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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2940件

プロフィール| 書評

No.1560 6点 殺人は容易だ
アガサ・クリスティー
(2016/08/11 12:19登録)
(ネタバレなしです) 1939年に発表されたバトル警視登場の本格派推理小説です。もっともバトル警視は脇役的存在ですが。本書と同年にあの「そして誰もいなくなった」が発表されているのが興味深いどころです。どちらも大量殺人を扱っているのですが雰囲気がまるで違いますね。本書は舞台を田舎の村にしているせいかどこかのんびりした雰囲気が漂っていていかにもクリスティーらしい作品と言えるでしょうし、裏を返せば孤島を舞台にした「そして誰もいなくなった」はクリスティー作品としては異色で孤高の存在だったと言えるでしょう。十分に面白い内容なのですが「そして誰もいなくなった」と同時期の作品だったのがある意味不幸、シリーズ探偵が登場しないこともあって知名度が低いのはやむなしでしょうか。


No.1559 4点 イデアの洞窟
ホセ・カルロス・ソモサ
(2016/08/11 10:32登録)
(ネタバレなしです) ホセ・カルロス・ソモサ(1959年生まれ)はキューバ出身のスペイン作家で2000年に出版された本書もスペイン語で書かれています。古代ギリシャの連続殺人の謎をヘラクレス・ポントーが探偵役として調べていく物語が描かれているテキスト、それを翻訳者である「わたし」が解読していくのですがその周辺でも不可解な事件が起きるという、過去と現代の物語が絡み合う本格派推理小説です。とても難解な作品で、「直観隠喩的イメージ」だの「詩的なメタファー」だの私には何が何だかわからない用語が飛び交ってもう大変(笑)。会話もプロットも錯綜しています。巻末解説によるとこの作者はマジック・リアリズムの手法を作品に取り入れているとのこと。ちょっと待って、マジック・リアリズムって何それ?解説まで難解にしないでほしいです(涙)。文献を調べるとマジック・リアリズムとはありふれた日常性に潜む神秘性を浮き彫りにして現実なのか非現実なのかをわからなくすることのようです。


No.1558 5点 名探偵群像
シオドー・マシスン
(2016/08/11 10:20登録)
(ネタバレなしです) 詳細はエラリー・クイーンが本書の序文で紹介していますが1958年から1960年にかけて米国のシオドー・マシスン(1913-1995)がEQMM誌に投稿した作品を10編収録して1961年に出版された歴史本格派推理小説の短編集です。アレクサンダー大王、レオナルド・ダ・ヴィンチ、クック艦長、ナイチンゲールなど歴史上の人物を名探偵として謎解きさせるアイデアは当時としては斬新だったと思います。推理の根拠が薄弱で謎解きとしては弱いのですが時代背景がしっかりと描かれているのは長所です。特殊な毒を前提条件にしているのが難点ではあるけれどトリックが珍しい「名探偵アレクサンダー大王」と画家の才能と探偵活動を無理なく結びつけた「名探偵レオナルド・ダ・ヴィンチ」が個人的なお気に入りです。


No.1557 5点 門前通りのカラス
エリス・ピーターズ
(2016/08/11 10:07登録)
(ネタバレなしです) 1986年発表の修道士カドフェルシリーズ第12作の本格派推理小説です。作中時代は1141年12月、新司祭としてエイルノス神父が任命されたのですがまるでケイト・チャールズのミステリーに登場するような嫌なタイプの聖職者です。あのラドルファス院長と互角のやり取りするほどの天晴れな(笑)悪役ぶりは印象に残ります。カドフェルがある容疑者の無実を晴らすことには貢献しているものの、真相が明らかになる場面ではほとんど脇役にとどまっているのは謎解きとして物足りませんでした。なお若干ながら「死体が多すぎる」(1979年)のネタバレが作中にありますのでまだ未読の人はご注意下さい。


No.1556 5点 陰府からの使者
高柳芳夫
(2016/08/10 12:07登録)
(ネタバレなしです) 1988年発表の本格派推理小説ですが、会社で上司や同僚からいじめを受けていた男が怪死し、その男から(と思われる)死を予告する手紙が送られた人々が次々に死んでいくというスリラー色の濃い展開にはこの作者がこういう作品も書くのかと驚きました。国際問題になりかねない企業活動が終盤に描かれているところは作者らしいです。ドライな筆致による醜い人間模様が(好き嫌いは分かれそうですが)印象的です。


