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ミステリの祭典

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臣さんの登録情報
平均点:5.91点 書評数:667件

プロフィール| 書評

No.407 7点 スタンド・バイ・ミー―恐怖の四季 秋冬編
スティーヴン・キング
(2014/04/29 13:14登録)
こんな非ホラーのヒット作品があれば、いまとなればホラー作家というレッテルを貼られていることが、本人にとってはかえって小気味がいいのではないだろうか。と、かってに本人の気持ちを読んでしまいましたが・・・。

映画でも有名な「スタンド・バイ・ミー」(秋編)は、作者がどうしても書きたかった作品なんだろうなぁ、という気がします。
ホラーではもちろんなく、ミステリーでもない。エンタテイメントかといえばちょっとちがう。
自伝的思い出語り青春小説といったところだろうか。オチもないから本来なら一般受けはしそうにないが、少年たちの冒険物語だから、いつまでもガキの心を持っていれば、どっぷりとはまってしまうでしょう。それにけっこう大胆な表現が使ってあるし、なんせ冒険テーマが死体探しだから楽しめることはまちがいなし。

「マッハッタンの奇譚クラブ」(冬編)は、奇譚クラブの会員である医師が語る、かつて診た女性患者の話。ホラー要素のあるファンタジーだろうか。この結末は強烈。ミステリーファンにも喜ばれると思うが・・・。

「恐怖の四季」は春夏秋冬に対応した全4編だが、寄せ集めという感じがしないでもない。本書はそのうちの秋冬編が収録されている。


No.406 6点 マルタの鷹
ダシール・ハメット
(2014/04/21 10:02登録)
伝説のマルタの鷹像の分捕り合戦。
たしかに伝説のエンタテイメント作品とはいえる。でも、ハードボイルドというよりも、なぜかお笑い作品に見えてしまう。感覚がずれているのだろうか。映画版の印象が強すぎたのかもしれない。

個人的には、いまでは古臭すぎるようにも感じる「赤い収穫」のほうが好みかな。とはいってもあまり差はなく、もっとも好きな「ガラスの鍵」にくらべれば、両者は似たり寄ったりかな。
ただ、本作はテーマ的には、時代が変わっても楽しまれる作品ではないだろうか。しかもプロットがシンプルなのもよい。
そういう意味では、子どもが読んでも楽しめるだろうし、ハードボイルド嫌いでも受け入れられそうです。いろんな人に読んでもらい感想を聞かせてほしいような気がします。


No.405 5点 陪審15号法廷
和久峻三
(2014/04/15 11:46登録)
赤かぶ検事シリーズではなく、ノン・シリーズ物。

海外の某有名作品と同じアイデアが使ってある。やはり、これはまずいなぁ。
被告人の妻が派手な服装をして法廷に立った時点で、なにかいやな予感がした。
本作はこのメインの謎(トリック)以外に、もう一つの謎がある。法廷で証人が、音もなくピストルに撃たて死ぬという事件だ。しかしながら、この謎の種明かしもたいしたことはなかった。
途中までは、読みやすくもあり読み応えもあって胸躍らされたのだが、結果的には、がっかり感のほうが大きかった。残念。
とはいえ、昭和初期に導入されていた国内の陪審制の法廷物を読めたことは収穫だった。現代のベテラン弁護士が、当時の模様を女子大生に話して聞かせるというスタイルもよかった。
上記海外某作品を未読であれば、まあまあ楽しめるのではと思い、この点数。

じつは本書購入の際、タイトルを読み違え、制度導入時に法廷物大家がリアルタイムに書いた裁判員制度モノの文庫書き下ろしか、と勘違いしていた。数年の積読後、タイトルをよく見ると・・・。
発刊が1989年で、再文庫化が2009年。あきらかに裁判員制度の導入タイミングを狙って文庫化したとしか思えない。


No.404 6点 恐怖の谷
アーサー・コナン・ドイル
(2014/04/09 14:51登録)
第一部は、殺人事件とその種明かし。
第二部は、ある男のスパイ・ストーリー。こんな話だったとはね。「赤い収穫」風の話で、国内の時代小説を読んでいるような気分にもなれた。
それぞれ独立した話として楽しむことはができるが、2つの話がどのようにつながるのか、そこも楽しむための要素だ。

