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ミステリの祭典

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パーカー・パイン登場
別題『パーカー・パインの事件簿』

作家 アガサ・クリスティー
出版日1959年11月
平均点6.25点
書評数8人

No.8 5点 虫暮部
(2022/08/09 12:24登録)
 前半、お悩み相談編。ヴァリエーションに乏しい。これから色々搦め手を考えるんでしょ、ってところで投げ出しちゃったか。
 後半、トラベル・ミステリ編。使い回しのプロットでも、探偵役を変えれば趣向も変わる。良くも悪くも。
 差別化を考えるなら、前半をもっと発展させるべきだったか。後半の探偵譚で、パーカー・パインをどっちつかずのキャラクターにしてまでこのシリーズに組み込む必然性のある話は、辛うじて最終話くらい。

 固有名詞の片仮名表記の基準には意見が多々あるだろう。「困りはてた婦人の事件」。ダンサーの名前 Juanita は “ジュアニータ” でなく “ファニータ” が良いのでは。スペイン系。翻訳は不便。
 「ナイル河の殺人」。Death on the Nile だから、実はあの長編と同題だ。翻訳は便利。

No.7 5点 レッドキング
(2022/04/29 17:40登録)
アガサ・クリスティー第七短編集。 「良い喪黒福造」パーカー・パインが、"あなたの心の隙間を埋めます。"・・・
  「中年婦人の場合」 幻と分っていて、身の程もわきまえていて、それでも、なお、夢に陥る中年男女・2点。
  「退屈な軍人の場合」 平穏な日常より、スリルとサスペンスとロマンを希求する男女に起こる「事件」。3点。
  「困り果てた夫人の場合」 「模造ダイヤにすり替えた本物ダイヤの返還」依頼・・からの・・4点。
  「不満な夫の場合」 クリスティー作品にしばしば顔出す、支配と被虐の男女のサガと壁・・3点。 
  「事務職員の場合」 平穏かつ忍従な勤め人に与えられる「ばーちゃる」な冒険と浪漫。2点。
  「富豪女の場合」 有り余る富を得た苦労人女。失った価値と取り戻す黄金の日々・・「杜子春」みたい・・7点。
※この後の六編は、"パーカー・パイン西アジア旅行ミステリー" てな
  「あなたは望む物全てを得たか?」 走行列車からの宝石消失トリックと男女関係の機微・・7点。
  「バグダッドの門」 砂漠を走る車内での殺人、容疑者10人のWhoHowWhy 5点。
  「シーラーズの家」 ペルシア末裔の荒地の町で暮らす英国女の秘密。4点。
  「高価な真珠」 砂漠の荒地を歩行探索する一行に起きる真珠盗難事件の顛末。3点。
  「ナイルに死す」 ナイル航行の船内で毒殺される傲慢な中年女。夫・姪・若い男・看護婦・・犯人Who 5点。 
  「デルファイの神託」 身代宝石誘拐事件のHow・・からのツイスト・・じょじゅつトリックやねえ。6点。
で、平均して、(2+3+4+3+2+7+7+5+4+3+5+6)÷12=4.25、オマケして5点。

No.6 8点 バード
(2021/12/06 11:19登録)
始めの方は地味な話が続き物足りなさを感じたが、中盤以降は豊富なギミックが登場し読み応えアップ。終わってみれば非常に満足度の高い短編集だった。
ポアロ、ミス・マープルに比べると知名度で劣るが、クリスティが嫌いでなければ本書もぜひ読んでいただきたい。


<各話の書評>

・中年夫人の事件(5点)
ほっこりする終わり方で好みだが、ミステリとして特筆すべき点は無し。パーカー・パイン氏の紹介的な話で、可も無く不可も無い出来。

・不満軍人の事件(6点)
全てはパーカー・パイン氏の手のひらの上。オチは予想できる範囲だが退屈しない。

・困った婦人の事件(6点)
本短編集の中でも後味悪めな話。悪党にこのままでは不幸になると忠告するも無視されるところに嫌なリアリティを感じる。ミステリ的な部分ではなくストーリーの見せ方が光る話だね。

・不満な夫の事件(6点)
オチが全て。自分的にはまあまあ。

・サラリーマンの事件(5点)
悪くはないが、特にコメントする点も無し。

・富豪婦人の事件(7点)
まあ臭い話といえば臭い話だが、本作の如しシンプルな人情話?は嫌いじゃない。人間何が幸せかはいつも考えておかないとね。自分の稼ぎだとまだまだお金は必要なので、ライマー夫人のように割り切れないですが。

・あなたはほしいものをみな持ってますか?(8点)
海の上という共犯者を使えない状況で宝石を盗むとなると作中の方法しか無いのだが、真相を上手く隠して面白くしていると思った。本短編集はこの話から一気にエンジンがかかったという印象。

・バグダッドの門(8点)
犯人特定の方法が古き良き探偵という感じで大好き。小技の効いたいい短編と感じた。

・シラーズの家(9点)
本短編集で一番好きな話。別の作家の長編でほぼ同じネタを見たことがあるが、あちらは早々にボロが出ているのに対し本作は短いページで見事にトリックを決めている。ラストに明かされる伏線も巧妙でアガサ・クリスティの実力を堪能できる素晴らしい短編。

