home

ミステリの祭典

login
nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2812件

プロフィール| 書評

No.1832 5点 震える石
ピエール・ボアロー
(2017/01/06 12:00登録)
(ネタバレなしです) ピエール・ボアロー(1906-1989)はフランスでは数少ない本格派推理小説の書き手です。1934年発表のアンドレ・ブリュネルシリーズ第1作の本書でデビューしました。作家として大きな転機を迎えたのがサスペンス小説家のトーマ・ナルスジャック(1908-1998)との出会いです。意気投合した2人は1952年から1970年代まで合作でミステリーを発表しますが、ほとんどが心理サスペンスに分類される作品だそうです(他に子供向けミステリーやアルセーヌ・ルパンシリーズのパスティッシュもあるようです)。さて本書は本格派の謎解きのあるスリラー小説か、スリラー色の濃い本格派か分類に悩みそうな作品です。列車の中で謎の男に襲撃される若い女性をブリュネルが救うのですが、その後も彼女の周辺に謎の男は出没してついに殺人事件まで発生します。ボアローは不可能犯罪作品を得意としましたが本書でも密室からの人間消失を扱っています。第17章で語られる事件背景が「探偵だけが知っていて読者にはヒントさえ与えられない」ものなので本格派推理小説として評価しようとするとアンフェア感が気になってしまいますけど物語のテンポは速くて読みやすく、さりげないですが風景描写は意外とよかったです。


No.1831 6点 悪夢街の殺人
篠田秀幸
(2017/01/01 23:10登録)
(ネタバレなしです) 2003年発表の弥生原公彦シリーズ第7作です。これまでの作品でも色々な要素を盛り込んでいますが、本書ではサイコキラー連続殺人を起こして犯罪プロファイリングによる犯人像分析に加えて音響分析や映像解析なども織り込んだ、いかにも現代的な犯罪と捜査を描いていますがその一方で呪いのビデオや古代の犬神伝承なども絡ませて「怖い小説」も意識しているようです。とはいえ小学生女子ばかり次々に殺されるという異常事件を扱いながらも被害者側の恐怖描写や生々しい残虐描写の類はなく、ホラー小説を期待する読者には物足りないと思います。あくまでも捜査側の描写に重点を置いて「読者への挑戦状」を挿入した王道的な本格派推理小説として鑑賞すべき作品であり、このシリーズはそれでいいと思っています(私がホラー小説が苦手というのも理由ではありますけど)。第3部第3章での弥生原レポートで実に複雑に入り組んだ事件であることが要約されていますがその割には意外と読みやすく、ごった煮気味な印象だった初期作品に比べるとプロット整理に進歩を感じます。


No.1830 4点 午前零時のフーガ
レジナルド・ヒル
(2017/01/01 02:29登録)
(ネタバレなしです) 2009年発表のダルジールシリーズ第22作でヒル(1936-2012)の最後の作品です。本格派推理小説ではなくスリラー小説に分類されるべき作品でしょう。周囲の反対を押し切って職場復帰したダルジールですが仕事をすると3、4時間でくたくたに疲れてしまうなどまだ本調子ではありません。そんな彼が元警部の妻から7年前に失踪した夫のことで相談を受けるのですが、その彼女を暴力的手段を辞さない悪の手先が監視しています。犠牲者を出してしまい、何も知らされていなかったパスコーは激怒します(どっちが上司かわかりませんね)。でも終盤のクライマックス直前では「二人は廊下を走っていった、パーティーへ向かう大きな子供って感じでな」と名コンビ復活です。わずか1日の出来事の中で7年前に何があったのかまでさかのぼる複雑なプロットですがヒルとしては意外と読みやすいです。下品な会話がちょっと多すぎるのが好みに合いませんでしたが。


No.1829 6点 諏訪湖マジック
二階堂黎人
(2017/01/01 01:44登録)
(ネタバレなしです) 1999年発表の水乃サトルシリーズ第3作(社会人水乃サトルとしては第2作)の本格派推理小説です。アリバイ崩しに挑んでおり、犯人の正体は早い段階で絞り込まれています。「崩せないアリバイ・トリックなんてものは、この世の中には一つも存在しないんです」と豪語するサトルですがそう簡単にはトリックを見破れません。第14章で馬田警部補が「最初の内は変なことや馬鹿げたことをたくさん言いますが、だんだんにまともな意見も多くなり。最後に事件の本筋に近づきます」と述べている通り、突拍子もないのまで含めて様々な可能性を次々に検証していく過程はまさに典型的なアリバイ崩し本格派ならではですが、まさむねさんのご講評で指摘されているように少々冗長に感じられるかもしれません。トリックはなかなか大胆で印象的、しかもなぜ警察がこれを思いつかなかったのかの理由まで説明されています。