2つの独立したストーリーを作っておけば、あとでそれら2つをつなぐことはどうということはない、ということがよくわかった。「緋色の研究」「四つの署名」も同じような2部構成となっている。うまく考えたものと感心した。
最後の長編である本作についても同じ様式を採用したということは、結局、ドイルはこのスタイルからは脱しきれなかったということだろう。

嗜好からすれば悲劇性のある「緋色の研究」のほうがすこし上だが、ミステリー性を加味すれば両者は同格か。

もう1つの長編「バスカヴィル家の犬」だけは2部構成ではないらしい。これは子どもの頃にも読んでおらず、まったくの未読なので、楽しみにしている。
それにしても本作の記憶は5%ぐらいだろうか。かなりひどい。


No.403 6点 青春の葬列
笹沢左保
(2014/04/02 11:29登録)
表題から連想できるように、若者の自殺、心中がテーマとなっている。
主人公の現在と、他者の過去の死とがどうリンクするのか、そこらあたりが謎(ミステリー)となっている。
登場人物たちは世をはかなんで死を望むのではなく、意外にあっけらかんとしているが、かといって明るい話はなく、また湿っぽいというわけでもない。

収録作品は、「噴煙はわが位牌」「十字架にわが業火」「過去に見た終焉」「明日こそわが柩」「絶唱は海の彼方に」の5編。笹沢左保らしいネーミングである。
「明日こそわが柩」はラストにサプライズはないが、ミステリーらしい流れで、楽しめた。これがベスト。「噴煙はわが位牌」が次点。
短編集なので、こんなものかな、と思えばそれなりに満足できる。

20年ほど前に読んだときは、笹沢氏の短編ってすばらしいと思ったものだが、再読すると物足らなさを感じる。


No.402 6点 殺人者の顔
ヘニング・マンケル
(2014/03/29 14:05登録)
スウェーデン南部の片田舎で起きた殺人事件を扱った警察ミステリー。
主人公はイースタ署の刑事、クルト・ヴァランダーです。

警察小説というよりは、心身ともにボロボロに擦り切れたヴァランダーのキャラクタ小説といってもいいぐらいです。
ありとあらゆるすべてが彼の視点で描いてあります。もちろん私生活もです。彼は署内でナンバー2ぐらいの地位ですが、自ら動くというのが身上のようで、だからこそ、ヴァランダーの視点だけでも十分に楽しめるということなのかもしれません。登場人物が多いわりに読みやすいのは、そんな理由からなのしょう。

手がかりは読者へいちおう開示され、最後には回収されるのですが、手がかりをもとに謎解きすることは絶対に無理です。そういった非本格ミステリーですが、個人的には楽しめました。捜査の過程を楽しむつもりで読めば満足感は得られるのではないかと思います。

シリーズ第1作だから主人公に関する描写を中心にしたのは止むを得ない気もします。次作以降がどうなっているのか、楽しみです。


No.401 7点 エクステンド
鏑木蓮
(2014/03/20 17:12登録)
なにげなく手にとった本だったが、アタリだった。
作者の名前すら知らなかった。第52回乱歩賞受賞作家らしい。『東京ダモイ』で受賞とのこと。
本書は、京都が舞台の警察モノ。主人公は京都弁を操る女性新米刑事と、キャリア警察官。

(以下、ややネタバレ)
二転三転したあと最後に見せた容疑者起訴のための決定打は、警察がぎりぎりのところで掴んだ証拠だった。これが強烈だった。
文庫裏の解説には、カウントダウン・サスペンスとある。警察モノで時限が絡むとしたら、たぶんアレしかないと思っていたが、それは中ほどでほとんどわかってしまう。しかも犯人は中盤で判明したようなもので、あとは証拠を時間内にどのように見つけるか、そこがポイントとなる。
倒叙モノとあまり変わらない作りだ。最後の決定打はコロンボが仕掛ける罠のようなもので、本作では罠に匹敵する決め手が、打つ手なしとなったときに天の助けのごとく表れる。
偶然の産物ではあるが、タイムリミットの流れとあいまって抜群の効果があった。伏線も利いている。
ただ、最初に死んだ女性がやや疎略な扱われ方をしているのは気になる。これに関し最後の最後にオチがつけてあるが、わざとらしく感じた。
とはいえ十分に楽しませてくれた。

