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ミステリの祭典

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臣さんの登録情報
平均点:5.90点 書評数:660件

プロフィール| 書評

No.120 6点 長崎殺人事件
内田康夫
(2010/04/10 13:42登録)
グラバー園や稲佐山、島原など長崎の風情と旅情がふんだんに描かれていて、登場人物や作者の長崎に対する愛情が感じられました。おまけに事件の背景にあるのはカステラ業界。これほど長崎色を出せばミステリー要素なんてどうでもいいという感じもしますが、もちろんミステリー色(殺人3件の謎解き)も十分にあります。さらに、カステラ屋の美しい娘が事件にからみながら、叙情的で、福砂屋のカステラのようにしっとりとしたミステリー(変な表現ですが)となっていきます。というわけで、けっこう楽しめた作品です。

長崎に数年間住んでいたので、作品に登場するカステラ屋のモデルはどの店なのかなと想像しながら、懐かしんで読めました。ミステリとしての評価は中程度ですが、浅見光彦シリーズの中ではかなり印象のよいほうです。


No.119 4点 メランコリー・ベイビー
ロバート・B・パーカー
(2010/04/10 13:29登録)
2年ほど前、グーグルの村上憲郎氏が著書で、英語上達のために筆者の作品を翻訳に触れる前に原書で読むことを薦めていたことから知った作家です。早速、挑戦と勢い込みましたが、その後すぐ、古本屋で本書(もちろん和書)を見つけ、即購入してしまいました。もうそのときは原書のことなど頭から消え去っていました(笑)。本作はストーリーはテンポよく、文章も地の文、会話文ともに短文、軽妙でわかりやすく、読みやすいことが特徴です。おそらく英文も同様に読みやすいのでしょう。村上氏が薦めることに納得しました。

物語は、主人公の女探偵サニー・ランドルが女子大生サラから親探しの依頼を受けて真実を追う話に、サニー自らの別れた夫との問題が絡みながら進行します。親探しのほうは中盤、調査に絡んで殺人事件が発生してすこしはミステリーらしくなりますが、サスペンスも意外性もハードボイルド性もほとんどなく、まったくの肩透かしに終わりました。本書はおそらく、シリーズ第1作からのファンが、常連登場人物の気が利いた洋画のようなセリフや行動を楽しむ、そんな作品なんだと思います。なお、文庫本の裏表紙のハードボイルド作品であるとの説明には、ちょっとうなずけません。


No.118 7点 夢判断
阿刀田高
(2010/04/05 10:32登録)
収録作品は、「あの人をころして」「柳の下のジンクス」「銀座の恋の物語」「蜜の匂い」「ベター・ハーフ」「殺意」「海が呼ぶ」「凶事」「自殺クラブ」「紅白梅の女」「演技」「夢判断」「干魚と漏電」「勝ち馬情報」の14編。
著者の奇妙な味系のものにはもっと怖くて楽しい作品集もありますが、それにくらべて本書はやや薄味です。でもブラックユーモア系、怪奇ホラー系、お笑い系と種々そろっているので飽きることはなく、読み進むうちに平均以上の佳作ぞろいだなということを実感しました。「ベター・ハーフ」「凶事」「海が呼ぶ」「干魚と漏電」が私のお気に入りです。
ヒマつぶしのお手軽作品ですが、このクオリティなら高評価できます。


No.117 5点 彩霧
松本清張
(2010/04/01 15:01登録)
主人公の知念が友情のため、正義感に燃えて組織悪に立ち向かうというストーリーです。企業と人間の暗部がうまく描かれていて楽しく読めました。

主人公を除けば登場人物のほとんどが、横領、逃亡、強請りなどをやる悪人なので、悪漢小説的なところがあるし、銀行が舞台なので企業小説的なところもある。他の清張社会派作品とはちょっと雰囲気が違うような...でも、物語の発端からぐいぐいと引っ張ってくれる展開は、いかにも清張らしい。


No.116 8点 告白
湊かなえ
(2010/04/01 12:01登録)
「イニシエーションラブ」でさえ再読はしませんでしたが、本書は筆力に圧倒され、読み急ぎ、読み飛ばす勢いで最後まで駆け抜けてしまったので、すぐに読み返しました。感想は、こうさんとほとんど同じです。が、さらに、作者の欲張りすぎが感じられました。

