空さんの登録情報 | |
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平均点:6.12点 | 書評数:1519件 |
No.1359 | 6点 | やくざの帰還 ミッキー・スピレイン |
(2022/05/20 23:37登録) 収録中編2編のうち。表題作はライアンの一人称で語られる、『おれはやくざだ!』の続編です。長編ではご存知マイク・ハマーの他タイガー・マンのシリーズがある作者ですが、中短編では同じ主役を使ったものは他にはないようです。前作についても多少触れられていますが、話のつながりはありません。前作の訳は井上一夫の一人称を「わたし」としたかっちりした文章だったのに対し、本作の久保順訳は「おれ」で、「喰うことにしたんだな。」とか「全くいいや。」とか、さすがにくだけすぎかなと思えます。ポケミス100ページほどの中に、様々な要素をつめこみ、誰が誰やらわからなくなるようなところもありましたが、次から次へと人が殺されていくスピード感はなかなかのものです。 『私生児バナーマン』は表題作ほど目まぐるしくはありませんし、訳文も少しおとなしめ。悪役の正体が明かされた後の意外性は、本作ではうまくきまっていると思いました。 |
No.1358 | 6点 | 雲なす証言 ドロシー・L・セイヤーズ |
(2022/05/17 20:42登録) ウィムジイ卿の第2作は、今までに読んだ後期3作と比べると、翻訳のせいもあるかもしれませんが、文章が気取りすぎと思えました。特に最後の方、重要証拠のかなり長い手紙全文をフランス語で書き、その後に訳を付けるという、そんな必要があったのでしょうか。翻訳文ではそれ以前、パーカー警部がパリで調査を進める部分なども、わざと堅苦しい言い回しに訳した意味がわかりません。 もう一つ、事件が解決した後の夜のウィムジイ卿等の酩酊ぶりは、ライスのマローン弁護士だってこれほど酒癖が悪くはないだろうと思えるほどで、何なんだこれという感じ。 しかし、ウィムジイ一家を襲った事件の顛末自体はおもしろくできています。ホームズをも思わせる現場検証、ウィムジイ卿が命の危険にさらされること2回、手がかり提出手順も悪くないですし。もう少し真相の意外性が出るよう構成を工夫した方がよかったかなとも思いますが。 |
No.1357 | 5点 | 報復の密室 平野俊彦 |
(2022/05/11 20:58登録) 2020年度の第13回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞した作品で、完全に「本格派」な作品です。 薬学部教授の一人称形式で語られますが、作者自身が薬科大学の教授で、熟知した世界を舞台にした作品になっています。巻末の選考評で、島田荘司はプロットを褒めながらもかなり文章表現に文句をつけていますが、確かにあまり文章表現の達者な人とは言えません。たとえば冒頭部分ももっとドラマティックにできたと思います。でも、理科系の先生のデビュー作なのですから、いいとしましょう。最後の部分は大仰な感傷性がうまくはまっていると思います。 最初の教授の娘の殺害事件については、密室構成方法をすぐ二つ思いついたのですが、どちらもありふれたもので、警察がそれについて何の調査もしないはずがありません。そこが全体構成的には弱点ですが、第2の殺人の密室トリックは意表を突く方法でした。 |
No.1356 | 6点 | 虎狼 モー・ヘイダー |
(2022/05/08 08:44登録) 原題は邦題以上にシンプルに "Wolf" ですが、ポケミスで約450ページと長い小説です。まあ、この作家にはもっと長大な作品も多いようです。また、あらすじから残酷で読むのがしんどい展開かと危惧していたのですが、実際には文章は読みやすく、予想よりかなり早く読み終えてしまいました。 科学者一家の別荘で起こる拘禁事件と、そこから逃げ出した小犬の持ち主を探すキャフェリー警部の部分とをカットバックしていく手法で書かれています。 巻半ば、拘禁者たちの立場から書かれた部分で、彼等の依頼者について明かしてしまっているのには、構成的に疑問を感じたのですが、クライマックスを迎えてみると、なるほどと納得させられました。犯人たちの企みが、このタイプの作品の定番パターンを覆す結末を生み出していて、うまくまとまっているのです。 ただ、キャフェリー警部の幼少期のトラウマに根差した突飛な行動には閉口しました。 |
