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ミステリの祭典

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臣さんの登録情報
平均点:5.90点 書評数:663件

プロフィール| 書評

No.323 5点 第三水曜日の情事
小池真理子
(2012/10/24 09:43登録)
直木賞、日本推理作家協会賞作家の小説デビューの作品。お得意の奇妙な味系・心理サスペンス集で、ショート・ショート20篇が収録してある。
ラストには意外なオチが用意されているが、予想できるものも半分ぐらいはある。
全編みな、アメリカが舞台で、登場人物も現地人という目新しさがあり、読みやすさあり、意外性ありで、ほどほどの満足感は得られる。ただ男女絡みの暗鬱なものばかりなので、続けて読むには20篇(200ページ)ぐらいが限界だろう。いやな気分にこそならなかったが、やはりたまに読むのがいいでしょう。
全篇、きっちり10ページにまとめてオチをつけたところは評価できる点です。


No.322 6点 機械探偵クリク・ロボット
カミ
(2012/10/20 14:34登録)
著者は正しくは、ピエール・ルイ・アドリアン・シャルル・アンリ・カミ(1884-1958)。ホームズ時代のフランスのユーモア・ミステリー作家です。

本の裏表紙の解説を見ると、「五つの館の謎」「パンテオンの誘拐事件」の二大巨篇を一挙収録とある。あとで読めば、この文章自体にも笑えます。というぐらい本篇は大爆笑ものなのです。10点満点に匹敵するほど、印象に残る作品でした。

クリク・ロボットはアルキメデス博士の発明品で、クリクには眼窩式カメラ、鼓膜式録音マイクなどのアホらしい道具が搭載されています。ネーミングがドラえもんのひみつ道具みたいで、日本人にも親しみやすいのでは。
それに挿絵がなんとも味わい深い。これだけでも評価できます。ちょっと読み返すときなんかは重宝しますしね。

話そのものは2篇とも、クリクが吐きだす暗号文が事件を解く手がかりになります。この暗号文をもとに解決に至ります。なお暗号文は日本向けにアレンジしてあり、これももちろんお笑い謎解きです。
日本語の多くの駄洒落も登場しますが、翻訳者の高野優さん、ほんとうにご苦労さまです。

それにしても、『五つの館の謎』の、「庭に一発の銃声が鳴り響き・・・額にナイフの突き刺さった男が倒れた」という第一章で提起される謎はなんとも魅力的ですね。クリクとアルキメデス博士は、この謎をいかに解明するのでしょうか?


No.321 5点 パーカー・パイン登場
アガサ・クリスティー
(2012/10/16 09:51登録)
前半6編は、パインが複数の部下を使って事件を解決する話です。いや事件というほどではなく、対象は個人のちょっとした悩みばかり。まあ、悩み相談室ってところでしょう。
その程度のことで、スタッフを使って一芝居打つ必要があるのだろうか、と言ってしまうと身も蓋もありません。そのへんはご愛嬌です。そういった軽いノリのシリーズです。この前半は、皆さんがそうであるように人気があるようです。
後半6編は事件が絡んできて、お手軽な短編推理小説として楽しめます。

前半と後半でどちらがいいか。いずれも意外な結末があり平均的に楽しめるので、結局は好みによると思いますが、クリスティーの意外性を見出したいならなら前半、あくまでもミステリーをというなら後半でしょう。
個人的にはやはり後半のほうが好きで、なかでも「高価な真珠」「デルファイの神託」がよかったですね。

クリスティーは、どろどろの愛憎が背景にある殺人を扱ったものこそが真骨頂だと思っています。でもそのドロドロ感は軽い文章によって重苦しさはなくなっています。そのやや軽くなった愛憎話と、ミステリー要素(トリック)とがほどよくまざりあって調和し、互いに引き立てあうところがクリスティーの魅力だと思います。
本書は、そもそもが軽い話なので、前半はもちろん後半でさえもそんな魅力は薄めですが、クリスティの多彩ぶりは間違いなく確認できると思います。


