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ミステリの祭典

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疑惑

作家 松本清張
出版日1982年03月
平均点5.80点
書評数5人

No.5 5点 パメル
(2022/09/16 08:25登録)
表題作である「疑惑」と「不運な名前」の中編2編が収録されている。
「疑惑」ある地方都市の秋の情景の中に、二人の主要人物を置いて、それを映像的に見つめていく描写で始まる。新聞記者と弁護士の対話の中から、「鬼塚球磨子」という特異な女性の存在と、彼女が起こしたという疑惑がもたれている事件の全体像が客観的に浮かび上がってくるという構成。そしてラストは、セミ・ドキュメンタリー形式で作られた、大胆不敵なスリルの盛り上げ方で突然終わりを迎える。
「不運な名前―藤田組贋札事件」ある男が、札幌から岩見沢にやってきて、タクシーに乗り月形というい町へ行く。そして樺戸刑務資料館という施設を見学する。そこへもう一人、女が入ってきて、さらにもう一人、男が傍若無人に乱入してくる。展示室にある関係文書や、その昔に囚徒たちが作った作品、あるいは掲げてある観音図などから熊坂長庵という名前の人物がクローズ・アップされ、やがて「藤田組贋札事件」なるものが浮上してくると、といったプロセスもなかなか息をのませる。ラストが、つつましやかな存在だったもう一人の女性の手紙によって締めくくられるという結末も意表をついている。

No.4 8点 蟷螂の斧
(2019/11/13 19:48登録)
裏表紙より~『雨の港で海中へ転落した車。妻は助かり、夫は死んだ―。妻の名は鬼塚球磨子。彼女の生い立ち、前科、夫にかかっていた高額な生命保険についてセンセーショナルに書き立てる記者と、孤軍奮闘する国選弁護人の闘い。球磨子は殺人犯なのか?その結末は?』~

 TVなどでは、悪女・鬼塚球磨子がメインとして描かれてますが、原作では記者がメインです。原題「昇る足音」の意味がよく分かりました。当時(1982年)の車は、水圧で窓ガラスが割れてしまったんですね。車内にあったスパナや、脱げた靴などの小道具の扱い方が巧い。本格ものの匂いがプンプン(笑)。なお、ジャンルはリーガルがないのでサスペンスに一票。

No.3 6点
(2012/11/14 10:20登録)
「疑惑」と「不運な名前」の2編を所収。

「疑惑」・・・自動車転落事故は鬼塚球磨子(鬼クマ)による保険金殺人なのか、それとも事故か、あるいは他の真相が隠されているのか?
前半は秋谷記者と原山弁護士とによる鬼クマの描写が面白く、後半は後任の国選弁護人・佐原による真相究明までの流れがよい。けっこう読み応えがあります。
トリックは比較的簡易に暴かれます。そのあたりは100ページ程度の中編だから仕方がないでしょう。
この小説の注目すべき点はやはり最後の章、最後の数行です。恐怖小説と云っていいでしょう。
たびたび映像化され、直近では先日、常盤貴子主演のテレビドラマが放映されましたが、ラストを含め、かなり脚色されていました(でもドラマも楽しめました)。
おそらく、その他の映像ものもラストが変えてあると思います。

「不運な名前」・・・獄中で死を遂げた熊坂長庵が起こしたとされる、明治時代に起きた実際の事件・藤田組贋札事件の謎を解くという歴史ミステリーです。
資料館で偶然出会った、ルポライターの安田と、元学校校長の伊田と、謎の女性・神尾とがそれぞれの知識を開示しながら真相を解き明かそうとしていくのが物語のスタイルです。
推理する時代も対象も地味、ミステリーとしてももちろん地味。でも、地味は地味ながらも歴史的事実の精緻な描写には、わずかに心躍らされました。
こちらも中編ながら、読み応えがありました。

ジャンルとしては、表題作は本格、ホラー、サスペンスなどの要素あり、「不運な名前」は歴史ミステリー。
平均すると社会派(笑)。いやぁ、全くちがうな。
2編とも個性があるから、安易に本格にはしたくない。表題作を対象とするか?
それぞれは分類できるし、そもそも中編だから、短編集(分類不能)というのもおかしい。
こういうのはジャンル設定がむつかしい!

No.2 4点 江守森江
(2010/08/21 13:23登録)
これまた何度となく映像化されている。
主役をシフトしたりリドル・ストーリーにしたり、原作と別物に脚色しても面白く出来るので映像化作品の制作意欲が擽られるのだろう。
私的な評価では原作が一番下で、沢口靖子と田村正和主演に室井滋を絡めた現在の最新映像化作品が一番気に入っている。
もっとも、清張作品は読むより先に観るがモットーなので評価に責任は持てない。
※但し書き
映像化作品を何作も観て原作をおさらいしているので、結末が変更されている場合に混同して記憶している場合が多々あります。

No.1 6点 シュウ
(2008/11/17 00:40登録)
たまには社会派でもということで以前映画で見たこの作品を読むことにしました。
夫殺しの罪で逮捕された悪女の鬼塚球磨子は熱意のある弁護人に去られ死刑判決を受けそうになる。という所までは映画と一緒でしたが、
この原作小説では球磨子は名前しか出てこなくて、彼女を散々悪者扱いした記事を書いた新聞記者が中心となる話でした。
映画版は球磨子役の桃井かおりが蓮っ葉な中にも少しだけ可愛さをかもし出すいい演技をしててそれを期待してたんで(笑)ちょっとだけ肩透かしでした。

併録の「不運な名前」は藤田組贋札事件を3人の人物が語る話で、事件自体知らなかったので勉強にはなりました。

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