nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2866件 |
No.2586 | 6点 | 事件は場所を選ばない 海渡英祐 |
(2023/01/15 20:09登録) (ネタバレなしです) 冒頭の「はじめに」で紹介されていますが、事件現場の設定が似たような場所ばかりでは(マンションやアパートが断然第一位のようです)味気ないので趣向を変えて事件現場がヴァラエティに富んだ作品を選んで1984年に発表された短編集です。1番古い「甘い罠」(1970年)から1番新しい「夏の終わり」(1982年)までの7作の本格派推理小説が収められています。個人的なお気に入りは推理がなかなか論理的な「禁断の時」(1973年)です。トリックが強引過ぎな気もしますがトイレの人質籠城事件に端を発するプロットの「臭い仲」(1974年)、現実的な推理と非現実的な推理の論戦の末に唖然とするような結末の待っている「不可解な心中」(1976年)など個性的な作品も印象的です。時代の古さや通俗性が気になるところもありますがそれなりに楽しめました。 |
No.2585 | 5点 | 謎解きはビリヤニとともに アジェイ・チョウドゥリー |
(2023/01/14 00:31登録) (ネタバレなしです) インド生まれの英国作家アジェイ・チョウドリーの2021年発表のミステリーデビュー作が本書です。主人公のカミル・ラーマンはかつてはコルカタ警察の将来有望な若手の警部補でしたが殺人事件の捜査で失敗して今ではロンドンで半人前のウェイター、しかしこちらでも殺人事件に巻き込まれるというプロットです。ロンドンの捜査とコルカタの捜査(の思い出)が交互に描かれる構成ですが、終盤になると2つの事件の意外な関連性が浮かび上がる演出はなかなか巧妙です。コルカタの事件は警察小説風(読者が推理に参加する余地はあまりない)、ロンドンの事件の方は謎解き伏線を回収しての推理が披露される本格派推理小説風です。それにしてもコージー派ミステリー風な日本語タイトルは内容とまるで合っていないですね(料理描写はありますけど)。終始シリアスで緊張感に満ちた作品です。あとハヤカワ文庫版の巻末解説ではインドミステリに言及していますが、H・R・F・キーティングのゴーテ警部シリーズも紹介してほしかったですね。 |
No.2584 | 3点 | 倉敷・白壁小路殺人事件 矢島誠 |
(2023/01/08 06:32登録) (ネタバレなしです) 2002年発表のトラベルミステリーで舞台は岡山県の倉敷です。警察が自殺と判断した事件を保険調査員の主人公が調べる物語と夫が内緒で一千万円の借金を抱えていることに気づいて悩む、もう一人の主人公である妻の物語が交錯する構成です。謎の魅力に乏しく展開も地味で、出来の悪い社会派推理小説を読んでいるような気になります。妻の不安定な心理描写はそれなりに描けているのでこちらをもっと重点的に書いた方がよかったのではと思いました。タイトルに使われている小路の殺人事件は逃亡した容疑者以外には犯行不可能としか思えない、一種の(その容疑者が無実の場合には)不可能犯罪風な事件ですが最終章で明かされる真相がこれまた魅力がなくてがっかりです。 |
No.2583 | 4点 | わたしの名は紅 オルハン・パムク |
(2023/01/05 23:08登録) (ネタバレなしです) YMYさんのご講評でフーダニットと紹介されていたので、本格派推理小説好きの端くれとして興味を抱いて読みました。オルハン・パムク(1952年生まれ)は2006年にトルコで初のノーベル文学賞を受賞した文豪で、1998年発表の本書は代表作の1つと評価されています。ハヤカワepi文庫版で上下巻合わせて800ページを超す大作というだけでも敷居が高いのですが、作中時代が16世紀末のオスマン・トルコ帝国、そして西洋画を異端とする社会背景のもとに発展した細密画に関する説明や描写がびっしりです。難解なので細密画関連はほとんど読み飛ばしてしまいましたが、この読み方だと絵師殺しの謎解きがさっぱり楽しめない作品でした。歴史と美術と宗教に通じてないと理解できないなんて読者に求める教養が高すぎでは(涙)。作者は自作にミステリー要素を加えるのを好んでいると公言していますが、あくまでもスパイス的な扱いに留めているように感じます。語り手が次々に交代するプロットですが、犬、木の絵、色(赤)など人間でない語り手も混在しているのがユニークです。冒頭では被害者(既に死体)も語ります。 |
