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ミステリの祭典

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不必要な犯罪

作家 狩久
出版日1976年09月
平均点6.75点
書評数4人

No.4 6点 nukkam
(2016/01/23 09:10登録)
(ネタバレなしです) 狩久(かりきゅう)(男性作家です)(1922-1977)は1951年に作家デビューして約100編の中短編作品を世に送り出しました。本格派推理小説から官能サスペンス、SF小説と作風は幅広いです。1962年から休筆状態になってしまいますが1975年に復活します。本格派の中編「虎よ、虎よ、爛爛と-101番目の密室」(1976年)(これは傑作ですよ)で長編執筆への自信を得た作者が生前の1976年に発表できた唯一の長編作品が本書です。セックス描写があるのは本来は私がミステリーに期待していることではないのですが、本書の場合は乱れた人間関係が本格派推理小説としての謎を深めるのに必要な要素となっています。さすがに子供にも勧められる作品とは言えませんけど、どんでん返しの連続が圧巻の謎解きを構築していることは間違いありません。復活した作者に残されていた時間がわずかだったのは本当に惜しまれます。

No.3 6点 kanamori
(2014/02/04 18:48登録)
美術大学講師で画家の中杉が女子学生・杏子をモデルに描いた裸婦画がアトリエから消える。一週間後、戻されたその絵画には精密な恥部が書き加えられていた。やがて、海辺のボート小屋で杏子の変死体が発見され、姉の葉子も何者かに襲われる-------。
狩久の生前出版された唯一の長編ミステリ。
”肉体の貪婪”葉子と”精神の貪婪”杏子。容貌は似ているものの対照的な二人の姉妹をめぐる愛憎劇が、妖しく官能的な描写で綴られています。動機はやや観念的なのですが、この作品世界ならアリかなと思います。
メイントリックも逆説的なロジックが効果的で作者らしいです。ただ、取り巻きの男たちの何人かはいかにも脇役という感じがするので、事件の秘められた構図はなんとなく途中で分かってしまうのではと思います。

泡坂妻夫のからくり本「生者と死者」が復刊でちょっと話題になっていますが、それで連想したのが幻影城ノベルスの本書でした。こちらは単にアンカット・フランス装というだけで、カラクリがあるわけではないですが、アンカット本を裸婦画もしくは女性になぞらえると本書のテーマとダブってくるような気もw

No.2 7点 こう
(2012/03/25 23:41登録)
 折原一のガイドブックの推薦で5年ほど前に購入したのですが初版時のままのアンカット装で1ページ1ページ切らないと本が読めない状態が面倒くさくて積読になっておりましたが今年になってようやく読了しました。
 殺害動機、登場人物にあまり深みを感じないことへの個人的不満はありますが殺人プロットは新本格の作品にも転用がありますが面白いものでした。タイトルも秀逸です。
 ただページを切るのがとにかく面倒くさかったです。当時はアンカットがおしゃれだったんでしょうか。復刊がもしあるならアンカットなしの方が読者受けはいいでしょうね。

No.1 8点 おっさん
(2011/05/17 22:50登録)
ときは昭和三十年代。
美術大学の講師を務める画家・中杉が、エキセントリックな新入生・雨宮杏子をモデルに描き上げた傑作≪叢林の女≫。
何者かによってアトリエから持ち出されたその絵が、一週間後、パーティーの席で発見された時、画面の裸女には、細密な女性器が加筆されていた!
この奇妙な出来事が契機であったかのように、海辺の町で、容貌の酷似した(しかし性格はまるで違う)雨宮姉妹――<肉体の貪婪>葉子と<精神の貪婪>杏子をめぐる殺人劇が幕を開ける。
まずボート小屋で首をくくられたのは・・・

特異な短編作家として知られた狩久は、男女の愛のさまざまなカタチを、ときに謎と論理の本格パズラー(代表作「落石」)をとおして、ときに性と欲望の官能ロマン(代表作「麻耶子」)をとおして表現しましたが、晩年に公刊された唯一の長編(昭和51年 幻影城ノベルス)である本書は、知性と感性、そのふたつの狩久の系列を一体化した、文字通りの代表作であり、被害者のネーミングをデビュー作の「落石」と重ね合わせているところからも、自身の総決算を意図した作者の意気込みが伝わってきます。
探偵小説として、中核にある、チェスタトン風の逆説が素晴らしい。本書には、大小いくつかのアクロバチックな逆説(たとえば、冒頭の≪叢林の女≫をめぐる、犯人は絵を、返却するために盗んだというくだり)がちりばめられているのですが、物語のなかばで、計画を遂行するために犯人がとらざるを得なかった、ある行為はその頂点であり、謎の解明とともに、長く記憶にとどまります。
そして残る、複雑な読後感。犯行を成就した犯人が堕ちた、究極の孤独。その悲哀。筆者はアガサ・クリスティー後期の傑作『終りなき夜に生まれつく』を想起しました。思い返すたび胸が痛くなる、あの幕切れを。

愛憎劇をおりなす、レッドヘリングの一人一人まで、生きて呼吸しているのが本書の強みですが、あえて注文をつけるなら――
雨宮杏子の書き方に、もう一工夫欲しかった。ある時点を境にした彼女の変化が、心理的な伏線として書きこまれていれば、解決の説得力が一段と増したはずです。とまあ、これは贅言。

2010年に出た『狩久探偵小説選』(論創社)は、幸い好評のようですから、本書もどこぞでの復刊を期待したいところ。
できれば花輪和一の挿絵と、梶龍雄の解説は残して欲しいなあ。

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