(以下ネタバレ)
本書は母と子の絆がテーマの1つとなっていて、2組の母と子の絆によって断ち切られた1組の母と子の絆が、復讐のため2つの絆を切り裂いてゆく、という怖い話です。この復讐劇は私の好みからして大歓迎なのですが、中途の展開で、復讐のターゲットとなる二人の少年を「罪と罰」のラスコーリニコフの化身のごとく取り扱うのは、どうみても作者が手を広げすぎた感がします。そしてそんな展開の最後に、あの救いのない美しすぎるオチをもってくるのは、凄すぎますね(褒めてるのか、貶してるのかわかりませんね)。

(ネタバレ解除)
第一章だけが応募作らしいですが、それに続けてこんな内容を連作するとは、この新人は怪物かもしれません(すこしムリもありましたけどね)。世知辛い世の中にこんな暗い小説が何十万部も売れることに驚きましたが、多くの人たちが強烈なミステリを求めているんだなと納得もしました。とにかく、伏線もうまく、本当に面白く読ませてもらいました。一次ブームはすぎたようですが、映画でかならず再燃するでしょう。楽しみです。


No.115 7点 動機
横山秀夫
(2010/03/30 12:57登録)
組織の中の人を描いた作品、4編が収録されています。
こういうミステリーを書かせれば、この作家の右に出るものはいないのではないでしょうか。「逆転の夏」は抜群にうまいですね。でも平均すれば点数はこんなところです。「短編の名手」にとっては並の短編集なのかもしれませんね。


No.114 2点 三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人
倉阪鬼一郎
(2010/03/30 12:54登録)
作者のバカミスに対する情熱と努力に心から敬意を表します。
普通のすぐれたミステリなら作者の苦労は意外に理解できないものなのですが、この作品は本当にわかりやすく、そこは評価できるところです。また読みたくなるような作家さんですね。

でも話はぜんぜん面白くありません(「四神」以下かも)。それが唯一の欠点。そこをクリアしてくれたら文句なしですね。


No.113 7点 グリーン家殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2010/03/26 15:32登録)
ストーリーの流れは読者に対して実に丁寧です。100ほどの手掛かり項目の列挙も丁寧さを示すものですが、これは作者の自信の表れかもしれません。このような作者の自信は、場合によっては自己満足的にも見られがちとなり、エンターテイメント性に欠ける要因にもなって、現代ではやや受け入れがたくなっているようにも思います。でも私は、なぜかこの作品に、同じジャンルの「Y」や「犬神家」よりも今風の現実感を感じます(だから好きだというわけではありませんが)。そういう面で、今でも誰もが違和感なく楽しめる作品だと思うのですが。。。
とにかく、本書の後世のミステリに与えた影響はすごく大きいですね。その辺りを含め私は高く評価しています。
私にとってヴァン・ダインといえば、その作品群よりも「二十則」がまず頭に浮かびます。ノックスの十戒は冗談半分で作ったとも聞きますが、二十則のほうはどうみても真剣そのもので、著者の生真面目さを窺い知ることができます。おそらく著者の作品群は、真面目すぎるほど真剣に取り組んだ結果生まれたものなのでしょうね。


No.112 5点 六甲山心中
陳舜臣
(2010/03/26 15:13登録)
神戸周辺を舞台とした短編ミステリー集。表題作ほか、「染められた骨」「三角犯罪」「幻の不動明王」「骨を洗う女」「ぼくらは逃げた」が収録してあります。
陳氏の作品はおおむね人物造形がよくできていますが、本書は短編のせいか、人物は長編ほど丹念に描かれていません。内容はタイトルどおりやや暗めで(暗いのは好みだったりする)、後味もあまり好くありませんが、ストーリーの切れ味だけは好かったですね。
氏の著作には『枯草の根』『炎に絵を』『神獣の爪』など秀作ミステリが数多くありますが、それら主要なもの以外のほとんどのミステリが街の本屋で入手しにくくなっているのは残念です。


No.111 4点 京都先斗町殺人事件
和久峻三
(2010/03/13 14:11登録)
赤かぶ検事シリーズ。
インサイダー取引が絡む、京都の企業が舞台の推理小説。鴨川べりの花火見物中での殺人、そして死体消失。物理トリックもあって本格性はあるが、社内抗争がベースにあるから企業小説的なところもある。しかし、殺人謎解き推理と、企業モノとの融合は私にとって相性が悪く、チープ感だけが残ってしまった。テレビで見たほうが楽しそう。


