江守森江さんの登録情報 | |
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平均点:5.00点 | 書評数:1256件 |
No.1016 | 2点 | レッドゾーン 真山仁 |
(2010/08/10 04:16登録) 「ハゲタカ」シリーズの第三弾で、先週土曜日NHKで放送された映画「ハゲタカ」の原作(但し、ドラマ同様に基本設定からしてカナリ別物) 前作からより実年に近づき、起こる経済事件も現実を一層意識させる。 シリーズ自体が経済小説なのでポリシー通り2点(一般小説としてなら満点)としたが、シリーズで一番ミステリー的な策略に満ちていて面白い。 小説の方が、レッド=中国が日本に襲いかかってくる様が強烈で圧倒される。 原作はNHKでは放送不可能なエロさも読み所。 シリーズが進むに連れて壮大になるハゲタカ・ワールドなので次作が待ち遠しい。 |
No.1015 | 4点 | 父は戦争に行った 阿部牧郎 |
(2010/08/10 00:13登録) 幅広いジャンルで書いている直木賞作家だが、サラリーマンを主人公にした官能小説が一番作者らしいと思っている。 昨日、テレ東で再放送されたドラマの原作が作者で、らしからぬ正統派なミステリーだった事に驚き、原作もおさらいしたら同様だった。 近代的な老人ホームで起きた殺人を娘が調べると周りの人物達の戦争体験が浮き彫りになり、さらにミステリーとしてのひねりもある。 しかし、作者の主張は戦争に対する思いで、テレビで毎年この時期に多くなる戦争関連作品で間違いないだろう。 書かれてからでも20年以上が経過し、終戦から60年以上経過した今では、戦後世代の読者に訴えは伝わり難い。 この作品で強請られる人物も、今なら普通な戦争反対者で非国民と世間から非難されないだろう。 |
No.1014 | 5点 | エデン 近藤史恵 |
(2010/08/08 11:50登録) 自転車ロード・レースのプロレーサーを主人公にした「サクリファイス」の続編で、舞台が日本人でも知っている世界的レース「ツール・ド・フランス」になりアスリート小説としてスケールアップした。 賭けゴルフや賭け麻雀で弱者をカモり続ける技法の転用にドーピングを絡めたミステリー部分(そもそも作者がミステリーとして描いているのかすら疑問)は、ドーピング疑惑の噂が書かれた時点で先の展開が読み切れてしまい褒められない。 また、徹底してチームにエースは1人と強調しながら、当該フランス人2人が過去のレース過程で、どちらがエースか認識していない事に矛盾を感じる(ミステリー部分は4点以下) 一方で、ロードレースがインテリジェンスを結集したスポーツとして興味深く描かれアスリート小説として面白い(此方は7点) 更なる続編で描かれるであろう翌年以降の「ツール・ド・フランス」の結末に興味津々で、ミステリー色を排してでもアスリート小説として完結してほしい。 ※余談 ママチャリで図書館に通う身には、日本では自転車が移動手段として一般普及していて良かった。 |
No.1013 | 2点 | マイナス・ゼロ 広瀬正 |
(2010/08/05 06:29登録) タイムマシーン物のSF作品で、タイムパラドックスを矛盾が生じないように上手く処理している其方の分野での金字塔的作品。 私的にはミステリーの範疇にない作品なのでポリシー通り2点。 「T型フォード〜」と同時期に読んだが嗜好外でもあった。 肩の凝る様な難しいSF作品ではないので「ドラえもん」が好きなら普通に楽しめると思うが、遡った時代設定の古さに馴染めるかどうかは別問題。 何故だかタイムマシーン絡みの作品では未来を覗くより過去に戻る方を好む傾向にある。 ※余談 藤子作品で唯一好きなのが「プロゴルファー猿」で「ドラえもん」にはさほど興味が無い。 |
No.1012 | 2点 | バイアウト 真山仁 |
(2010/08/05 04:34登録) 文庫化に際してハゲタカ2に改題された。 前作・ハゲタカ同様に経済小説或いは日本再生小説で、私的なミステリーの範疇外なのでポリシー通り2点。 主人公二人の対決は前作をも凌ぐ面白さで、更に作品世界は広がりをみせる。 現実社会の時代の流れに即して不良債権処理から企業買収にテーマがスライドしてきた。 ここまで来ると日本再生は非凡な経営センス程度では太刀打ち出来ない事を痛感する。 書かれてから数年しか経過していないが、当時の歪みが現在の経済情勢や事件に浮かび上がっている現実を直視しなければ日本再生は有り得ない。 何だか政治家の演説みたいな書評になってしまったが、偶にはこの手の経済小説を読んで借金塗れな日本の財政について考えてみるのも悪くない(皆さん!日本が破綻した場合のバックアップはしてますか?) |