No.1355 | 6点 | Le rapport du gendarme ジョルジュ・シムノン |
(2022/05/03 17:47登録) 原題の意味は「憲兵の報告」。 田舎のかなり裕福な農家を舞台にした作品です。ロワ家の前の道で、見知らぬ男が自動車に轢かれて重傷を負っているのが発見されます。男はしばらく意識不明のままなのですが、彼はロワ家の住所が書かれた紙を持っていました。たぶんポケットから落ちたその紙を、ロワ家の主婦ジョゼフィーヌがこっそり拾い上げるのを見た憲兵のリベルジュは、疑惑を抱き、報告にもそのことを書きます。 男は何者なのか、そこに来た理由は何なのか、また誰に轢かれたのか。普通なら、その謎解きが中心になるでしょうし、実際最後までにはそれらの問いにも答は一応用意されているのですが、それよりもその男がロワ家で介抱されることになったことがきっかけで、疑心暗鬼がロワ家を包み、最後にはとんでもない事態になってしまうという、シムノンの中でも特に後味の悪い結末の作品です。 |
No.1354 | 6点 | 熱愛 香納諒一 |
(2022/04/29 10:20登録) 香納諒一は『心に雹の降りしきる』を読んだ後、ハードボイルドとは言えないものが2作続きました。本作はというと、主人公の鬼束は一応刑事くずれの私立探偵ですし、やくざの世界がかなりリアルに描かれてはいるのです。しかし「ミスター」と呼ばれる謎めいた超一流の殺し屋が出て来るというのが、それはそれでおもしろいのですが、ハメット・タイプとは違うという気がします。このゴルゴ13みたいな殺し屋の素顔は、かなり早い段階で明かされます。ただ、最後にひとひねりしてはありますが。 自動車の中で組長の「馬鹿息子」の銃が暴発し、ミスターの秘密を聞き出そうとした相手が死んでしまうという、あほらしいとも言えるようなシーンから始まる話です。ところが鬼束がこの馬鹿息子と、さらに彼の引きこもり的な弟との絆を深めていくところが、なかなか感動的なラストにつながってきます。 |
No.1353 | 6点 | 眼の壁 マーガレット・ミラー |
(2022/04/26 20:32登録) 翻訳本(1998.4.1初版)としてなら、2点がせいぜいだと思えました。翻訳日本語の文章が稚拙なだけでなく、ひとつの文の途中で突然改行されたところ(p.276等)だとか、明らかな誤植が何箇所もあって、校正が甘すぎます。そんなわけで、原作は本作の2年後に出版された『鉄の門』の格調高さとはかけ離れた文章には憮然としながらも読んでいったのですが。 ストーリーそのものは、殺人がかなり早い段階で起き、後はその捜査が中心になるというほとんど本格派タイプで、この作家に期待するものとはちょっと違うところがありますが、なかなかおもしろくできていました。サンズ警部が警察官としてはエキセントリックすぎるようにも思えますが。 松本清張に同じタイトルの作品がありますが、清張の方がその抽象的な意味が最後に説明されるのに対し、こちらは第1章から、具体的な感覚として示されます。 |
No.1352 | 5点 | 共鳴 イアン・バンクス |
(2022/04/19 20:41登録) 全英で「ベストセラー・リストのナンバー・ワンに輝いている」そうですが、正直なところ前半はこれのどこがいいんだ、という感じでした。不満だったのは主人公の新聞記者キャメロン・コリーの一人称で語られる彼の日常です。巻末解説では「ゴンゾー(Gonzo、解説では「ならず者」と訳している)・ライフ・スタイル」としていますが、ならず者という積極的なワルではなく、単なる臆病なぐうたらです。そんな男が、酒を飲んで、マリファナをやって、パソコン・ゲームをして、自慰して、寝た、といったことをだらだら書いた日記にすぎないとしか思えませんでした。 まあ、原書ではYouの二人称形式で語られているらしいシリアル・キラー視点部分は、原文で読めば「犯人=読者」の味を楽しめたのでしょうか。殺人動機が誰でも思いつきそうなものなのが、かえって共感をよびそうですし、コリーが逮捕されてからはさすがにおもしろくなってきます。 |
