nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2865件 |
No.265 | 5点 | 雪密室 法月綸太郎 |
(2011/09/11 13:50登録) (ネタバレなしです) 事件の悲劇性や犯罪に巻き込まれた人々の苦悩描写を強調するようになった後年の作品と比べると1989年に発表された法月綸太郎シリーズの第1作である本書は純粋な謎解き小説であり、物語の深みは求めようもありません。とはいえ本書の場合はそれが欠点とは思えず、むしろ気軽に謎解きを楽しめることが長所になっていると思います。「読者への挑戦状」を挿入しているだけあって、緻密に考えられた伏線に明快な推理と本格派推理小説としての完成度は高いです。ただそれでも(ネタバレ防止のため詳細を書けませんが)この真相は残念であります。 |
No.264 | 4点 | メリーの手型 ポール・ギャリコ |
(2011/09/08 12:39登録) (ネタバレなしです) 傑作「幽霊が多すぎる」(1959年)以外にもアレグザンダー・ヒーロー登場の作品があるとは知らなかったので、1964年発表の本書の存在を知った時には多いに期待したのですがかなり作風が違っていたのに拍子抜けしました。心霊現象トリックに挑戦という点では共通していますが謎解き要素は希薄で、代わりにスパイ・スリラー小説要素の強い作品でした。テンポよくスラスラと読める作品ですが、盛り沢山の謎解きにキャラクター小説としての魅力にも溢れていた「幽霊が多すぎる」とはかなり異質の作品でした。 |
No.263 | 7点 | 本陣殺人事件 横溝正史 |
(2011/09/06 19:42登録) (ネタバレなしです) 戦後の日本ミステリーは1946年発表の本書をもって嚆矢とされています。記念すべき金田一耕助シリーズの第1作という史料的価値だけでなく、作者の本格派推理小説への熱き思いも伝わってきます。角川文庫版で一緒に収められている中編「黒猫亭事件」(1947年)も読者への謎解き姿勢を強く表しているのが新鮮です(残念ながら後年の作品は読者へのフェアプレー精神が薄れてしまいました)。しかし最も私にとって印象的なのは書簡形式が珍しい短編「車井戸はなぜ軋る」(1955年)(実は改訂版で、原典版(1949年)は非シリーズ短編だったそうです)。謎解きがしっかりしているだけでなく哀愁あふれる物語として心を打ちます。これは純文学作品と主張したっておかしくない! |
No.262 | 6点 | ライン河の舞姫 高柳芳夫 |
(2011/09/06 19:26登録) (ネタバレなしです) 「『禿鷹城』の惨劇」(1974年)の続編となる1977年発表の本格派推理小説で、前作の登場人物の何人かが再登場していますのでできれば前作を先に読むことを勧めます。またまた古城が登場しますが前作の古城があくまでもホテルとしての描写に留まっていたのに対して、本書の古城描写はいかにも城らしい雰囲気に満ちています。プロットも社会派推理小説風なところが気になった前作よりも、古き良き時代の本格派推理小説の香りが濃い本書の方がとっつきやすいと思います(そういうのが好きな読者にとってはという条件つきですが)。スケール豊かな舞台に比べてトリックの小粒感がちょっと惜しまれますが十分楽しめました。 |
No.261 | 7点 | 道化の死 ナイオ・マーシュ |
(2011/09/06 19:16登録) (ネタバレなしです) クリスチアナ・ブランドの傑作「ジェゼベルの死」(1949年)をちょっと連想させる作品で、ブランドは舞台上の死体と首なし死体を扱いましたが1956年発表のアレンシリーズ第19作である本書では舞台上の首なし死体が用意されています。不可能犯罪であるところも共通しており、ブランドほどの大技ではありませんがまずまず合理的なトリックとして解明されています。同じような取り調べシーンが長々と続いて単調になりやすいというマーシュの弱点が目立たず、プロットがしっかりしているのもいいです。民族舞踊の描写も効果的で、映像化したらさぞや映えるでしょう。これまで読んだマーシュ作品では最高傑作だと思います。 |