No.1011 | 2点 | ハゲタカ 真山仁 |
(2010/08/05 03:22登録) 目標にしていた書評千件を達成したら、猛暑とテレビのドラマ攻勢(週に連ドラ20本以上録画視聴中)にやられてしまい、読書を3日間休んだ。 映画版・地上波初放送の番宣を兼ねて、ドラマ版がNHKで深夜一括再放送中(本日放送分までが本作、以降は「バイアウト」をベースにしている。ドラマと原作では本質は同じだがカナリ別物) 経済謀略(再生)小説として非常に面白い(満点に近いレベル)が、私的なミステリーの範疇外なのでポリシー通り2点。 バブル後の不況な時期に上手く立ち回り、仕事を管理会社任せの不動産賃貸に切り替え今では趣味三昧な生活をしている私には、当時は私自身が小規模な「ハゲタカ」或いは「ハイエナ」だったと思える。 作者や池井戸潤、古くは山崎豊子・梶山季之・清水一行・城山三郎らが書いた裏・経済小説は、実生活への示唆に富み、意外な実用書だと思っている。 最終的に銀行など大企業の失敗は国を通じて一般国民(税負担)に尻拭いさせるシステムが確立している事に激しい憤りを感じる。 これでは日本は再生されない。 次世代の日本に希望はあるのだろうか! |
No.1010 | 4点 | 三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人 倉阪鬼一郎 |
(2010/07/31 21:44登録) ※但し書き 書評順に拘りが出てきたが、どうしても1010(せんとう)番目の書評をこの作品で埋めたかったので例外的に二回目の書評を記す(千住〔せんじゅう〕に関する代表的ミステリーは思い浮かばなかった) 私的な採点は前回の満点(8点)だが作品の平均点を考慮して今回は4点にしておく。 無駄に心血を注ぐ作者の本領が一番発揮された作品だと思うが、その稚気を楽しめなければゴミ同然なのかもしれない。 馬券購入に偶に水道橋に出向き神保町から神田まで古本屋散策する私には最後のオチが一番楽しかった! |
No.1009 | 4点 | 信長の棺 加藤廣 |
(2010/07/31 21:32登録) 文庫は上下巻に分冊されたが単行本は一冊。 織田信長の遺体が本能寺で発見されない事から派生する「本能寺の変」での陰謀と信長の行方を大胆に推理した歴史ミステリー。 テレ東の歴史バラエティー番組で同じ様な見解の実証の為に近隣の土地を掘り返していた位には信憑性がある説ではある。 その一方で、その他の設定部分がお粗末過ぎる為にバラエティーレベルを超えられない作品でもある。 ※余談 フィギュア・スケートで織田信成を観る度に、こんな奴が信長の末裔なのか!とのガッカリ感がある。 ※追記(11月27日) 新聞で島荘が60歳以上限定本格ミステリー新人賞を制定したと書かれていた。 そこに実例でこの作者が取り上げられ、当時74歳でこれがデビュー作だったそうだ。 |
No.1008 | 2点 | モザイク 勝目梓 |
(2010/07/31 21:23登録) タイトルから作者らしいハードなバイオレンス作品だと思い手にしたら性愛小説だった(ミステリーではないのでポリシー通り2点) 自宅でビデオを観ていたら突如アダルトビデオになり彼女が出演していた事から二人のセックス観を掘り下げる話で描写は官能バイオレンスだが本質は性愛小説。 愛情とセックスは共存しえるのか本気で考えさせられる。 図書館の文庫棚の前で読みふけってしまい、何だか照れくさい作品だった。 男って女性のセックス観には無知だとつくづく思い、家の嫁(私はいつでも女性として扱っているつもりだが)はどうなのか?聞くのが躊躇われる。 |
No.1007 | 5点 | 丘の上の赤い屋根 青井夏海 |
(2010/07/31 07:37登録) 地方のFMラジオ局を舞台にしたコミュニティー小説で、細かな気付きや伏線はあるが全くミステリーではないと思わせながら最終章には放火の(一応)意外な犯人が用意されていた。 もしミステリーならタイトルの謎を解明する話だと思っていたらアッサリ解明され一杯食わされた。 そもそも主題は、中途半端に東京近郊な地方都市の住人達が抱える問題やラジオ局の面々の家族関係を描くことにあり、ハートフルなコミュニティー小説として読む作品だろう。 古めな洋楽に興味があれば各章の前にあるタイトル・リストも楽しめるだろう。 作品に因んで私の“あな四”(三曲に絞れず)を記す。 「安奈」甲斐バンド 「時の過ぎゆくままに」沢田研二 「白い海峡」大月みやこ 「旅先の雨に」新沼謙治 |
