空さんの登録情報 | |
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平均点:6.12点 | 書評数:1505件 |
No.1345 | 5点 | 虹色の陥穽 大谷羊太郎 |
(2022/03/23 21:18登録) 西村京太郎より3日前、2月28日に亡くなった大谷羊太郎の、出版順で言えば『殺意の演奏』に次ぐ第2作のようです。少なくとも初期には不可能犯罪を扱ったものが多い作家ですが、本作は最後にいかにもなアイディアが出てくるものの、全体的には珍しくサスペンス調です。パターン的にはボアロー&ナルスジャックにも近いような、殺人事件に巻き込まれて恐喝を受け、という展開です。ただ、芸能界ならではの歌手とプロダクションの関係を利用したところは、この作者ならではです。 考えてみれば、その計画ならば、そもそもそんなことまでする必要があったのか疑問ですし、最後の自白ででも一石二鳥を狙ったのだったと説明をつけることは簡単だったと思えます。確実性という点でも問題はあります。 しかし、それまでも時たまその視点からの部分があった刑事の視点による、さりげない皮肉なラストシーンはかなり好きです。 |
No.1344 | 7点 | 影なき男 ダシール・ハメット |
(2022/03/20 11:13登録) 小鷹信光訳で読みましたが、率直な感想はこれもやっぱりハメットだなあということ。 ニックは「タフガイさん」と言われているところもあり(p.56)、実際アクションも少しは披露してくれます。でもだいたいはグラスを片手にごろごろしていますが、一日中酒を飲み続けていながら、頭脳はなかなか明晰です。奥さんのノラとの掛け合いも楽しめました。もともとハードボイルドの探偵って、堅苦しくなく、気のきいたセリフを言う人が多いわけですから、そのユーモラスな方向を推し進めただけに思えます。『赤い収穫』と『マルタの鷹』とからだって、受ける印象はかなり違いますしね。いろんなタイプの長編作品を書きながら、どれもハメットらしいという気がします。謎解き的にも、よくできています。 ハードボイルドには珍しく常に礼儀正しい(特に小鷹氏の訳では)ギルド警部補も気に入りました。 |
No.1343 | 5点 | ランターン組織網 テッド・オールビュリー |
(2022/03/17 20:21登録) 原題 "The Lantern Network"。今だったら当然全部カタカナの邦題にするところでしょう。 大きく3部に分れた中、全体の半分ちょっとある第2部が、1944年フランスのレジスタンス運動を描いています。その前後が現在の出来事で、第1部でベイリー警視正がごく軽く質問をしただけで突然自殺してしまった男の秘密が、第2部とどう繋がってくるのかということなわけです。 その接点ですが、これは第2部の終り時点であまりに明らかで、実際ベイリーもごく簡単に自殺者の正体を推測してしまいます。作者もそういったところで意外性を出そうという気は全くないのでしょう。それはいいのですが、現在の最終的な決着に結びつく第2部の二つの点の真相が、どうも釈然としません。 なお、峰岸久の翻訳は、原文との相性の問題もあるのでしょうか、ほとんどまともな日本語になっていないところも見受けられました。 |
No.1342 | 5点 | コンピューター殺人事件 藤村正太 |
(2022/03/14 20:20登録) 1971年発表で、まだプログラムや処理データをワープロ感覚で作成できるようになる前、穴を開けた紙を読み込ませて命令を実行させていた頃の話です。そのような時代だからこその社会派的な「コンピューター公害」テーマが扱われています。ただSFでは、極秘任務遂行のため宇宙船乗組員たちを殺すコンピューターHALがその3年前に登場していますが。 最初の殺人のアリバイトリックは、シンプルですが悪くありません。一酸化炭素中毒死を引き起こす条件を考えると、原理は簡単にわかると思うのですが、その点の説明はありません。第2の殺人の方は、時刻表の意外な事実を基にしたトリックで、目の付け所はいいものの、もっと効果的で確実な使い方ができなかったかなという気もしました。 しかしこれは動機として成り立たないでしょう。現在ならちょっとした返還ミス、いや変換ミス程度のことでも起こり得ることでしてね。 |