No.320 6点 相棒シーズン1
碇卯人
(2012/10/09 10:03登録)
テレビ・シリーズ化された最初のシーズン・ドラマのノベライズ短編集です。

この頃はページの制約があったのか、個別の2作品を1つの作品にコンパクトにまとめたものが3編あり、全12作品が9編に集約してあります。
それらについては削りすぎで物足りなさを感じます。しかも関係のない2作を無造作にまとめるのはどうかとも思いました。「特命係、最後の事件」だけは、両作品につながりがあるので問題はありません。
個人的には、仮面を着けた理由がおもしろい「仮面の告白」、このシリーズとしては珍しく物理トリックを用いた、悲しいラストの「最後の灯り」が好みです。ひとまとめ短編である「杉下右京の非凡な日常」の中の「人間消失」の2つのトリックも気に入っています。

採点は若干甘めかなという気もしますが、再読というような位置づけなので、テレビドラマを初めて見たときの印象で評点してみました。


No.319 6点 悪魔は夜はばたく
ディーン・クーンツ
(2012/10/04 09:25登録)
本の裏表紙の説明文に該当する冒頭の30数ページまでの書き方は、さすがだと思った。「ベストセラー小説の書き方」を書くだけのことはある。ミステリー・ファンなら、この部分を読んで、まちがいなく奮い立つだろう。
でも、その部分を読んだだけでは、主人公の透視能力者メアリーがどのように事件にかかわっていくのか、全く読めなかった。メアリーが探偵となって連続殺人犯を推理するだけの小説ではない、ということぐらいしかわからなかった。
後半のクライマックス場面も凄かった。最終場面のサスペンスは真に迫ってくる。映像を見ているようだった。

それに、怖いだけで謎解き要素のあまりないホラー・サスペンスなのか、サスペンスタッチの謎解きミステリーなのか、最後までわからないように構成してあったのもよかった。実は、中途を必死になって引っ張っているので、深読みして、ふたを開けてみれば犯人は見知らぬ変質者でした、なんていうのも想像していた。
それにしても事件の解決の仕方が面白い。かよわい主人公と思っていたが、そうでもなかった。

「ベストセラー小説の書き方」を書くぐらいの上手い書き方、上手い文章なので、どんな結末になっても満足はしていただろうけど、読書を終え、ふり返りながら冷静に考えてみると、二流のミステリー・ドラマのようにも見えてしまった。
よって満足感も中の上ぐらいかな。


No.318 6点 三毛猫ホームズの推理
赤川次郎
(2012/09/28 09:33登録)
この超軽いタッチの文体と作風に、多くの人たちが魅了されたのですね。一時期かなりお世話になりました。

再読してみると、冒頭部分が内容的にも文章的にもほどほどに大人っぽかったのが、ちょっと意外な気がしました。それに、本格ミステリーと標榜できる内容となっているのにも驚きです。その後のシリーズ作品や映像化作品によって、シリーズ全体の本格ミステリー味は風化してしまったのでしょうね。
本作はいま読んでみても、トリックはけっこう奇抜で面白いと思います。ちゃんと伏線も張ってあります。事件が複雑なわりには終盤でドタバタとスピード解決するあたりはご都合主義的で安っぽさを感じましたが、全体としてきっちりと、うまくまとめたものだなと感心もしました。

最近テレビで放映された、嵐のメンバーが主演のドラマ作品は幼稚きわまりない感がありましたが、毎回トリックがそれなりに盛り込まれているのには驚きました。本作のトリックもいちおう再現されていました。


No.317 6点 ベストセラー小説の書き方
評論・エッセイ
(2012/09/24 11:13登録)
プロット、書き出し、タイトル、登場人物、背景描写、文体、それにちょっと裏話的な出版業界のことまでと、多岐に渡る説明が特徴的。おまけにそれぞれの章で多くの作品例の紹介がある。
ただ、書き方の具体的な練習方法の例示はほとんどなく、作品例の一部抽出とその評価にとどまっている。ファースト・シーンは著者のお好みの○○作家の××作品が良いなどと一部の文章を引用して評価するスタイルなので、読んでみようという気にはなっても、具体的な書き方練習にまでは踏み込んでいないので、ほんとうに作家を目指す人にとっては、本書を見て練習というわけにはいかないでしょう。書き方のポイント集という程度の位置付けなのでしょう。
もちろん、私のようなエンタテイメント・ファンにとって、読み方のポイントをつかめたのは良かったです。

