空さんの登録情報 | |
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平均点:6.12点 | 書評数:1530件 |
No.530 | 6点 | 殺人のH スー・グラフトン |
(2012/06/16 19:49登録) 自動車保険詐取が疑われる事件の調査から始まって、キンジーが警察の囮捜査を手伝う破目になるという展開で、後半は彼女がその詐欺グループと行動を共にする流れになります。というわけで、最後は逮捕に至るわけではありますが、捜査小説よりもむしろ犯罪小説的な話になっています。キンジーが詐欺に加担したりするところ、なかなか楽しく読ませてくれます。 ただし最後のオチは、このストーリーの必要性に根本的な疑念を抱かせるように思えて不満でした。個人的には、ドーラン警部補に少しは活躍の場を与えてもらいたかったですね。最初にちょっと出てきたタイタス副社長の存在は、結局次回作設定のためだけだったようです。 なお、タイトルの「殺人」が重要な要素でない(起こらなくても話は成り立っていた)ところには、Hで始まる他の言葉はなかったのかなと思えました。日本語なら「保険」がそうですけど。 |
No.529 | 7点 | 囁く影 ジョン・ディクスン・カー |
(2012/06/12 20:42登録) その終戦直後の雷雨の日、なぜか殺人クラブには正規会員が誰も来ていなかった。ゲスト3人のみが集まり、数年前に起こった密室殺人の顛末が語られる… カーの作品を読むと、普通の密室がいかにも魅力的に思えてくるから不思議です。久々に再読した本作でも、章の区切り方とかちょっとした情景描写で、期待を高めてくれるのです。ただし、6割を過ぎたあたりから最初の不気味な雰囲気が薄れ、普通の都会派サスペンス展開になっているのが、ちょっと残念です。 全体的な構造としては、偶然の重なりが新たな事件を引き起こす元になるところ、安易とまでは言えませんが、やはりご都合主義ではあります。ただし終戦直後という時代背景を生かした骨組みは、横溝正史の有名作との共通点も感じさせますが、悪くありません。 第2の事件-殺人未遂の方法も理由も分からないという謎に対する解決もうまく考えられています。またいつものカーとは違ったロマンス味付けも印象に残ります。 |
No.528 | 5点 | 殺意の時刻表 斎藤栄 |
(2012/06/08 21:42登録) これは斎藤栄の中でも評価の分かれそうな作品です。まあ高評価派もせいぜい6点どまりでしょうけれど、一方1点以外考えられないという人がいても当然という気がします。 タイトルから『死角の時刻表』みたいな鮎川哲也由来の鉄道利用アリバイ崩しものを予想していると、思いっきり肩すかしをくわされます。ではなぜ「時刻表」なのかと言うと…おっと、これ以上書くとネタバレになってしまいそうです。 余計な付け足しに過ぎない3番目の殺人などやめておいて、その分家族関係について描きこんであれば、この基本的構図なら人情派の感動作にもなり得たかもしれません。しかし作者の文学的感性の欠如では、そのような方向性は求めようもありません。評価分裂の原因である、脱力系と言えなくもない最後の意外な展開(ただし明確な伏線は張ってあります)のみが印象に残る珍品になっています。 |
No.527 | 7点 | オールド・ディック L・A・モース |
(2012/06/04 21:39登録) 78歳の探偵と言ったって、頭脳派であれば年齢も名前も不詳の隅の老人を始めとして、高齢者は何人もいます。しかし行動派のハードボイルドでは、確かにめったにお目にかかれません。 1981年に発表されてMWA最優秀ペーパーバック賞を受賞した本作はモースの長編第1作ですが、ネオ・ハードボイルド世代作家のようなシリアス路線ではなく、ハメットやチャンドラー、スピレイン等のパロディといった趣があります。書き出しからして、そのことを宣言しているようなものですし、殴られて気絶する部分でも、『さらば愛しき人よ』を思い出すといった調子です。 ストーリーもかなりひねっていますし、ちょっと走ればすぐに息が切れ、足が動かなくなりそうだというジェイク・スパナーのハードな活躍ぶりもよくやるなあという感じ。一方でオブライエン親子の扱いはちょっと感動的です。最後のオチまでなかなか楽しめた作品でした。 |
No.526 | 6点 | メグレと幽霊 ジョルジュ・シムノン |