No.1351 | 6点 | 探偵三影潤全集1 白の巻 仁木悦子 |
(2022/04/16 08:19登録) 私立探偵三影潤ものの作品を集めたこの第1巻は、シリーズ唯一の長編『冷えきった街』、及び『白い時間』『白い部屋』の2短編を収めています。 三影潤は以前大きな探偵社に勤めていたのが、友人の桐崎と一緒に独立したという設定で、現実的な私立探偵ではありますが、『冷えきった街』(初出1971)を読んでいくと、コンチネンタル・オプ由来の一人称形式ですし途中格闘シーンもありますが、最初のうちハードボイルドらしい感じはしませんでした。事件の起こる邸宅の見取り図が載っていたりして、やはりパズラー系の雰囲気が濃厚です。しかし後半に入り、三影の過去が語られ、竪岡家の過去の事件の様相が明らかになってくるあたりから、ロス・マク(後期)っぽくなってきます。そんな作品としては、真相はなかなか味わい深いものになっていました。 2短編はさらにパズラー寄りで、特に『白い部屋』はほとんどベッド・ディテクティヴです。 |
No.1350 | 8点 | はなれわざ クリスチアナ・ブランド |
(2022/04/13 20:30登録) 原題を直訳すれば、鮮やかな手際のはなれわざと言うより、豪快な力業です。"Tour de FORCE"(フランス語)ですからね。ちなみに離れ業に相当するのは Tour d'adresse。 クリスティーの『白昼の悪魔』と比較している人もいますが、それはあくまで舞台設定が共通するというだけのことで、事件経過や真相は全く異なります。あ、でも同じアイディアをひとつだけ利用していましたか。それより、クイーン30年台の某作と、犯人隠匿アイディアでは共通するものを感じました。本作の方が大胆な使い方で、その可能性は何となく頭にちらついていたものの、やられたなあと思える落とし方にしています。 ただ、初期傑作群と比べると、最終段階に入ってからのダミー解決つるべ打ちではなく、様々な仮説がコックリル警部もまじえてじっくり検討される構成になっているため、多少盛り上げ感に欠けるとは言えるでしょうか。 |
No.1349 | 8点 | 雨のやまない夜 サム・リーヴズ |
(2022/04/10 08:01登録) シカゴのタクシー・ドライバー、クーパー・マクリーシュのシリーズ第2作は、第1作よりハメット寄りのハードな内容になっていました。クーパーは恋人ダイアナが巻き込まれた事件の解決に奮闘することになります。戦うべき相手は最初からわかっていて、フーダニット的な要素はほとんどありません。「ほとんど」と言うのは、最後にちょっとした意外性があるからです。早い段階から気にはなっていた点ではあったのですが。 しかしアクションやサスペンスがすぐれているというだけではなく、プロットもなかなか工夫されています。冒頭部分でクーパーと知り合う老人とか、トリニダードからやって来るセシルとか、特に後者は事件関係者の知り合いではあるものの、どう事件に絡んでくるのかといったところ、よくできています。二人の最終的扱いは、何となく逆になるのではないかと予想していたのですが、文句はありません。 |
No.1348 | 6点 | ファントム・ピークス 北林一光 |
(2022/04/04 23:28登録) 映画『CURE』等の黒沢清監督による文庫版巻末解説を読むと、作者は元映画宣伝会社に勤めていたそうですが、その中でスピルバーグの良さも語られていて、同監督作品名は一切出てきませんが、本作を読んでみるとプロローグから明らかに『ジョーズ』の山中バージョンだとわかります。『ジョーズ』と違うのは、半ばまで長野県の山に出没するそいつの正体がわからないことで、実在の動物かどうかさえ不明です。 まあ、正体そのものには意外性はないですし、伏線はあからさまですが、どこからそいつが現れたのかは工夫されています。実際のところ、後半はエスカレートしていくパニック・シーンと、そいつの出自捜査とが並行して描かれていくことになります。さらに最後の「対決」部分もうまく考えられています。そのような意味でミステリ的興味をも兼ね備えた…ホラーと言うかサスペンスと言うか、そんな作品です。 |
