密使 |
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作家 | グレアム・グリーン |
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出版日 | 1951年01月 |
平均点 | 6.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 7点 | クリスティ再読 | |
(2021/11/04 12:58登録) エンタメなグリーン。1939年の作品。アンブラーだと5作目の「ディミトリオスの棺」と同じ年だから、アンブラーはソビエトに対する失望感から立ち直ってきたあたり。要するにそういう危機的なヨーロッパ情勢を背景にしないと、この作品の味わいってかなり薄まるようにも感じる。 つまり、内戦下の母国からまだ戦争に巻き込まれていないイギリスに、石炭買い付けの密命を帯びて派遣された主人公D。なので「まだ平和」なイギリスの「平和」があくまで「まだ」なだけの、「危機的な状況」なのは同じなのにそれから目を背けているイギリス社会への批判的なまなざしは、おそらくグリーンの想いそのものなんだろう。Dのライバルとしていく先々に現れては策謀する貴族階級出身のLは、インテリ間の連帯感を通じてDに裏切りを勧めるのだが、Dはすでに薄れつつある収容所で殺された妻の記憶に賭けても裏切るわけにはいかない。 Dのアイデンティティは「死者の記憶」というか細いものだけが頼りなのだ。隠し持つ「信任状」にさえ裏切られたDは、任務の失敗を取り返すために炭鉱地帯へ赴く.... 文芸系スパイ小説の一番のシブ味というのは、あらゆる犠牲を払ってまで、なぜ自分がその任務を果たさなくてはならないのか?という問いにあるのだろう。その犠牲の重さにスパイは押しつぶされそうになる。この自問自答の小説なのだから、陰鬱なのはまあ、仕方ないよ。裏切りが多重に交錯する迷路のような状況は、戦争まじかのイギリスの暗鬱さでもあるわけだし、空襲で埋まった自分が掘り出される「記憶」は、本書出版の後でイギリスが受けた空襲を予告さえもしている。これがDがこだわり続ける原風景なのだ。 スパイはゲームではなくて、スパイが戦うのはそのゲーム盤をひっくり返そうとする暴力なのだろう。 |
No.1 | 6点 | 臣 | |
(2010/05/02 09:13登録) 終始スリルとサスペンスに満ちたスパイ・スリラー。 石炭の買い付けのために英国にやってきた密使Dは、前半では追われる立場だったのが、ある事件をきっかけに追う立場に急転する。戦争が背景にあるし、こんなストーリー展開だったらもっと面白いはずなんだけど、心境吐露や会話が多すぎるせいか、物語の進行は停滞気味。火事場で何を持ち出すかゆっくり会議しているような感じで、緊張感があまり伝わってこなかった。映画で観ればもっと面白そうだけどね。 翻訳が合っていなかったような気がする(私が読んだのは全集)。それともたんに読み方が悪かっただけなのかな。 ハリソン・フォードの「逃亡者」の一シーンのような場面があったのが印象的だった。 |