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ミステリの祭典

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臣さんの登録情報
平均点:5.90点 書評数:660件

プロフィール| 書評

No.400 5点 ゲルニカに死す
佐伯泰英
(2014/03/14 15:09登録)
スペインが舞台の、ピカソの『ゲルニカ』絡みのミステリー。
ゲルニカの日本公開の企画を恩師・宮岡から示唆される主人公の土岐。彼からの計画を受けてスペインへ飛んだテレビ局の社員は、現地で喉を掻き切られて殺害される。その殺害手段はスペイン内戦のころより暗躍する集団「三角帽子」の手口に似ていた。

事件は果たして、ゲルニカの製作秘話に絡むのか、スペインの内戦史との関係があるのか、それとも・・・。
真相は壮大。予想し得るものかもしれないが、中途が拡散しすぎで辿りつきにくい。ラストに明かされるもう一つの真実に、むしろ驚かされた。
ゲルニカ空襲の描写はごくわずかだがあった。けっこうなまなましい。被爆、被空襲国の日本との類似性を背景として捉えたところは、うまいと思った。
ピカソに対する印象は、原田マハさんの『楽園のカンヴァス』に脇役として登場するピカソから受けるものとは、ずいぶんちがう。すごい時代を生き抜いた画家のようだ。

作者の佐伯泰英氏はいまや時代小説の人気ナンバーワン作家。そんな売れっ子作家もかつてはミステリー系の作品が売れず、出版社から時代小説か官能小説を書いてほしいと云われて、ミステリーを断念したという。それが大成功につながった。

あとで気付いたが、本作は400評目だった。


No.399 6点 毛糸よさらば
ジル・チャーチル
(2014/03/14 14:49登録)
ちょっと季節はずれですが・・・

タイトルはいつものように、もじりがあります。
日本語では、「毛糸」と「武器」とでは音で通じるところはなく、日本語タイトルの評価としては、「ゴミと罰」や「地上より賭場に」が10点なのに対し、本作は7点ぐらい。とはいえ上等です。

肝心のミステリーとしてどうかといえば・・・
今作も主婦探偵ジェーンが謎解きするのは、近所での殺人事件。
後半では想像もつかない事件の背景をジェーンが見つけ出し、それには驚かされます。どんでん返しもあります。
でもこの真相は読者が推理できるものではありません。ミステリーファンにとっては、本格ミステリー(フーダニット物)として読むよりは、ジェーンたちの会話を楽しみ、ラストにちょっと興奮する程度に臨むほうが無難でしょう。
なお、タイトルについている「毛糸」は、クリスマス・パーティーでのバザー品に関連するもの。ということで季節感を出したタイトルになっています。

初めてこのシリーズを読んだときは、コージーらしい会話文や雰囲気に果たして慣れるのだろうかと心配していましたが、3作を読んでみて、まったく問題ありませんでした。
馴染みがないどころか、女性の探偵役が登場する軟弱そうな国内2時間サスペンスを、海外コメディードラマ風に味付けしたような感じで、とても親しみやすく、肩の力を抜いて気楽に読むことができます。


No.398 3点 美濃路殺人悲愁 私法廷の殺人者
石川真介
(2014/02/28 10:44登録)
無関係に見える三組の夫婦がグリーン車チケット付きの美濃路旅行の招待を受ける。謝礼は50万円。なぜか一部のカップルは道中、暴行を受け強制連行される。そうしながらも三組はホテルで一堂に会する。
序盤でホスト側が復讐の背景を開示する。中盤には事件が発生する。容疑者は招待客+α。彼らは貸切のワンフロアでCC状態となる。冒頭に登場した美人作家が名探偵として再登場し、事件はあっさり結着したかに見えたが・・・。

最後に開示される動機はいくらなんでも、という感じがする。解説でも指摘してある、計画性と衝動性との組み合わせについても、納得のいかないところ。
文章はちぐはぐだし、視点も乱れている。
とこきおろしたくなるが、なぜだか夢中になって読んだ。プロットが凝っていて、読ませるツボを心得ているのだろうか。
背景もいろいろ、犯人の計画もいろいろ、と楽しませる要素もたっぷりある。

作者を調べてみると、第二回の鮎川哲也賞の受賞者だった。予想していた、タイトルどおりのトラベルミステリー作家ではない。社会派寄りな旅情ミステリーだと思って読み始めただけに、ちょっと勘が狂ってしまった。
鮎川哲也賞ながらも、このサイトで評者がゼロというのは不思議です。
読むに値せずということを知ったうえでのことなのか、それともどうせトラベルミステリー作家だろうとの先入観があるからなのか。


