nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2864件 |
No.944 | 6点 | 毒のたわむれ ジョン・ディクスン・カー |
(2016/01/06 13:02登録) (ネタバレなしです) 1932年発表の長編第5作である本書はバンコランシリーズのワトソン役であるジェフ・マールは登場しますがバンコランは登場せず、パット・ロシターという青年が探偵役です。ロシターは本書のみの登場で、そのためかフェル博士シリーズ第1作である「魔女の隠れ家」(1933年)へのつなぎ的な作品のように位置づけられていますが本書は本書でなかなか個性的です。舞台をクエイル邸に限定し、登場人物もほとんどがクエイル家ゆかりの者に限定してクローズド・サークル的な世界でじわじわと緊迫感を盛り上げているのはカーとしては珍しいです(邸の見取図があればもっとよかった)。謎解き手掛かりやミスディレクションに気を配っており、本格派推理小説として十分に水準をクリアしています。ユーモア要素はほとんどありませんが最後に意外な「笑い」の理由が説明され、なぜタイトルに「たわむれ」を使っているのかが納得できました。 |
No.943 | 5点 | 万引女の靴 E・S・ガードナー |
(2016/01/06 12:29登録) (ネタバレなしです) 1938年発表のペリイ・メイスンシリーズ第16作です。1930年代の作品に力作の多いガードナーですが、本書も一癖も二癖もありそうな人物がずらりと登場する上にプロットが予想外の展開を見せて読ませどころ満載です。メイスンに敵意むき出しのホルコム部長刑事の駄目っぷりも効果的です。しかしハッピーエンド狙いのためか強引で魅力に乏しい真相になってしまい、検察だけでなく読者まではぐらかされた感が残るのが惜しいです。あと物語とは関係ありませんが、序盤で秘書のデラの体重を暴露してますけどいいのかなあ。 |
No.942 | 6点 | 養鶏場の殺人/火口箱 ミネット・ウォルターズ |
(2016/01/01 08:57登録) (ネタバレなしです) 2つの中編を収めて2013年に出版された中編集で、ウォルターズ入門として好適と評されていますがなるほどと納得しました。2006年発表の「養鶏場の殺人」は1920年冬に出会った男女が恋仲になり、しかし4年後に女性が謎の死を遂げるという実際に起こった事件を題材にしたもので、味気ないノンフィクション小説だろうと思ったらいい意味で裏切られました。2人の主人公の心理を丁寧に描写し、悲劇的破局に向かってじわじわとスリルが盛り上がり、大変読みやすいサスペンス小説でした(最後の4ページだけ作者による犯罪ドキュメントタッチになっていますが)。1999年発表の「火口箱」は本格派推理小説です。登場人物も多く、社会問題まで提起している上に結末の意外性もねらった感があって長編並みに濃厚な内容の作品。しかし何度も過去と現在を入れ替えているプロットはさすがに技巧に走り過ぎで、無用に読みにくくしたとしか思えません。もっとも読解力のない私がそう思っているだけのようで、世間一般の評価はおおむね好評です。 |
No.941 | 5点 | 今宵は浮かれて アリサ・クレイグ |
(2016/01/01 08:33登録) (ネタバレなしです) 1991年発表のマドック&ジェネットシリーズ第2作で、マクラウド名義の「にぎやかな眠り」(1978年)や「消えた鱈」(1984年)と同様クリスマスの雰囲気豊かなコージー派の本格派推理小説です。個性豊かな登場人物と地道なアリバイ崩しというちょっと不思議な組み合わせのプロットで、意外にトリッキーな作品でした。かなり強引なトリックではありますが。 |
No.940 | 6点 | 妖かし蔵殺人事件 皆川博子 |
(2016/01/01 08:25登録) (ネタバレなしです) 1986年発表の本書は芝居の世界で起きた事件を扱っていますので、同じ作者の「旅芝居殺人事件」(1984年)と比較するのも一興でしょう。作者の特徴である幻想性は後退していますが、本格派推理小説としての謎解きは本書の方が充実しているように思います。不可能犯罪を巡っての推理議論が謎解きを盛り上げます。人間消失トリックは一般読者にはちょっとなじみにくそうですが作品世界を活かしたものです。単なる謎解きに留まらず人間ドラマとしてもよくできていて、最後のモノローグの悲哀を含んだ余韻が何とも言えません。プロットも人間関係も大変複雑ですので登場人物リストを作成しながら読んだ方がいいと思います。 |
No.939 | 7点 | 黒潮の偽証 高橋泰邦 |