No.110 6点 天使の傷痕
西村京太郎
(2010/03/13 13:16登録)
著者の旅情ミステリはあまり読んでいない(テレビはときどき観ていた)のではっきりしたことはいえませんが、本書は本格に社会性が加味されているせいか(逆かもしれませんが)、旅情モノとちがってミステリとしての深みがあるのではないでしょうか。でも、その社会性は自然な流れで描かれているので、それほど重苦しさは感じられず、展開そのものもスムーズで読みやすく、しかも意外性もあり、上質な仕上がりになっています。ミステリ嗜好が多様ないまの時代でも、多くの人が平均的に楽しめる作品だと思います。


No.109 7点 果断
今野敏
(2010/03/11 11:30登録)
西上心太の解説によれば前作『隠蔽捜査』よりもミステリー的な味付けが濃いということだが、本当にそうだろうか。たしかにラスト100ページ(文庫版)ごろ(刑事・戸高の疑問が表れた時点)から物語は急展開に進み、にわかにミステリーらしくなりおもしろくなることにはちがいない。でも私はその段階で結末が読めてしまった。実は早いうちから、戸髙が感じたものと同じ疑問を抱いていた。だから、私にとってミステリー要素が濃いとはいえない。むしろ、ラストをどう締めくくるのかまったく読めなかった前作のほうがミステリーとして楽しめた。本格マニアが躍起になるフーやハウ、ホワイばかりでなく、読者に展開やラストを簡単に読まれないようになっていることも、ミステリーとして重要な要素だと私は思っている。そういう意味で本書はミステリー要素が不足しているように思う。しかも、所轄警察署が舞台のテレビ的なストーリーは陳腐な感がし、そこも前作より評価が落ちる要因となっている(前作は第1作ということによる衝撃もあったが)。とはいっても本書は、竜崎伸也のキャラと、読みやすさ(ストーリーの良さ)と、著者の文章テクニックとが有機的に結びついて読者を惹きつけてくれているから、傑作にはちがいない。

(ちょっと余談)
今野氏は女性ファンが多いと聞く。男の世界を描いた小説が多いのになぜ、とはじめは不思議に思っていたが、何作か読むうちに、これだけ心理描写が多くてしかも上手ければさもありなんと納得した。氏の作品にはハードボイルドもあるようだが、まともなハードボイルドになっているのだろうか、すこし疑問だ。まあ氏のテクニックなら大丈夫なのだろう。次回はぜひ氏のハードボイルド作品を読んでみよう。


No.108 7点 法律事務所
ジョン・グリシャム
(2010/03/11 10:51登録)
グリシャムの出世作、代表作です。当時、原作も映画も流行りました。その後の数々の作品も映画化され売れたので、それらみな代表作ともいえます。スティーヴン・キングやシドニィ・シェルダン、ジェフリー・アーチャー(今のダン・ブラウンもそうなのかな?)などと同じように、出せば当たり映像化もされる、そんな作家です。いまでもグリシャムは人気作家にはちがいないですが、国内では当時ほどの人気はないのでは、と思います。

本書は、主人公である新米弁護士の大胆な行動と、それによるスピード感とサスペンス溢れる展開に尽きます。逆に言えば、それ以外にはなんらの深みもなく、数年経てば詳細な内容はもちろん、感動したことすらも忘れてしまう、そんな作品です(米国の弁護士事情がわかったことが意外に記憶に残っていますが)。でも、エンターテイメント作品(ミステリー)なんてものは、その程度でも刹那的には十分に楽しめるので何の問題もありません。でも、ミステリーの中にも、ストーリーは忘れてしまっても、いつまでも感動や余韻を残してくれるような作品がたまにあります。そういう作品が8点~10点の対象です。


No.107 5点 赤い風
レイモンド・チャンドラー
(2010/03/11 10:34登録)
中短編4編が収められている。さらに、巻頭にはチャンドラー自身による序文もある。なお、私の読んだのはちょっと古めの積読本で、カバーのイラストがロバート・ミッチャム(ハンフリー・ボガードではない)のマーロウだった。