文体の章には、細かな分析とともに、自ら作ったと思われるよい会話文例、悪い会話文例が載せてあった。これはなかなか面白い。
「会話を自立させよ」や「場面転換をうまくこなすコツ」は目からうろこという感じで、いままでなにげなく読んでいただけのところでも、今後の読み方が変わりそうな気がします。

作家という職業はみな、こんなに多くの作品を読んでいるのでしょうか。そこがいちばん驚いた点です。「読んで読んで読みまくれ」という、作家を志すなら最低限読むべきおすすめ作家の紹介の章もありました。


No.316 7点 推理小説作法
評論・エッセイ
(2012/09/24 10:58登録)
江戸川乱歩、松本清張の共著の同名書籍もありますが、本書は土屋隆夫が著したものです。著者の経験や他の作家の言葉にもとづく書き方指南書といったところでしょうか。
いろんな作品が登場するので読み手にとってガイド本のごとく参考になりますが、やはり書き方を教えるのがこの本のテーマなんでしょうね。
20年ほど前に読んだときは推理小説に関し無知な頃で、わからないまま読み飛ばしていたため記憶にはほとんど残っていなかったのですが、読み返してみると、純文学とミステリーとの書き方の差異(純文学はプロット不要)について、この本が潜在意識として植えつけてくれたんだなということを確認できました。

ミステリーは解決編があるがため文学性を失ってしまう、だから文学として成立させるのは困難。最後の最後に解決編で説明的な文章を読まされてしらけてしまう、ということなんですね。だから、倒叙モノはわりに文学性を保てるという理屈にもうなずけます。
松本清張は推理小説と文学の両立に挑んだのですね。特に、「点と線」で本格推理小説を書きたかった。(ここからは私の想像ですが)でも社会派モノとしての評判だけが世間に広まってしまい、それに反発して、さらに本格性を高めた「時間の習俗」を書いたのではという気がします。

創作メモの作り方、プロットの練り方の章では、種々の作品の事例を挙げながらポイントを説明してくれるので、説得力があります。そして、第7章では自分の短編全文を読者に読ませながら分析するという凝ったやり方も実践しています。
全体的にみると、他の作家等の意見もとりいれているので、決して独善的に感じることはなく、これからミステリー作家になりたい人にとって、スムーズに入っていけるのではないでしょうか。

ネタばらしも数多くありますが、指南書なのでやむを得ませんし、自著を中心としたネタばらしがほとんどなので許容範囲だとも思います。ただ、「アクロイド」のネタバレはかなりストレートだったようです。


No.315 5点 ナポレオン狂
阿刀田高
(2012/09/19 14:13登録)
著名な表題作ですら記憶がありません。収録作品のすべてに憶えがないので、おそらく初読だったのでしょう。
表題作では2人目の人物、村瀬の登場でオチが容易に読めてしまいました。初心者のころなら、もちろん想像もつかなかったとは思いますが、いろいろ読んできた今となれば、その経験から簡単にラストの予想がついてしまいます。おそらく、星新一のブラック・ジョーク系のショート・ショートの1つが頭にこびりついていたからなのでしょう。

今までに読んできた、著者のこの種の作品群のうち、2年前に読んだ「夢判断」と、ずっと前に読んだ恐怖系短編集(タイトルすら記憶にない)とは比較的印象に残っていますが、その他は憶えていません。本書もすぐに忘れ去るような位置付けの作品集となってしまうのでしょう。
そうはいっても、阿刀田氏の奇妙な味系のアイデアにはいつも感心します。
良質な息抜き本を提供してくれて、本当にたすかります。


