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ミステリの祭典

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金紅樹の秘密

作家 城昌幸
出版日1955年01月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 5点 人並由真
(2019/05/03 17:56登録)
(ネタバレなし)
「私」こと小説家・谷田部正一は、匿名の女性から<自分は夫の殺害を企てている>という主旨の手紙を繰り返しもらう。文面に独特の真実味を認めた正一は、中学時代からの旧友で戦時中は海軍の特務機関にいた相川雄吉に相談を求めた。二人は送られてきた手紙から得た手がかりから、斜陽貴族の陸奥家、その美貌の夫人であるゆり子に目星をつける。そして正一たちが同家に接触をはかるや否や、実際にその周辺で変死事件が発生。やがて事態は予想だにしない秘境の秘密に及んでいく……。

 殺人計画を誇示するかのような女性? からの文書が主人公・正一のもとに連続して届き、その手紙の署名が当初はA・A。それが順々にB・B、C・C……と変遷していくあたりなど、一風変わった妙なセンスを感じさせる。やがて不審な陸奥家に乗り込んでいく辺り、さらに乱歩の『孤島の鬼』を思わせる、町中の殺人劇から特殊な地域での冒険ものへ転調する流れなど、中盤まではこの作品固有の個性を認めないでもなかった。
 しかしながら最後の真相と謎解きはツッコミどころが満載で、特に最後の「なぜ正一のもとにこんな手紙が送られたか」についての背後事情は空いた口が塞がらないであろう。まあある意味で、リアルといえばリアルな心理……かもしれない。
 昔はこういうミステリも商業作品としてアリだったのね、という話のネタとしてはいいかも。そういう意味では褒めることは絶対に無理でも、キライにはなれない作品なんですが。

No.1 5点 nukkam
(2017/08/20 03:32登録)
(ネタバレなしです) 城昌幸(じょうまさゆき)(1904-1976)は1920年代から活躍していますが1955年発表の本書は作者コメントによれば第3のデビュー作とのことです。それまでの彼の著作は第1に怪奇性短編、第2に捕物帖が中心を占めていましたが新たに長編現代探偵小説というジャンルに取り組もうとしたようです。しかしこのジャンルに関しては本書と「死者の殺人」(1960年)しか書かなかったようです。さて本書は小説家の主人公へ妻がこれから夫を殺す計画を予告する手紙が次々に送られます。主人公は探偵能力をもつ友人の力を借りて手紙の書き手と思われる女性をつきとめ、殺人を防止しようとする手紙を送りますが時既に遅く殺人が起きてしまいます。最後は探偵役が事件関係者を一堂に集めて殺人犯を指摘します。こう紹介すると典型的な本格派推理小説みたいですが、実は物語の後半になると秘境冒険スリラー風に展開するのです。いくらでも作者の都合のいい(そして読者は後追いするしかない)設定が可能な秘境(隠れ里)の登場は本格派の謎解きを期待する読者にはつらいところ。謎解きに過度に期待しなければそれなりの面白さがありますが。

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