nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2865件 |
No.425 | 10点 | ビッグ・ボウの殺人 イズレイル・ザングウィル |
(2014/08/15 16:52登録) (ネタバレなしです) ロシア系ユダヤ人とポーランド人の間に生まれた英国のイズレイル・ザングウィル(1864-1926)はジャーナリストやシオニスト(ユダヤ民族主義者)としての活動がキャリアの中心でミステリー作品はわずかに本書と短編1作のみですが書かれた時代を考えると本書は驚異的にハイレベルの作品です。現代ミステリーや黄金時代(第一次世界大戦と第二次世界大戦の間)のミステリーを読み慣れた読者には目新しくないかもしれませんが、本書が発表された1891年当時の読者にとっては衝撃のトリック、衝撃の結末ではないでしょうか。冒頭に作者による序文が付けられていますが、「物語の主要部分でデータは全部出しておかなければならない」と、この時代にフェアプレーを意識していたこともまた革新的です。30年後の作品と言っても通用しそうな先進性が際立っています。 |
No.424 | 6点 | ミステリ講座の殺人 クリフォード・ナイト |
(2014/08/15 16:37登録) (ネタバレなしです) 米国のクリフォード・ナイト(1886ー1963)は米国本格派推理小説黄金時代の1937年にデビューした作家で、ハントゥーン・ロジャーズを名探偵役にしたシリーズ作品を年2作のハイペースで次々に発表しました。1940年代後半に本格派の人気がなくなると非本格派路線へと作風を変えたところは同時代のヘレン・マクロイやパトリック・クェンティンと共通しています。1937年発表のシリーズ第2作である本書を読む限りでは謎解きに関係のない要素は最低限の描写にしようており、例えば探偵役のハントゥーン・ロジャーズは英文学教授という設定なのですが文学に関する話を全くしないのです。同時代のファイロ・ヴァンスやエラリー・クイーンなどやたら文学作品からの引用を連発する探偵とは大違いです。そのためか文章が特に上手いとも思えないのですが回りくどい表現も一切ないため意外と読みやいです。冒頭で「29の手がかり」があることを宣言し、巻末には手がかり索引を配置しているガチガチの本格派推理小説です。 |
No.423 | 6点 | 大鴉殺人事件 エドワード・D・ホック |
(2014/08/15 14:10登録) (ネタバレなしです) アメリカのエドワード・D・ホック(1930-2008)は短編ミステリーの名手として名高く、その作品数は800を超えるとも言われます。単純比較はできないとはいえ、短編12作を長編1作と換算しても60作以上書いた計算になるので多作家と評価しても差し支えないでしょう。一方長編作品は10作にも満たないそうです。1969年発表の本書はその数少ない長編第1作で、探偵役の名前がハードボイルド小説を連想させるハメットですが、中身は純然たる犯人当て本格派推理小説です。登場人物も多くなく読みやすい作品でした。メインの謎であるダイイングメッセージは謎解きの説得力が強力というわけではありませんが、他にも犯人当ての伏線は用意してあり、際立った特色はないものの安心して読めます。 |
No.422 | 5点 | ベラミ裁判 フランセス・N・ハート |
(2014/08/15 13:41登録) (ネタバレなしです) 米国の女性作家フランセス・N・ハート(1890-1943)はは全部で4冊ほどのミステリーを書いたそうですが1927年発表のデビュー作の本書が最も名高いです。世界最初の法廷ミステリーとも言われ、エラリー・クイーンやレックス・スタウトが激賞しています。ほとんど全編に渡って法廷場面が描かれていることから日本でも早くから注目され、戦後間もなくの時期に裁判関係者への参考書として翻訳許可を申請して「小説だから」という理由で却下されたという面白いエピソードが残っています。夫が弁護士ということも手伝ってか法廷描写は結構リアルですが物語の流れをスムーズにするよう手続き的な流れなどは適宜省略されており、「裁判記録」ではなくちゃんと「小説」になっています。本格派推理小説に分類できますが被告人が有罪か無罪かを謎の中心にすえているところは異色です。法廷ミステリーの先駆的作品という歴史的価値だけでなく、プロットは緻密で証拠に基づく謎解きもしっかりしていて当時としては高水準のミステリーだと思います。ただ私の読んだ異色探偵小説選集版は旧仮名づかいだらけの古い翻訳であまりにも読みにくく、これからの読者向けには新訳版を出して欲しいです(本当は6点評価にしたいのですが翻訳で1点減点しました)。 |
No.421 | 5点 | 学長の死 マイケル・イネス |