No.2582 | 5点 | 盗まれた結婚式 若桜木虔 |
(2022/12/26 23:33登録) (ネタバレなしです) 1978年発表の本格派推理小説です。主人公は16歳の高校2年生の早乙女薫で、プロローグに相当する第1章では同級生が屋上から墜落死する事件を解決しています。メインの謎解きが非常にユニークで、薫の母方の従姉の中林真紀子が結婚するのですが同じ日にもう一つ中林真紀子の結婚式があったことがわかります。もちろん同姓同名の別人だったというオチではありません。一体どちらの中林家が本物なのか、ちょっと調べればすぐわかるだろうと思える謎ですがとんでもない、親族の薫でさえもどちらの真紀子が本物なのかわからず警察の捜査も何度も暗礁に乗り上げます。文体は明るいのですが犯人の動機には重苦しい背景があったことが判明し、結末のつけ方にはすっきりしないと感じる読者もいるでしょう。 |
No.2581 | 6点 | 獣の遠吠えの謎 ノエル・ヴァンドリ |
(2022/12/24 22:51登録) (ネタバレなしです) 1933年に新聞連載され1934年に単行本化されたアルー判事シリーズ第6作の本格派推理小説です。偶然アルー判事が逃亡中の殺人容疑者に出会って彼から体験談を聞くことになります。塀と堀で外部と遮断された古城を舞台にし、次々と事件(殺人ばかりではありませんが)が起きる展開なのですが語り口に癖があってサスペンスが今一つなのが惜しいです。でも失踪事件で使われたトリックにはびっくりだし、最後の謎解きで明かされる真相がジョン・ディクスン・カーの某作品を先取りしていたのにもびっくりです。「とても簡単なことなのだ」とアルー判事はあっさりと説明してますけど。 |
No.2580 | 6点 | 加賀美雅之未収録作品集 加賀美雅之 |
(2022/12/23 08:31登録) (ネタバレなしです) 加賀美雅之(1959-2013)の生前には単行本化されなかった、1999年から2011年にかけて発表された中短編9作を集めて2022年に出版された本格派推理小説の短編集です。寄せ集め的な短編集かと思ってましたが最初の3作は三部作を形成していますし、他の作品も(「EDS 緊急推理解決院 怪奇推理科」(2005年)を除いて)作品世界が互いに関連づいており意外とまとまりを感じさせます。長所でもあり短所でもあるのですが先人作家のパスティーシュ色が濃厚で、ジョン・ディクスン・カーのアンリ・バンコランを筆頭に他作家作品の登場人物が多々出揃ったりカーを連想させる演出があったりする作品が多いので原典作品をあまり読んでいない読者だとその特徴がわかりにくいです。個人的に印象に残るのはバンコランとフェル博士を共演させた豪快トリックの「鉄路に消えた断頭吏」(2006年)とパスティーシュにしてもここまでやって大丈夫かと心配の「ジェフ・マールの追想」(2011年)です。 |
No.2579 | 6点 | 邪悪の家 アガサ・クリスティー |
(2022/12/21 12:54登録) (ネタバレなしです) クリスティーはプライヴェートのトラブルで1920年代後半は(「アクロイド殺害事件」(1926年)は例外として)不調期で、1930年の再婚を機に復活したと言われています。本書はエルキュール・ポアロシリーズ作品としては「青列車の秘密」(1928年)以来となる1932年発表のシリーズ第6作の本格派推理小説です。もっともクリスティー作品としてはまだ平均点クラスといった感じです。容疑が転々とする、クリスティーならではのプロットではあるのですがミスリーディングの手法がこの作者としてはシンプルで真相を見破れる読者が多いと思います(深読みして引っ掛かる読者もいるでしょうけど)。個人的には完全復活はシリーズ次作の「エッジウエア卿の死」(1933年)からだと思います。 |
No.2578 | 5点 | 絞首商會 夕木春央 |