No.1341 | 7点 | 生者たちのゲーム パトリシア・ハイスミス |
(2022/03/08 21:09登録) ハイスミスのミステリ第5作はメキシコを舞台にした、殺人事件から始まり最後に犯人が判明するタイプの作品です。しかし解説にも「フーダニットの形式」だがそうである「以前に、とことんハイスミスの作品」だと書かれているとおり、謎解き興味はあまり感じられません。読了後最初の方を適当に読み返してみると、作者が伏線など全く考えていなかったらしいと思いました。 被害者の顔が切り刻まれていた理由は、最後にサウサス警部が「見当がついていました」と語っていますが、ミステリ的にはつまらない理由です。また、主人公テオドールが何度も経験する奇妙な出来事については、最後まで説明がつけられないままです。犯人の意外性はなくはないのですが、その明かし方演出には工夫が全くありません。 しかし、これがメキシコだからこその友情ドラマとしては読みごたえ充分になっているのが、ハイスミスらしいところなのでしょう。 |
No.1340 | 7点 | 悪魔の栄光 ジョン・エヴァンズ |
(2022/03/05 08:23登録) ポール・パイン・シリーズの第2作は、イエス・キリストの自筆文書というマルタの鷹どころではない宗教的歴史的超貴重品の争奪戦です。法月綸太郎の巻末解説では本作発表の前年に発見された死海写本の例を挙げ、エヴァンズが時事ネタに敏感であるとしていますが、さすがに無茶な設定だとは思います。福音書原本ぐらいの方が、リアリティはあるでしょう。犯人の意外性と文書との絡め方は、『マルタの鷹』よりもうまくまとまっていると思います。二重の意外性、特に後の方は、早い段階で一回怪しいかもしれないとは思ったのに、その後完全に失念していて、驚かされました。 アル・カポネをモデルにした老年のギャングの最終扱いは、こうせざるを得ないだろうなと予測はついていたのですが、文書がどうなるかということと併せて、印象的な結末にしてくれていました。老ギャングに対するパインの態度も、なかなか味があります。 |
No.1339 | 7点 | 分岐点 古処誠二 |
(2022/03/02 20:37登録) 僕は自分の意思で殺した。 そんな文が出てくる手紙の部分をプロローグに持ってきた、最初雑誌「小説推理」に連載された作品です。エピローグが同じ手紙の後半部分になっています。 しかし読んでいてほとんどミステリという感じのしない作品でした。この作家はこの手のものが多いようですが、太平洋戦争時代の人々の意識を扱った作品で、本作では1945年8月前半、つまり終戦直前、中学生たちを率いる部隊が描かれます。その中で中学生による殺人事件が起こるわけですが、殺人後死体を隠すシーンは描かれても、なぜ殺したのかを示す少年と被害者との対話部分は省かれています。つまりミステリとしては純粋なホワイダニットと言っていいでしょう。 しかしそれよりも、現在にも通じる、聖戦だと言いつくろう侵略戦争の実態と犯人の中学生の意識を生々しく描き出した作品です。 |
No.1338 | 6点 | ジャクソンヴィルの闇 ブリジット・オベール |
(2022/02/25 23:04登録) 様々なジャンルに挑戦するオベールの第3作は、完全にホラーです。基本的にホラーの非現実性・非合理性は論理的なミステリとは相容れないと思っているので、本サイトで採点すべきかどうか多少迷ったのですが、ハヤカワミステリ文庫から出ていますし、複雑なプロットを得意とする作者だけに様々な謎を散りばめている(完全には解答を出していませんが)ので、書評を入れることにしました。 最近読んだマーシャ・マラーの “Eye of the Storm” では犯人がいやがらせにゴキブリを使っていましたが、本作ではゴキブリの気持ち悪さが特に強調されていて、ジョージ・ロメロの某短編映画をも思わせます。しかし、作中では同じゾンビ・テーマでも『バタリアン・リターンズ』(未見)や『死霊のはらわた』等のタイトルが登場人物により言及されるだけあって、意外と風格のある演出のロメロより過激なアクション・ホラーになっています。 |