(2014/08/15 11:45登録) (ネタバレなしです) 英国のマイケル・イネス(1906-1994)はオーストラリア、米国、英国で大学教授または準教授を歴任し、シェークスピアなどの文学作品研究者としても活躍したするなどこれぞ知識人というキャリアの持ち主です。ミステリーを書いたのも教授ならば著作の一つもなくてはと考えたのがきっかけだそうで、アプルビイ警部シリーズを中心に40作以上のミステリーを書きました(ちなみに本書の世界推理小説全集版では警視と表記されていますが多分間違いです)。その特色はファルス派と称される破天荒なプロットとユーモア、そして高尚な文学知識が散りばめられた独特なスタイルだそうです。1937年発表のアプルビイシリーズ第1作の本書はデビュー作のためか手堅過ぎるぐらいの文章で書かれており、ちょっと退屈でした(文学知識の方は危惧したほど乱用されていませんが)。第10章なんか後年の作者ならもっとユーモアを混じえて盛り上げたでしょう。登場人物も誰が誰だか整理が大変です。しかしながら第17章の「誤解の連鎖反応」が紐解かれる謎解きはなかなか劇的で読み応えがありました。 |
No.420 | 6点 | チャーリー退場 アレックス・アトキンスン |
(2014/08/15 10:20登録) (ネタバレなしです) 演劇界との関係が深く舞台俳優や劇作家としてのキャリアをもつ英国のアレックス・アトキンスン(1916-1962)の1955年に発表した唯一のミステリー作品で本格派推理小説です。劇場を舞台にしておりその描写力はさすがと思わせますが大勢の登場人物の整理に苦心しているようなところもあり、同じ劇場ミステリーでもヘレン・マクロイの傑作「家蠅とカナリア」(1942年)と比べると少し雑然としているように思います。しかし劇が進行する中で迎えるクライマックスシーンはなかななかの迫力で、細かい場面切り替えが効果をあげています。謎解き伏線もしっかり張ってあります。 |
No.419 | 5点 | 月蝕の窓 篠田真由美 |
(2014/08/15 09:52登録) (ネタバレなしです) 2001年発表の桜井京介シリーズ第8作の本書は講談社文庫版の作者あとがきでも紹介されていますが桜井京介の視点で描かれる場面が多く、もともと社交的な性格でないシリーズ主人公の上に自閉気味になって悩んでばかりなので物語が何度も停滞します。さらにサイコ・サスペンス色を濃くして歪んだ感情描写を多々取り込んでいるのですから読んでて気が滅入ること!これはこれで高く評価する読書も多いでしょうが個人的には肌が合いませんでした。爽やかな読後感を残した「未明の家」(1994年)がとても懐かしくなりました。 |
No.418 | 5点 | 首切り坂 相原大輔 |
(2014/08/15 09:25登録) (ネタバレなしです) 相原大輔(1975年生まれ)が2003年に発表したデビュー作で明治44年を時代背景にした本格派推理小説です。最後に明かされるトリック(若竹七海は「お茶目なトリック」と評価しています)はなかなか意表を突いたものですがプロットとの関連がなく、典型的な「トリックのためのトリック」になっています。動機が完全に後出し的説明になっているところも弱点と指摘されるかもしれません。おどろおどろしいタイトルながら直接的な描写がほとんどなく、すっきりした文体でむしろ洗練さを感じさせます。この題材なら島田荘司や二階堂黎人なら怖さや不気味さをもっと強調できたでしょうけどこれは好みの問題で、私は本書程度が読みやすくて丁度よかったです。 |
No.417 | 6点 | 鐘楼の蝙蝠 E・C・R・ロラック |
(2014/08/14 18:35登録) (ネタバレなしです) 1937年発表のマクドナルド警部シリーズ第12作の本格派推理小説です。相次ぐ失踪事件、ついに死体が発見されたと思えば首なし死体と雲をつかむような状況が続きます。マクドナルドの捜査も少しずつ進展はしているのですが、一方で頭のいい犯人に巧妙にミスリードされているのではという不安がつきまといます。退屈ぎりぎりで踏みとどまったのは後半の展開が変化に富んでいることと(演出は抑制を効かせ過ぎという気もしますが)、最終的に5つの仮説を組み立てて犯人に迫るマクドナルドの丁寧な謎解きがあってのものです。 |
No.416 | 5点 | 指に傷のある女 ルース・レンデル |
(2014/08/14 18:23登録) (ネタバレなしです) 1975年発表のウェクスフォードシリーズ第9作で、シリーズ作品としては異色のプロットになっています。犯人の正体は意外と早い段階で見当がついており、決定的な証拠をウェクスフォードたちが捜す展開となっています。最後に驚きの仕掛けを用意してあるのは見事ですが、本格派推理小説として評価するとこれは微妙かもしれません。あらかじめ謎として提示されていたわけではないのですから、巧くだまされたという快感にはつながりませんでした。 |