(2022/12/21 08:36登録) (ネタバレなしです) 夕木春央(ゆうきはるお)(1993年生まれ)の2019年発表のデビュー作である本格派推理小説です。色々なネタを仕込んでいて、解決編に当たる第9章で探偵役が最初に説明する「なぜ」の解答がチェスタトン風な逆説で印象的ですし、この探偵が元泥棒(今も現役?)という設定ですが何でこんな人物に真相解明の依頼をしたんだという容疑者たちからの当然の突っ込みに対する依頼人の論破場面も面白かったです。容疑者の1人が南京錠を取り付けてまで隠そうとする秘密は何なのかを確認するために意外な人物が活躍する場面のスリルも悪くありません。しかしデビュー作ゆえ書き方に慎重になったのか、全般的には展開も描写もメリハリに乏しくて読むのに集中力が必要でした。せっかくのネタを十分に活かしきれていない感じなのが惜しく思われ、虫暮部さんのご講評に同意します。 |
No.2577 | 6点 | アバドンの水晶 ドロシー・ボワーズ |
(2022/12/16 22:00登録) (ネタバレなしです) 英国の「タイムズ」紙で「1941年最高のミステリ」と激賞されたダン・パードゥ警部シリーズ第4作の本格派推理小説です。主人公は61歳のエマ・ベットニーで(英語原題は「Fear for Miss Betony」)、35年間家庭教師を務めて引退した彼女に寄宿学校の校長であるかつての教え子から学校で働かないかと誘いがかかります。重苦しい雰囲気を漂わせる舞台に癖のある登場人物たちと少々ゴシック・ホラーめいています。語り口がスムーズとは言えず何が起きているのか混沌として読みにくいですが、その中で混乱しつつも怖がってばかりではないエマの心理描写が光ります(鋭い推理や大胆な行動もあります)。事件が発生するのが遅くパードゥもなかなか登場しないため中盤までは本格派らしさを感じませんが、最後は複雑な真相をしっかりと説明しています。ハッピーエンドではありませんけど一筋の希望の光は残っているような締めくくりが印象的です。謎解きとしては地味な本書が高く評価されたということはミステリーに求められるものが変わってきたことを予感させ、1920年に始まる(というのが通説の)英国本格派推理小悦の黄金時代がいよいよ終焉を迎えつつあったのだなと思いました。 |
No.2576 | 5点 | 1/60秒『謎解き』の死角 筑波耕一郎 |
(2022/12/13 21:55登録) (ネタバレなしです) 1988年発表の本格派推理小説です。密室状態のマンションの部屋から飛び降り自殺した(と思われる)カメラマンは毒を飲んで(飲まされて?)おり、さらに死者を出したホテル火災の写真が部屋から消えていることがわかります。探偵役がカメラマンのかつての恋人の女性、警察、さらに別の女性と交代していく展開はこの時期の筑波作品によく見られるプロットです。警察の議論の中で殺し屋説までが飛び出し、ギャング映画まがいの事件ではないと一蹴されますが結局のところ殺し屋説と大差ない残念レベルの真相でした。密室トリックも中盤で提案されたシンプルなトリックの方が正解トリックよりも優れているように思いました。 |
No.2575 | 3点 | クリスマス・ティーと最後の貴婦人 ローラ・チャイルズ |
(2022/12/13 07:14登録) (ネタバレなしです) 2021年発表の「お茶と探偵」シリーズ第23作のコージー派ミステリーです。クリスマスイベントシーンが豊富で、お茶やお菓子の充実ラインナップに加えて華やかなデコレーション描写にも力が入っていて実に祝祭的な雰囲気です。しかしミステリーとしてはがっかりです。このシリーズは読者が犯人当てに挑戦できるような謎解き伏線を用意しているタイプでないのは先刻承知ですけど、それにしても唐突に明らかになるこの真相はアンフェアにも程があると不平を言いたいです。これは大幅減点せざるを得ません。 |
No.2574 | 3点 | 九連宝燈殺人事件 藤村正太 |