No.397 6点 遠きに目ありて
天藤真
(2014/02/24 11:40登録)
最初の「多すぎる証人」を読んで思い浮かんだのは、モルグ街の殺人もそうですが、どちらかといえばCの名作です。この種のヴァリエーション作品はいまなら豊富にあります。証人絡みということなら先日読んだバルカン超特急も似ています。本作はタイトルだけでなんとなく想像できるのが難点。でも、最初のこの作品を読んで、いい感じの連作なんだろうなとの予感がしました。結果的にこの作品がいちばんよかった。

以下、「宙を飛ぶ死」「出口のない街」はアリバイ物。「出口のない街」は特殊な密室の謎が付いています。
「見えない白い手」「完全な不在」はなぜだか中編。はたして「完全な不在」を中編にする必要があったのだろうか、ポイントはただ1つなのに。浮浪者が登場した時点で一件落着という感じがしました。

一見すると安楽椅子系パズラー、平たく云えばたんなる推理ゲーム。でも、最後に推理を開示する探偵役の信一少年にくらべて、警部や警察の出番がはるかに多く、警察が中心の捜査小説といった面もあって、複数の要素を楽しむことができます。
物足りなさがあるも、噛みしめるように読んで、ほのぼのとした優しさが感じられる良品集と云えるのもたしかです。


No.396 5点 このミステリーがすごい!2014年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2014/02/17 09:56登録)
注目記事は、幻の名作を探せ(復刊希望)と映画化ガイド。
幻の名作を探せは、名作を語り合う対談のようなもの。いつもの座談会の代わりなのか?すこしは趣向を凝らしてあり、面白いといえば面白い。
どうせなら、復刊ドットコムと組んで、復刊を募るなど大々的にやればいいのにとも思うが。

一方の映画化ガイドは予想していたのと全然ちがっていた。年刊本なので仕方ないが、この1年の映画化作品しか対象となっていないのは物足りない。
二流小説家の「武田真治が怪演」との記載があり、すこし目を惹いたが、それだけだった。観たいなとは思うがいつになることやら。最近、劇場では映画観ないからなぁ。

国内外のランキングは例年と同様、1つ2つ読みたいものが見つかればいい、という程度の位置付け。長岡弘樹の「教場」は刊行当初から気になっていたが、本サイトでの評価が高くなかっただけに、上位になるとは予想外だった。


No.395 6点 ウォリス家の殺人
D・M・ディヴァイン
(2014/02/12 11:19登録)
人気作家として成功したジョフリー・ウォリスと、彼を脅迫していたジョフリーの兄ライオネルとの関係はもちろん、ジョフリーを取り巻く複雑な家族、友人、仕事環境もミステリーの舞台設定として申し分なしです。
殺人が発生してからは、殺害された人物が出版する予定だった伝記を、その友人である歴史学者が引き継ぎ、その日記をもとに過去を探り始める・・・。
この流れはミステリーとして常套な展開とはいえ、その流れに沿って気持ちよく読み進むことができます。
しかも人物描写は匠の技。序盤の60ページほどの人物紹介だけでもわくわくします。その人物造形のうまさと、ていねいさがミソ、と思いながら読み進めましたが、犯人は当てられませんでした。

一方、地味すぎ、暗すぎは難点です。ドロドロ感が出すぎの感もあり、嗜好の分かれるところでしょう。一歩間違えれば、安っぽくもなってしまいそうです。
犯人当て物としては、無意識のうちにいろいろと推理していたことから考えても、楽しめたのだと思いますが、真相の解法はあまりすっきりしません。難易度が高いとうことでしょうか。それとも読み込み不足でしょうか?

総合評価としては、平均以上の佳作でしょうが、登場人物を魅力たっぷりに描いた、派手な「五番目のコード」や、騙しのテクニックを駆使した、地味な「兄の殺人者」にくらべると、すこし落ちます。
語り手だけでもすっきりとしたキャラにしておけば、ちょっとは違ったかな、という気もします。


No.394 6点 ビブリア古書堂の事件手帖4
三上延
(2014/02/04 10:57登録)
日常の謎の長編版はいかがなものかと危ぶんでいたが、いざ読んでみると、その点についてはなんら支障なしだった。乱歩の時代感や味わいも出ていて、長編ミステリとしての雰囲気は抜群だった。
謎解き物としてみると、ミステリ的な小道具を使いすぎたためか、謎解きそのものがパンチ不足になっている。いままでの短編のような肩肘張らない姿勢のほうが好感が持てる。