No.314 7点 怪盗ニック登場
エドワード・D・ホック
(2012/09/10 11:09登録)
怪盗ニック・シリーズ。価値のないものの盗みを毎回、2万ドルの報酬で引き受けるという、ワンパターンな連作モノ。
無価値とはいっても依頼者にとっては意味があり、ニックがかならず依頼内容を超えて首を突っ込んでしまい、その事情を明かすはめになる、と言うお決まりの流れですが、その無価値物の盗難の理由にサプライズがあるところが楽しめる部分です。

この種の連作短編集はすぐ飽きてしまいそうで苦手意識があり、いやになれば途中でやめようと思いながら読みだしましたが、3編目の「大リーグ盗難事件」からすこし乗ってきて、7編目の「陪審員を盗め」で気分が高揚し、その後、9編目の「からっぽの部屋」で最高潮に達し、その気分が最後の12編目まで持続しました。11編目の「カッコウ時計」も秀作でした。
シリーズはまだまだつづきがあるので、今後も楽しめそうです。


No.313 6点 陰の季節
横山秀夫
(2012/09/03 11:13登録)
警察の管理部門を舞台とした、今までにないスタイルの警察小説。
各短編の主人公はD県警の警務課、監察課、秘書課などに所属する刑事以外の警察官であり、かれらの身辺で起こる、事件にならないような人事や無断欠勤などが謎解きの対象となっている。
一編一編、なるほどなるほど、これはおもしろいと感心しながら読みきったものの、殺人のない日常の謎的な内容だけに、警察が舞台とはいえ、小道具を少し変えれば一般企業に置き換えた企業小説としても成り立ちそうだな、と思ってしまった。

「陰の季節」は想定外の結末に驚きはしたが、話が出来すぎの感があった。「地の声」はドンデン返しがあり、技巧的には抜群だが、リアリティが感じられず、やや興醒め。婦人警官を主人公に据えた「黒い線」の目新しさはよかった。「鞄」のきびしいラストには驚かされた。
総評すれば、技巧面では楽しめた。

一時期読んでいた企業小説、経済小説は比較的身近な設定となっているだけに、自分の身辺と比較してしまい、いくらなんでもそれはないだろうと感じて、読後の感動はあまりなかったが、本書もそれと似たような感覚があった。
横山作品、特に短編は優れているとは思うのだけど、年とともにすこしずつ感じ方が変わってきた。


No.312 5点 少年探偵団
江戸川乱歩
(2012/08/30 11:29登録)
本書には、2つの話(概ね2部構成)が含まれています。連作といった流れです。いずれの話も、変装や、すり替えによる騙しの応酬に尽きます。もちろん、小林少年たちの大活躍も見逃せません。
ただし、初めて読む人でも大人ならだいたい先が読めるでしょう。章ごとのサブタイトルによるネタばらしがあるのも一因ですが、大人であれば過去にどこかで触れているだろうから、潜在意識程度に記憶の中に残っているのかもしれません。
それでもおもしろいと感じるのは、明智対怪人二十面相の戦いが逆転、また逆転と、目を離せないほどに変化があるからでしょう。たまの気分晴らしの読書に最適です。

怪人二十面相が変装用具を黒い風呂敷に用意していたことには笑えました。風呂敷って便利なんですよね。でも二十面相が使うとはねぇ。

明智探偵や二十面相は、不可能と思われることをマジックのようにやってのけますが、その後に、なぜ可能になったかを説明してくれます。小説の中で、「なぜ」にかならず答えてくれているようです。これはほんとうに素晴らしいことです。子ども向け通俗小説とはいえ、たんなる荒唐無稽な物語にはしたくなかったのでしょう。


No.311 6点 殺す者と殺される者
ヘレン・マクロイ
(2012/08/27 10:36登録)
主人公のハリーと、かつての恋人シーリアの周辺に出没する謎の徘徊者はいったい誰なのか。消えた免許証、差出人不明の手紙。そして中盤を過ぎたころには、恐ろしい事件が・・・。