(2016/01/01 08:04登録) (ネタバレなしです) 高橋泰邦(1925-2015)は翻訳家の活動の方に力を入れていたようですが、海洋小説の書き手としても評価は高いです。作品数が少ないにも関わらず冒険小説、サスペンス小説、果てはSFからノンフィクション・ノヴェルと作風が幅広いのも特徴です。本書は長編第4作で海事補佐人(海難審判の弁護人のようです)の大滝辰二郎シリーズ第3作です。過去のシリーズ2作(私は未読です)がサスペンス小説系だったのに対して本書は本格派推理小説です。それもそのはず、1963年に東都ミステリー版で発表された際には犯人名と重要な手掛かりを読者に当てさせる懸賞小説だったのです。当然ながらこれから読む人には解決まで整理されている光文社文庫版を勧めます。懸賞小説だっただけに読者に対するフェアプレーを意識しており、物的手掛かりが少ないながらも細部まで丁寧に謎解きしています。海図や船の見取図まで添付されていて上質な海洋ミステリーを読んだ手応えがありました。 |
No.938 | 5点 | 天城一の密室犯罪学教程 天城一 |
(2016/01/01 07:45登録) (ネタバレなしです) 3つのPARTで構成された2004年発表の短編集で、PART1は8つのショート・ショートと2つの短編を収めた「実践編」、PART2は先人やPART1の作品を引用しながら密室を9つのタイプに分類した評論の「理論編」、そしてPART3は初期の名探偵・麻耶正シリーズの全作品10作が収まっています(PART1にも1作あるので厳密にはシリーズ全11作)。もともとはPART2の前身である評論「密室作法」(1986年)があり、そこにPART1が追加されて「密室犯罪学教程」(1991年)として私家版が出版されています。誰でも入手しやすい商業出版された本に追加されたPART3は本来は「教程」と関係がなくおまけのようなものですが、麻耶正シリーズが全部読めるようになったのは歓迎です。ただこの短編集、これから推理小説家を目指す人やマニアなど限られた読者向けかなと思います。「無駄を削ぎ落とした作品」と好意的に評価する人もいますが、個人的にはどんな事件が起きたのかさえも説明不足の作品が多くて非常に読みにくく、トリックも(悪い意味で)唖然とさせらます。PART2では自作のみならず、ルルー、ルブラン、カーなど多くの作品の(トリックだけでなく時には犯人名まで)ネタバレしているのでビギナー読者には到底勧められません。 |
No.937 | 5点 | 十二人の抹殺者 輪堂寺耀 |
(2015/12/31 10:21登録) (ネタバレなしです) 1960年発表の江良利久一シリーズの本格派推理小説で、1952年に雑誌連載されながら中絶してしまった「狼家の恐怖」を改訂完成させたものだそうです。1960年といえば本格派推理小説の人気は下降線を描き、社会派推理小説が肩で風を切っていた時代だと思いますが時代の潮流に器用に迎合することができなかったのでしょうね。殺人予告状に連続殺人事件(犠牲者の数が半端ないです)、密室に足跡のない殺人、アリバイ崩しにどんでん返しと本格派以外の何物でもない世界が広がります。トリックに見るべき物がないとか事情聴取が丁寧すぎて物語のテンポがやや重いとかなどの弱点はありますが、輪堂寺耀(りんどうじよう)(1917-1992)の代表作と評価されるのも納得の力作ではあります。しかし自分の作風が(当時の)読者が求めている物ではないことを悟ったのでしょうか、本書以降は作品を発表することはありませんでした。 |
No.936 | 5点 | 虹の視覚 鷲尾三郎 |
(2015/12/31 10:05登録) (ネタバレなしです) 1963年発表の三木要シリーズの本格派推理小説で、結婚式の当日に花嫁がホテルの花嫁休憩室で殺される事件を扱っています。青樹社版で150ページ程度と分量は多くなく、ストーリーもシンプルで大変読みやすい作品ですが特徴となると動機をちょっとひねってあるぐらい(それも万人受けしにくい動機)。シンプルなのは必ずしも弱点だとは思いませんが、それにしてももう少し作品個性が欲しかったですね。 |
No.935 | 5点 | 消えた相続人 山村美紗 |
(2015/12/31 09:54登録) (ネタバレなしです) 1982年発表のキャサリン・ターナーシリーズ第4作でシリーズ最大の異色作です。誘拐サスペンスの体裁をとり、いかにして人質を救出するかがメインプロットになっています。人質救出のためのキャサリンのアイデアが大変独創的で、そこからの展開もサスペンス豊かです。とはいえこの作者は本質的に本格派推理小説家で、終盤にはどんでん返しの謎解きがありますが個人的には苦しい後づけに感じました。本格派好きの私から見ても本書は最後まで誘拐サスペンスを貫いた方がよかったように思います。 |