No.260 | 6点 | 道化者の死 アラン・グリーン |
(2011/09/06 19:01登録) (ネタバレなしです) 1952年発表の本書はユーモア本格派の大傑作「くたばれ健康法!」(1949年)の続編的な本格派推理小説です。謎解きプロットはしっかりしていて推理も丁寧と水準点には十分達しています。とはいえ物語のテンポは前作とは天と地との違いがあります。勢いのよかった前作と比べて本書では容疑者がやたらと捜査に非協力的なのでリズムが停滞気味です(前作の方がご都合主義的だと批判することも可能でしょうけど)。ユーモアも単発的で、セントバーナ-ド犬という秀逸な小道具もやや空回り気味です。 |
No.259 | 7点 | 歴史街道殺人事件 芦辺拓 |
(2011/09/06 18:50登録) (ネタバレなしです) 1995年発表の森江春策シリーズ第2作の本格派推理小説で、冒頭のバラバラ殺人こそ派手な出だしですが、中盤は複雑な人間関係描写とアリバイ捜査が中心の地味な展開となり、やや中だるみ気味に感じました。しかし解決編で森江が明かすトリックは破壊的なまでに衝撃的、これには意表を衝かれました。作者は後年、「普通のトラベルミステリーかと思わせてその裏をかく」つもりだったというコメントを残していますが、西村京太郎や内田康夫のコピー商品みたいなタイトルではそもそも売れなかったのもごもっともで、せっかく充実した内容なのにこの題名では明らかに作戦失敗でしょう(笑)。 |
No.258 | 6点 | 九マイルは遠すぎる ハリイ・ケメルマン |
(2011/09/06 18:09登録) (ネタバレなしです) 米国のハリイ・ケメルマン(1908-1996)は高校や大学の教師職を歴任した人物でミステリー作家としては非常に寡作家で、1967年に短編集として出版された本書のニッキイ・ウェルト教授シリーズの8作は1947年から1967年の足かけ20年をかけて書かれました。論理的な謎解きの好事例としてエラリー・クイーンが大絶賛した短編集ですが最も名高い表題作は私はあまり評価していません。話の後半で地理に関する情報が出てくるとその方面の知識のない読者は推理に参加するすべを失ってしまい、ニッキイの話をただ後追いするしかありませんから。私の1番のお気に入りは探偵役のニッキイの推理を論破しようとする面々が次々に返り討ちにあう「わらの男」で、まさしく論理戦の醍醐味が堪能できました。音のみから推理する「おしゃべり湯沸し」も独特の味わいがあります。 |
No.257 | 3点 | タナトスゲーム 伊集院大介の世紀末 栗本薫 |
(2011/09/06 17:38登録) (ネタバレなしです) 長らく続いた「天狼星」シリーズに終止符を打って1999年に発表された伊集院大介シリーズ第13作の本格派推理小説です。身構えるときりがありませんが、本書ではやおい小説がテーマとなっています。但し官能描写があるわけではありませんし、やおいの良し悪しを議論しているわけでもありません(冒頭で伊集院やアトム君がちょっと騒いでいますけど)。やおい小説好きたちの心理描写が大半を占めており、謎解きも心理分析が重要な意味合いを持っています。ただそれでもやおいに関心のない私は身構えて読んでしまったので、推理を楽しむ余裕があまりありませんでしたが。 |
No.256 | 8点 | 無慈悲な鴉 ルース・レンデル |
(2011/09/06 17:20登録) (ネタバレなしです) 1985年発表のウェクスフォード主任警部シリーズ第13作はなかなかの傑作だと思います。重婚やフェミニズム(男女平等主義と訳されることもありますが本書では女権主義として扱われています)、さらに17章での〇〇と、国内ミステリーだったら社会派推理小説のネタで一杯ですが、本格派推理小説としての謎解きも充実しています。犯人の自白場面も強烈な印象を残しますが、22章の終わりでは更なる衝撃が待っており、思わず「話が違うだろ」(これ、褒めてるつもりです)と声をあげたくなりました。 |
No.255 | 8点 | 時計館の殺人 綾辻行人 |
