メグレと老婦人の謎 メグレ警視 |
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作家 | ジョルジュ・シムノン |
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出版日 | 1978年07月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 4人 |
No.4 | 6点 | tider-tiger | |
(2022/06/14 21:34登録) ~物の位置が変わっている。可愛らしい老婦人はメグレに家宅侵入をされている懸念を訴えるのだが、メグレはそれほど事態を重くは受け止めなかった。ところが、この老婦人が殺害されてしまう。~ 1970年フラダンス。シムノン後期の作品。 ホワイダニットのミステリとして小粒ながらにもよくまとまった作品。本作を最初のメグレ警視シリーズに選んだとすると、格別けなすところはないけれど、かといって、すごく面白い作品というわけでもない。「まあまあ」といった感想になるのではないかと。 読みやすい作品だと思います。個人的な感想としてはソーメンのような作品。こういう作品があってもいいのです。 自分のことをよくわかっている哀れな女、その女を母に持ち、その生き方に侮蔑の念を抱きつつも母親そのものを憎むことはできない優しい息子、悪くないんです。でも、そうした翳のあるキャラを配しながらも行間を読ませる深みなく、直線的な筋運びで引っ掛かりも少ない。良くも悪くも無駄がない。きちんと軸を定めて読めるシムノン。 いつもどおりに妄想させていただきます。シムノンの執筆スタイルは己の精神力、体力を削りながら10日ほどで一気に書き上げるというものだそうです。バビル二世がエネルギー衝撃波を連発してどんどん弱っていくみたいな感じですね。この執筆スタイルが還暦あたりになってからのシムノンにはなかなか困難になっていたのではないか。これが後期メグレになんらかの影響を及ぼしているのではないか。 最近、自分も読書の際に栞が必要になってまいりました。 ※後期シムノンのノンシリーズの傑作については意図的に、恣意的に目をつむっております。 クリスティ再読さん 本作の御書評より >>スリーピースのロックバンドだろ、これ 笑いました。コントラバスに幻惑されて、どんなバンドなのかと悩んでいた自分が情けない。ウッドベースならポリスですな。 『メグレ夫人と公園の女(中期の作品)』の御書評でクリスティ再読さんが後期メグレ作品について以下のように言及されていました。 >>メグレ物の後期で「力が落ちた」と感じる原因は、事件の展開だけになってきて、「余計な」楽しい要素が減ってきているためじゃないか...なんて思う。 これ、かなり同感です。言い換えると、ミステリ的な興味が前面に出てきているのではないかと感じています。 『老外交官』『幼な友達』『殺された容疑者』あたりがそんな印象です。 本作は後期メグレのある一面を象徴している作品(例外多数あります)、後期の『代表作』のように捉えております。 自分は『シムノンは還暦になってミステリに目覚めたのか』をテーマに後期シムノンを論じていこうかななんて目論んでいたのです。 冗談はさておき、シムノンが意図的にミステリ興味を前面に押し出していたのか、遊びの要素が希薄になって骨格がむき出しになっただけなのかは興味があります。 後期メグレは本当に枯れてしまっているのでしょうか。 この点について論じるには……もう夏だけど、季節外れの雪でも降ればいい考えが浮かぶかも。 |
No.3 | 6点 | クリスティ再読 | |
(2020/02/17 23:03登録) メグレは好きでも評者は後期はあまり読んでなかった...本作は最後から4作目になる。ページ数も200ページほどで短いし、事件もシンプル。 メグレにわざわざ会いに来た老婦人の訴えは、いかにもの妄想っぽいものだった。メグレは若いラポワントに老婦人の応対を任せるが、老婦人は帰宅するメグレを待ち伏せまでして訴えるのだった...自分のアパートに侵入するものがいると。メグレには老婦人が狂っているようには見えなかった。近いうちに訪問するとその場で約束したが、訪問の前にこの老婦人が殺された、という報告がメグレのもとに届いた! 老婦人の訴えを真剣に取り上げなかった負い目を抱えたメグレが、老婦人が殺された理由を追っていくのがミステリの主眼。この理由はなかなか意外で面白い。短いから登場人物はかなり少なくて、少ない人物をキャラをしっかり立てて書いている。戦後のメグレは完全に「サザエさん時空」に入っているわけで、この70年代の最終期の作品でさえも、ラポワントはいつまでもいつまでも若僧のままで、メグレに叱られっぱなし。でも老婦人の姪の子はバンドマンで、 見物するというよりも、聞くために。というのは、三人のバンドマンがオーケストラと同じような大きな音をたてていたからだ。ギターを弾いているのがビリーだった。あとはドラムにコントラバスだ。バンドマンは三人とも長髪で、黒いビロードのズボンにばら色のシャツだった。 と、ヒッピーがたむろするカフェで演奏するのをメグレは見る。スリーピースのロックバンドだろ、これ(たぶんベース→コントラバスで誤訳)。「イギリス人は上手い」なんて言ってるよ(苦笑)。どのバンドのことかしら。ヒッピー華やかりし頃、メグレにだって時代は反映している。 |
No.2 | 6点 | 空 | |
(2013/06/17 22:40登録) 何らかの事件でメグレに会いたいと司法警察にやってくる人は時々いますが、本作ではそれが表題にもなっている老婦人(原題を直訳すれば「狂女」でしょうが、フランス語の”folle”は熱烈なファンといった意味にもとれます)です。最初にたまたま老婦人の話を聞くことになったラポワントが、その後も主としてメグレに付き従うことになります。 その老婦人が殺されますが、犯人は老婦人の家で何を探し回っていたのか、というのがメインの謎です。しかしこういう解答はシムノンにしては珍しいですね。それが老婦人の棲んでいた、19世紀さえも思わせるような古いアパートの内装と対照的です。後で考えてみると、確かにそれで登場人物たちの行動理由が無理なく説明できるという真相になっています。 メグレが奥さんと一緒に散歩したり、公園のベンチに座ったり、といったシーンが多いのも、本作の特徴の一つでしょうか。 |
No.1 | 6点 | 臣 | |
(2010/04/21 13:46登録) シムノンは空さんの独擅場ですが、初心者ながら、仲間入りをさせていただきます。 100作ほどあるメグレものの中で、図書館で唯一、文庫の棚に置いてあったのが本書です。解説によればシリーズの最後から4番目だそうです。原題を直訳すればたぶん「メグレの狂女」。日本語タイトルのほうがしっくりきます。ただ、メグレものには本サイトでも登録済みの「メグレと老婦人」という別作品があるので、紛らわしいです。 本作は200ページ程度の中編で、謎が最初に起きた老婦人殺害事件だけなので、内容的にも小粒感があります。中途では、メグレファンがメグレとその妻などの会話を楽しむ程度の作品なんだなとも思いましたが、終盤には小粒ながらもしっかりとした真相が明かされ、終わってみればコンパクトにまとまったホワイダニットもの(ちょっとした推理パズル練習題)であるとの印象を受けました。ただ、コンパクトすぎて物足りなさはありましたね。同レベルの中短編を2,3集めて1冊にすれば相乗効果で点数はもう少し上がったでしょう。なおトリックらしきものはありませんがそれに不満はなく、軽い伏線だけで十分に満足しました。 それから、メグレの個人行動は警察ものを想像していただけに意外に思いました。「メグレと○○」という表題が示すように、このシリーズはメグレのキャラが全開なんでしょうね。その他、文体も含め予想外のことばかりです。私の場合、「コナン」の目暮警部か、テレビでやっていた「東京メグレ警視」でしか「メグレ」に触れる機会がなかったですから(笑)。 |