No.1555 5点 死の誘い
ケイト・チャールズ
(2016/08/10 11:50登録)
(ネタバレなしです) 1992年発表のディヴィッド・ミドルトンブラウンシリーズ第2作の本格派推理小説です。聖職者だって人間ですから喜怒哀楽があってもちっともおかしくないのですが、いやはや司祭があそこまで人から嫌われるような言動を繰り返すとは。前作の「災いを秘めた酒」(1991年)と同じく、事件が発生するまでに繰り広げられる人間ドラマがサスペンスたっぷりに描かれた前半部に引きずり込まれました。一方でディヴィッドとルーシーのロマンス場面もますます好調、実年齢にそぐわないぐらい青春しています(笑)。これで謎解き部分がもう少ししっかりしていれば文句なしなんですが、小説としてこれだけ面白いと謎解きの出来映えを一番重視している私でも合格点をあげてしまいます。


No.1554 5点 第三の犬
パトリシア・モイーズ
(2016/08/10 11:26登録)
(ネタバレなしです) 1973年のティベット警視シリーズ第11作です。第1章でヘンリが伝統的な犯人当て本格派ミステリーに憧れているようなシーンがあったのでてっきりその種のミステリーかと期待していたら違いました。推理が全くないわけではないのですがこれは本格派推理小説ではなく組織犯罪がらみのスリラー小説です。ユーモアに満ちた脱出劇があったりしてそれなりに盛り上がりますが個人的には好みのタイプではなかったです。なお「死とやさしい伯父」(1968年)の事件関係者が再登場していますのでまだそちらを未読の方は要注意です。


No.1553 5点 蜘蛛の巣
ピーター・トレメイン
(2016/08/10 11:16登録)
(ネタバレなしです) 1997年発表の修道女フィデルマシリーズ第5作で、「幼き子らよ、我がもとへ」(1995年)と同じく創元推理文庫版が上下巻になるほどのボリュームですがすらすらと読ませる語り口は健在です。盗賊団が登場して冒険スリラー風になる場面もありますが最後は容疑者を一堂に集めて犯人を指摘するという本格派推理小説の典型的パターンで終結します。真相にちょっと気に入らないところもありますが謎解き伏線も結構豊富に張ってあります。


No.1552 5点 帽子収集狂事件
ジョン・ディクスン・カー
(2016/08/10 11:08登録)
(ネタバレなしです) 江戸川乱歩が絶賛した1934年発表のフェル博士シリーズ第2作の本格派推理小説です。帽子が盗まれては思わぬ所で発見されるという事件が頻発し、ちょっとした社会問題になっていたという風変わりな謎で幕開けしているのはつかみとしては効果的だと思うし、(他作家による類似の前例があるとはいえ)緻密に組まれたトリックも印象的です。しかし密室とか足跡がないとか突然の出現(或いは突然の消失)とかのような演出高価の高い謎が提示されていないのでトリック説明のインパクトが弱く感じられます。第2の事件の真相も腰砕け感があり、私は残念ながら乱歩ほどの感激を得られませんでした。


No.1551 5点 殺人者なき六つの殺人
ピエール・ボアロー
(2016/08/09 17:16登録)
(ネタバレなしです) 名探偵アンドレ・ブリュネルシリーズ第4作である1939年発表の本書は密室殺人事件が連続して発生、あまりにも次々と事件が起きるのでゆっくり考える時間を与えてほしいという贅沢な不満も言いたくなるほどです。但し物語としての面白さは全くといっていいほどなく、典型的なバズル・ストーリーです。犯人当てとしては容易になり過ぎた感がありますし密室トリックにも目新しいものがないのでミステリー通の読者にはお勧めポイントがありませんが、各々の事件に異なるトリックを用意している点は評価したいと思います。


No.1550 5点 六死人
S=A・ステーマン
(2016/08/09 16:29登録)
(ネタバレなしです) 1931年発表のウェンズシリーズ第1作の本格派推理小説である本書はフランスの権威ある「フランス冒険小説大賞」を受賞したステーマンの出世作です。主要登場人物は6人の青年、1人の女性そして探偵役のウェンズの計8人ですが、連続殺人で最終的にかなり人数が絞られるので犯人当てとしては容易過ぎるぐらいです。とはいえ某有名作家の古典的名作(創元推理文庫版の粗筋紹介でばらされていますが)を先取りしたようなプロットはサスペンスたっぷりで、ボリュームもかなり短めの長編なので一気に読み終えました。