No.1347 | 6点 | ディミティおばさま幽霊屋敷に行く ナンシー・アサートン |
(2022/04/01 20:58登録) このシリーズ第6作では、ディミティおばさま以外にも(たぶん初めて?)幽霊が登場します。いや、登場というほど明確な形にはなっていないでしょうか。ロリが幽霊は怖くないと言うのも、おばさまを知っていれば当然。この設定でおばさまをどうやって登場させるのだろうと疑問を感じながら読んでいたのですが、その疑問を忘れたころになって、そう来ましたかというところです。 幽霊屋敷といっても、実際にはカーのようなタイプのところもあり、幽霊は本物なのかどうかが問題になります。また、プロローグではロリの車ががけ崩れに合いますし、秘密の通路が出てきたり、最後には他の登場人物ですが戦闘アクションもあったりということで、これまで読んだ3冊の中では最もコージーらしくない、サスペンス色の強い作品になっています。真相がまた意外というか、ほのぼの系からは程遠いもので、驚かされました。 |
No.1346 | 5点 | ハニー誘拐事件を追う G・G・フィックリング |
(2022/03/29 21:01登録) ハニー・ウェストのシリーズ第3作は、深夜ハニーが事務所に現れた男に拳銃を突き付けられ、服を脱げと脅されるシーンから始まります。すぐに男の言葉は、別の服に着替えさせるのが目的だとまともな説明がつけられますが、そんなまず読者を驚かせておいて、という趣向が全編にわたって繰り返される作品です。以前読んだのはシリーズ第8作だったので、少しは落ちつきが出て来ていたということなんでしょうか。本作はともかくむりやり危機一髪連続展開にしてしまおうという意欲ばかりが目立ちます。正当防衛も含め、殺される人の数もやたら多いですし、ハニー自身ずいぶんひどい目に合わされます。 誘拐事件の真相については、意外ではあるのですが、ハニーを巻き込むことになったそもそもの理由には、必然性が全くありません。他にもご都合主義だらけではあるのですが、読んでいる間はそれなりに楽しめてしまいました。 |
No.1345 | 5点 | 虹色の陥穽 大谷羊太郎 |
(2022/03/23 21:18登録) 西村京太郎より3日前、2月28日に亡くなった大谷羊太郎の、出版順で言えば『殺意の演奏』に次ぐ第2作のようです。少なくとも初期には不可能犯罪を扱ったものが多い作家ですが、本作は最後にいかにもなアイディアが出てくるものの、全体的には珍しくサスペンス調です。パターン的にはボアロー&ナルスジャックにも近いような、殺人事件に巻き込まれて恐喝を受け、という展開です。ただ、芸能界ならではの歌手とプロダクションの関係を利用したところは、この作者ならではです。 考えてみれば、その計画ならば、そもそもそんなことまでする必要があったのか疑問ですし、最後の自白ででも一石二鳥を狙ったのだったと説明をつけることは簡単だったと思えます。確実性という点でも問題はあります。 しかし、それまでも時たまその視点からの部分があった刑事の視点による、さりげない皮肉なラストシーンはかなり好きです。 |
No.1344 | 7点 | 影なき男 ダシール・ハメット |
(2022/03/20 11:13登録) 小鷹信光訳で読みましたが、率直な感想はこれもやっぱりハメットだなあということ。 ニックは「タフガイさん」と言われているところもあり(p.56)、実際アクションも少しは披露してくれます。でもだいたいはグラスを片手にごろごろしていますが、一日中酒を飲み続けていながら、頭脳はなかなか明晰です。奥さんのノラとの掛け合いも楽しめました。もともとハードボイルドの探偵って、堅苦しくなく、気のきいたセリフを言う人が多いわけですから、そのユーモラスな方向を推し進めただけに思えます。『赤い収穫』と『マルタの鷹』とからだって、受ける印象はかなり違いますしね。いろんなタイプの長編作品を書きながら、どれもハメットらしいという気がします。謎解き的にも、よくできています。 ハードボイルドには珍しく常に礼儀正しい(特に小鷹氏の訳では)ギルド警部補も気に入りました。 |