(2022/12/10 23:56登録) (ネタバレなしです) 藤村正太(1924-1977)は短編作家としてスタートしていますが短編集が出版されたのは1973年発表の本書が最初かもしれません(きちんと調べていないので間違ってたらごめんなさい)。麻雀推理としては長編の「大三元殺人事件」(1972年)に続くもので、「大三元殺人事件」は麻雀を知らない読者でも鑑賞に困らないと思いますが本書に収められた6作品はどれも麻雀が密接にプロットに結びついていて読者を選びます。その内4作品は主人公がギャンブル麻雀で勝利するためにあれこれ策を弄する内容で、個人的には非ミステリーの通俗小説に映りました。残り2作品はまあ本格派推理小説と言えなくもありませんが、「国士無双殺人事件」のアリバイトリックはひどいですね。犯人に都合いい証言だけ揃えて成立させていますけど、関係者全員に確認したら全員共犯でもない限りすぐ破綻ではないでしょうか。「九連宝燈殺人事件 」が唯一まともな謎解きに感じましたが、これも大方の読者は予想しやすい浅い謎解きだと思います。 |
No.2573 | 5点 | 暗闇の梟 マックス・アフォード |
(2022/12/10 22:51登録) (ネタバレなしです) 「闇と静謐」(1937年)以来久しぶりに発表されたジェフリー・ブラックバーンシリーズ第4作となる本格派推理小説です。何といっても本書の特色は神出鬼没の怪盗との対決を描いていることです。長編本格派でこういう趣向だと私はカーター・ディクソンの「赤い鎧戸のかげで」(1952年)が思い浮かびましたが、1942年出版の本書の方が10年も先駆作だったのですね。ユーモアとどたばたに溢れたディクソン作品とは異なり本書はじわじわと高まるサスペンスが個性ですし、殺人事件まで発生します。過去3作に比べてスリラー色が強いという二階堂黎人による論創社版の巻末解説はその通りと思いますが怪盗の正体についてはジェフリーがちゃんと推理で見破っていますし、意外な企みの巧妙なカモフラージュが出色です。もっとも後半で明かされる人間関係については登場人物リストの不備が気になるところではありますけど。 |
No.2572 | 5点 | 大道将棋殺人事件 山村正夫 |
(2022/12/08 23:31登録) (ネタバレなしです) 6つの本格派推理小説の短編を収めた1985年発表の本書はタイトルに「将棋」が使われていることから女流棋士の小柳カオリシリーズかと思う読者もいるかもしれませんが彼女は全く登場しません。主人公はプロ棋士を目指すも師匠との関係が悪化して大道将棋士に転向した風早仙吉です。「鬼殺しの仙吉」と棋界で噂されていると紹介されていますが、それほどエキセントリックな人物像ではありません。どの作品にも詰将棋の問題と正解が載っており、将棋の得意な読者ならこれだけでも十分に楽しめるかもしれません。あいにく駒の動かし方を知ってるだけの私には二十一手詰めとか二十七手詰めとかになると考える気にもなりませんでしたが。個人的に印象に残ったのは密室の中の2つの死体と消えた凶器の謎解きの「国東心中」と、仙吉が出会った掏摸の被害者が3ヶ月前に死亡していたらしい謎解きの「陸中双玉殺人」です。 |
No.2571 | 5点 | ウィンダム図書館の奇妙な事件 ジル・ペイトン・ウォルシュ |
(2022/12/06 00:01登録) (ネタバレなしです) 英国の女性作家ジル・ペイトン・ウォルシュ(1937-2020)は児童文学や歴史小説の作家として名声を築きあげ、ミステリー作家としての活躍は1990年代からと遅咲きです。ドロシー・L・セイヤーズ(1893-1957)がピーター・ウィムジー卿シリーズの最終長編となった「大忙しの蜜月旅行」(1937年)に続いて着手していたらしい未完のシリーズ作品「王座そして統治」を補筆完成させて1998年に発表したことで有名で、ウォルシュは更にこのシリーズの続編を3作品書き残しています。他には大学保健師のイモージェン・クワイを主人公にしたシリーズ長編が全4作あり、ミステリーデビュー作でもある1993年発表のシリーズ第1作の本書も森英俊の「世界ミステリ作家辞典『本格派編』」(1998年)で「90年代を代表する本格派の名作」となかなかの高評価です。もっとも本格派のプロットとしては風変わりな展開です。大学の図書館での学生の不審死の謎解きですが、この謎解きは意外と早い段階で(一応の)解決に至ります(自白もあります)。しかしこれで終わりにはならず、イモージェンは「それ以上、何を証明しろというんだ?」と警察が関心を示さない未解決の問題をすっきりさせようとします。この残り物の謎解きにはビブリオミステリー的要素があるのですけど(それが高評価の理由?)、俗人の私には高尚過ぎて怪死事件の謎解きを上回る面白さがあるのかよくわかりませんでした。 |