本書で注目すべきもうひとつのポイントは、栞子さんの母親の登場と、栞子さんと五浦くんとの関係の進展です。人間関係をごちゃごちゃと織り交ぜると俗っぽくなり、しかも肝心のミステリ部分が片隅に追いやられるから、微妙なところですが、個人的には楽しめたので結果オーライだったのではと思います。
ところで、母親の智恵子さん、なかなか魅力的な人物です。家庭を捨て雲隠れし陰で古書売買にひた走る美人のおばさんで、身近ではちょっとお目にかかれないような女性です。
この人の視点か主人公かで1作、書いてほしいですね。


No.393 7点 ビブリア古書堂の事件手帖3
三上延
(2014/01/28 11:13登録)
先にテレビ版を見たから、すぐには読む気になれず、本の方は「2」で止まっていた。「5」が出ることを知って、その前に「3」、「4」をまとめてと思っていたが、それも遅れてしまった。

ドラマの人気はぱっとしなかったようだ。可愛いアイドルが出ていても所詮、古書にまつわる地味な謎解きモノだから仕方がない。大いに満足したし、上出来だったと思うのだが・・・。
原作を読むと、ドラマを見たときはそれほどでもなかったのだが、ネタ本とくに『たんぽぽ娘』は無性に読みたくなる。やはり、原作の力か。

謎解き的にはごく普通といったところか。でも、作者は本への愛着と同じぐらいにミステリー・マインドが強いのだろうか、日常の謎なのに一編ごとのゾクゾク感はほんとうにたまらない。もちろんミステリーに関係しない読み心地の良さもあった。

最新作の「5」は、副題が「栞子さんと繋がりの時」。Amazon情報はくわしく見ていないが、このタイトルからすればもうそろそろなのか?微妙なネーミングです。
ネタは無尽蔵にあるわけだから、あとは作者である三上さんのがんばり次第。栞子さんが40歳ぐらいになるまで続けてほしい。


No.392 6点 地上より賭場に
ジル・チャーチル
(2014/01/24 10:18登録)
主婦探偵シリーズ、第6弾。
タイトルの「地上より賭場に」(ここよりとばに)は、映画「地上より永遠に」(ここよりとわに、“From Here to Eternity”)をもじったもの。翻訳者は原題“From Here to Paternity”の“Paternity”を無視したが、これでも問題はない。

内容は、子持ち主婦ジェーンが、子どもや恋人、友人家族と訪れた山奥のスキー・リゾートで連続殺人事件に遭遇し、解決するというもの。
ロシア皇帝の末裔やアメリカ先住民が登場し、その民俗的背景も絡んでくる。
後半、そんな背景をもとにジェーンたちは聞き込みをしながら推理が発展していき、本格ミステリーとして楽しめる。際立ったトリックはないが、謎解きの決め手と真相はなかなか面白い。
2冊目だが、ワンポイントで決める作家という印象。

素人探偵である主人公は、巻き込まれ型探偵というよりも、通りすがり探偵という位置づけでしかないので、読んでいて緊迫感に欠ける。主人公たちの明るいキャラが、事件の背景の重さやゲスト・キャラに勝ってしまってアンバランスになり、物語の中にどっぷりと浸ることができないのは難点かも。
いちばんの問題は、読み手にコージーを楽しむ姿勢がないことなのか?

wikiでコージーを調べると、国内では作例なし、近いものとして日常の謎がある、となっているが、本作に限れば、2時間ドラマでお馴染みのゆるめ、明るめの女性キャラが登場する旅情ミステリーなんかが似た存在だと思う。


No.391 7点 羊たちの沈黙
トマス・ハリス
(2014/01/15 15:49登録)
超有名な傑作サイコ・サスペンス映画の原作です。
今では新訳版(上下2分冊)が出ていますが、読んだのは旧訳版。

本作は連続猟奇殺人鬼であるバッファロゥ・ビルを、FBIの女性訓練生であるクラリス・スターリングらが追う捜査物語ですが、それにくわえて、強烈な個性の持ち主である収監中の殺人鬼、精神科医レクター博士が関わってきて、映画同様、異色警察ミステリーとして出色の出来ばえとなっています。
捜査のために天才殺人鬼が捜査官にアドバイスするという発想は、本当に凄い!