No.1828 5点 盗まれた指
S=A・ステーマン
(2016/12/28 10:38登録)
(ネタバレなしです) ベルギーの本格派推理小説作家S・A・ステーマン(1908-1970)は新聞記者時代から同僚と合作でミステリーを書いたりしていましたが後に新聞社を退社して単独作家として成功しています。大胆なアイデアが光る作品をいくつも書いていますが一方で仕上げが雑に感じられることも少なくないのが欠点でしょう。初期作品である1930年発表のマレイズ警部シリーズ第1作の本書でもその特徴が顕著で、論創社版の充実した巻末解説(ネタバレになってますので事前には読まないように注意下さい)でも紹介されていますがジョン・ディクスン・カーの某作品を先取りしたような真相に驚く一方で十分な謎解き伏線があるとは感じにくいのが惜しまれます。死体の指を切り落とした理由が他愛もなかったりマレイズ警部がヒロイン風の容疑者を無実と判断する根拠がはっきりしないなど、緻密な謎解きを期待して読むとがっかりするでしょう。


No.1827 6点 九つの解決
J・J・コニントン
(2016/12/26 00:07登録)
(ネタバレなしです) 1928年発表のクリントン・ドリフィールド卿シリーズ第4作の本格派推理小説です。前半で次々に発見される死体、その内2つの事件について殺人か自殺か事故死かを巡っての九通りの可能性(これがタイトルの由来です)の議論、ジャスティスと名乗る人物から送られてくる怪情報、後半には何とクリントン卿の偽者まで登場と起伏に富んだ展開ながら文章は抑制が効いて地味で、通俗スリラーの領域には踏み込みません。論創社版の訳者あとがきでも紹介されているように最終章での推理説明の重箱の隅までつつくような細かさに驚く一方で、kanamoriさんのご講評での指摘のようにどこか釈然としないところもあります。地味なのか派手なのか、緻密なのか粗いのか、読者によって受ける印象が異なる作品と言えそうです。


No.1826 5点 毒だあ・すとっぷ
筑波耕一郎
(2016/12/25 01:00登録)
(ネタバレなしです) 1976年から1977年にかけて(筑波孔一郎名義で)雑誌に発表された横松部長刑事を探偵役にした本格派推理小説の短編4作をまとめて(筑波耕一郎名義で)1982年に出版された短編集です(連作長編と紹介されていますが作品間の相互関連は全くなく、普通の短編集です)。どの作品も軽妙な作品ながら真っ向から謎解きに取り組んでいますが、8つの謎を丁寧に解き明かす「アリバイあげます」とトリックがなかなか印象的な「箱入り娘」がまずまずの出来栄えでしょうか。「毒だあ・すとっぷ」は肝心の毒殺トリックが某海外ミステリー作品で非現実的として否定された没トリックをそのまま使っています。失敗の可能性が高く、成功しても痕跡を(証拠として)残しそうで個人的にはやはり没です(笑)。


No.1825 5点 反逆者の財布
マージェリー・アリンガム
(2016/12/25 00:33登録)
(ネタバレなしです) 1941年発表のアルバート・キャンピオンシリーズ第10作は記憶を失った上に警官殺しの容疑をかけられたキャンピオンが描かれた冒険スリラーです。キャンピオンが少しずつ記憶を取り戻しながら捜査と逃亡を繰り返すプロットで、ラッグやアマンダといったシリーズ常連キャラが謎の人物として記憶喪失中のキャンピオンの前に登場するのがなかなか新鮮です。第15章でキャンピオンが「どんな絵ができるのかを知らずにはめ絵合わせをやろうとしているのだ」と語っているように冒険スリラーにしてはもやもや感を長く引きずるストーリー展開ですが、最後にキャンピオンが明らかにした悪人たちのねらいはなかなか印象的です。