なお、もともとは『エクステンド』というタイトルだそうですが、これをたぶん出版社が改題したようです。タイムリミット物ということを強調したかったのでしょう。


No.400 5点 ゲルニカに死す
佐伯泰英
(2014/03/14 15:09登録)
スペインが舞台の、ピカソの『ゲルニカ』絡みのミステリー。
ゲルニカの日本公開の企画を恩師・宮岡から示唆される主人公の土岐。彼からの計画を受けてスペインへ飛んだテレビ局の社員は、現地で喉を掻き切られて殺害される。その殺害手段はスペイン内戦のころより暗躍する集団「三角帽子」の手口に似ていた。

事件は果たして、ゲルニカの製作秘話に絡むのか、スペインの内戦史との関係があるのか、それとも・・・。
真相は壮大。予想し得るものかもしれないが、中途が拡散しすぎで辿りつきにくい。ラストに明かされるもう一つの真実に、むしろ驚かされた。
ゲルニカ空襲の描写はごくわずかだがあった。けっこうなまなましい。被爆、被空襲国の日本との類似性を背景として捉えたところは、うまいと思った。
ピカソに対する印象は、原田マハさんの『楽園のカンヴァス』に脇役として登場するピカソから受けるものとは、ずいぶんちがう。すごい時代を生き抜いた画家のようだ。

作者の佐伯泰英氏はいまや時代小説の人気ナンバーワン作家。そんな売れっ子作家もかつてはミステリー系の作品が売れず、出版社から時代小説か官能小説を書いてほしいと云われて、ミステリーを断念したという。それが大成功につながった。

あとで気付いたが、本作は400評目だった。


No.399 6点 毛糸よさらば
ジル・チャーチル
(2014/03/14 14:49登録)
ちょっと季節はずれですが・・・

タイトルはいつものように、もじりがあります。
日本語では、「毛糸」と「武器」とでは音で通じるところはなく、日本語タイトルの評価としては、「ゴミと罰」や「地上より賭場に」が10点なのに対し、本作は7点ぐらい。とはいえ上等です。

肝心のミステリーとしてどうかといえば・・・
今作も主婦探偵ジェーンが謎解きするのは、近所での殺人事件。
後半では想像もつかない事件の背景をジェーンが見つけ出し、それには驚かされます。どんでん返しもあります。
でもこの真相は読者が推理できるものではありません。ミステリーファンにとっては、本格ミステリー(フーダニット物)として読むよりは、ジェーンたちの会話を楽しみ、ラストにちょっと興奮する程度に臨むほうが無難でしょう。
なお、タイトルについている「毛糸」は、クリスマス・パーティーでのバザー品に関連するもの。ということで季節感を出したタイトルになっています。

初めてこのシリーズを読んだときは、コージーらしい会話文や雰囲気に果たして慣れるのだろうかと心配していましたが、3作を読んでみて、まったく問題ありませんでした。
馴染みがないどころか、女性の探偵役が登場する軟弱そうな国内2時間サスペンスを、海外コメディードラマ風に味付けしたような感じで、とても親しみやすく、肩の力を抜いて気楽に読むことができます。


No.398 3点 美濃路殺人悲愁 私法廷の殺人者
石川真介
(2014/02/28 10:44登録)
無関係に見える三組の夫婦がグリーン車チケット付きの美濃路旅行の招待を受ける。謝礼は50万円。なぜか一部のカップルは道中、暴行を受け強制連行される。そうしながらも三組はホテルで一堂に会する。
序盤でホスト側が復讐の背景を開示する。中盤には事件が発生する。容疑者は招待客+α。彼らは貸切のワンフロアでCC状態となる。冒頭に登場した美人作家が名探偵として再登場し、事件はあっさり結着したかに見えたが・・・。

最後に開示される動機はいくらなんでも、という感じがする。解説でも指摘してある、計画性と衝動性との組み合わせについても、納得のいかないところ。
文章はちぐはぐだし、視点も乱れている。
とこきおろしたくなるが、なぜだか夢中になって読んだ。プロットが凝っていて、読ませるツボを心得ているのだろうか。
背景もいろいろ、犯人の計画もいろいろ、と楽しませる要素もたっぷりある。

