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ミステリの祭典

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雁の寺

作家 水上勉
出版日1961年01月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 7点 クリスティ再読
(2022/10/13 08:46登録)
直木賞受賞作の「雁の寺」は、孤峯庵の和尚を殺して慈念が逐電するまでの中編でなんだけども、続編で「雁の村」「雁の森」「雁の死」と慈念のその後を描いたシリーズが続く。「雁の寺(全)」というタイトルで出ている文春文庫などはそのすべてを収録、「越前竹人形」を併録した新潮文庫は最初の「雁の寺」だけを収録。ちょっとややこしい。
直木賞の選考はほぼ全員一致。清張に刺激されて書いた「霧と影」「海の牙」といったミステリですでに流行作家だったわけだが、この受賞が「今更」視されくらいの堂々の受賞。自身の生い立ちをベースにミステリ手法を取りいれたわけだから、ミステリ手法による文学、というあたりが評価されたことになろう。

ある意味「社会派ミステリ」でもある。「仏教界の腐敗」を衝いたといえば、そう。孤峯庵の慈海和尚は「雁の寺」の由来になった画家南嶽の妾里子を、南嶽の死後に梵妻として寺に入れた....いやもちろん「破戒」であるし、この慈海はこの寺で養う小僧の慈念の師であるのだけども、「軍艦頭」と蔑視されるような異様な肉体の慈念に辛く当たる....もちろん禅寺の修行は厳しいのは当たり前だが、その伝統に隠れるかのように、和尚は贅沢な生活をし、小僧は作務と修行と仏事の手伝いに追われて、さらには学校・時代柄で軍事教練....

お寺の質素な生活が健康にイイなんてトンデモない、寺の裏には若くして亡くなった僧侶の墓が大量に並んでいる..なんてことを水上勉は別なところで言っていたよ。自身の小僧生活のルサンチマンが作品に昇華されているわけで、このシリーズ自体が水上のビルドゥングス・ロマンであり、また仏教界批判を込めた「社会派ミステリ」でもある。

うん、まあだけどまあ続編はやや落ちる。慈念は故郷の村に舞い戻り、自分の母親を探す話になるのだけども、最終的には雲水になって、事故死する(ネタバレ回避)。ミステリ度が落ちたのが、やはり続編が今一つの原因と言ってもいいのかもしれないよ。

で川島雄三の映画は大名作。若尾文子映画で、絶頂にキレイな頃。日本家屋の構造というものを徹底的に映画的に使いこなしてみせた川島の手腕が凄まじい。

(けどさ、ジョージ秋山の「アシュラ」って本作を意識したのかしら?)

No.1 3点 江守森江
(2010/07/27 17:44登録)
新たなる区切りへの門出、1001件目にはアラビアンナイト(千夜一夜)絡みなミステリーをと思ったが適当な作品が思い浮かばなかった(カーは未読で芦辺拓は既に書評済み)ので、肩肘張らずに平常通りな作品選択にした。
本日、テレ東で再放送された作者の出世作にして直木賞受賞作品の「雁の寺」を図書館でおさらいしてきた(注記:越前竹人形はスルーしました)
生臭さ坊主と愛人と小僧の微妙な関係を描き、ミエミエに感じるが和尚殺しのリドル作品ではある。
文学的で重苦しい作品で、直木賞との相性の悪さを感じてしまった。
それでも、池畑慎之介(ピーター)が朗読したCDは聴いてみたい。

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