No.1824 5点 白妖鬼
高木彬光
(2016/12/23 06:22登録)
(ネタバレなしです) 1952年発表の神津恭介シリーズ第4作の本格派推理小説です。神出鬼没の毛皮の女とか行方知れずの共産主義者とか元子爵の一族とか怪しげな人物を数多く登場させていますが被害者も含めて互いの関係が曖昧な状態が続きます。謎を深めるために意図的に曖昧にしているのでしょうけど、どこか散漫なプロットになってしまったような印象を受けました。タイトルに使われている白妖鬼の存在感も埋もれ気味です(殺人予告をしたり神津恭介を挑発したりと実は結構アピールしているのですけど)。後年の名作「人形はなぜ殺される」(1955年)を連想させるところがありますがプロットの整理と謎解きの切れ味で劣るのが惜しまれます。


No.1823 5点 クリスマスの朝に
マージェリー・アリンガム
(2016/12/17 11:55登録)
(ネタバレなしです) 国内では2016年に独自に編集されたアルバート・キャンピオンシリーズ第3短編集で、収められた作品はわずか2作、17章構成で創元推理文庫版で200ページを越す「今は亡き豚野郎の事件」(1937年)と「クリスマスの朝に」(1950年」です。「今は亡き豚野郎の事件」は「判事への花束」(1936年)に次ぐシリーズ第8長編と位置づけられてもおかしくない作品なのですが英国本国でこそ単独で出版されたもののアメリカでは6つの短編と一緒に第1短編集(1937年)に収められたという微妙な中編扱いの(笑)本格派推理小説です。創元推理文庫版にはアガサ・クリスティーによる「マージェリー・アリンガムを偲んで」というエッセーも収めれてますが、そこでクリスティーがアリンガムの特徴として「幻想性と現実感の混在する味わい」を指摘していますが「今は亡き豚野郎の事件」はその特徴がよくでていると思います。ただそれは時に読みにくく、私がアリンガムに苦手意識を抱いている特徴でもあるのですが。いかにも短編らしい「クリスマスの朝に」は1種のアリバイ崩し作品で、謎解き自体は他愛もないのですがしみじみ感を残す結末が素晴らしい効果をあげています。


No.1822 5点 悪魔の水槽密室 「金子みすヾ」殺人事件
司凍季
(2016/12/11 21:23登録)
(ネタバレなしです) 1996年発表の一尺屋遙シリーズ第5作の本格派推理小説です。どちらかといえばサブタイトルの「金子みすゞ殺人事件」の方が作品内容に合っているような気がしますが「水槽密室」の謎もなかなか魅力的です。トリックの着想も悪くないと思いますし密室にする理由も一応は考えられています。人物描写の弱さは相変わらずですが本書の場合は深刻に受け止めると気分が悪くなりそうな事件背景があり、深みのない文章はかえって正解だったように思います。これは賛否の分かれそうなところで、悲劇ドラマとしての重苦しさをもっと求める読者もいるでしょうけれど。


No.1821 5点 アンジェリーナ・フルードの謎
R・オースティン・フリーマン
(2016/12/11 02:07登録)
(ネタバレなしです) 1924年発表のソーンダイク博士シリーズ第7作の本格派推理小説です。失踪事件という短編ネタといってもいいのではという謎で(しかもフリーマンらしく飾り気のない文体で)長々と地道に引っ張ります。しかし多くの読者から批判されかねないこの大胆な真相を納得させるにはある程度の長さは必要だったのかもしれません。この仕掛けには無理があるのではとの疑惑が拭えない読者にソーンダイクが法医学者ならではの推理説明を最終章でしてくれます。とはいえこれからミステリーを読もうとする読者には(風変わり過ぎて)勧めにくいのであまり高得点は与えにくいですが。


No.1820 4点 東京トワイライトクロス
風見潤
(2016/12/10 23:27登録)
(ネタバレなしです) 1987年発表の本書は失踪した娘の浩子を探しに上京した夫婦の捜査と浩子を知る大学生の絵里子が死体(正確には瀕死のけが人)に遭遇する事件を描いた冒険スリラーです。絵里子が単独で活躍するわけではなく大学生の仲間たちに結構助けられており、事件解決に1番貢献したのは絵里子よりも真弓の方ではないかと思います。最終章でなかなか複雑な秘密が明かされますが推理でなく証人が一堂に集まって判明するという結末なので本格派推理小説を期待しない方がいいでしょう(暴力団をあやつる黒幕がいたりしますし)。舞台が東京のあちこちを転々としますが観光ミステリー要素もあまりありません、


