眼の壁 サンズ警部 |
---|
作家 | マーガレット・ミラー |
---|---|
出版日 | 1998年03月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 6点 | 空 | |
(2022/04/26 20:32登録) 翻訳本(1998.4.1初版)としてなら、2点がせいぜいだと思えました。翻訳日本語の文章が稚拙なだけでなく、ひとつの文の途中で突然改行されたところ(p.276等)だとか、明らかな誤植が何箇所もあって、校正が甘すぎます。そんなわけで、原作は本作の2年後に出版された『鉄の門』の格調高さとはかけ離れた文章には憮然としながらも読んでいったのですが。 ストーリーそのものは、殺人がかなり早い段階で起き、後はその捜査が中心になるというほとんど本格派タイプで、この作家に期待するものとはちょっと違うところがありますが、なかなかおもしろくできていました。サンズ警部が警察官としてはエキセントリックすぎるようにも思えますが。 松本清張に同じタイトルの作品がありますが、清張の方がその抽象的な意味が最後に説明されるのに対し、こちらは第1章から、具体的な感覚として示されます。 |
No.2 | 6点 | 人並由真 | |
(2021/07/21 04:41登録) (ネタバレなし) 第二次大戦中のカナダのトロント。2年前に自分が運転する自動車で事故を起こし、視力を失ったケルジー・ヒースは、その母で富豪のイザベルがガンで病死する際に全財産を譲られた。現在26歳のケルジーの父で53歳の元音楽家トマス、兄で30歳のボヘミアン、ジョン(ジョニー)、そして姉で28歳のアリスの3人はみなケルジーに生活費を出してもらっている立場であり、さらにヒース家には、生前のイザベルが後見した若手ピアニストでケルジーの婚約者フィリップ・ジェームズもまた食客として同居していた。やがてヒース家の淀んだ空気の中で、とある事件が起きる。 1943年のアメリカ作品。ミラーの初期のレギュラー探偵役サンズ警部が活躍する、長編二部作の後編。 経済的に、また身障者を核とする家庭の事情から、独特な拘束感に囚われるヒース家の面々だが、長男ジョニーは比較的奔放に近所のナイトクラブ「ジョーイ」にも出入り。そこで接点のできた若い歌手やダンサーたちを介して、「ジョーイ」がもうひとつの物語の場にもなっていく。この辺の描写を含めて、なんか全体的にウールリッチのノワール・サスペンスっぽい雰囲気も感じたりした。 途中である種の違和感が自然に生じてくるので、読みながらなんとなく作者の狙いは見えないこともないが、それでも終盤の大技はなかなかショッキングではあった。 着想を演出的に固めきれてない書き手の若さも感じるが、個人的にはそれもまた本作の味という気分である。 先にウールリッチ(アイリッシュ)っぽい、と書いたが、そういえばラスト、某主要キャラとサンズ警部とのやりとりが『幻の女』のあの終幕を思わせつつ、その反転みたいな台詞回しでちょっとニヤリ。まあ偶然というか、意図的なものではないだろうが。 評点は7点あげてもいいが、これはこの評点の中でのかなり上の方、という意味合いで、この点数で。 |
No.1 | 6点 | 蟷螂の斧 | |
(2014/10/02 09:01登録) 裏表紙より~『交通事故で視力を失い、ボーイフレンドとの婚約を自ら一方的に解消しながら、なぜか屋敷から彼を離さない富豪の娘ケルジー。眼の壁は彼女の心の傷が生み出した幻覚か?それとも本当に誰かが彼女の命を狙っているのか?バラバラな家族の絆が彼女のモルヒネ服用事件でにわかに、見えない緊張の糸でからめ取られ始めた。そしてついに不可解な死が…。』~ 著者の作品に魅かれるのは、心理描写とトリッキーな結末がある点です。本作は初期(1943~20代)の作品なので、まだ心理描写が作品全体(特に後半)に生かされていないような気がしました。前半は、盲目の女性心理と、その家族の関係(軋轢)が描かれますが、著者の文学的表現?(例えば比喩など)やアメリカ的ユーモア(皮肉)が翻訳のせいなのかよく判りませんけれど、やや読みにくい。後半はがらりと展開が変わってしまいフーダニットものになります。トリッキーな結末は控えていますが・・・。本筋がいいので、組立次第でという感じがします。非常にもったいない作品ですね。 |