No.1006 | 5点 | 紳士同盟 小林信彦 |
(2010/07/31 00:25登録) かなり以前だが、薬師丸ひろ子主演(主題歌も歌う)で映画化されヒットした(駄作と評判) それをテレビ放映時に観て図書館でおさらいした(以前からファジーな読書を実践していた、昔は映画が地上波落ちする頃にはブームは終わっていた) この作品以前に、同じ様な内容(騙された仕返しで大掛かりなグループ詐欺を仕掛ける話)の海外映画を観た記憶があった(作品名は昔の事で覚えていない) 詐欺を紳士的ユーモア小説で描けばこの作品に、ハードな経済小説方向で描けば高木彬光「白昼の死角」に、エロ悪漢小説に描けば梶山季之「悪人志願」になる、と類似作品が思い浮かんだ。 その当時は悪漢に憧れていたので類似作品の方が好みだった。 ※余談 足立区の「111歳生きてる年金“詐欺”」の家をノコノコ野次馬して来てしまった。 |
No.1005 | 4点 | 視線 石沢英太郎 |
(2010/07/30 01:54登録) この所、テレ東(月〜水の昼間)で約二十年前に制作した一時間完結ミステリードラマを再放送している。 しかも、最近は受賞作シリーズと銘打たれた作品群で、思わぬ作品に出くわし楽しめている。 今週の水曜日は表題作(日本推理作家協会賞短編賞受賞)だったので図書館でおさらいしてきた。 ドラマではヒロイン設定で恋愛絡みに改変され贖罪を描いていた。 どの道、視線による殺人誘導は立証出来ず法律では有罪に出来ないだろう。 そんな作品なので原作では一層モヤモヤしてしまった。 作風が嗜好に合わなかったが「一本の藁」は収録7編の中では楽しめた。 作者は二時間ドラマ好きには牟田刑事官でお馴染みなので、そのうち其方のシリーズを読んでみる予定。 |
No.1004 | 3点 | フィリップ・マーロウよりも孤独 平石貴樹 |
(2010/07/30 01:11登録) タイトルから想像させるハードボイルドでも「誰もがポオ〜」や「笑ってジグソー〜」の様な本格ミステリでもない。 私的に今一つ馴染めない学園紛争時代を絡めた青春&家族群像を記憶と妄想(想像)で手記に纏めた一風変わったミステリー(私的な範疇に含めるかすら微妙)だったので完全に期待外れな作品だった(かなり昔の遠い記憶) 本業のアメリカ文学研究(私的に全く未知)の余勢で書かれた作品なのだろうか!と残念な思いがあった。 作者には論理的な本格ミステリを求めていて、本業関係の(評論や翻訳)作品には興味が湧かないし、何となく読んだ本作と純文学な「虹のカマクーラ」でそっち方面は肌が合わないと認識した。 ※余談 プロフィールで好きな作家に取り上げているが高木彬光同様に作品は限定される。 |
No.1003 | 5点 | そして誰もいなくなった アガサ・クリスティー |
(2010/07/29 23:17登録) ※但し書き 最近再々読し、新たに書きたい事に思い至ったので例外的に本作二度目の書評を記す(私的に書評が千件を越えて書評順に拘りが出てきた) 本作を犯人当ての本格ミステリとしては全く評価していない。 更に、前回の書評でも書いたがサバイバル・サスペンスとしての生き残り本気度にも疑問は残ったままであった。 しかし、そんな事を超越して「そして誰もいなくなった」のタイトルでは読む前から結果が曝され、誰がどんな順番で殺されようが最終的に全滅な訳で(作者に何ら罪はないが)サスペンスとしてシラケてしまう欠点がある。 差別用語に配慮してこのタイトルに改変を考えた奴は、この事に思い至らなかったのだろうか?(ジュニア版を読んだ息子には究極のネタバレ・タイトルだったらしい) 差別的で冴えない原題を直訳出版していれば良かった(世界中に普及した)のか悩ましいが、確実にタイトル改変以降の大方の読者は無意識な被害者になっている。 こんな下らない戯言を考えさせる位に不朽の名作ではある。 獄門島でも言えるが、現在の差別用語に対する過敏な反応が古典的ミステリの面白さを阻害する可能性を危惧する。 |
No.1002 | 6点 | サクリファイス 近藤史恵 |