No.934 | 5点 | 湖列車連殺行 阿井渉介 |
(2015/12/31 08:29登録) (ネタバレなしです) 1989年に(当時は「火の湖列車連殺行」というタイトルで)発表された列車シリーズ第2作の本格派推理小説です。作者は「謎をいくつさし出すことができるか?これは読者へのチャレンジです。またサービスです」とコメントしていますが、これは本書のみならずシリーズ全般の特色となりました。前半はカチカチ山に見立てたかのような事件、光る幽霊、1年前の死者の指紋、全ての家具がひっくり返された部屋などの不思議な謎が連続します。中盤は一転して複雑な人間関係が明らかになっていく地味な展開になりますが、終盤近くになると走る人間が人形に変化したり鉄壁のアリバイが登場するなどまたまた謎が増えていきます。しかし謎解きのまとまりがいいとは言えず、説明は論理的でなく、トリックのためのトリックとしか思えないものばかりでした。 |
No.933 | 6点 | 若きウェルテルの怪死 梶龍雄 |
(2015/12/31 07:58登録) (ネタバレなしです) 1983年発表の旧制高校シリーズ第2作で、舞台は仙台の旧制二高です。過度に重々しくはありませんが戦争が迫りつつある緊張感と反戦活動が随所に描写されています(作中時代は1934年)。主人公は事件捜査にはほとんど直接参加できず伝聞的に知らされる情報に感情的に反発するばかり、この主人公に共感すればするほど読者は真相から遠ざかってしまうような気分にさせられるという本格派推理小説としてはユニークなプロットです。終盤には「読者への挑戦状」が挿入され、畳み掛けるようなどんでん返しの連続が待っています。都合よすぎる偶然に感じられる部分もありますがなかなかの力作です。 |
No.932 | 5点 | 探偵の夏あるいは悪魔の子守唄 岩崎正吾 |
(2015/12/31 07:45登録) (ネタバレなしです) 岩崎正吾(いわさきせいご)(1944年生まれ)は綾辻行人と同じく新本格派作家の一人で、「田園派ミステリー」を書くことを宣言した異色の存在です。もともと地方出版社の経営に携わっていて、そこで「横溝正史殺人事件あるいは悪魔の子守唄」というタイトルで1987年に出版したのが本書です。最終章で「本歌どり」について説明されていますが、人名、地名、せりふなど随所に横溝正史作品を連想させる場面が一杯で、横溝好きの読者なら大いに楽しめそうです。無論謎解きは横溝作品をそのままコピーしてはいないし、横溝作品を読んでいない読者でも十分に楽しめる内容です。ただ肝心の真相が偶然の重ねがけになってしまっているところはちょっと不満ですが。 |
No.931 | 6点 | ひとり者はさびしい A・A・フェア |
(2015/12/31 07:32登録) (ネタバレなしです) 1961年発表のバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズ第21作です。個性的な女性が多く描かれ(男性もそれなりにはいますけど)、ドナルドのモテモテぶりもたっぷりです(笑)。無論ひどい目にも合わされるのですがそれは後で手ひどいしっぺ返しをくらっています(本書ではセラーズ部長刑事)。善悪の関係がわかりやすいので犯人の意外性などほとんどない謎解きですが、いかにしてハッピーエンドに持って行くかを楽しめれば本書はそれでいいのでしょう。 |
No.930 | 5点 | 仮面幻双曲 大山誠一郎 |
(2015/12/31 07:21登録) (ネタバレなしです) 大山誠一郎(1971年生まれ)の2006年発表の長編第1作である本格派推理小説です。人物描写も雰囲気もあっさりしており悪く言えば書き込み不足、良く言えば簡潔にして要領を得ており個人的には後者に一票を投じたいです。沢山のトリックを組み合わせておりその多くは過去のミステリーで使われたトリックの再利用或いは少々加工したものですが、豊富な謎解き伏線と合わせての推理説明はまさにパズルストーリーの典型です。本格派嫌いの読者にお勧めできる要素は全くなく、逆に好きな人にはたまらない作品です。第二の事件で使われているトリックはあまりにも失敗リスクが高そうですけど(詳しく書けませんが絶対に不自然な痕跡が残りそう)。 |
No.929 | 4点 | 終わりのない事件 L・A・G・ストロング |
