東京奇譚集 |
---|
作家 | 村上春樹 |
---|---|
出版日 | 2005年09月 |
平均点 | 5.33点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 7点 | E-BANKER | |
(2018/10/27 11:49登録) 『奇譚』=不思議な、あやしい、ありそうにない物語・・・ということである。 東京のどこかで起こったそういうお話を5編集めた作品集である。 2005年の発表。 ①「偶然の旅人」=これは“ありそうにない”と言うより、“あってもおかしくない”お話である。冒頭、いきなり作者が登場して、作者がある人から聞いた話として語る何ともフワフワした、それでいて強い「芯」を感じさせるお話。さすがである。 ②「ハナレイ・ベイ」=ハワイ・カウアイ島にあるサーファーのメッカ・“ハナレイ・ベイ”。ひとり息子をサメに奪われた女性がこの物語の主人公。息子の影を追うように毎年ハナレイ・ベイを訪れるうちに、ある不思議な出来事を耳にする・・・。映画化されるだけある、何とも心に染みる、それでいて絵画的な一編。さすがである。 ③「どこであれそれが見つかりそうな場所で」=ラストの「不安神経症のお母さん」と「アイスピックみたいなヒールの靴を履いた奥さん」と「メリルリンチ」に囲まれた美しい三角形の世界に・・・でちょっと笑ってしまった。これはまさに「奇譚」だね・・・。さすがである。 ④「日々移動する腎臓のかたちをした石」=うーん。男ってこんな女性に惹かれてしまうもんなんでしょうねぇ。まさに「謎」多き女性・・・。さすが・・・ ⑤「品川猿」=この「猿」はなにかを象徴している存在なのか、はたまたそれほどの意味付けはしていないのか・・・気になる。でも、猿に自分の本性を暴かれる気持ちってどんなもん? 以上5編。 実は今回が「村上春樹」の初読みである。 初読みが本作でいいのか?という強い疑問はさておき、やはり「さすが」である。 そのどれもが、読者の想像力をかき立てずにはおれない五つのお話。 結末がはっきりと示されていないだけに、主人公たちのその後が気になってしまう・・・まさに作者の術中にはまりまくりなのだ。 短編とはこう書くんだよといわんばかりの計算され尽くしたお話。 私がどうのこうのと評することがもはや筋違い。 秋の夜長、好きな飲み物を片手に、静かに作品世界に浸るのも良いのではないでしょうか? (ベストは・・・うーーん、③か⑤で迷う) |
No.2 | 4点 | ムラ | |
(2011/07/16 21:21登録) ミステリーっぽくはないけど、楽しめた。 個人的には、ハナレイ・ベイのしっとりさが一番好き。自分だけには見えない、他人だったらあまり好きじゃない死んだ息子を思うと切ない。 どこであれがどれが見つかりそうな場所で、はよくわからなかったが、何回か読み直したくなる。 |
No.1 | 5点 | 臣 | |
(2010/04/13 21:27登録) 所収の「品川猿」がバカミスと聞いて読んでみました。収録作品は、「偶然の旅人」「ハナレイ・ベイ」「どこであれそれが見つかりそうな場所で」「日々移動する腎臓のかたちをした石」を含む計5編です。 奇譚といってもホラー、怪奇小説ということはなく、「品川猿」を除けば、もしかしたら現実にも起こり得るのかなと思うような物語です。「品川猿」(自分の名前だけを忘れてしまった女性の話)だけはかなり不思議な話ですが、たんなるバカミスで片付けてしまうには惜しいような気がします。 全作とも結末がリドルストーリーっぽく(というか、サプライズがあまりない)、いかにも純文学ミステリーという感じがしますが、中途の展開はミステリーとして十分に楽しめるはずです。ミステリーファンにはぜひ一読を薦めたい純文学系作品です。 |