写実的で心理描写がほとんどないハードボイルド文体は、やはり読解困難だなと改めて実感した。ヘミングウェイが作り出したハードボイルド文体を、ハメットやチャンドラーがミステリーに適用させて、ミステリーを深みのある文学にし、かつ謎解きをより高度にした功績にはいまさらながら頭が下がる。しかし、行間の読みにくい文章を複雑なプロットに絡ませると、私のような凡人は頭がパンクしてしまう。とはいってもじっくりゆっくり読めば、自身で謎を解けないまでもストーリーにはなんとかついてゆけ、真相に納得したり感心したりできる。そしてうまくいけば、じっくり読んだ分、余韻がこころに刻まれる。

本書についてもこのように臨み、じっくり読んだ結果、フィリップ・マーロウ物である表題作と『金魚』にはそれなりに満足した。処女中編である『脅迫者は射たない』については、著者が渾身の力を込めて書いたという印象は受けたがプロットが複雑すぎて、ついてゆけなかった。また最後の『山には犯罪なし』は不完全燃焼に終わった。結果的にマーロウ物2編が非マーロウ物より好く感じたが、主人公のキャラクタ的には大差はない。

経験にもとづけば、チャンドラー作品に対する読み手の問題として、隙間時間で読むと絶対に失敗するということがよくわかった。一方、製作時期が離れた4作を集めたわりに構成が似ている印象を受けたのは書き手の問題なのか(負け惜しみかも)。
いままで数少ないが内外のハードボイルド長編を読んできて、ハードボイルドに対する苦手意識はある程度克服したつもりだったが、短編に当たると、まだ不十分だと感じる。なお、元祖ヘミングウェイのほうが謎解きが絡まない分、読解容易な気がする。

(余談)
チャンドラー作品などにはユニークで大げさな比喩がよく出てくる。海外物なのでまだ許せるが、国内物で長ったらしくて嫌らしい比喩を連発されると辟易し、途中で投げだしたくなる。ある芥川賞作家の作品には1ページに1回は独特の比喩が登場し、そんな作品を2,3作続けて読むと、本当に嫌気がさして、もう二度と読むものかと思ってしまう。日本には日本独特の小説文化があるのに、欧米型の比喩表現を真似ることはないと思う。


No.106 7点 葬儀を終えて
アガサ・クリスティー
(2010/02/24 12:52登録)
リチャード・アバネシーの葬儀の終えた後から、すべての物語が始まります。遺言公開の席上でのリチャードの妹のとんでもない発言、そしてその翌日の殺人、さらに数日後の怪事件と、アパネシー家を中心とした事件が次々に発生します。
前半は被害者の近辺やその他アパネシーの一族への聞き込みを中心とした展開、中盤からはポアロが家族たちをリチャード宅に集めての長い大団円の展開と、やや単調なストーリーですが、その分を差し引いても十分に評価できる作品だと思います。

(以下、ネタバレ風)
典型的な意外な犯人モノなのかもしれません。私はなんとなく直感で気付いてしまいましたが、もちろん何の根拠もありません。仕掛けも全く見破ることはできなかったので、そのトリックや真相を知ったときはあ然としました。とにかくミスリーディングについては秀逸ですね。単調なストーリーにもわけがあったような気がします。どちらかというと、意外な犯人に驚かされたというよりも、ミスディレクションに翻弄されて楽しめたという印象が強いですね。トリックの実現可能性については疑問が残りますが、よく考えたものだなと感心もしています。この犯人、知恵もさることながら度胸もありますね。


No.105 6点 王将たちの謝肉祭
内田康夫
(2010/02/24 12:30登録)
内田氏は囲碁では『本因坊殺人事件』、将棋では本書を書いています。どっちも好きなんだろうなと想像できます。本書はミステリー度がかなり低いし、ミステリーではないともいわれていますが、私はあくまでもミステリーと認識しています。たしかにミステリーとしては上質とはいえず、むしろラストの名人戦での柾田圭三9段の迫力満点の死闘を見どころとした、どちらかというと心打たせる作品の仕上がりとなっています。そう考えるとやはり、ミステリーとして評価するのには無理があるかもしれませんが、前半から中盤にかけて、謎の言葉を記した封書、謎の死、連続殺人など様々な謎がミッシングリンク的に提起されて、ミステリとして引き込まれることはまちがいありません。
また、羽生善治は実名で、升田幸三や大山康晴は名前を変えて登場するところも興味深いですね。本書の発刊当時、羽生善治は無名(すくなくとも7冠前)だったのではないかと思うのですが。。。