語り手はハリー。この一人称による地の文や、会話文、それに全編を覆い包むような異様な雰囲気、どれをとってもサスペンスに満ち満ちています。
ハリーの語り口は、サスペンスを演出するためのもののようにも、ハリーのやさしさを表現しているようにも思われますし、さらには、ラストに何かとんでもないことが待ち受けているようにも感じられます。思わせ振りで信用ならない感じはありましたね。

驚愕の真相、その仕掛けと見事な伏線にはびっくりしました。テクニック抜群です。あとで気づきましたが、登場人物欄自体も伏線になっているのですよね。
ただ、いまどきのミステリー慣れした読者にとっては驚愕の程度も中ほどなのかもしれません。やはり、特上のサスペンスこそが、多くのミステリーファンに共通して楽しめる材料なのでは、という気がします。


No.310 5点 奇面城の秘密
江戸川乱歩
(2012/08/22 10:16登録)
少年探偵団のチンピラ組に属するポケット小僧が怪人四十面相のアジトに侵入して大活躍するお話です。小さいながらも度胸満点。明智探偵も小林少年も脇役です。

シリーズ作品中、息子のいちばんのお気に入りの作品とのことで読んでみましたが、少年の活躍で悪者を一気にやっつけるところに、子どもたちは興奮して大喜びするのでしょうね。気持ちのいい冒険大活劇であることにはちがいありません。大人にとっては謎の美女の正体が気になる心残りな作品ではありましたが。。。


No.309 6点 大いなる眠り
レイモンド・チャンドラー
(2012/08/17 13:47登録)
翻訳のせいかもしれないが、会話文は身近で気取りがないように感じられた。案外、ハードボイルド小説ってこんなものかもしれない。地の文は叙事的な短文を連ねた描写が実にハードボイルド的であり、強烈に印象に残った。書き出しの一節は本当に素晴らしい。
一方、ストーリーは単調に見えるし、ややこしくもあり、決して面白いものとはいえない。しかし、話の根幹が依頼人がわであるスターンウッド家にあり、その人間模様を楽しめたし、マーロウをかっこよく見せただけのストーリーではないことも好印象だった。

本書は良くも悪くもチャンドラーのハードボイルドの原点的作品。「長いお別れ」とくらべれば極上のエンターテイメントとはいいがたいが、リアリズムを追求した秀作文芸ミステリーという評価にはちがいないと思う。

双葉十三郎の訳は評判がイマイチのようだが、作り物といったイメージがあまりなく、結構好み。ただ、村上春樹の新訳予定もあるようなので、そちらにも期待したい。


No.308 5点 トラブルはわが影法師
ロス・マクドナルド
(2012/08/13 10:41登録)
Trouble follows me 直訳すれば、「トラブルがついてくる」
このほうがわかりやすい。「トラブルはわが影法師」だと深読みしてしまう。まあでも、なかなか良いタイトルです。

前半では主人公のドレイクが2つの殺人事件に遭遇する。中盤では大陸横断列車へと場面が変わり、ドレイクはさらなる事件に巻き込まれる。構成にメリハリはあるが、この巻き込まれ方の流れはすこし不自然にも感じる。
そんな中途半端なところが、作風にも出ているのか、本格ミステリといっていいのか、スパイ小説といっていいのかわからない。第二次世界大戦中の話で、ブラック・イスラエルという秘密結社も登場して徐々にスパイ小説らしくなるが、そうはいっても国際謀略風味は希薄だし、かといってアクション・シーンも少ししかなく物足りない。
読み終えてみれば、意外性もあったし、ミステリとしてはまあまあといったところなのだろうが、物語としては、ちぐはぐな印象を受けた。


No.307 6点 後鳥羽伝説殺人事件
内田康夫
(2012/08/06 09:45登録)
事件の背景や、ヒラ刑事の地味な捜査など、なんとも古臭い感じのする旅情ミステリーです。
浅見光彦は被害者女性に比較的近い存在であり、どちらかというと巻き込まれ型探偵というゲスト的な位置づけでもあります。その素人探偵が最終的には一人で意外な犯人を追い詰めていくという、同シリーズではめったにない凄みも感じられます。まあシリーズ初作品はこんなものなのかもしれません。