No.415 | 5点 | ゴールド2 死線 ハーバート・レズニコウ |
(2014/08/14 17:37登録) (ネタバレなしです) 1984年発表のゴールド夫妻シリーズ第2作の本格派推理小説です。探偵役のアレックス・ゴールドの毒舌がシリーズ前作の「ゴールド1 密室」(1983年)に比べてかなり抑えられているのはいいのですが、その分語り手役(妻のノーマ・ゴールド)がより攻撃的になってしまったような...(笑)。ゴールド夫妻以外の登場人物は個性を感じられないし、謎解きは結構緻密なんですけど細かすぎて却って印象に残りにくくなってしまいました。 |
No.414 | 5点 | 余波 ピーター・ロビンスン |
(2014/08/14 17:17登録) (ネタバレなしです) 2001年発表のアラン・バンクスシリーズ第12作となる警察小説です。私の読んだ講談社文庫版では「英国叙情派ミステリーの傑作」と宣伝されていますが本書の内容をちゃんと読んだのでしょうか?「水曜日の子供」(1992年)では異常性格の犯人を登場させていてもまだ穏健な作風を感じさせていましたが本書あたりになるとグロテスクな場面が赤裸々に描写されているし、特に前半部では喜怒哀楽の「怒」ばかりが突出していてぴりぴりした雰囲気が漂っています。初期作品が持っていた叙情的作風は影もかけらもありません。これはこれで非常によくできた作品で、上下巻合わせて800ページを越すボリュームも苦になりませんでしたがやはり私は初期作品の「叙情性」が懐かしいです。 |
No.413 | 5点 | 六つの奇妙なもの クリストファー・セント・ジョン・スプリッグ |
(2014/08/14 17:02登録) (ネタバレなしです) スペイン内乱に義勇軍として参加して戦場に散ってしまった英国人作家クリストファー・セント・ジョン・スプリッグ(1907-1937)の遺作となった1937年出版の本格派推理小説です。不可能犯罪を得意としていたらしいのですが同世代作家のジョン・ディクスン・カーとは作風が異なるタイプのようです。本書でも不可能犯罪を扱っていますがトリックはさほど感心できず、ちゃんと捜査していたらすぐに見破られていたのではと感じました。またタイトルにも使われている「奇妙なもの」もカー(カーター・ディクスン名義)の「五つの箱の死」(1938年)の謎めいた数々の品物と比べるとインパクトは弱いです。とはいえヒロイン役に迫り来る危機また危機や犯人の凶悪性の描写などはサスペンスに満ち溢れており、不可能犯罪の謎解きに過度に期待しなければ十分楽しめる内容です。カーよりもルーファス・キングの「不変の神の事件」(1936年)の方が近い雰囲気の作品だと思います。 |
No.412 | 6点 | 予期せぬ夜 エリザベス・デイリー |
(2014/08/14 16:39登録) (ネタバレなしです) エリザベス・デイリー(1878-1962)はヘンリー・ガーメッジ(ハヤカワポケットブック版ではガーマジ)を探偵役にした本格派推理小説を16冊書いた米国の女性作家です。1940年に本書でデビューした時には既に還暦を過ぎていたという、英国のエリザベス・ルマーチャンドに匹敵する遅咲きです。年下ながら作家としては先輩格のアガサ・クリスティーから「お気に入りの米国作家」と評されていますが、本書の雰囲気はまるで英国の本格派推理小説風で私にとっても好みでした。コナン・ドイルの某作品をちょっと連想させるところがありますがどんでん返しで意外性の演出に成功しています。プロットが後半は事件の乱発で錯綜気味になってしまうのと、ある殺人事件の動機がちょっと納得しづらいのが気になりますがまずまず楽しめる謎解きでした。 |
No.411 | 6点 | 悔恨の日 コリン・デクスター |
(2014/08/14 16:16登録) (ネタバレなしです) 当初は前作の「死はわが隣人」(1996年)をモース主任警部シリーズ最終作とする予定だったのが読者からの抗議が殺到して書き上げられたのが1999年発表のシリ-ズ第13作の本書で、今度こそシリーズ最終作です(未発表の隠し玉作品が出てこない限り)。そういう経緯で書かれるとおまけレベル、下手をすると蛇足的な作品になってしまうのですが本書はいい意味で裏切ってくれました。これは最終作にふさわしいし、内容的にも前作より優れていると思います。シリーズ中かなりの大作となりましたが謎解きプロットはしっかりしていますし、最終作としての演出もばっちり極まっています。作中で「ウッドストック行最終バス」(1975年)のネタバレがあるので最低でもそちらは先に読了しておくことを勧めます。それからハヤカワ文庫版はシリーズ全作を同じ訳者(大庭忠男)で統一していますが、本書の翻訳時には訳者は八十歳を超えていたとか。高齢に加えて緑内障と戦いながらの達成には本当に頭が下がります。これこそプロの仕事ですね。 |
