はいないでしょう。誰も昔は人間が百歳まで生きる事が出来るなんて思っていなかったのだから、二百歳まで生きてもおかしくない。何百人もの人間が二百歳まで生きると言えばそのうち一人くらい生きるかも知れないと、真剣に考えているのが成瀬なのです。
一話目で毎日テレビ番組の『ぐるりんワイド』で閉店を迎える西武大津店にて、中継に映り込むのが夏休みの目標という奇矯な行動で、少しずつ周りに反響を起こしていく過程はなかなかワクワクしました。しかし、それ以降は何だかよく出来たラノベを読んでいる感覚でしたね。
残念ながら私にはそこまで心に刺さる要素がなく、この冒険小説を称賛する程感銘を受けたとは言えませんでした。あ、でも見開きの成瀬あかりのイラストは可愛くはないものの目と眉毛に意志の強さを見た気がしました。マスクをしているから余計にそう思うのかも知れませんが、こんな娘がいたら確かに目立つだろうなと。
余談ですが、大津という土地は何度か訪れましたが、県庁があるだけで他に何もない印象なのは小説にある通りだと思いました。大津市民のみなさん、ごめんなさい。


No.1620 7点 一九三四年冬―乱歩
久世光彦
(2023/04/26 22:43登録)
執筆に行き詰まり、衝動に任せて麻布の長期滞在用ホテルに身を隠した探偵小説界の巨匠・江戸川乱歩。だが、初期の作風に立ち戻った「梔子姫」に着手したとたん、嘘のように筆は走りはじめる。しかし小説に書いた人物が真夜中に姿を現し、無人の隣室からは人の気配が…。耽美的な作風で読書人を虜にした名文家による、虚実入り乱れる妖の迷宮的探偵小説。山本周五郎賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

大袈裟に言えば乱歩の全てを知った気になれる作品です。勿論そんな訳はないんですが、少なくとも乱歩に関する人となりや氏の残した業績、人間関係などはよく調べて描かれているのではないかと思います。知り合いでも研究者でもない私がこう書くのもおこがましいですが。禿にコンプレックスを抱くあまり、ある作品の登場人物秀ちゃんを誤植で禿ちゃんとなっていたのに激怒したり、異国の人妻にエロスを感じたりする乱歩は物凄く人間臭く、巨人としての乱歩ではなくあくまで一個人として生々しく描写されているのは評価できる点だと思います。また、渡辺温、小酒井不木、水谷準、横溝正史、永井荷風らの名前が出て来るのもオールドファンには嬉しい所じゃないでしょうか。

そしてそれよりも何よりも作中作の『梔子姫』が素晴らしい。本当に乱歩が描いたようのではないかと錯覚する程、筆致も似ておりこれだけでも高評価を捧げるのに吝かではないと感じます。ここに登場する口の利けない娘に主人公がのめり込んでいく過程はとても共感できますし、エロが苦手な方でも甘美な白昼夢を見る事必至でしょう。憐れで悲しく辛い境遇におかれても、生きたいと願う梔子姫が健気過ぎて泣けてきます。


No.1619 6点 ぢるぢる日記
ねこぢる
(2023/04/23 23:11登録)
1998年5月10日、漫画家ちるぢる(本名 橋口千代美)は自宅のトイレのドアノブに巻いたタオルで首を吊っているところを、夫に発見された。ちるぢる31歳の時だったという。若くして自ら命を絶った漫画家は以前からうつ病に冒されていた・・・。

さて本作は本来エッセーに分類されるべき作品だと思いますが、それにしては余りにもその内容が現実離れしたものが多いので、私にはすべてが実際に起こったことだとは思えない、という訳で一応その他にしました。体裁としては子供の絵日記と考えて頂ければよいかと。ただし、絵の方は流石に漫画家だけあって俗に言うへたうまなタッチで、素人には描けそうで描けない感じでしょうか。
ほとんどが作者が体験又は遭遇した出来事を斜め目線で観察しており、その文章は活字ではなく手書きの文字で書かれていて、上手くはないけれど端的ではあります。敢えて感情を抑えて淡々と見たままを描写している気がしました。

とてもではないけれど現実とは思えない一例以下に挙げておきます。
・自宅の前の歩道でピンクのスーツを着たおばさんが、いきなりパンツをおろしてう○こをし始め、旦那を呼びに行っている間にいなくなっていたが、そこには証拠品が残されていた。
・ある日、周りに誰もいない時、空を逆L字型の物体が光りながら浮かんでいた。その何ヵ月か後今度はI字型の物体を目撃した。
・インド製のストロベリーティーを飲んだら、何故か松茸味だった。
・深夜3時ファミレスで、会社員が商談をしていた。彼らはいつ寝ているのだろうと思うが、自分も商談していたという話。

色々あり過ぎな人生だぜ・・・。


No.1618 6点 イリヤの空、UFOの夏 その1
秋山瑞人
(2023/04/22 22:59登録)
「6月24日は全世界的にUFOの日」新聞部部長・水前寺邦博の発言から浅羽直之の「UFOの夏」は始まった。当然のように夏休みはUFOが出るという裏山での張り込みに消費され、その最後の夜、浅羽はせめてもの想い出に学校のプールに忍び込んだ。驚いたことにプールには先客がいて、手首に金属の球体を埋め込んだその少女は「伊里野可奈」と名乗った…。おかしくて切なくて、どこか懐かしい…。ちょっと“変”な現代を舞台に、鬼才・秋山瑞人が描くボーイ・ミーツ・ガールストーリー、登場。
『BOOK』データベースより。