このシリーズ初作品には、その後のシリーズ作品には欠かせないヒロインは登場せず、派手さはありませんが、派手さがない分、重みのあるドラマに仕上がっています。
社会派ミステリーがまだまだ主流だった当時としては、社会派の地味な匂いを感じさせるも、けっして典型的な社会派ではなく、もちろん本格派というほどでもなく、当時の流行りのスタイルの、きわめてニュートラルな推理小説らしい推理小説だったのではという気がします。


No.306 5点 007/死ぬのは奴らだ
イアン・フレミング
(2012/07/30 09:43登録)
今作は、やや荒唐無稽な冒険大活劇で、シリーズ前作「カジノ・ロワイヤル」とは雰囲気が全く異なる。ボンドのやられ方も、前作にくらべてだいぶまし(でもないか)。その代わり、仲間のライターが酷い目に遭わされる。
悪玉は黒人のボス、ミスター・ビッグ。悪役ぶりがよく出ているが、登場シーンが意外に少ない。ボンドガールのソリテールも登場機会は少なめで、あまり目立たない。むしろ、中盤から後半にかけての、最後にビッグやソリテールが登場するまでの、海の中でのボンドの自然との大格闘が見ものだった。最後は思いのほか、あっけなかった。

描写力のすぐれたアクションたっぷりのハードボイルド娯楽作品だったが、謎解き推理性はほとんどなかった。でも楽しめた。


No.305 5点 怪盗紳士ルパン
モーリス・ルブラン
(2012/07/20 09:52登録)
わが少年時代、ホームズは読んだが、リュパンとの出会いはなかった。まさに人生初めての経験です。

ホームズにくらべると、ミステリーとしての、連作短編ものとしてのヴァリエーションが豊富なことは好印象です。それに冒険譚らしい物語ばかりなので、子ども心が揺さぶられること必定です。
子ども向けという印象が強いですが、それほど荒唐無稽な話ではなく、大人が読んでも小気味よく感じられることまちがいなしです。最後の「遅かりしシャーロック・ホームズ」は、小粋でしたね。

フル出場ではなく神出鬼没というリュパンの登場スタイルも、うまい物語構成テクニックだと感心しました。この種の小説を読み慣れていないということもありますが。

リュパンものの精神は、ミステリー要素的には今にも引き継がれているものの、怪盗が活躍する物語としては、近年の作品の中では同種のものを見つけるのが大変です。その点は残念ですが、まずはリュパンものを読んでいけばいいでしょう。


No.304 6点 死国
坂東眞砂子
(2012/07/13 10:46登録)
こういうのを、伝奇ロマンというのですね。
いまだ土俗的因習の残る四国偏狭の地のこわ~いお話です。

死者の甦りや死霊の呼び戻しを軸とした幻想伝奇小説なのですが、主人公・比奈子と、かつての恋人・文夫と、比奈子の幼なじみで若くして死んだ莎代里の霊とが絡み合ったメロドラマという印象のほうが強いです。
ラストは壮絶です。生にしがみつく死霊にまつわる怪談話ですから、このような結末にせざるを得ないのでしょう。余韻が残ります。

四国って怖いなぁ。
と読者に思わせるのが作者のねらいなのでしょうか。映画化もされたし、アマゾンの本書のマーケット・プレイス出品数から見ても書籍の売行きは凄かったようだから、おそらく四国のPRができたはずです。
たしかに本書を読めば四国って怖くて恐ろしい地というイメージを持たれそうですが、それ以上の魅力も感じられます。日本人だから、やはり日本的な土俗には惹かれます。

以上、いかにも恐ろしい小説のように評しましたが、実は怖さ的には求めていたものには及びませんでした。夏の夜を涼しく過ごすには、心の奥底が冷え冷えするような、もっともっと怖い話がいいですね。

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