禁じられた館 |
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作家 | ミシェル・エルベ―ル&ウジェーヌ・ヴィル |
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出版日 | 2023年03月 |
平均点 | 7.75点 |
書評数 | 4人 |
No.4 | 5点 | ことは | |
(2023/07/02 01:33登録) ネットの評判を読んで期待したほどではなかったなというのが、正直なところ。 まず、キャラクターは区別がつく程度の造形で、面白みはない。全体の展開も単調だ。まあただ、これはネットの評判にもあったので、期待していた点ではないのだけれど。 期待していた部分というと謎解きの部分なのだが、それもどうにも、いまひとつだった。メインの人間消失の謎はなかなかよいのだが、その後の質疑がよろしくない。各人物が、自身の主張をするだけで、根拠や他可能性を論じるディスカッションがあまりないのだ。そのため、いくつかの仮説が順々に提示されるだけで、盛り上がりに欠けるし、さらにその仮説のいくつかは、明らかに根拠薄弱に思えて、興趣を感じさせてくれなかった。最後の真相だけはなかなか好みだったが、それ以外はどうも……。 仮説の提示数が多いという点で共通するクリスチアナ・ブランドの諸作と比べると、かなり見劣りを感じる。個人的には、まったく傑作という気はしない。 あと、事件発生が地の文で語られてしまっているのが残念。このため、(クイーンの国名シリーズの初期などが典型と思うが)捜査の段取りを楽しむことや、少しずつ全体像が見えてくる面白さがない。これ、ミステリを読みすすめるためのフックとして、重要だと思うんだけどな。 とはいえ、読後に読書メーターを拾い読みしてみたが、気に入っている人も多くいて、謎解きミステリ内だけでも、好みのポイントは多種多様なのだと感じた。 |
No.3 | 8点 | 人並由真 | |
(2023/04/11 14:53登録) (ネタバレなし) モンルージュ食品の社主で50歳代の独身富豪ナポレオン・ヴェルディナージュは、知人の公証人ラリドワールの斡旋で、郊外のマルシュノワール館を購入。だがそこには、最初の建築施工主で館の主のとき以来、不穏な出来事が断続していた。それでも気丈に館の主となるヴェルディナージュだが、そこに館から退去しろ、さもなくば身の危険が生じるとの差出人不明の警告状が繰り返し届く。そしてついに惨劇が起きるが、謎の殺人者は包囲された館から忽然と消え失せた? 1932年のフランス作品。 地味に昨年の後半から、Twitterでの訳者当人のつぶやきから、ミステリファンの間で鳴り物入りになった一冊。 良い意味でごく直球、外連味ばっかのフーダニットパズラーで、なるほどとても楽しく読めた。 犯人もシンプルながら、これはこれで意外。 とはいえ、これ、密室の……(中略)。 あと、306頁での年齢の自己申告、おかしくないですか? 若すぎるよね? 公の場でサバ読んでるのか。 まあ、とにもかくにも、発掘翻訳がとても嬉しい作品ではあった。 もっともこの好反響の熱気が、歳末~年明けのあちこちの本年度翻訳ミステリベスト投票の時期まで、テンション維持されるかというと、なんかちょっと不安な気もするのだが。 (逆に言えば、これが今年度のベスト上位クラスと、この時点でひとつ確定してしまっては、ちょっと物足りなくも思うのだ。) |
No.2 | 9点 | nukkam | |
(2023/03/06 15:18登録) (ネタバレなしです) 経歴については不詳のミシェル・エルベールとウジェーヌ・ヴィルのコンビ作家は1930年代にフランスで3作のミステリーを発表しました。当時はフランスでも英米と同じく本格派推理小説の人気が高かったらしく、私もS=A・ステーマン(ベルギー出身ですが)、ピエール・ボアロー、ノエル・ヴァンドリーの作品を数冊読んではいますが英米の巨匠作家と比べると謎解き伏線が十分でなくて粗い推理の印象がありました。しかし1932年発表の第1作である本書は実によくできています。おっさんさんのご講評でジョン・ディクスン・カーが引き合いに出されていますが、脱出不可能な館から被害者を訪れた謎の人物が消えてしまうというカーの「三つの棺」(1935年)を連想させる不可能犯罪の謎を巡って次から次へと推理検証が繰り広げられていく展開が謎解き読者にはたまりません。即座に否定されますが(カー作品ではありませんけど)某伝説級作品(本書より後発です)の有名トリックまでが謎解き議論の中で言及されていたのには仰天しました。「三つの棺」のような複雑に構築されたトリックではありませんがどんでん返しの連続の末に最後に披露された推理説明は、これこそ唯一の真相だと説得させるのに十分です。動機が後出し説明でも大きな弱点に感じませんでした。この時代のフランスにも英米巨匠作家の傑作に匹敵する本格派があったのですね。 |
No.1 | 9点 | おっさん | |
(2023/03/04 15:13登録) こういうのでいいんだよ。 こういうので。 1930年代に、フランスで長編密室ミステリ3作をものした合作チーム、ミシェル・エルベール&ウジューヌ・ヴィルの、ファースト長編 La Maison interdite(1932)が、電撃的に扶桑社ミステリーから訳出されました。 良い出来だという噂は耳にしていましたが――いやこれが、本当に良かった。 いわくつきの館を買い取った成金の富豪のもとに、再三、舞い込む、退去をうながす脅迫状。最終警告を無視した雨の夜、館を訪れた謎の男。轟く銃声。あとには富豪の死体が残され、逃げ場の無いはずの館から、訪問者は消え去っていた……。この、最盛期のディクスン・カーを思わせる不可能犯罪をめぐって、司法関係者が複数の容疑者を犯人に擬し、推論バトルを繰り広げるなか、私立探偵まで参戦。舞台を移した法廷で、ついに解き明かされる真相は? カーを想起させる作品でありながら、複雑さとは対極の、じつにシンプルな、それでいて意外性のある解決が、エレガントだと思います。マニア層を意識した密室ものって、どうしても過剰にエスカレートしていきがちじゃないですか。どこの国とはいいませんがw 帯の推薦文を有栖川有栖さんが書いているのも(というか、編集部が有栖川さんに依頼したのも)、そういう意味で、分かる気がしますね。帯裏の、編集者の手になるコピー*からも、ホンモノの「幻の傑作」を発掘した、という興奮が伝わってきます。 フランス本格にしばしば抱く、肉付けの不足感は、正直、この作にもありますが、タイトなプロットの魅力はそれを補ってあまりあり、最後の一行まで、楽しく読むことができました。 アントニイ・バークリー、というより、のちのレオ・ブルースを思わせる要素もあって、訳者の小林晋氏が惚れ込んだのも、むべなるかな、です。 ともかく。 本格ミステリ・ファンなら、マストの一冊。 *曰く「英米で本格ミステリの黄金期を迎えていた1930年代。同じころ、フランスでは一体どんなミステリが書かれていたのか?『黄色い部屋の謎』以降、フランスでフェアプレイ重視の探偵小説は本当に根付かなかったのか? その答えが……ここにある!」。ああ、『黒衣婦人の香り』の立場がないww ということで、次回は『黒衣婦人』について書いてみましょうか。 |