No.2570 | 3点 | 風刃迷宮 竹本健治 |
(2022/12/02 00:05登録) (ネタバレなしです) 1998年発表の牧場智久シリーズ第8作ですが、読解力の弱い私にはとらえどころのない難解な怪作でした。全34章で構成されていますが、断片的な物語が脈絡もなくつながっているような感じです。過去のシリーズ作品の登場人物が大勢登場していて懐かしいと言いたいところですが、武藤類子は22章でちょっと顔見せしただけで一言も発していないなど配役にかなりのばらつきがあります。智久も主役とは言えないと思いますが、では誰が主役かというと特定しにくいです。強いて挙げるなら智久の姉の牧場典子でしょうけど、混乱している場面が多くて活躍したという印象がありません。31章で事件の大まかな輪郭が説明されますが、推理が語られるわけではなく本格派推理小説の謎解きにはなっていませんし、事件現場近くで目撃された智久に似ている少年の真相はアンフェアな印象を読者に与えるでしょう。27章から29章にかけての多重追跡のスリルは優れていると思いますが、最後まで読みにくい、わかりにくい、すっきりしないと私には合わない作品でした。 |
No.2569 | 5点 | 謎まで三マイル コリン・デクスター |
(2022/11/27 18:33登録) (ネタバレなしです) 1983年発表のモース主任警部シリーズ第6作の本格派推理小説で、犯人当てと被害者当ての謎解きを特徴としています。この紹介でパット・マガーの「七人のおば」(1947年)を連想させてしまったら申し訳ありません、マガー作品とはほとんど共通点がありません。両手両足さらには首まで切断された(残虐描写は一切ありません)死体の素性を巡ってモースとルイス部長刑事が右往左往し、なかなか犯人探しに集中できません。「ジグソー・パズルのまん中に、一つだけ大きく抜けている場所がある」とモースが終盤に述べていますが、結構肝心な部分の説明を後回しにしたままで真相を説明するというのがユニークです。もっとも最後に残したその謎の真相は賛否両論になりそうですね。ミスリードの手法が効果的ではありますけど。 |
No.2568 | 4点 | 恐山「黄金の国」殺人海峡 草野唯雄 |
(2022/11/20 14:49登録) (ネタバレなしです) 鉱業会社での勤務経験がある作者には初期作品に「北の廃坑」(1970年)や「影の斜坑」(1971年)などの鉱山を舞台にした作品があり、1991年発表の尾高一幸シリーズ第9作の本格派推理小説である本書ではかつての山師で大鉱脈発見で財を成した男が謎の死を遂げる事件を扱っています。もっとも初期作品の熱気や緊張感は本書ではまるで感じられず、むしろ淡泊な印象が残ります。殺人犯は結構早い段階で絞り込まれ、逮捕するに十分な証拠や証言を探し求めることに多くのページを費やしていて推理物としては物足りません。犯行時刻と関係ない時間帯に犯人がアリバイを用意していたのはなぜかという謎がちょっと珍しいぐらいで、それもあまり大した理由ではないように思えます。 |
No.2567 | 5点 | 偽りと死のバラッド ルース・レンデル |
(2022/11/18 22:58登録) (ネタバレなしです) 1973年発表のレジナルド・ウェクスフォードシリーズ第8作の本格派推理小説です。8万人の群衆が集まる音楽フェスティヴァルの終焉後に発見された他殺死体という事件を扱ってますが、迫力ある演奏とか会場の熱狂ぶり描写を期待してはいけません。整然たる弦楽四重奏の演奏会と置き換えても違和感ないぐらい抑制が効いています。地味過ぎるぐらいの捜査描写の中で第12章での被害者の服を巡っての刑事たちの意見交換会がちょっとしたファッション評価みたいでユニークです。犯人逮捕は意外と早くて唐突ですが、「もっと奇妙ななにか、実際の彼女の死よりも、もっとおそろしいなにか」の謎をウェクスフォードがなおも追及していきます。その真相にはかなり変わった人間ドラマが隠されていますが、読者に納得させるには伏線不足の感じがします。余談になりますが第7章でバーデン警部の近況が語られますが、「もはや死は存在しない」(1971年)を読んでいる読者は意外な後日談に驚くでしょう。 |