No.410 | 4点 | ネロ・ウルフ最後の事件 レックス・スタウト |
(2014/08/14 15:42登録) (ネタバレなしです) スタウト(1886-1975)の最後の作品となった1975年発表のネロ・ウルフシリーズ第33作の本格派推理小説です(英語原題は「A Family Affair」です)。作者が最後の作品のつもりで書いたのかはわかりませんが内容的にはシリーズ締め括りにふさわしい趣向が用意されています。但しこの趣向はある程度シリーズ作品を読んでいないとわかりにくいので、できればシリーズ作品を沢山読んでいることを勧めます。謎解きとしては読者に対してアンフェアなのが残念です(例えばソール・パンザーがある手掛かりを説明していますが、あれは普通の読者には手掛かりとして認知できないと思います)。とはいえシリーズファン読者なら読み落とすわけにはいかないでしょうね。 |
No.409 | 6点 | マローン御難 クレイグ・ライス |
(2014/08/14 15:10登録) (ネタバレなしです) 非シリーズ作品の「居合わせた女」(1949年)以降長らく長編作品を発表しなかったライスは1957年になって「わが王国は霊柩車」と本書のマローンシリーズ作品を立て続けに発表しましたが、それが蝋燭が消える直前の輝きだったのかのように同年亡くなってしまいました。シリーズ第11作の本書はシリーズ作品中ではややおとなしく、事務所で死体に出くわしたマローンが次々に危機的状況にはまるのですが淡々と物語が進みます。もっとマローンがあたふたしていればより面白かったのではと思います。それでも後半になるとスピード感が増してどたばたぶりは派手になります。謎解き伏線も丁寧に張ってあって、最晩年の作品だからといって衰えは感じさせません。 |
No.408 | 6点 | 時計は十三を打つ ハーバート・ブリーン |
(2014/08/14 14:05登録) (ネタバレなしです) 1952年発表のレイノルド・フレームシリーズ第4作(そしてシリーズ最終作)は細菌研究所のある孤島を舞台にし、細菌の恐怖と戦いながらの捜査という異色の本格派推理小説です。まあ描写はあっさりしているのでそれほど恐怖感は感じませんが(過激な描写が苦手な私でも問題なし)。冒険スリラー色の強いプロットなのでハヤカワポケットブック版の翻訳の古さもそれほど読みにくさを感じさせず、すらすらと読めました。評論家のアントニー・バウチャーが「推理があてずっぽう」と批判したそうですが確かに緻密な推理とは言えないでしょうけど目くじらをたてるほどひどいとも思えず、結構楽しめる謎解きでした。ただ魅力的なタイトルがストーリーの中でほとんど活かされていないのはちょっと拍子抜けでしたが。 |
No.407 | 5点 | ロープとリングの事件 レオ・ブルース |
(2014/08/14 12:24登録) (ネタバレなしです) 1940年発表のビーフ巡査部長シリーズ第5作です。この作品はアイデアの秀抜さと作品の完成度をどう評価するかで読者の好き嫌いが大きく分かれそうですね。謎解きの論理性や読者に対するフェアプレーという点では遺漏があり、おまけに信じ難いほどの警察のチョンボ(国書刊行会版の巻末解説でも触れています)もあって本格派推理小説としてのプロット完成度は低く、ここを重視する読者の評価は厳しいものになるでしょう。一方で非常に珍しい仕掛けが用意してあり、この独創性(私は他の例を知りませんです)を高く評価する読者もいるでしょう。せっかくのアイデアも処理の仕方が雑なので損をしていますが。 |
No.406 | 6点 | タナスグ湖の怪物 グラディス・ミッチェル |
(2014/08/14 11:48登録) (ネタバレなしです) 1974年発表のミセス・ブラッドリー(本書ではディム・ベアトリスと表記)シリーズ第48作です。有名なネス湖のネッシー伝説を意識した作品で怪獣探しの面白さもありますが、メインプロットはあくまても犯人当て本格派推理小説です。動機、機会、犯行手段の謎解きをバランスよく捜査していますがこの内容ならタナスグ湖の地図は付けてほしかったですね。後期の作品ゆえかミセス・ブラッドリーの強烈な個性があまり表に出ず(しかも前半はほとんど登場しない)、普通のキャラクターにしか感じられません。プロットもそれほどひねったものでなく、これまで私の読んだシリーズ作品では読みやすい部類です。ただ結末のインパクトはかなりのものです。 |