No.104 7点 厨子家の悪霊
山田風太郎
(2010/02/15 12:36登録)
このサイトに登録済みの本格篇「眼中の悪魔」(光文社)と一部作品がだぶっているのですが、他の作品が併録してあるし、タイトルが『厨子家の悪霊』となっているので本書も新たに登録しました。

巻末の有栖川氏の解説によれば、山風作品の特徴を「奇想」、つまり奇想天外なプロット、奇抜なトリック、不思議なロジック、意外な(恐ろしい、ゆがんだ、幻想的な、爆笑の)結末、と表現していましたが、まさに言いえて妙です。

(以下、ネタバレになるかも)
表題作には連なるどんでん返しに息を呑み、ラストのセリフには落語のオチのようで笑えてしまいました。『殺人喜劇MW』は、O・ヘンリーの『賢者の贈り物』的なラストの発想に仰天し(くわえて笑え)、『眼中の悪魔』にはフーダニットよりも展開の良さに引き込まれました。その他4編、すべて奇想な本格短編です。それに、くそまじめで固すぎる文体は、初めは作風に合っているのか合っていないのかわからなかったのですが(実はちょっと読みにくさがありました)、読み進むうちに物語とのアンマッチ感に笑えてしまい、結果的には文体にも満足しました。


No.103 4点 禁じられた恋の殺人
斎藤栄
(2010/02/15 11:25登録)
著者作品では江戸川乱歩賞作品である『殺人の棋譜』があまりにも有名。多作作家であり、『棋譜』の他には『タロット日美子シリーズ』『魔法陣シリーズ』など、今では知る人ぞ知るといった程度の作品が多い。読みやすく手ごろなミステリという感じだ。
本書は誘拐推理モノで、終盤まで犯人の本当の狙いが読めないように引っ張ってくれた点は良かったのだが、犯人の登場があまりにも遅すぎて、そのため後半部や幕切れには不満が残った。
なお本書は、単体のものは出版年月がかなり古く、名作でも代表作でもないので当然絶版。書店サイトで調べると『禁断の誘拐殺人 斎藤栄ベスト・コレクション8』に『誘拐霊園』と併録されているようなので、これはなんとか入手できそう。


No.102 6点 平家伝説殺人事件
内田康夫
(2010/02/05 17:06登録)
2時間ドラマ的作品ではあるが(何度か映像化されているはず)、それほど安っぽくなく、仕掛けやトリックはたっぷりあって十分に本格ミステリを構成している。トリックが単純であることは否めないが、論理的なフーダニット展開はお見事。それに、物語の起点であるプロローグの伊勢湾台風の回想シーンも決まっている。あまりにもミステリアスで、ここに謎がありますよと言わんばかりだが、だからこそ、読者をひきつけて離さないぞという意気込みが伝わってくる。私もそれだけで夢中になってしまった(単純すぎますね)(笑)。もちろん旅情もたっぷりあるのも良かった。


No.101 3点 四神金赤館銀青館不可能殺人
倉阪鬼一郎
(2010/02/05 14:31登録)
作者の情報としては本屋の平積みで時代小説家であることしか知りませんでしたが、調べてみるとバカミスでは有名なようです。しかも本作品のような変なミステリを書いているとは驚きです。
本書は金赤館、銀青館や奇妙な登場人物など舞台設定はよくできていて、それなりに雰囲気を出そうとしているところは好印象です。が、プロットなり、文章・文体なり、もうすこし読者をひきつけてくれるものがないと、たとえ驚愕の仕掛けや多数の伏線があってもマニア以外には空回りに終わってしまうでしょう。その程度の作品だと思います。まあバカミスですから、特定読者にだけわかってもらえればいいのかもしれませんね。
私もこういった作品がそれほど嫌いではありませんが(むしろ好きかも)、一般読者に対することを前提とすれば採点はこの程度が妥当でしょう。
それにしても、最後に明かされた仕掛けには疲れましたね(作者も読者も)。

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