メインの事件のほうでは、バッファロゥ・ビルがなぜ、ある特徴的な女性を連続して狙ったか、という謎があります。この真相には仰天します。強烈なレクターの映像のためか忘れてしまいましたが、映画版でも同じだったのでしょうか。

主要な登場人物の心境描写がていねいに描いてあることは、小説ならではの特徴です。サイコ物だからその効果は抜群です。このわかりやすすぎる描写が売れた理由なのでしょう。ただ、言葉ではなく表情や効果、雰囲気で心境を表現する映画のほうがサスペンスとしてはわずかに勝っていたかな、という印象です。もちろん総合的には互角です。


No.390 7点 殺戮にいたる病
我孫子武丸
(2014/01/15 15:32登録)
読書中、頭の中でちらついていたグロテスクな描写は、ラストで吹っ飛んでしまいます。そんな仰天のサイコ・サスペンスです。
でも、ヒッチコックの映画「サイコ」(原作:ロバート・ブロック)もそうであるように、このぐらいのサプライズがなければ多くのミステリー読者は満足しないでしょう。

ラストよりもむしろ上手いと思うのは、捜査者を含めて3視点で描写してあることです。2視点でもミステリーとして十分に成り立つはずですが、捜査者を加えることでたんなる仰天ホラーが本格ミステリーに格上げされています。さらに、後半、それら3視点の各章を短くぶつ切りにしてよりサスペンスフルに表現し、読者の興奮度を倍増させたことも凄い。映像的なテクニックなのでしょうか。これには感心しました。
この作品を映像化すれば話題沸騰でしょうね。かなり困難ですが、映像的に隠すテクニックを駆使すればできなくはないとは思います。

叙述の仕方に批判的な声もあるようですが、個人的には二度読みの楽しさを与えてくれたことに感謝したいぐらいです。


No.389 3点 弥勒の掌
我孫子武丸
(2013/12/25 10:27登録)
これはイヤミスかも。といっても書かれた当時はこんな言葉はなかったか。
たんに後味が悪いだけというよりも、このラストに触れるとなぜか笑えてしまう。荒唐無稽といおうか、まるでマンガのようだ。ぱっとしない2連発のどんでん返しの後にやってきただけに、相乗効果で大笑い。ある意味、楽しめたのかもしれません。
オウム事件みたいなのもあったぐらいだから、もっと真面目に読むべきだろうが、社会に訴える要素はほとんどないし、タイムリーに読んでいないということもあって、ずしりとくるものが全くない。

教師と刑事の話が交互に進む展開はけっこう面白い。ただ両者が結びつくのが早すぎる。その後も両者の視点で交互に描かれているが、そのことに何かミステリー的な意味があるのだろうかと、ちょっと勘ぐったりもした。

読みやすいし、中途はワクワクしながら読めたのだが、やはり人に薦められるようなミステリーではない。


No.388 6点 人形館の殺人
綾辻行人
(2013/12/18 10:38登録)
この種の多くの小説、映画のミステリー要素を組み合わせれば、本作は創作可能でしょう。と云っても、本作が書かれたのが1980年代後半ですから、当時としてはかなり画期的な作品だったのではと思います。

読者に親切すぎるのは難点です。それは、多種のミステリーに触れたのちに読んだためなのかもしれませんが、それにしても、変則的な章立て構成や、わけのわからない独白文、傍点の多さなど、読者を真相へと誘導する要素が多すぎます。じつはオチは読みはじめから想定内でした。
ただ、そんなわかりやすい点も、善意にとれば、スリルを盛り上げるため、読解力のない私のような読者を含む万人にサスペンスを感じさせるため、ということとも理解できます。
ようするに、本格要素も、サスペンス要素もバランスよく含まれているということなのでしょう。

思いのほか平均点が低いのは、嗜好のばらつきが大きいからでしょうか。
個人的には、好みの点においては申し分なしですし、イチオシ作品でもありますが、勧められて読んで、がっかりする人も多いかもしれません。


No.387 5点 死者の身代金
リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク
(2013/12/14 14:26登録)
いつもの倒叙モノで、何から何までが最初にばらされている。と記憶していたが、かなり曖昧ではあった。
犯人を特定するためのコロンボが仕掛けた〇〇。これこそがポイント。
映像版は鑑賞済みだが、決め手となる肝心の〇〇については忘れていた。
コロンボの得意とする手法だが、これを忘れるぐらいだから、たいした作品ではないのか、それとも自分がミステリ読みとしていい加減すぎるのか、ただ忘れっぽいだけなのか。
これがなければ「刑事コロンボ」として何の価値もないことはたしかだ。犯人のとった数々の手段は抜けがありすぎるし、リスクも大きすぎる。子供だましのような感もある。