・高価な真珠(6点)
前三話の出来が良かっただけに少しトーンダウン。つまらなくはないが話の構成的にボケっと読んでても犯人が分かってしまうのが傷。

・ナイル河上の死(4点)
パーカー・パイン氏が旅に出てからの話の中でワースト。犯人の見通しも甘く、まともなトリックもないのでイマイチ。

・デルファイの神託(9点)
露骨な伏線が張ってあるので正直オチは誰でも予想できると思う。その上でわずか20ページでこのトリックを採用し面白くまとめているのは見事。また、最後を本トリックのような変化球で締めるという短編集の構成も褒めたい。というのもラストにインパクトの大きい話があると短編集自体が強く記憶に残るからである。

No.5 6点 クリスティ再読
(2016/04/11 21:08登録)
本作の前半は、要するにパーカーパイン劇団のレパートリー紹介、って感じである。しかも出てくる人々がお馴染みなオリヴァ夫人とかミス・レモンだから始末におえない(苦笑)。クリスティの独特の共有世界観が本作で本当にうまく機能している。だから本作ってシチュエーションコメディ風のマンガ(要するに両さん)の面白さって感じを受ける。マンガだと思って読めば、本作の上機嫌さみたいなものを肯定的に評価できると思うな。あまり突っ込むのはヤボってものだ。
とはいえ、後半は旅情ミステリになってしまい、前半の上機嫌さが薄れるのが難。「ナイル河上の死」は舞台装置だけだが、「高価な真珠」は舞台もネタも「死との約束」で再現される話なので、そこらは興味深い。

No.4 5点
(2012/10/16 09:51登録)
前半6編は、パインが複数の部下を使って事件を解決する話です。いや事件というほどではなく、対象は個人のちょっとした悩みばかり。まあ、悩み相談室ってところでしょう。
その程度のことで、スタッフを使って一芝居打つ必要があるのだろうか、と言ってしまうと身も蓋もありません。そのへんはご愛嬌です。そういった軽いノリのシリーズです。この前半は、皆さんがそうであるように人気があるようです。
後半6編は事件が絡んできて、お手軽な短編推理小説として楽しめます。

前半と後半でどちらがいいか。いずれも意外な結末があり平均的に楽しめるので、結局は好みによると思いますが、クリスティーの意外性を見出したいならなら前半、あくまでもミステリーをというなら後半でしょう。
個人的にはやはり後半のほうが好きで、なかでも「高価な真珠」「デルファイの神託」がよかったですね。

クリスティーは、どろどろの愛憎が背景にある殺人を扱ったものこそが真骨頂だと思っています。でもそのドロドロ感は軽い文章によって重苦しさはなくなっています。そのやや軽くなった愛憎話と、ミステリー要素(トリック)とがほどよくまざりあって調和し、互いに引き立てあうところがクリスティーの魅力だと思います。
本書は、そもそもが軽い話なので、前半はもちろん後半でさえもそんな魅力は薄めですが、クリスティの多彩ぶりは間違いなく確認できると思います。

No.3 7点 りゅう
(2011/03/08 19:01登録)
 私も初めて読んだクリスティー作品はこの作品でした。久しぶりに再読しました。軽い文体の短編集で、いずれもひねりのある結末になっています。パーカー・パイン氏が新聞に掲載した広告記事の文章が印象的です。パイン氏は統計的知識を活用し、前半6作の人生相談ものではスタッフを使った大芝居を打って、相談者の問題を解決します。個人的ベスト作品は「デルファイの神託」、次点が「悩める淑女の事件」です。
「悩める淑女の事件」
 パイン氏はある人物の策略を見抜き、肩透かしを食わせます。
「金持の夫人の事件」
 パイン氏の大掛かりな演出によって、夫人は本当の幸福を見出します。
「ほしいものは全部手に入れましたか?」
 相談者の夫が残した奇妙な手紙から、パイン氏は宝石盗難事件の真相を見抜きます。
「デルファイの神託」
 見事なミスディレクションで、結末ではあっと驚かされます。

No.2 7点 vivi
(2009/05/10 00:38登録)
これ、クリスティの作品の中でもかなり好きです♪
というのも、一番最初に読んだクリスティだったから。
一番初めがパーカー・パインっていうのも変ですけど(笑)

ここでの、人間をいくつかのパターンに分類していく考え方は、
クリスティの人間観なのじゃないかと思います。
ミス・マープルも、それのバリエーションですよね☆

パーカー・パインやそのスタッフ設定も面白くて、
連作短編としては、かなり読ませる作品だと思います。

No.1 7点
(2009/05/09 15:50登録)
本作の前半6編は、パーカー・パインがスタッフを使って様々な依頼人の悩み事を解決していく話で、通常のミステリとはちょっと違った楽しみが味わえます。スタッフというかアイディア提供者としてミステリ作家のオリヴァー夫人も出てきていますが、この短編集が彼女の初登場です。パインがオリヴァー夫人にもっと独創的なものを求めるのに対し、夫人がワン・パターンだからこそいいのだと主張するあたり、クリスティーの独創性とパターン化を巧みに融合する小説観を示しているように思えます。
後半はパインが旅行中に出くわす犯罪事件が書かれた普通のミステリになっていますが、その中では、最後の『デルファイの神託』がアイディア一発ものでやられました。

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