冒頭、主人公の中学二年生浅羽直之とヒロイン伊里野可奈との出会いは非常に幻想的で、初っ端から心を持って行かれます。シリーズ一作目という事で、これは主な登場人物紹介を兼ねた序章という立ち位置と考えて良さそうです。それぞれが個性的でキャラ立ちは万全と考えて間違いないでしょう。これだけ描き分けられる作者の実力は本物で、Amazonでも大変高い評価を得ています。ただ、本作を読んだだけでは、ここから一体何が始まるのか、物語がどう転ぶのか全く読めません。どう考えても次巻へと読者の思考を誘う様に仕向けられているとしか思えませんね。

浅羽はまあどこにでも居そうな役どころではありますが、長身で女にモテるけれど思考回路が常人と違う園原電波新聞部部長の水前寺邦博に引っ張り回されて悪戦苦闘するし、同じ部の特派員(部員)の晶葉は常に強気だが密かに浅羽に恋している様だし、浅羽の妹の夕子はブラコンだし、保健の先生の椎名真由美は曰くありげで怪しい存在だし、ヒロイン伊里野可奈は異星人との関連が見え隠れしているし、伊里野を付け狙う存在も気になるところだし、色々人間関係がややこしいことになっています。これらのキャラの挙動だけで十分面白く、今後の展開に期待していずれ第二弾も読んでみたい気持ちになりました。


No.1617 7点 正義の段階 ヤメ検弁護士・一坊寺陽子
田村和大
(2023/04/20 22:43登録)
ヤメ検弁護士の一坊寺陽子のもとに、同期で同じ福岡で開業している桐生晴仁から依頼が届く。
それは桐生が起こされた懲戒請求の代理人だった。
「桐生晴仁が佐藤昇を殺した」。
懲戒請求の理由に書かれていた人物は桐生の従兄弟で16年前、両親を殺害した罪で収監されている人物だった。
陽子は依頼を引き受けるが・・・・・・。
Amazon内容紹介より。

まず言いたいのはタイトルのネーミングセンスの無さ。『正義の段階』って意味分からんし、一坊寺陽子って・・・。確かに舞台である福岡には一坊寺麻希という現役弁護士がいます。作者も弁護士なので知己かも知れませんし、許可を得て名前を借りたのかも知れません。別に雨宮麻衣でも神凪瞳でも(テキトー)良かったけれど、一坊寺だけは駄目でしょう(ご本人には失礼ですが)。このタイトルを見てよし!これを買って読んでみようと思う人は少ないんじゃないですかね。はっきり言ってダサいもん。

前置きが長くなりましたが、正直私は作者に振り回されましたね。二つの親殺し事件を扱っていますが、二件目の案件がややおざなりにされている気がしました。意外と早い段階で真相が明かされて、その後は一体どこに向かって物語が進んでいるのか判然としません。謎らしきものも少ないし、何だかなあと思っていたら、ラストで見事に背負い投げを喰らいました。まさかこんな事になっていたとはねえ。ここに来て初めて作者の凄みを見せつけられた気分です。ただ細かい事を言うと、そんなに上手く思惑通りに事が運ぶだろうかとは思いました。しかしとにかく読んで良かったですよ。


No.1616 6点 シンデレラ城の殺人
紺野天龍
(2023/04/17 22:44登録)
童話×ミステリ!容疑者は、シンデレラ!?

幼い頃に父親を亡くし、継母や義理の姉たちとともに暮らすシンデレラ。

ある日、シンデレラは怪しい魔法使いに「ガラスの靴」を渡され、言葉巧みに王城で開かれる舞踏会へと誘われる。

お城に到着するやいなや、美しいシンデレラはさっそく王子様の目にとまる。「ガラスの靴では踊りにくかろう」と王子様から靴を借り、シンデレラは王子様とダンスを踊る。

ダンスが終わり、ガラスの靴を返してもらうため王子様の私室へと赴くシンデレラ。
Amazon内容紹介より。

あのシンデレラの一人称で語られる本格ミステリ。地の文も会話文も丁寧語な為、慣れるまでに時間がかかります。会話文かと思いきやシンデレラの心の声だったという現象が、漫然と読んでいたせいか何度も起こりました。
王子殺害事件が城内で起こり、シンデレラにしか成し得なかったと考えられ、即座に法廷劇に移行していきます。裁判には弁護人が存在せず身の潔白を証明するには、シンデレラ自らが推理し犯人を指摘するしかない状況に追い込まれます。

一見単純そうに考えられた事件が、裁判が進むにつれどんどん複雑になっていきます。其処は魔法すら可能な童話の世界なので、それじゃ何でもアリじゃんとか思い始め鼻白んでいましたが、そこはそれアンフェアにならない工夫が凝らされてやや安堵しました。
真相に至る過程はなかなか考えられており、地味ながら合理的解決に持ち込もうとしますが、その都度謎が立ちはだかります。そして、追い詰められたシンデレラは遂に事件の核心を突いて真犯人に迫ります。
手を変え品を変え様々なギミックを駆使して、読者を飽きさせないよう努力している姿勢は伝わってきますが、残念ながらカタルシスを得られるとまではいきませんでした、個人的に、ですよ。読む人が読めばもっと高得点だったかも知れませんね。

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