(2011/09/06 16:50登録) (ネタバレなしです) 館シリーズ前作の「人形館の殺人」(1989年)が本格派推理小説でありながらサイコ・サスペンス路線に踏み出しかけていたのでその種のジャンルが苦手な私は心配しましたが、1991年発表のシリーズ第5作である本書は推理をメインにした本格派推理小説だったので安心かつ満足することができました。派手な殺人場面の直接描写(もちろん犯人の正体は隠してます)が多いですけど残虐性や気味悪さを強調していないのもいいですね。好都合過ぎな部分もありますが思い切った大トリックに挑戦しており、作者が1つのピークを迎えたことを納得させる出来ばえです。 |
No.254 | 6点 | 死が二人をわかつまで ジョン・ディクスン・カー |
(2011/09/06 16:26登録) (ネタバレなしです) 1944年発表のフェル博士シリーズ第15作の本書は愛情と疑惑の狭間で揺れ動く若者を物語の中心に据えた心理サスペンス小説風な作品です。密室の毒殺事件というと普通の密室に比べると大した謎でないように思えるでしょうが本書の場合は注射による毒殺のため不可能性は勝るとも劣らないのがポイント高いです。本格派推理小説としての謎解きもしっかり組み立てられており密室トリックは古いトリックの流用ながらそこにある工夫を加えることによって新鮮味を出すことに成功しています。一方で意味のない巻き添え的な事件を起こしているのは蛇足としか思えず、ここはマイナスポイントです。 |
No.253 | 7点 | 悪霊の館 二階堂黎人 |
(2011/09/06 15:58登録) (ネタバレなしです) 1996年発表の二階堂蘭子シリーズ第4作の本格派推理小説です。今では全4巻の巨大作「人狼城の恐怖」(1998年)への過渡的作品という位置づけになってしまった感もありますが、講談社文庫版で全26章850ページを超すボリュームと50人を超す登場人物リストは今読んでも圧倒的存在感があります。トリックが期待はずれという指摘があり、ごもっともと共感するところもありますがむしろこれだけの演出効果をあげていることを評価したいです。独特の重苦しい雰囲気は好き嫌いが分かれるでしょう。E-BANKERさんのご講評の通り、「古きよき探偵小説」を見事に再現しています。ええ、個人的にはこの雰囲気、大好きです。 |
No.252 | 6点 | 聖女が死んだ キャサリン・エアード |
(2011/09/06 15:36登録) (ネタバレなしです) 1966年に本書でデビューしたキャサリン・エアード(1930-2024)は昔ながらの本格派推理小説の伝統を引き継ぐ作家の1人と評価されていました。30作近い長編と若干の短編集を残しましたが大半がスローン警部シリーズです。修道院という独特の舞台にしたためでしょうか、修道女たちを意図的に個性を表さない人物として描こうとしておりそれは成功しているのですが、結果として誰が誰だかよくわからない...(笑)。16章の事情聴取なんか笑ってしまいそうになるほど空回りしています。その埋め合わせか女性刑事を登場させてちょっとアクセントを付けたのがいいアイデアです。盛り上がりに乏しいプロットですが、絶対に恨みなど買いそうにないシスター殺害事件の真相は動機といい、さりげなく隠された凶器といい、なかなかよく出来た謎解きだと思います。 |
No.251 | 6点 | アトポス 島田荘司 |
(2011/09/06 15:24登録) (ネタバレなしです) 1993年発表の御手洗潔シリーズ第7作の本書は講談社文庫版で900ページを超えますが、その長大さを感じさせない読みすさは驚異的でさえあります。ヒロイン役としてレオナが登場しますが個人的にはあまり共感できない描写でした。グロテスク描写や大トリック炸裂には島田らしさが十分発揮されているのですが、そろそろマンネリ気味に感じてしまったのは私のわがままでしょうか?御手洗潔の出番が非常に少ないのも気になりますが、本書の後は彼の登場しない番外編作品が続くことになってしまいます。 |
No.250 | 5点 | 甘美なる危険 マージェリー・アリンガム |