No.1549 6点 嘲笑うゴリラ
E・S・ガードナー
(2016/08/09 16:12登録)
(ネタバレなしです) 膨大な作品を書いたガードナーには動物を扱った物語も少なくありません。当然犬猫の登場回数が1番多いと思いますが他にもカナリヤ、おうむ、金魚、燕、アヒルなど様々です。本書は1952年発表のペリイ・メイスンシリーズ第40作ですが何とびっくりゴリラが登場です。単なるお飾りではなくちゃんとゴリラを法廷論争のネタに使っているところはご立派で、読んでるこちらも興奮してウッホッ、ウッホッホッと胸を叩きました(嘘です)。序盤は筋を追うのにちょっと苦労しましたが最後は派手な捕り物劇もあってすっきりしました。でも中身の方はゴリラがらみの場面は覚えているんですがゴリラ以外の部分はほとんど忘れてしまいました(笑)。


No.1548 6点 失われた時間
クリストファー・ブッシュ
(2016/08/09 16:05登録)
(ネタバレなしです) 1937年発表のルドヴィック・トラヴァースシリーズ第16作の本格派推理小説でブッシュの代表作と評価されています。探偵役のトラヴァース自身がアリバイ証人にもなっているという設定が珍しいですね。地味で堅実過ぎるぐらいの前半に比べて後半(12章あたりから)はメロドラマ風に流れるのが対照的です。唐突に判明する犯人に偶然の要素が混じったアリバイトリックと謎解きとしては必ずしも堅実ではないですけど、どうもこのメロドラマ効果で私は不満をはぐらかされてしまったようです。ずるいぞ、作者(笑)。


No.1547 6点 草は緑ではない
A・A・フェア
(2016/08/09 01:21登録)
(ネタバレなしです) E・S・ガードナー(1889-1970)のペリイ・メイスンシリーズの長編82作には遠く及ばないもののフェア名義のバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズも長編29作が書かれました。1970年発表の本書がその最終作です。シリーズ第1作の「屠所の羊」(1939年)ではドナルド・ラムの元弁護士ならではの活躍を描いていましたがその後のシリーズ作品では「曲線美にご用心」(1956年)ぐらいしかその設定は活かされていないように思います。しかし本書では終盤に法廷場面があり、ドナルドは(弁護士ではなく私立探偵の立場ですが)法廷戦術を駆使して(ペリイ・メイスンシリーズを髣髴させるような)劇的なクライマックスを築きます。


No.1546 6点 九人と死で十人だ
カーター・ディクスン
(2016/08/07 09:57登録)
(ネタバレなしです) 1940年発表のヘンリー・メリヴェール卿(H・M卿)シリーズの第11作にあたる本書は戦時色濃厚なのが特徴で、H・M卿も含めて登場人物がある種の緊張感をたたえているのがとても自然に描かれています。さて本格派推理小説で犯人の残した指紋で犯人が判るというのでは推理の楽しみのないつまらない謎解きに感じるでしょう。それを逆手にとったのが本書です。何と登場人物の誰の指紋とも合わない指紋が出現するのです。そのトリックを巡ってH・M卿が指紋の偽造は(すぐにばれるので)不可能であることを丁寧に説明していますが、それを強調すればするほどあのシンプルな真相トリックはどうして通用したのだろうかという疑問が拭えませんでした。ただどうしてこのトリックが使われたのかという理由はよく考えられているし他の謎解きもしっかりしています。


No.1545 5点 ウエディング・プランナーは凍りつく
ローラ・ダラム
(2016/08/07 09:27登録)
(ネタバレなしです) 2006年発表の本書はウエディング・プランナーのアナベル・アーチャーを探偵役にしたシリーズ第2作です。作家として手馴れてきたのか作者のもう一つの職業であるウエディング・プランナーとしての知識が前作以上に随所で披露されるようになり、わがまま放題の新郎新婦そしてその家族を相手にウエディング・プランを打ち合わせる場面がなかなか楽しく、ユーモアも増しているように感じます。とはいえ肝心の謎解きの方がレベルダウンした感が否めないのが残念です。若干は推理もしていますが、32章で真相のかなりの部分があの証拠に(具体名はここでは書きませんが)助けてもらって判明しているのでは本格派推理小説ファンとしては物足りません。