No.1337 | 6点 | Eye of the Storm マーシャ・マラー |
(2022/02/22 20:57登録) ハードボイルド系の作品としては珍しく、完全孤立ではないにしても、外界との行き来が不便であることは確かな、沼地の中の小島にある古い館で起きた事件を扱った、クローズド・サークルな話です。その事件がまた、ゴキブリが放たれたり、呪いの人形が木に掛けられていたりといったいやがらせで、その館を観光用に改築している人々の一人シャロンの妹からの依頼で、シャロンは島に調査に赴くわけですが、時は嵐の季節。暴風雨の中、渡し船担当者が殺され、シャロン自身殺されそうになります。 こうなってくると、書き方はハードボイルドでも、国内新本格派の館ものに近いプロットです。犯人の意外性アイディアはよくあるパターンですし、フェアプレイが守られているとは言いにくいですし、ということで本格派好きな読者の受けは悪そうですが、最後のかなり長い犯人との対決シーンの緊迫感等は楽しめます。 |
No.1336 | 4点 | 越後路殺人行 中町信 |
(2022/02/16 20:43登録) 中町信らしいプロローグなので、どこに仕掛けがあるのかと思っていたら、叙述トリックというほどのことはありませんでした。しかし犯人が勘違いした理由は、ごく単純ながら、実際にありそうだと納得させられるものです。ただそれを放置してかまわないとした犯人の心理には、リアリティがないと思います。 事故に見せかけた殺人の後、2件の殺人両方にそれぞれ異なるタイプのダイイング・メッセージ(その一つがプロローグ)というのは、ちょっと遊戯的すぎますし、その後で起こる事件は、かえって小説を安っぽくしているだけです。そんなこの作者によくある小説技巧的な欠点の他、本作では作者らしい発想の筋の良さが、ほとんどある人物が脅迫で「一千万円を要求した理由」のアイディアと、その理由に基づいた犯人の意外性だけで、謎解き的に小粒な感じになってしまっているのも不満なところです。 |
No.1335 | 6点 | クロエへの挽歌 マージェリー・アリンガム |
(2022/02/13 22:46登録) 本作をアリンガムの代表作に推す人は、miniさん等かなりいるようですが、個人的には事件全体の構成はよかったもののそれほどかなあと思えました。 『霧の中の虎』や『殺人者の街角』では影の薄かったキャンピオンですが、本作では彼の視点を中心に書かれています。ではそれだけ名探偵として活躍してくれるかというと、なかなかそうなりません。ある理由から、事件の起こった館に行きたがらず、まるで駄々っ子みたいにうじうじしていて、いらいらさせられました。まあそこが、ある意味ミスディレクション的にも使われていたことが、真相解明シーンになってわかるのですが、それでも小説技巧的な意味でキャンピオンの態度を誉めたくはありません。 後、最後に残った機会に関する疑問の解明があまりにあっけない点については、そもそもそんなことがあったっけというぐらいで、さほど気になりませんでした。 |
No.1334 | 7点 | 質屋探偵ヘイガー・スタンリーの事件簿 ファーガス・ヒューム |
(2022/02/09 20:56登録) 全12編からなる連作短編集で、連続性がかなり強調され、目次も章立てになっています。第1章『ヘイガー登場』は章題にもかかわらず、ヘイガーが質屋で働くことになった顛末にとどまらない結末をもった話になっていますし、それは第12章『ヘイガー退場』も同じです。この最終章では、それまでに出てきた何人かの登場人物が集まり、事件が展開されます。 原題はただ "Hagar of Pawn-Shop" となっていて、確かにヘイガーは名探偵的な才能を発揮することも多いのですが、必ずしも探偵役とは限りません。クイーン編『犯罪の中のレディたち』にも収録された『一人目の客とフィレンツェ版ダンテ』、それにもう1編『五人目の客と銅の鍵』は暗号ミステリですが、結末にひねりを加えていて、特に後者はヘイガーの推理の後に起こる出来事が話を盛り上げます。そのような二重構造の話は他にもいくつかあり、なかなかバラエティに富んだ作品になっています。 |