読みやすい作品ではあった。視点が変わっても、その視点人物の心境も描かれていてわかりやすい。初期の作品だからなのか?ジュブナイルでも通用しそう。これほど読みやすいのを褒めるべきなのか、微妙です。
なお、映像ではコロンボ役のピーター・フォークがハンフリー・ボガードの声色で名セリフを真似るシーンがあったが、ノヴェライズではあっけなしだった。じつはどういう風な描かれ方がしてあるのか、それだけが目当てで読んでみたのですが。


No.386 5点 カシスの舞い
帚木蓬生
(2013/12/10 10:45登録)
サスペンスに満ちた描写が素晴らしい。
なかでも情景描写は過去形の短文が連なっていて、ハードボイルド的だった。この「~だった。~した。・・・」の単調さは個人的には好みです。
そもそも英語や仏語などの海外小説の場合、文型(単語の並び)が日本語のそれとは違うから、日本語で前記のように翻訳されている文章でも、原語では単調に感じないのかもしれません。そのへんのことはわかりませんが、とにかく外国から持ち込まれて日本語独特の文体になったのではという気がします。

本作は、フランスが舞台の日本人医師を主人公とした、作者お得意の医療サスペンスです。
首なし死体の発見、その後連続して起きる不可解な事件など、エンタテイメント要素はたっぷりあります。一歩まちがえれば猟奇ものにもなりそうですが、解説の言葉をかりれば、そんな場面が清涼感のある筆致で描かれ、それが静かなサスペンスをもりあげています。

こんな医療サスペンスをノヴェル&ミステリーとして堪能しましたが、ただ、やはりエンタテイメントとなると、もうちょっとスリルがあってほしいし、もっともっと起伏に富んだプロットであってほしいなという気もします。


No.385 6点 バルカン超特急―消えた女
エセル・リナ・ホワイト
(2013/11/30 13:40登録)
映画版はヒッチコック・ベストに選ぶ人も多いが、空さんと同様、観たのはかなり前のことで、アクション場面など一部の記憶しかない。
「レベッカ」以前の昔の作品では本作と「三十九夜」しか観ていない。本作映画版も「三十九夜」も必要以上にドタバタとしていたように思う。チャップリンほどの早送り映像ではなかったが、テンポが速すぎるとシリアス物でもお笑いに見えてしまう。当時の映像技術の問題なのか。

原作は、列車内でミス・フロイという女性が消失し、主人公のアイリスはフロイ探しを始めるが、同室の乗客からフロイの存在自体を否定され、アイリスは困惑する、といった筋だ。
スリル満点というよりは、アイリスの内面描写に、他の登場人物の視点描写を織り交ぜながらサスペンスを盛り上げているという感じだ。車内で知り合った青年との会話はユーモアがあり、全体がやわらかいタッチで描いてあって、サスペンスは中ぐらいだが親しみの持てる作品だった。
この原作をそのまま映画化するのはむずかしそう。実在証明の手掛かりなどミステリー的な小道具は同じだが、映画はシンプルにまとめてあって、両者は別物という感じがしてならない。
と思うが記憶は定かでない。

映画版をドタバタ調だと言ったが、実はテンポのいいアクションだったのかな。とにかく忘れているのでもういちど観るべきですね。本作と同じアイデアを採用した「フライトプラン」はよく憶えているのですが。


No.384 6点 ささらさや
加納朋子
(2013/11/22 10:26登録)
冒頭で夫が交通事故で死ぬ。乳飲み子を連れたサヤは夫の家族から逃げるように田舎町に移り住むことになるが、そこには世話好きな三婆たちが待ち構えていた。その後、いろんな謎や事件に出くわし、婆さんたちも奔走するが、最後には夫の幽霊がサヤの身近な人に憑依して、謎解きをする。
そんな話8編からなる、ほのぼの系ユーレイ・ファンタジー風連作ミステリー。

どこかで見聞きした設定だなと思っていたが、過去の書評にもあるように、それは「ゴースト」だった。幽霊が登場するファンタジーとしては、国内では「居酒屋ゆうれい」という映画があるが、これは男女が逆で、妻が幽霊。さらに古い洋画では、「天国から来たチャンピオン」というのもある。みなほのぼの感動モノで、似通った感はある。
たしかに面白いが、個人的にはそれほど得意な分野ではない。

