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ミステリの祭典

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幽霊の死
キャンピオン氏

作家 マージェリー・アリンガム
出版日1954年02月
平均点6.00点
書評数3人

No.3 7点 人並由真
(2025/06/15 08:47登録)
(ネタバレなし)
 1930年。英国のリトル・ヴェニス。異才の画家として業績を遺した故人ジョン・セバスティアン・ラフカディオ(1845~1912年)を偲ぶレセプション(展示会)が、現在70歳の未亡人で亡き夫の資産を管理するベル主催で開かれた。ラフカディオは死後10年経ったら一年に一枚ずつ公開する(市場に出す)ようにと指示して複数の絵画を腹心の代理人サマンに預けていたが、そのサマンもラフカディオ没後の数年後に死亡。いまはその業務はサマンの弟子筋の美術評論家で、サマンの画廊を継承した40歳のマックス・ファスティアンが引き継いでいた。ベルの邸宅の周辺には、かつて若い頃にラフカディオの常連モデルだった今は老女たちや彼が後見していた後続世代の芸術家、美術分野での技術を教えた使用人などが集い住んでおり、レセプションに招かれた私立探偵アルバート・キャムピオンは彼らとも対面する。だがそんななかで、予期せぬ殺人事件が。

 1934年の英国作品。脇役ポジションをふくめて、アルバート・キャンピオン(本書はキャムピオン表記)登場の第6長編。

 タイトルの意味がよくわからないと空さんのレビューにあるが、なるほどよくわからない。最後まで読んで牽強付会に解釈するなら、故人ラフカディオの(中略)ということか?
 
 なお初期のポケミスは裏表紙にあらすじを載せず、作家の紹介や作品の書誌的な立ち位置を書いて終わることが多い。
 で、本書もそのパターン。しかしどういう話で設定か、事前に簡単に知っておきたいとは思ったので、HMM2013年11月号の「ポケミス60周年記念特大号」を引き寄せ、(この号用に、あるいは以前の同系列の特集の際に)新規に書き下ろされた本作のあらすじを読むと

「リトル・ヴェニスの邸では、世にも奇怪な殺人事件のおきる前日、有名な画家ラフカディオの未亡人ベルと名探偵アルバート・キャンピオンは、亡きラフカディオの奇妙な遺書を読んでいた。遺書には12枚の画を封印しておくから、自分の死後11年めから、毎年1枚ずつ指定通り発表しろと書いてある。そしてその展示会の夜に、ヴィクトリア女王に似た老婦人が来たら、それは変装した私の幽霊だと思え、というのだ! デリケートな描写と円熟した筆致で英探偵小説界の三女傑の一人と目されるアリンガムの代表作。」
 ……とある。

 だが実は、本文を全部読んでも、どこにもそんな
<そしてその展示会の夜に、ヴィクトリア女王に似た老婦人が来たら、それは変装した私の幽霊だと思え、というのだ!>
 ……などという展開など、ありゃしない!(笑・怒)

 どうせHMM編集部が外注のライターかどっかの大学のミステリ研とかのバイトに書かせたあらすじなんだろうが、どこぞのキチ〇イの妄想を文盲ハ〇チの編集部がそのままノーチェックで載せたか、あるいはあまりの安い原稿料に怒ったライターが「どうせ今のHMM編集部じゃ、デタラメ書いてもわからないだろ(笑)」とバカにして大ウソを書き、ミステリにも自社の出版物に対しても愛情も素養もない編集部がまんまとその悪計通りに騙されたか、そのどっちかであろう!? 見よ! この世の地獄がここにある!!

 いや21世紀のミステリマガジンって、2002年にセイヤーズ(&ユースタス)の『箱の中の書類』がポケミスで出た際<今まで創元推理文庫で出ていたセイヤーズがポケミスで出るのは初めて>という主旨の書評をそのまま載せてしまうくらい、本・当・に・ダメだから(涙)。これでもしHMM編集部が、いまもまだその当該のライターに仕事を回していたら爆笑ものだな。

 つーわけで、アホな別途の記述でぶち切れそうになったが、作品の中身そのものは期待以上に面白い。
 解説で乱歩は美術界の内幕ものとして楽しめる、トリックもある、という主旨の本作の魅力を書いているが、殺人トリックはともかく確かに業界ものミステリとしてはよく出来ているし(斯界の関係者の描写をしながら、各美術分野の情報を読者に呈していく叙述が鮮やか)、伏在していて終盤に明かされるとある悪事の方にもちょっと唸らされた。
 ただしまともなフーダニットパズラーというよりは、ひと時代早い英国の先輩作家たちのある種のスリラー的な興趣に繋がっていき、その上でソコがかなり盛り上げてある。アリンガムという作家の資質や軌跡を考えるなら、その作風のグラデーション的な推移のなかで、こういう作品が出てきても至極当然ではあろう、といった感じの内容だ。もちろん詳しい具体的なことはナイショだが。
 第二の殺人の経緯(というか細部)がやや説明不足な気もするが、まあ円盤獣もしくはベガ獣ギリギリ。 

 いずれにしろこれまで読んだアリンガムの作品のなかでは、実のところ筆頭クラスに楽しめた。アリンガムの著作は、本サイトに来てから読んだものが大半だが、再確認してもたぶんこれがイチバン面白かった。個人的にはアリンガムって、当たりはずれのメチャクチャ大きい作家だけどね。

No.2 7点
(2022/06/01 20:50登録)
タイトルの意味がよくわからない小説です。事件の大元となると言ってもいい高名な画家は既に死んで何年にもなりますが、その幽霊が出るとかいうこともありません。比喩的な意味ではあるのでしょうが、あいまいで、作中で「幽霊」という言葉が出てくるわけでもありません。
最初のうちはフーダニットな感じなのですが、第2の殺人が起こった直後、全体の半分過ぎあたりで、キャムピオン氏(こう表記されています)は犯人が誰であるか悟ります。その後間もなく死因がはっきりした段階で、彼はオーツ警部に自分の考え(推理というほど確たるものではない)を語るのです。で、それからは動機が問題になり、その動機も判明すると、最後はキャムピオン氏と犯人との対決というサスペンス調になる、ちょっと変わった構成です。一貫性がないと言う人もいるかもしれませんが、個人的には気に入りました。

No.1 4点 kanamori
(2010/04/16 22:03登録)
素人探偵アルバート・キャンピオン、シリーズ第6作。
残念ながらアリンガムとの相性はあまりよくありません。本作と次の「判事への花束」も、いちおう代表作ともいわれる作品だと思いますが、訳文が古いせいもあるかもしれませんが、探偵の人物造形がいまいちよく分からないため、物語に入り込めませんでした。最近訳出された作品も読んでみましたが、本格ミステリじゃなく、古いスリラー&サスペンスの様相で、これはまったく守備範囲外。英国4大古典女流ミステリ作家の一人というのは、現在での評価では、ちょっとどうなんでしょうか。

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