作者を調べてみると、第二回の鮎川哲也賞の受賞者だった。予想していた、タイトルどおりのトラベルミステリー作家ではない。社会派寄りな旅情ミステリーだと思って読み始めただけに、ちょっと勘が狂ってしまった。
鮎川哲也賞ながらも、このサイトで評者がゼロというのは不思議です。
読むに値せずということを知ったうえでのことなのか、それともどうせトラベルミステリー作家だろうとの先入観があるからなのか。


No.397 6点 遠きに目ありて
天藤真
(2014/02/24 11:40登録)
最初の「多すぎる証人」を読んで思い浮かんだのは、モルグ街の殺人もそうですが、どちらかといえばCの名作です。この種のヴァリエーション作品はいまなら豊富にあります。証人絡みということなら先日読んだバルカン超特急も似ています。本作はタイトルだけでなんとなく想像できるのが難点。でも、最初のこの作品を読んで、いい感じの連作なんだろうなとの予感がしました。結果的にこの作品がいちばんよかった。

以下、「宙を飛ぶ死」「出口のない街」はアリバイ物。「出口のない街」は特殊な密室の謎が付いています。
「見えない白い手」「完全な不在」はなぜだか中編。はたして「完全な不在」を中編にする必要があったのだろうか、ポイントはただ1つなのに。浮浪者が登場した時点で一件落着という感じがしました。

一見すると安楽椅子系パズラー、平たく云えばたんなる推理ゲーム。でも、最後に推理を開示する探偵役の信一少年にくらべて、警部や警察の出番がはるかに多く、警察が中心の捜査小説といった面もあって、複数の要素を楽しむことができます。
物足りなさがあるも、噛みしめるように読んで、ほのぼのとした優しさが感じられる良品集と云えるのもたしかです。


No.396 5点 このミステリーがすごい!2014年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2014/02/17 09:56登録)
注目記事は、幻の名作を探せ(復刊希望)と映画化ガイド。
幻の名作を探せは、名作を語り合う対談のようなもの。いつもの座談会の代わりなのか?すこしは趣向を凝らしてあり、面白いといえば面白い。
どうせなら、復刊ドットコムと組んで、復刊を募るなど大々的にやればいいのにとも思うが。

一方の映画化ガイドは予想していたのと全然ちがっていた。年刊本なので仕方ないが、この1年の映画化作品しか対象となっていないのは物足りない。
二流小説家の「武田真治が怪演」との記載があり、すこし目を惹いたが、それだけだった。観たいなとは思うがいつになることやら。最近、劇場では映画観ないからなぁ。

国内外のランキングは例年と同様、1つ2つ読みたいものが見つかればいい、という程度の位置付け。長岡弘樹の「教場」は刊行当初から気になっていたが、本サイトでの評価が高くなかっただけに、上位になるとは予想外だった。


No.395 6点 ウォリス家の殺人
D・M・ディヴァイン
(2014/02/12 11:19登録)
人気作家として成功したジョフリー・ウォリスと、彼を脅迫していたジョフリーの兄ライオネルとの関係はもちろん、ジョフリーを取り巻く複雑な家族、友人、仕事環境もミステリーの舞台設定として申し分なしです。
殺人が発生してからは、殺害された人物が出版する予定だった伝記を、その友人である歴史学者が引き継ぎ、その日記をもとに過去を探り始める・・・。
この流れはミステリーとして常套な展開とはいえ、その流れに沿って気持ちよく読み進むことができます。
しかも人物描写は匠の技。序盤の60ページほどの人物紹介だけでもわくわくします。その人物造形のうまさと、ていねいさがミソ、と思いながら読み進めましたが、犯人は当てられませんでした。

一方、地味すぎ、暗すぎは難点です。ドロドロ感が出すぎの感もあり、嗜好の分かれるところでしょう。一歩間違えれば、安っぽくもなってしまいそうです。
犯人当て物としては、無意識のうちにいろいろと推理していたことから考えても、楽しめたのだと思いますが、真相の解法はあまりすっきりしません。難易度が高いとうことでしょうか。それとも読み込み不足でしょうか?