(2010/07/29 05:50登録) ツール・ド・フランス新城(あらしろ)選手二年連続完走&アームストロング選手(この作品に名前だけだが登場)ラスト出場記念。 自転車ロード・レースの世界を舞台にしたアスリート小説として自転車で駆け抜けるような疾走感で読めて面白い。 日本では馴染みのない世界なので前半では丁寧にシステムを説明し、更に主人公の立場と心理を描写しながらさり気なくミスリードを刷り込んでくる。 後半では海外遠征が描かれながら事件が起こりアスリート小説からミステリーに変貌する。 アスリート小説に見せ掛けた連城&道尾系の反転ミステリーとしても面白いのだが、ロードレースに少しでも興味があると世界的に有名なドーピング渦に前半で全く触れない時点で先が想像される。 また、続編がある事を知っていると主人公の無事が見えていてサスペンスに欠けるし、前半の刷り込み効果が薄まる。 本当の意味での主人公な石尾が、石持浅海作品に似た特殊な行動原理(ロードレース観)で描かれているので受け入れられるかが作品評価の分かれ目になる。 その部分をスルーしてミステリーと捉えず、青春アスリート小説として楽しむべき作品なのかもしれない。 |
No.1001 | 3点 | 雁の寺 水上勉 |
(2010/07/27 17:44登録) 新たなる区切りへの門出、1001件目にはアラビアンナイト(千夜一夜)絡みなミステリーをと思ったが適当な作品が思い浮かばなかった(カーは未読で芦辺拓は既に書評済み)ので、肩肘張らずに平常通りな作品選択にした。 本日、テレ東で再放送された作者の出世作にして直木賞受賞作品の「雁の寺」を図書館でおさらいしてきた(注記:越前竹人形はスルーしました) 生臭さ坊主と愛人と小僧の微妙な関係を描き、ミエミエに感じるが和尚殺しのリドル作品ではある。 文学的で重苦しい作品で、直木賞との相性の悪さを感じてしまった。 それでも、池畑慎之介(ピーター)が朗読したCDは聴いてみたい。 |
No.1000 | 5点 | 神津恭介の回想 高木彬光 |
(2010/07/27 09:36登録) 書評1000件一番乗りバンザイ!ばんざい!万歳! 記念すべき1000件目は一番好きな名探偵・神津恭介で飾ろう! ここまでは予定通りだが、悲しいかな本作は、埋もれた作品の復刻作品集(5話収録)でしかない。 しかも別作品や長編として改稿された為に埋もれていた作品達を平成シリーズ(一部の神津ファンには黒歴史)発行に抱き合わせして纏めた感が、ありありとしていて残念でもある。 唯一の楽しみは鮎川哲也でも言える事だが、本作(原点)と改稿作品の読み比べだけであろう。 それでも、読み比べると改稿での工夫などが見えて楽しいのは間違いない。 ※読み比べガイド(前が本作収録作品) 「死せる者よみがえれ」→百谷シリーズ「破壊裁判」 「白魔の歌」→長編化 「四次元の目撃者」→「死を開く扉」 「緑衣の女」→「小指のない魔女」 「火車立ちぬ」→「火車と死者」 |
No.999 | 6点 | やらずぶったくり 梶山季之 |
(2010/07/27 09:21登録) 書評1000件カウントダウン「1」 「銀河鉄道999」でも無理くり書評してしまおうかとも思ったのだが、一番好きな作家の作品で前祝いする事にした。 しかし、ミステリーに含まれる好きな作品は先に取り上げたので(エロ・サクセスストーリーなら「と金紳士」「日本人ここにあり」など傑作多数なのだが)この作品しか思い浮かばなかった。 友人に裏切られ社会的に一度葬られた男の復活サクセスストーリーに復讐譚を織り交ぜ、恋愛(エロ)までもサービスした作者らしさ全開の作品。 特に真に愛する夫人以外の復讐に利用した女性達の扱い方(処理)が御都合主義全開だがブラックで楽しい。 |
No.998 | 2点 | 七人の敵がいる 加納朋子 |
(2010/07/27 09:03登録) 書評1000件カウントダウン「2」 「小説すばる」連載時に読んでいた。 現在PTA活動をしている身には切実で、実際にありえそうな話なので楽しめた。 しかし、もはや加納朋子はミステリーから離れた作家で、ミステリーは旦那の貫井にお任せなのかもしれない。 この作品は私的でなくてもミステリーの範疇にはないと思うのでポリシー通り2点。 加納朋子の描く金太郎飴的だが上手い人物造形が好きな人と、実際に子育て中な方々が読めば楽しいだろう作品ではある。 |
No.997 | 4点 | らせん 鈴木光司 |
(2010/07/27 08:52登録) 書評1000件カウントダウン「3」 「リング」の後日談を同場面を混ぜながら描いているのでややクドい。 ホラーテイストな映画と違い原作ではホラーで終わる「リング」の科学的(遺伝学的)解明過程が描かれSFサスペンスに変貌した。 よって私的なミステリーの範疇に含まれる作品になったが、逆に純然たるホラーの楽しさは失われた。 「幽霊の正体見たり枯れ尾花」の枯れ尾花が科学的だと非常にシラケる。 来月にはテレ東でシリーズの映画版一挙放送があるので映画を楽しみたい。 |