(2015/12/31 07:06登録) (ネタバレなしです) イギリスのL・A・G・ストロング(1896-1958)は詩、伝記、戯曲、評論など幅広い分野で活躍し、小説も20作以上書いていますがその内ミステリーは6作程度に留まるようです。本格派推理小説の書き手として認知されているようですが、全4作のエリス・マッケイ主任警部(男性です)シリーズの第3作である1950年発表の本書はジャンルの特定に悩みそうな作品です(論創社版の巻末解説ではスリラー作品と紹介されています。エリスがどんな犯罪事件を追いかけているのか、それともこれから起きるのか曖昧な状態で物語が進行します。中盤で死体が登場するも身元はわからず雲をつかむようなプロットです。文章は洗練されていて時にはユーモアも交えていますが読みにくい作品でした。まるっきり運任せで解決したわけではありませんが、終盤でエリスは「僕は正しいことをなにひとつしていない。成り行きでひょっこり真実が見つかったというだけにすぎない」と自虐的なコメントを残しています(笑)。しっかりしたプロットは他のシリーズ作品に期待した方がよさそうです。 |
No.928 | 4点 | ハリウッド・サーティフィケイト 島田荘司 |
(2015/12/31 06:29登録) (ネタバレなしです) 2001年発表の本書は「龍臥亭殺人事件」(1996年)と同じく御手洗潔シリーズの番外編というべき長編で、主人公は松崎レオナです。御手洗潔は間接的な登場に留まっており、探偵というより学者としてのアドバイスをレオナに与えているだけです。「龍臥亭殺人事件」がいかにも日本風な作品だったのに対して本書は米国風を意識した感があります。レオナがIQ200以上の知性の持ち主であることが紹介されていますが頭脳派というより行動派の探偵役として描かれていて推理による謎解きがあまりありません。とんでもないトリックが使われているところは島田らしいとも言えますが扱いは案外と小さいし、終章のどんでん返しもレオナの(なぜ解ったのかの)説明があれでは本格派推理小説としては破綻しているのでは。個人的には本書はエログロ描写、暴力描写に遠慮のないハードボイルドで、レオナの多重人格ぶり(?)ばかりが目だっている印象を受けました。 |
No.927 | 6点 | 殺人は死の正装 筑波耕一郎 |
(2015/12/31 06:02登録) (ネタバレなしです) 筑波耕一郎(1939年生まれ)は1976年にデビューした本格派推理小説(若干の例外もあるようです)の書き手です(ちなみに1970年代は筑波孔一郎というペンネームを使っていました)。本書はその長編第1作で作家の蓬田専介とルポライターの木島逸平のコンビシリーズ第1作でもあります。不可能犯罪トリックもありますがそちらはメインの謎ではなく、複雑な人間関係を解きほぐすことを重視しています。トリックでなくプロット勝負というのは決して悪くはありませんが本書はあまりに地味過ぎ、もう少し登場人物の個性を目立たせていれば結構読ませる作品になったのではと思います。文章自体は読みやすいです。 |
No.926 | 6点 | 致死量未満の殺人 三沢陽一 |
(2015/12/31 05:48登録) (ネタバレなしです) 三沢陽一(1980年生まれ)が2013年に発表したデビュー作でアガサ・クリスティーのデビュー作の「スタイルズの怪事件」(1920年)をちょっと連想させる、犯人当てと毒殺方法の謎解きをメインとする本格派推理小説です。冒頭に自称犯人を登場させており、その自白にもそれなりの説得力があるのですがそこからのどんでん返しの連続が半端ではありません。やたら登場人物の多いミステリーが氾濫しているこの時代に少ない登場人物で深みのある謎解きに挑戦した姿勢に好感を持ちました。 |
No.925 | 6点 | 盲目の鴉 土屋隆夫 |
(2015/12/29 19:54登録) (ネタバレなしです) 長編作品としては「妻に捧げる犯罪」(1972年)以来となる1980年発表の本書は千草検事シリーズ第4作の本格派推理小説です。土屋のミステリーはよく文学性が濃いと評価されますが本書は特にその特徴が強いと思います。謎解きに関しては千草検事が「犯人の自白もなく、目撃者の証言もなく、推理を裏づける物証もなかった」と事件を振り返っていますがプロットは非常にしっかりしています。トリックは失敗する可能性が高いように思いますし(但し実現性については事前に確認したそうです)、犯人の正体について読者が推理に参加する余地がないのは本来私の好みではないのですが本書に関してはそういったことも不満に感じませんでした。 |