総合評価としては、平均以上の佳作でしょうが、登場人物を魅力たっぷりに描いた、派手な「五番目のコード」や、騙しのテクニックを駆使した、地味な「兄の殺人者」にくらべると、すこし落ちます。
語り手だけでもすっきりとしたキャラにしておけば、ちょっとは違ったかな、という気もします。


No.394 6点 ビブリア古書堂の事件手帖4
三上延
(2014/02/04 10:57登録)
日常の謎の長編版はいかがなものかと危ぶんでいたが、いざ読んでみると、その点についてはなんら支障なしだった。乱歩の時代感や味わいも出ていて、長編ミステリとしての雰囲気は抜群だった。
謎解き物としてみると、ミステリ的な小道具を使いすぎたためか、謎解きそのものがパンチ不足になっている。いままでの短編のような肩肘張らない姿勢のほうが好感が持てる。

本書で注目すべきもうひとつのポイントは、栞子さんの母親の登場と、栞子さんと五浦くんとの関係の進展です。人間関係をごちゃごちゃと織り交ぜると俗っぽくなり、しかも肝心のミステリ部分が片隅に追いやられるから、微妙なところですが、個人的には楽しめたので結果オーライだったのではと思います。
ところで、母親の智恵子さん、なかなか魅力的な人物です。家庭を捨て雲隠れし陰で古書売買にひた走る美人のおばさんで、身近ではちょっとお目にかかれないような女性です。
この人の視点か主人公かで1作、書いてほしいですね。


No.393 7点 ビブリア古書堂の事件手帖3
三上延
(2014/01/28 11:13登録)
先にテレビ版を見たから、すぐには読む気になれず、本の方は「2」で止まっていた。「5」が出ることを知って、その前に「3」、「4」をまとめてと思っていたが、それも遅れてしまった。

ドラマの人気はぱっとしなかったようだ。可愛いアイドルが出ていても所詮、古書にまつわる地味な謎解きモノだから仕方がない。大いに満足したし、上出来だったと思うのだが・・・。
原作を読むと、ドラマを見たときはそれほどでもなかったのだが、ネタ本とくに『たんぽぽ娘』は無性に読みたくなる。やはり、原作の力か。

謎解き的にはごく普通といったところか。でも、作者は本への愛着と同じぐらいにミステリー・マインドが強いのだろうか、日常の謎なのに一編ごとのゾクゾク感はほんとうにたまらない。もちろんミステリーに関係しない読み心地の良さもあった。

最新作の「5」は、副題が「栞子さんと繋がりの時」。Amazon情報はくわしく見ていないが、このタイトルからすればもうそろそろなのか?微妙なネーミングです。
ネタは無尽蔵にあるわけだから、あとは作者である三上さんのがんばり次第。栞子さんが40歳ぐらいになるまで続けてほしい。


No.392 6点 地上より賭場に
ジル・チャーチル
(2014/01/24 10:18登録)
主婦探偵シリーズ、第6弾。
タイトルの「地上より賭場に」(ここよりとばに)は、映画「地上より永遠に」(ここよりとわに、“From Here to Eternity”)をもじったもの。翻訳者は原題“From Here to Paternity”の“Paternity”を無視したが、これでも問題はない。

内容は、子持ち主婦ジェーンが、子どもや恋人、友人家族と訪れた山奥のスキー・リゾートで連続殺人事件に遭遇し、解決するというもの。
ロシア皇帝の末裔やアメリカ先住民が登場し、その民俗的背景も絡んでくる。
後半、そんな背景をもとにジェーンたちは聞き込みをしながら推理が発展していき、本格ミステリーとして楽しめる。際立ったトリックはないが、謎解きの決め手と真相はなかなか面白い。
2冊目だが、ワンポイントで決める作家という印象。

素人探偵である主人公は、巻き込まれ型探偵というよりも、通りすがり探偵という位置づけでしかないので、読んでいて緊迫感に欠ける。主人公たちの明るいキャラが、事件の背景の重さやゲスト・キャラに勝ってしまってアンバランスになり、物語の中にどっぷりと浸ることができないのは難点かも。
いちばんの問題は、読み手にコージーを楽しむ姿勢がないことなのか?

wikiでコージーを調べると、国内では作例なし、近いものとして日常の謎がある、となっているが、本作に限れば、2時間ドラマでお馴染みのゆるめ、明るめの女性キャラが登場する旅情ミステリーなんかが似た存在だと思う。


No.391 7点 羊たちの沈黙
トマス・ハリス
(2014/01/15 15:49登録)
超有名な傑作サイコ・サスペンス映画の原作です。
今では新訳版(上下2分冊)が出ていますが、読んだのは旧訳版。

本作は連続猟奇殺人鬼であるバッファロゥ・ビルを、FBIの女性訓練生であるクラリス・スターリングらが追う捜査物語ですが、それにくわえて、強烈な個性の持ち主である収監中の殺人鬼、精神科医レクター博士が関わってきて、映画同様、異色警察ミステリーとして出色の出来ばえとなっています。
捜査のために天才殺人鬼が捜査官にアドバイスするという発想は、本当に凄い!

