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ミステリの祭典

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暗黒告知

作家 小林久三
出版日1974年01月
平均点7.00点
書評数3人

No.3 6点 nukkam
(2023/02/26 02:01登録)
(ネタバレなしです) 小林久三(1935-2006)の代表作として知られる1974年発表の本書は社会派推理小説と本格派推理小説のジャンルミックス型ミステリーです。作中時代は明治40年(1907年)、日本最初の公害である足尾銅山鉱毒事件で廃村の危機を迎える谷中村を舞台にし、実在の公害反対運動家である田中正造(1841-1913)を容疑者の一人に仕立てているところが本書の個性です。本格派の謎解きとしては周囲を雪に覆われて犯人の足跡もなく、密室状態の建物の中で被害者が死んでいた不可能犯罪を扱ってます。最初にトリック推理が披露された時には無理ではないかと思いましたが、第7章で実現可能性の補強をしていますね。時代背景が背景だけに明るい展望のない雰囲気は好き嫌いが分かれると思いますが(タイトルからして身構えてしまいそう)、史実を改変しないでフィクションのミステリーを成立させている手腕は見事だと思います。

No.2 9点 斎藤警部
(2015/05/20 15:39登録)
本格と社会派の精妙な融合はここにも有る。足尾銅山と田中正造が最重要背景/人物として鎮座します。田中正造、熱いです!作中でも話題の新小説として触れられる島崎藤村「破戒」に登場する熱血政治家を思わせます。その熱血漢がまさか、殺人事件の犯人なのか、それとも。。。。 日本近代暗黒史をしっかりと描いた中に、本格ミステリーの矜持が、着実な伏線とイメージ豊かなトリックそして意外にして残酷な結末として顕出しています。
暗くて重くてエキサイティングなブツでキメたいあなたに強く薦めます。

No.1 6点
(2012/01/21 11:38登録)
時代設定は明治40年(1907年)4~6月。近代日本公害の原点として知られる赤尾銅山鉱毒事件に取材し、実在の政治家田中正造を重要登場人物にした作品です。
作者はクイーンの『ガラスの村』を読んで「社会派推理小説」として感銘したことが、作風の原点になっていると述べていますが、クイーンが元と言うだけあって、社会悪追求だけでなく謎解き的な部分にも工夫を凝らしています。最初の殺人がまず密室です。トリックはすぐ想像がつくでしょうが、その方法を使った理由はなかなかのものです。また全体的な真相も、ある程度見当はつきますが、悪くありません。
ただ、時代考証的な部分で気になる点がいくつかありました。登場人物が「密室」「アリバイ」なんて言葉を使っているのがまず疑問です。また、フリーマンの『赤い拇指紋』(どう見ても翻訳本)が作中で出てくるのですが、原書が発表されたのはまさにその1907年。イギリス新人ミステリ作家(当時)の作品がすでに翻訳されていたという設定は、さすがにちょっと無理がありますね。

追記:おっさんより、『赤い拇指紋』については都筑道夫氏の指摘により後に改訂されたとのご教示をいただきました。ありがとうございます。

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