No.1544 5点 アララテのアプルビイ
マイケル・イネス
(2016/08/07 09:21登録)
(ネタバレなしです) 1941年発表のアプルビイシリーズ第7作の本書は驚いたことにアプルビイ警部を含めてわずか6人の船客が無人島と思われる島へと漂着するという冒険スリラー小説です。もっとも切羽詰ったサバイバル感はなく雰囲気はむしろ明るく優雅です。イネスらしく文学談義が随所にあるし英語の言い回しもかなり凝っていることがうかがえますが、深い知識教養と物語の軽快さを両立するのに見事に成功しています。アプルビイが殺人事件の真相を見抜くという本格派推理小説風な要素もありますが論理的な推理というよりはこの説明なら辻褄が合うといった謎解きになっています。この時代ならではの動機が今の読者には却って印象に残るでしょう(本格派の常識内には入らない動機ですが)。中盤まではどことなくのんびりしてますが終盤はまさしく冒険スリラーらしい派手で目まぐるしい展開が楽しめます。河出書房新社版は翻訳が上手いし巻末解説もわかりやすいですが後半の粗筋にまで触れていますので物語より先には読まない方がいいと思います。


No.1543 5点 観月の宴
ロバート・ファン・ヒューリック
(2016/08/07 08:24登録)
(ネタバレなしです) ロバート・ファン・ヒューリック(1910-1967)は日本との縁も非常に深く、オランダ外交官として3回も駐在しており3度目の大使としての任期中に急死したのは大変惜しまれます(但し亡くなった場所は母国オランダらしいです)。ディー判事シリーズ第14作の本書は彼の死後の1968年に出版された遺作です。今回のディー判事はどこか精彩を欠いており、解決の仕方も本格派推理小説の探偵物語を期待すると失望することになるでしょうがエンディングはしみじみ感があってうまく締めくくっています。


No.1542 5点 ビッグ4
アガサ・クリスティー
(2016/08/07 07:57登録)
(ネタバレなしです) 1927年発表のポアロシリーズ第4作ですがポアロが国際的な犯罪組織ビッグ4と対決するというスパイ・スリラー小説系統の作品でシリーズ最大の異色作です。アリンガムの「ミステリー・マイル」(1930年)とかマイケル・イネスの「アララテのアプルビイ」(1941年)とかパトリシア・モイーズの「第三の犬」(1973年)とか、英国では名探偵が犯罪組織やスパイ組織と対峙するミステリーは決して珍しくはないんですね。組織との直接対決はかなり後半になってからで、それまではいくつかの事件を(それぞれは独立した事件ですがどれもビッグ4が絡んでいます)ポアロが本格派の探偵風に推理で解決し、同時にビッグ4の情報を少しずつ集めていくという連作単短編風な展開になっています。最後は派手なシーンで壮大に締め括られます。気軽に読める作品ですがシリーズのイメージにそぐわないためか人気が低いのは仕方ないところでしょう。


No.1541 6点 墓場貸します
カーター・ディクスン
(2016/08/06 16:57登録)
(ネタバレなしです) 米国の作家ながらカー名義のフェル博士とディクスン名義のH・M卿の2大探偵シリーズは英国を舞台にした作品が多いのですが1949年発表のH・M卿シリーズ第19作である本書は珍しくも米国を舞台にしているだけでなく、米国人気質(かたぎ)を語らせたり野球シーンを織り込んだりと随分米国を意識しています。プールからの人間消失というヴァン・ダインの「ドラゴン殺人事件」(1933年)を連想させる魅力的な謎が提示されており、それでいてお手軽過ぎに感じるぐらいのトリックが使われているのがこの作者らしいです。でもkanamoriさんのご講評にもあるように、一番鮮やかな印象を残したのは地下鉄で大パニックを引き起こしたトリックの方かも。ユーモアも豊かです。なお本書は不可能犯罪のエキスパートであるクレイトン・ロースンに献呈されています。

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