No.1333 | 6点 | オルレアンの魔女 稲羽白菟 |
(2022/02/06 15:09登録) 日本の古典芸能に対する造詣の深い作者ですが、今回は意外にも舞台をフランスにして、日本人ソプラノ歌手を主役に据えた作品になっています。ただ、オペラなど西洋古典芸能に対する蘊蓄はありません。しかし前作に対するコメントでは横溝正史の世界を連想させると書きましたが、その点は本作でも共通し、作中では「ハリウッドのB級ホラーみたいな」と形容される、不気味な仮面と衣装の人物が登場したり火刑殺人が起こったりと、はったりのきいた事件が展開されます。 犯人を特定する情報はあらかじめ読者に提示されず、パズラーとは言い難い気もしますが、ラストで明かされるプロローグの意味には、感心しました。 登場人物の一人、フランスを代表する女優は、名前からしても明らかに実在の大女優がモデルですが、その人、本名はオルレアンならぬドルレアックなんですよね。話に絡めてくるかと期待していたら、何も言及はありませんでした。 |
No.1332 | 5点 | 消された眠り ジェレマイア・ヒーリイ |
(2022/01/31 23:31登録) ボストンの私立探偵ジョン・フランシス・カディのシリーズ第3作では、旧友の黒人警察官マーフィ警部補から依頼された事件が語られます。となると人種問題がからんできそうですが、それは、ほとんど警部補が管轄外地域で起こった事件について聞く当地の黒人警察官がいないから、カディに依頼したという点に限られます。殺された女子学生(白人)の逮捕されたボーイフレンドが黒人だという点についても、被害者の両親の拒否感は嫌悪というほどでもありません。 事件の設定からして、逮捕されたウィリアムが犯人でないとしたら、真相はそれ以外考えられないもので、意外性は全くありません。かといって、証拠をいかにして手に入れるかという捜査的興味もさほどではなく、犯人を罠に掛けようとする方法も、常識的に見て適法でないことは明かでしょう。 ただ事件の決着のつけ方には、疑問は感じながらも驚かされました。 |
No.1331 | 5点 | 細工は流々 エリザベス・フェラーズ |
(2022/01/28 23:23登録) 『私が見たと蠅は言う』の作者として名前だけはずいぶん昔から知っていたエリザベス・フェラーズですが、読んだのは今回の本作が初めてです。結果…う~ん、今一つのれませんでした。いや、真相自体は鮮やかに決まっていますし、ミスディレクションもかなり効いているとは思うのです。意味不明な原題(”Remove the Bodies”)とは全く違う邦題も、読み終えてみるとなるほどという感じ。ただその小説スタイルが、合わなかったということでしょう。 会話の途中、誰かが重要なことを言おうとする直前に邪魔が入り、情報提供が遅れるのが執拗なまでに繰り返されるのには、いらいらさせられます。その他にも全体的に変に細かい技巧に走りすぎている感じがするのです。ジョージ(苗字不明)の耳が聞こえないふりも、巻末解説やkanamoriさんの評では褒めていますが、そんなことをする必要があるとは思えませんでした。 |
No.1330 | 6点 | 大庭武年探偵小説選Ⅱ 大庭武年 |
(2022/01/24 23:20登録) 第Ⅰ巻ではがちがちな「本格派」ぶりを見せてくれた大庭武年ですが、本作では謎解き系作品は収録11作(内1作は未完、他にミステリ関係と限らないエッセイが8編)のうち2作だけです。 そのうちひとつ『カジノの殺人事件』は戯曲形式で、人間関係が事件を複雑にしています。個人的には倍くらいの長さのじっくり書き込んだ小説にしてもらいたかったと思えます。もう1作、『歌姫失踪事件』は走行中の自動車からの人間消失という不可能興味の作品。トリックは一読だけでは不可能に思えたのですが、巻末解題に載っていた挿絵を見て、納得。1930年台当時の自動車の構造を利用しているのです。 他にも倒叙ものの『小盗児市場の殺人』がミステリ系では気に入りました。巻末解題ではおまけの1作のように書かれている『三吉積罪物語』は時代物の犯罪小説と言っていいでしょう。『港の抒情詩』は完全に恋愛小説ですが、悪くありません。 |