(2011/09/06 11:55登録) (ネタバレなしです) 国内では「水車場の秘密」というタイトルで別冊宝石68号(1957年)で初めて翻訳紹介された1933年発表のアルバート・キャンピオンシリーズ第5作ですが、冒険スリラー小説に分類できる作品です。アリンガムの作品は導入部がとても難解な作品がありますが本書もその一つです。キャンピオンがなぜ事件に巻き込まれているのかの十分な説明がないまま話がどんどん進む展開は、私のように読解力に難ありの読者にとっては厳しいです。消えた死体という魅力的な謎が中途半端な扱いなのも不満です。後半になると劇的に盛り上がって冒険スリラーらしさを堪能できます。キャンピオンのパートナーとなるアマンダ初登場ということでシリーズファンには重要作です。なお新樹社版にはキャンピオンものショート・ショート「クリスマスの言葉」が一緒に収められており、こちらは非ミステリー作品ですが幻想的な雰囲気が印象的でアリンガムの文学性の一端を覗かせています。 |
No.249 | 5点 | 蜜の森の凍える女神 関田涙 |
(2011/09/06 10:15登録) (ネタバレなしです) 関田涙(1967年生まれ)が2003年に発表したデビュー作で、ファンタジー小説みたいなタイトルが印象的ですが内容は「読者への挑戦状」付きの王道的な本格派推理小説でした。文章について厳しい評価を受けているようですが(「読者への挑戦状」の中で自虐的に「中学生の作文みたいな文章」と言い訳しているのが可笑しい)語り口はスムースで、個人的には悪文とまでは思いません。ただ挑戦状を付けるからにはフェアな謎解きかどうかは気になるところで、あの仕掛けは(一応理由も用意してありますが)ちょっとアンフェアではという気もしました。とはいえ個人的には真っ向勝負の謎解きは大好きなので、全体としては満足しています。 |
No.248 | 5点 | カーテンの陰の死 ポール・アルテ |
(2011/09/05 17:36登録) (ネタバレなしです) 1つの作品に盛り沢山の謎を詰め込むことが多い作者なのでたまに感心できないようなトリックが使われても他でリカバリーできるので総合的には満足するのですが、1989年のツイスト博士シリーズ第3作の本書の場合は比較的シンプルな謎解きになっているため、メイントリックがひどいと弁護の余地がありません(笑)。まあそれでも某古典ミステリーを下敷きにしたエピローグの演出などは光っていますが。犯行の残虐性を強調していない描写は人によっては物足らなく感じるかもしれませんが、個人的にはこれくらいで十分だと思います。 |
No.247 | 5点 | 結婚って何さ 笹沢左保 |
(2011/09/04 15:57登録) (ネタバレなしです) 笹沢左保はデビューした年の1960年に一気に4作品も発表していますが、その中でも恋愛コメディーみたいなタイトルの本書は異色の存在です。ちなみに恋愛要素もコメディー要素もほとんどなく、巻き込まれ型サスペンス風のプロットを特徴としています。密室殺人事件を扱っているところは本格派推理小説らしさもありますが、徹底して謎解きにこだわった名作「霧に溶ける」(1960年)の次作としては軽量級に感じられるのもやむなしでしょうか。意外と細部までしっかり書かれており、密室トリックはいかにしてだけでなく密室にした理由まで説明されています。 |
No.246 | 10点 | Xの悲劇 エラリイ・クイーン |
(2011/09/04 15:07登録) (ネタバレなしです) 発表当時は覆面作家だったエラリー・クイーンがバーナビー・ロスという別名義で1932年に発表したドルリー・レーン四部作の第1作である本格派推理小説です。文章には無駄も不足もなくプロット構成もすっきりして非常に読みやすくてクイーン名義の作品(同時期の国名シリーズ)とは全く雰囲気が違っており、クイーンとロスが同一作家と見破られなかったのももっともです。「Yの悲劇」(1932年)と最高傑作の座を常に争っていまる傑作ですが名探偵の華麗なる推理を純粋に楽しみたい読者にはこちらを推奨します。まあこの比較は山と海とどちらが好きなのかを比べるようなもので、どちらも本格派推理小説の最高峰的存在であることに間違いありません。 |