No.1819 5点 殺人交響曲
蒼社廉三
(2016/12/04 01:28登録)
(ネタバレなしです) 1963年発表の長編第2作です。轢き逃げ事故で死んだヴァイオリン奏者が持っていた楽譜が散逸し、ばらばらに拾われた3枚を巡って様々な人間が入手しようと画策します。拾った側も善意の第三者にはならず、コン・ゲーム(騙し合い)の様相を呈する展開が前半です。直接的な官能描写こそ少ないですが男女間の乱れた関係描写が絡むところはkanamoriさんのご講評で指摘されているように通俗色が濃いです。後半になると新たな犠牲者が出てサスペンスが盛り上がりますし、前作の「紅の殺意」(1961年)と同様に容疑が転々として謎解きの興味も高まります。しかし明確な探偵役がおらず自白頼りの解決になっていることや重要証拠と思われる楽譜の暗号がきちんと読者に提示されていないなど、本格派推理小説として評価すると全部で3作書かれた長編ミステリーの中では1番劣ると思います。とはいえ悲劇的かつ印象的な締め括りなど人間ドラマとしてはなかなかの読み物に仕上がっています。


No.1818 4点 おめかけはやめられない
A・A・フェア
(2016/12/03 08:40登録)
(ネタバレなしです) 1960年発表のバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズ第20作です。ドナルドの活躍ばかりが目立つことも多いシリーズ作品ですが本書ではバーサも結構活躍しています。10万ドルの大金が盗まれ、5万ドルは取り返したが残りの5万ドルがまだ見つからない事件を扱います。ドナルドは見事に金を発見するのですが何者かの小細工でその金が消えてしまうのです。殺人事件まで起こり警察からの横槍をかいくぐりながらの捜査が続きます。容疑者は結構多いのですが登場場面の少ない人物が多くて誰が誰だかなかなか把握しきれず、散漫な印象のプロットです。推理による謎解き伏線の回収もほとんどなく、結果のみの真相説明に近いのも本格派推理小説好きの私には物足りませんでした。


No.1817 7点 肖像画(ポートレイト)
依井貴裕
(2016/11/23 20:33登録)
(ネタバレなしです) 1995年発表の多根井理シリーズ第3作の本格派推理小説です。この作者がエラリー・クイーンを意識しているのは有名ですが、特に本書ではクイーン作品のパスティッシュを書こうとしたのではと思えるような場面が一杯です。クイーン作品に精通している読者なら次々に届けられる謎の贈り物、猫殺し、殺人シナリオ、犯人逮捕の場面などでクイーンの色々な作品の名前が頭に浮かぶのではないでしょうか。謎解きはちゃんと作者の独自性が発揮されており、「読者への挑戦状」の後で実に複雑な真相が丁寧に説明されます。犯人は当てられても何が起きたのかを完全正解するのは難しいと思いますが(ちなみに私は犯人も当たってません)、これぞ本格派の中の本格派と言える作品です。本格派(特にそのパズル要素)が苦手な読者には間違ってもお勧めできませんが。


No.1816 3点 女子高生探偵シャーロット・ホームズの冒険
ブリタニー・カヴァッラーロ
(2016/11/19 06:39登録)
(ネタバレなしです) アメリカの女性作家ブリタニー・カヴァッラーロ(1986年生まれ)の2016年発表のデビュー作で、あのシャーロック・ホームズの子孫であるシャーロット・ホームズとジョン・H・ワトソンの子孫であるジェームズ(ジェイミー)・ワトソンの出会いの物語です。ヴィクトリア朝のイギリスで書かれたコナン・ドイルのホームズシリーズと21世紀のアメリカで書かれた本書(舞台もアメリカの高校です)では作風が全然違うのは当然なのですが、それにしてもホームズ物語のパスティーシュで高校生の2人を主役にしているのですからもう少し万人受けする要素があってもよいのではと思います。初期のドイル作品でもシャーロックが麻薬癖があったことが描かれているとはいえ本書でのシャーロットを同じ設定にする必要性はないと思うし、性的暴行を受けた経験があるというのも無用に物語を重く暗くしています。個人の能力では解決しようのない事件を扱って、シャーロットの兄マイロの所属する秘密組織の力を借りて犯人(というより敵)を闇に葬るというスリラー小説プロットだったのも探偵のデビューとしては個人的には感心できません。


