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ミステリの祭典

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アララテのアプルビイ
アプルビイシリーズ

作家 マイケル・イネス
出版日2006年12月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 5点
(2019/08/12 16:54登録)
 太平洋を眺めながらサン・デッキの喫茶室でくつろぐ六人の船客たち。だがUボートが発射した魚雷を受け船は沈没し、彼らは漂流生活を余儀なくされる。ひっくり返ったドーム型のカフェはガラス面を下に、バー・カウンターとテーブルの脚は舵の代用品に、ソーダ・ファウンテンのシートを帆にと、珍妙な筏はぷかぷかと陸地を目指す。
 船?はやがてエキゾチックな南の島に流れ着くが、無人島生活を満喫する間もなく、船客の一人サー・ポント・ウヌムヌが後頭部を殴られた死体となって海に浮かんだ。いったいなぜ黒人の人類学者は殺されたのか? スコットランド・ヤードの警官で漂流者の一人ジョン・アプルビイは、異様な状況下での殺人に困惑するが・・・
 1941年発表のイネスの第七長編。サロン風のディスカッションから10Pほどで船は沈没。これでサバイバルが始まるかというと全然そうではなく、喫茶室にはシェリー酒やキャビアやビスケット等の食料品が満載。基本的にどこか浮世離れした雰囲気が続いた後、遭難者たちはわりとあっさり島に漂着します。その島も食料は豊富で、海亀を焼いたりココナツジュースを啜ったりと全く緊迫感がありません。
 やがて殺人が起こると多少は引き締まりますが、中盤になるとまたストーリーが大転換。ふざけてるんじゃないかとも思える展開なんですが、最後まで読むと戦時ミステリの一種ですねこれ。バトルオブブリテンが終わって、独ソ戦に突入した頃の発表だからあたりまえか。後半には殺人も続発し、ソレ系のアクションシーンもあります。
 最初から最後まで文学的薀蓄に彩られた作品。ですが翻訳は軽妙。名作だとは全然思いませんが、風変わりな要素を楽しみたい人にはいいかも。

No.1 5点 nukkam
(2016/08/07 09:21登録)
(ネタバレなしです) 1941年発表のアプルビイシリーズ第7作の本書は驚いたことにアプルビイ警部を含めてわずか6人の船客が無人島と思われる島へと漂着するという冒険スリラー小説です。もっとも切羽詰ったサバイバル感はなく雰囲気はむしろ明るく優雅です。イネスらしく文学談義が随所にあるし英語の言い回しもかなり凝っていることがうかがえますが、深い知識教養と物語の軽快さを両立するのに見事に成功しています。アプルビイが殺人事件の真相を見抜くという本格派推理小説風な要素もありますが論理的な推理というよりはこの説明なら辻褄が合うといった謎解きになっています。この時代ならではの動機が今の読者には却って印象に残るでしょう(本格派の常識内には入らない動機ですが)。中盤まではどことなくのんびりしてますが終盤はまさしく冒険スリラーらしい派手で目まぐるしい展開が楽しめます。河出書房新社版は翻訳が上手いし巻末解説もわかりやすいですが後半の粗筋にまで触れていますので物語より先には読まない方がいいと思います。

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