最初の1,2編では、ただの幽霊ファンタジーからは抜け出せなかったが、しだいに伏線も手掛かりもある本格ミステリーであることが判明してちょっとワクワクした。それに長編なみのサスペンスもあった。
ミステリー度合いはともかくとして、読んで得したと思った作品だった。


No.383 6点 煙で描いた肖像画
ビル・S・バリンジャー
(2013/11/22 10:02登録)
10年前に出会った少女(クラッシー)の記憶が古新聞の記事により呼び戻され、ダニーはそのわずかな手掛かりをもとに彼女の足跡を過去から現代へと辿りながら、彼女を探し求めていく。
一方のクラッシーは、生まれ育ちの悪さにも負けず、容姿を売り物に色仕掛けで、男たちを手玉に取りながら、要領よく賢く成り上がっていく。
ダニーの話は現在、クラッシーの話は回想。この2つの話が交互に展開する。
二人はいったい、どんな形で結ばれるのだろうか。

クラッシーの居場所を突き止めたかと思ったら数年前に姿を消していた、とやきもきさせられっぱなしだが、その次のページからは、姿を消すまでのその地でのクラッシーの暮らしぶりが語られる。読者を惹きつけるこのテクニックは、バリンジャーの得意とするところなのだろう。
中途では、ダニーとクラッシーの出会いがラブ・ストーリーとしての終着点になるのか、ミステリーとしての終着点になるのか、と想像しながら読み進んだが、出会いは意外に早く訪れた。
出会い後の一波乱が凄かった。想像以上のミステリー的な捻りもあった。でもラストのラストはパンチ力がやや弱い。

軽いタッチでさらっと読めるからイイ話なのかと勘違いしそうだが、ブラック・ユーモア以上に怖い話だった。とくに男にとっては。


No.382 6点 ロートレック荘事件
筒井康隆
(2013/11/12 10:02登録)
叙述トリックで評判の作品ということは知っていた(惹句もそれっぽいし本サイトの評もそれらしい)ので、かなり早め(第二章の初め)に、○○○○ねらいではないかと見当がつきました。ただ、かなりきわどい技が使ってあるので完全に読み解くことはできませんでした。

叙述的に技巧を凝らしてはいるけど、総合的な面白さとしては?です。アレだけで終わってるという感じですからね。
本作は作者がお遊び感覚で楽しみながら書いたのではないでしょうか。もちろん大変だったとは思いますが。
筒井氏は純文作家ではありませんが文章に長けた作家さんです。だからこそ、こんなミステリーにチャレンジできるのでしょう。しかもコンパクトにうまくまとめあげています。
平面図も上手いと思いましたし、解決編の親切な書き方にも感心しました。
ロートレックの挿絵がいっぱい入っているのもいいですね。


No.381 5点 空飛ぶ馬
北村薫
(2013/11/06 10:11登録)
主人公の女子大生の平凡な日常生活の中に、些細な謎がある。そんな謎と謎解きを描いた5作品が収録してある。
北村作品には縁がなく、本作が2冊目。これが日常の謎の原点なのかと納得しました。

話の大半に、主人公の身の回りのちょっとした出来事が描いてあります。歯が痛くて歯医者に行っただの、そこで隣の見知らぬ人に話しかけられただのという感じに。
そんな日常話に、些細な謎をくっつけて70ページにも及ぶ大作にしてあるから、たよりないやら、退屈やら。さらに気取りもあり、上品ぶった感じもありで、自分のようなへそ曲がりで、殺し(の話)の好きな下品なミステリー読みから反感を買われそうな作風です。
とにかく私小説と言い切っていいでしょう。何作目かに『赤頭巾』という作品がありましたが、庄司薫の『赤頭巾ちゃん気をつけて』の女性版のようにも感じました。「薫」つながりですしね。

謎の面では飛躍した推理もあり、ちょっとした驚きの結末もありですこしは楽しめました。でも、中途で緊張感が持続しないのはミステリーとして、かなり物足りません。
ミステリー・ファンであれば、ミステリーの合間に純文学を楽しむつもりで臨んだほうがいいでしょう。そのほうがまちがいなく得した気分になります。

本作品集の出版時には覆面作家だったんですね。その後作者がおじさんだと知れ、ファンは驚いたことでしょう。そのサプライズを狙ってのミステリーだったのかもしれません。

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