No.1815 5点 ホワイトハウスの冷たい殺人
エリオット・ルーズベルト
(2016/11/15 18:54登録)
(ネタバレなしです) 米国のエリオット・ルーズベルト(1910-1990)は第32代大統領フランクリン・ルーズベルトの息子で、1984年から史上最も有名なファースト・レディ(大統領夫人)のエレノア・ルーズベルトを主人公にしたミステリーのシリーズを書きました。いや、これは正しい紹介ではありません。なぜなら今ではウィリアム・ハリントン(1931-2000)による代作であることが判明しているのですから。ちなみにハリントンはこのシリーズをエリオットの死後も書きつづけました。本書は1987年発表のシリーズ第4作です。イギリス首相チャーチルの訪米を受けているホワイトハウスの冷蔵室から死体が発見されるというとんでもない事件が起こります。やはりホワイトハウスを舞台にしたマーガレット・トルーマンの「ホワイトハウスの殺人」(1980年)(これもハリントが書いた可能性があるらしいですが)を意識して書かれたかはわかりませんが、読みやすさでは本書が格段に上回っています。リアリティーについては何とも言えませんが、ホワイトハウスの描写やルーズベルト夫妻やチャーチルの人物描写は読者の興味を大いに引くでしょう(謎解きに参加しないのが残念ですがチャーチルが実に個性的です)。捜査はドメニク・デコンチーニを中心としたシークレット・サービスが行い、エレノアはほとんど前面には出ません。謎解きはしているものの本格派推理小説というよりはスパイ・スリラーに分類すべき作品で、エレノアがある手掛かりに着目したのも推理というよりは昔の記憶の勝利の印象を受けました。フィクションとはいえホワイトハウスの警備体制があまりにも隙だらけだったのはちょっと信じ難いですけど。それにしてもマーガレット・トルーマンといいエリオット・ルーズベルトといい、どうして大統領ファミリーはゴーストライターを使ってまでミステリーを発表しようとしたんでしょうね?


No.1814 6点 伯林-一八八八年
海渡英祐
(2016/11/13 03:27登録)
(ネタバレなしです) 「海を渡った英雄」に由来するペンネームを使った海渡英祐(かいとえいすけ)(1934年生まれ)は国内スパイスリラーの人気が高まりつつあった1961年に「極東特派員」(私は未読です)でデビューして脚光を浴びますが、次に発表した「爆風圏」(1961年)(私は未読です)はどうも成功しなかったようでそれからしばらく沈黙して1967年に発表した第3作が本書です。今度はがらりと趣向を変えてタイトル通り作中時代を1888年、舞台をドイツ、森林太郎(後の森鴎外)とビスマルクという歴史上の人物を登場させた本格派推理小説です。kanamoriさんやisurrenderさんのご講評で指摘されているように発表当時はこういう歴史本格派は珍しかったと思います。若き留学生だった森の青春物語の要素も含んでおり、単なる第三者的な探偵役でないところがプロットで上手く活かされています。雪の降るドイツの古城で起こった密室殺人事件という古典的かつロマンチックな舞台も魅力的です。密室トリックはある意味不満もあるのですが決してトリックのためのトリックではなく、必要性まできちんと考え抜かれています。


No.1813 6点 夜の挨拶
樹下太郎
(2016/11/13 02:11登録)
(ネタバレなしです) 会社員を辞めて作家一筋を決意した作者が1960年に発表した長編ミステリー第2作の本格派推理小説です。推理の論理性は弱く、第5章で刑事が閃いた新たな可能性(それが正解なのですが)は思いつきが当たっただけという印象を受けます。第6章で明かされる犯人の秘密は普通に容疑者の身上調査していればもっと早くに発覚されるべきものでしょう。しかしそれらの問題点があまり気にならないのはプロットが充実しているからです。ある中小企業の新商品の企画がライバル会社にリークされ、やがて殺人事件にまで発生して社内社外の様々な人間模様が浮かび上がり謎が深まっていく展開がお見事です。人物視点を次々に変更する手法も効果的です。

2812中の書評を表示しています 981 - 1000