No.1329 | 6点 | 学生の死体 J・R・ハランド |
(2022/01/18 20:39登録) 訳者あとがきによれば、教師出身の女性作家のデビュー作だそうです。ちょっと調べてみた限りでは、他に2冊あることぐらいしかわかりませんでした。J・Rもどんな名前のイニシャルなのかわからず。 本作は最初の160ページぐらいは全くミステリという感じがしません。その部分最後のパーティのシーンでは険悪な様子はあるものの、殺人にまで発展するとは思えません。それが第9章になると、そのパーティを主催した学生ピーターが失踪し、さらに3週間後、池から首なし死体が発見されることになります。このあたりの書き方はあっさりしすぎで、期待感が盛り上がりません。 三人称形式ですが、一貫して主役の40歳ぐらいで教員養成コースに入学したケイトの視点から語られます。殺人事件を捜査する警部は見るからに有能そうで、したがってラストもどうなるかは見当がつきますが、後半はなかなか楽しめました。 |
No.1328 | 7点 | シェーン贋札を追う ブレット・ハリデイ |
(2022/01/15 13:00登録) マイアミ空港で、最終便に乗ろうとしていたシェーンが、ルーシイ・ハミルトンからの電話に呼び出され、彼女に仕事を辞めると宣言されるところから始まる作品です。本作では特に何度も窮地に立たされながら、冷静に対処するシェーンですが、この秘書からの通告はショックだったようです。 しかしそれにしても、これはひどい。 いや、作品内容や翻訳文章のことではありません。ポケミス裏表紙のあらすじのことです。まあ、「贋札」と誘拐事件が絡んでくるのは確かですが、細かい点は全然違っています。どうしたらこんなミスが起こるのやら… 無関係そうな二つの事件がどうつながって来るのかというところが最大の謎になっていて、その点に関するミスリーディングもなかなか冴えています。スーツケースの入れ替わりだけは、いくらなんでも無理があるだろうと思えましたが、そこを除けば、複雑な事件をきれいにまとめています。 |
No.1327 | 4点 | 卑弥呼の密室 獅子宮敏彦 |
(2022/01/12 23:40登録) タイトルの「密室」は不可能犯罪の意味だというので、歴史的要素を加えたパズラーかと思っていたのですが、まるで違っていました。確かに卑弥呼自身は密室状態で殺されますし、現代における事件も、密室殺人が二つ出てきます。しかし、序章の後、第一章・第二章から派手なアクションを繰り出してきます。それもハードボイルドのリアルなものではなく、かなり安っぽい荒唐無稽さです。最後にはマシンガンや爆弾まで出て来て、スペクタクルなクライマックスになっています。 同じように歴史的テーマを扱っていても、最近読んだ森雅裕の『画狂人ラプソディ』の北斎秘話にはなかなか説得力があったのに対して、大ボラもいいところです。巻末には邪馬台国関係の本が参考文献として多数挙げられていますが、『魏志倭人伝』等公式の歴史は、時の権力者の都合で嘘だらけなのが当然という基本姿勢の伝奇スリラーでした。 |
No.1326 | 7点 | 窓際のスパイ ミック・ヘロン |
(2022/01/06 23:45登録) タイトルは、いわゆる「窓際族」と同じ意味を持っているのですが、一般的な窓際族よりもないがしろにされている連中です。「泥沼の家」で落ちこぼれ用のつまらない仕事をしている、「遅い馬」(原題直訳)である登場人物たちの日常や内面がかなりじっくり描かれていてテンポが遅く、最初のうちはちょっと退屈な感じです。しかし誘拐された青年がどんな人物かがわかるあたりからは、驚かされるような展開で、おもしろくなります。 プロローグ(「プロローグ」とはされていませんが)をこれだけきっちり書き、さらにその記憶を一応の主人公リヴァー・カートライトが何度も思い出すシーンが挿入されていれば、そこに何かあるなとはすぐに感付きますが、なるほど、そこまで関わっていましたか。 誘拐事件の決着部分だけは、確かにひねってはいるのですが、むしろオーソドックスなパターンにした方がよかったかなと思いました。 |