No.1343 | 5点 | ランターン組織網 テッド・オールビュリー |
(2022/03/17 20:21登録) 原題 "The Lantern Network"。今だったら当然全部カタカナの邦題にするところでしょう。 大きく3部に分れた中、全体の半分ちょっとある第2部が、1944年フランスのレジスタンス運動を描いています。その前後が現在の出来事で、第1部でベイリー警視正がごく軽く質問をしただけで突然自殺してしまった男の秘密が、第2部とどう繋がってくるのかということなわけです。 その接点ですが、これは第2部の終り時点であまりに明らかで、実際ベイリーもごく簡単に自殺者の正体を推測してしまいます。作者もそういったところで意外性を出そうという気は全くないのでしょう。それはいいのですが、現在の最終的な決着に結びつく第2部の二つの点の真相が、どうも釈然としません。 なお、峰岸久の翻訳は、原文との相性の問題もあるのでしょうか、ほとんどまともな日本語になっていないところも見受けられました。 |
No.1342 | 5点 | コンピューター殺人事件 藤村正太 |
(2022/03/14 20:20登録) 1971年発表で、まだプログラムや処理データをワープロ感覚で作成できるようになる前、穴を開けた紙を読み込ませて命令を実行させていた頃の話です。そのような時代だからこその社会派的な「コンピューター公害」テーマが扱われています。ただSFでは、極秘任務遂行のため宇宙船乗組員たちを殺すコンピューターHALがその3年前に登場していますが。 最初の殺人のアリバイトリックは、シンプルですが悪くありません。一酸化炭素中毒死を引き起こす条件を考えると、原理は簡単にわかると思うのですが、その点の説明はありません。第2の殺人の方は、時刻表の意外な事実を基にしたトリックで、目の付け所はいいものの、もっと効果的で確実な使い方ができなかったかなという気もしました。 しかしこれは動機として成り立たないでしょう。現在ならちょっとした返還ミス、いや変換ミス程度のことでも起こり得ることでしてね。 |
No.1341 | 7点 | 生者たちのゲーム パトリシア・ハイスミス |
(2022/03/08 21:09登録) ハイスミスのミステリ第5作はメキシコを舞台にした、殺人事件から始まり最後に犯人が判明するタイプの作品です。しかし解説にも「フーダニットの形式」だがそうである「以前に、とことんハイスミスの作品」だと書かれているとおり、謎解き興味はあまり感じられません。読了後最初の方を適当に読み返してみると、作者が伏線など全く考えていなかったらしいと思いました。 被害者の顔が切り刻まれていた理由は、最後にサウサス警部が「見当がついていました」と語っていますが、ミステリ的にはつまらない理由です。また、主人公テオドールが何度も経験する奇妙な出来事については、最後まで説明がつけられないままです。犯人の意外性はなくはないのですが、その明かし方演出には工夫が全くありません。 しかし、これがメキシコだからこその友情ドラマとしては読みごたえ充分になっているのが、ハイスミスらしいところなのでしょう。 |
No.1340 | 7点 | 悪魔の栄光 ジョン・エヴァンズ |
(2022/03/05 08:23登録) ポール・パイン・シリーズの第2作は、イエス・キリストの自筆文書というマルタの鷹どころではない宗教的歴史的超貴重品の争奪戦です。法月綸太郎の巻末解説では本作発表の前年に発見された死海写本の例を挙げ、エヴァンズが時事ネタに敏感であるとしていますが、さすがに無茶な設定だとは思います。福音書原本ぐらいの方が、リアリティはあるでしょう。犯人の意外性と文書との絡め方は、『マルタの鷹』よりもうまくまとまっていると思います。二重の意外性、特に後の方は、早い段階で一回怪しいかもしれないとは思ったのに、その後完全に失念していて、驚かされました。 アル・カポネをモデルにした老年のギャングの最終扱いは、こうせざるを得ないだろうなと予測はついていたのですが、文書がどうなるかということと併せて、印象的な結末にしてくれていました。老ギャングに対するパインの態度も、なかなか味があります。 |