メインの事件のほうでは、バッファロゥ・ビルがなぜ、ある特徴的な女性を連続して狙ったか、という謎があります。この真相には仰天します。強烈なレクターの映像のためか忘れてしまいましたが、映画版でも同じだったのでしょうか。

主要な登場人物の心境描写がていねいに描いてあることは、小説ならではの特徴です。サイコ物だからその効果は抜群です。このわかりやすすぎる描写が売れた理由なのでしょう。ただ、言葉ではなく表情や効果、雰囲気で心境を表現する映画のほうがサスペンスとしてはわずかに勝っていたかな、という印象です。もちろん総合的には互角です。


No.390 7点 殺戮にいたる病
我孫子武丸
(2014/01/15 15:32登録)
読書中、頭の中でちらついていたグロテスクな描写は、ラストで吹っ飛んでしまいます。そんな仰天のサイコ・サスペンスです。
でも、ヒッチコックの映画「サイコ」(原作:ロバート・ブロック)もそうであるように、このぐらいのサプライズがなければ多くのミステリー読者は満足しないでしょう。

ラストよりもむしろ上手いと思うのは、捜査者を含めて3視点で描写してあることです。2視点でもミステリーとして十分に成り立つはずですが、捜査者を加えることでたんなる仰天ホラーが本格ミステリーに格上げされています。さらに、後半、それら3視点の各章を短くぶつ切りにしてよりサスペンスフルに表現し、読者の興奮度を倍増させたことも凄い。映像的なテクニックなのでしょうか。これには感心しました。
この作品を映像化すれば話題沸騰でしょうね。かなり困難ですが、映像的に隠すテクニックを駆使すればできなくはないとは思います。

叙述の仕方に批判的な声もあるようですが、個人的には二度読みの楽しさを与えてくれたことに感謝したいぐらいです。


No.389 3点 弥勒の掌
我孫子武丸
(2013/12/25 10:27登録)
これはイヤミスかも。といっても書かれた当時はこんな言葉はなかったか。
たんに後味が悪いだけというよりも、このラストに触れるとなぜか笑えてしまう。荒唐無稽といおうか、まるでマンガのようだ。ぱっとしない2連発のどんでん返しの後にやってきただけに、相乗効果で大笑い。ある意味、楽しめたのかもしれません。
オウム事件みたいなのもあったぐらいだから、もっと真面目に読むべきだろうが、社会に訴える要素はほとんどないし、タイムリーに読んでいないということもあって、ずしりとくるものが全くない。

教師と刑事の話が交互に進む展開はけっこう面白い。ただ両者が結びつくのが早すぎる。その後も両者の視点で交互に描かれているが、そのことに何かミステリー的な意味があるのだろうかと、ちょっと勘ぐったりもした。

読みやすいし、中途はワクワクしながら読めたのだが、やはり人に薦められるようなミステリーではない。


No.388 6点 人形館の殺人
綾辻行人
(2013/12/18 10:38登録)
この種の多くの小説、映画のミステリー要素を組み合わせれば、本作は創作可能でしょう。と云っても、本作が書かれたのが1980年代後半ですから、当時としてはかなり画期的な作品だったのではと思います。

読者に親切すぎるのは難点です。それは、多種のミステリーに触れたのちに読んだためなのかもしれませんが、それにしても、変則的な章立て構成や、わけのわからない独白文、傍点の多さなど、読者を真相へと誘導する要素が多すぎます。じつはオチは読みはじめから想定内でした。
ただ、そんなわかりやすい点も、善意にとれば、スリルを盛り上げるため、読解力のない私のような読者を含む万人にサスペンスを感じさせるため、ということとも理解できます。
ようするに、本格要素も、サスペンス要素もバランスよく含まれているということなのでしょう。

思いのほか平均点が低いのは、嗜好のばらつきが大きいからでしょうか。
個人的には、好みの点においては申し分なしですし、イチオシ作品でもありますが、勧められて読んで、がっかりする人も多いかもしれません。

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