(2012/05/31 00:06登録) メグレの直属の部下ではありませんが、『メグレ警視と生死不明の男』等いくつもの作品に登場する、無愛想な刑事ことパリ18区警察署のロニヨンが路上で撃たれて重傷を負うという事件です。 ロニヨンが意識を失う前に呟いた、タイトル(原書も同じ)にもなっている「幽霊」という言葉は、謎めいたメッセージとしては期待を抱かせますが、読了後振り返ってみると、結局彼がその言葉を口にする必然性はあまりないように思えました。事件は夜中の2時頃に起こり、24時間も経たないうちに解決してしまうので、ロニヨンは意識を取り戻す間もありません。まあ目の付け所さえ間違えなければすぐ解決してしまうような、簡単な事件ではあります。 そんなわけで実際の登場場面はないにもかかわらず、手柄をたてようと、同僚たちに何も知らせず一人だけで密かに捜査していたロニヨンの人物像の方が、殺人未遂犯人たちよりも印象に残るような作品でした。 |
No.525 | 5点 | 人間豹 江戸川乱歩 |
(2012/05/28 20:44登録) 泡坂妻夫のあくまで合理的な『猫女』と違い、本作に登場する悪役は本当にホラー的な存在です。真面目に扱えば『モロー博士の島』みたいにもなりそうに思えます。しかし、事件が終わった後のエピローグになって、一応「人獣混血の説が喧伝された…科学の肯んじない憶測である」という説明がつくだけ。 その荒唐無稽さは、途中でいったん明智の策略にかかって捕えられた人間豹の、安易というか無茶苦茶な逃亡方法にも表れています。『蜘蛛男』等のようなとりあえず納得させる展開など全く無視して、クライマックスのサーカスのテントまで暴走です。逆に縛り上げられてしまった明智の脱出方法の方は、通俗的とは言えさすがに名探偵らしい手際ですが。 こんな事件を引き起こす前に、人間豹とその父親がどんな人生を歩んできたのか、疑問も感じますが、そんなウェルズ的観点はやはり無視しちゃいましょう。 |
No.524 | 7点 | 反射 ディック・フランシス |
(2012/05/26 20:08登録) フランシスはもちろん競馬の専門家で、本作の主人公は騎手ですが、一方アマチュア写真家でもあるという設定で、写真現像等についての専門知識もたっぷり披露してくれます。謎解き要素は、事故死(?)した辛辣な写真家が残した特殊加工フィルムに何が写されているのかの解明に集中しているのです。 派手なアクションやスリルはほとんどありません。最後の方で、主人公が二人のごろつきに痛めつけられる程度。むしろモジュラー型に近い、様々な事件のそれぞれに解決をつけていく構成がおもしろい作品です。ただし複数の事件が、写真家のフィルム等の要素でつながっているところがうまくできています。 邦題「反射」に相当する単語はReflectionですが、原題は “Reflex”。内容に即せばもちろん写真用語で、一眼レフの「レフ」です。「写像」というタイトルはどうでしょうか。 |
No.523 | 6点 | フレンチ油田を掘りあてる F・W・クロフツ |
(2012/05/26 19:34登録) 実際には油田を掘りあてるのはフレンチではありません。 フレンチが警視になってからの小説は、本作しか読んだことがないのですが、昇進しても彼の捜査方法には何の変化もありません。まあ今回は、上司から地位にふさわしくない仕事かもしれないが、と言われているのですが。一見列車事故と思えた事件にフレンチは疑念を抱き、死体解剖で彼の推測は確かめられます。 途中でホームズもの『プライオリ・スクール』を出してきていますが、ドイル作品を犯行の参考にした経緯と最終的な解決との間に、少々矛盾が生じているように思われます。 たぶん約30年ぶりの再読であるにしても、さっぱり記憶に残っていなかった作品ですが、決してつまらないわけではありません。半分を過ぎてから倒叙ものの要素を取り入れるという展開の工夫もあり、特に目新しいトリックは使われていませんが、なかなか楽しめました。 |
No.522 | 5点 | 猫女 泡坂妻夫 |
(2012/05/26 19:31登録) 泡坂妻夫が今回テーマとして選んだのは「化け猫」。当然、昔は何度も映画化された鍋島の猫騒動も言及されています。しかし本当に化け猫だったとは… いや、もちろん合理的な説明はつけてくれるんですがね。しかし、第1章での黒猫出現によるショック死(これは本当に事故というべき偶発事です)から猫の目撃状況にいたるまで、ちょっと偶然が過ぎるように思われます。被害者たちの共通点も偶然。語りの視点は主人公の男に限定され、警察の捜査状況は最終段階に至ってやっと明らかにされるぐらいなのですが、どうもすっきりできません。それでも最初から伏線を堂々と張り巡らしているのは、いかにもこの作者らしいところではあります。 焼物の世界を舞台とし、唯一性を身上とする芸術と大量生産の製品とを比較しているところにも、紋章上絵師でもある作者らしさは表れています。 |
No.521 | 7点 | 土曜日の殺人者 アンネ・ホルト |
(2012/05/26 19:25登録) 北欧の警察小説と言えば、スウェーデンのシューヴァル&ヴァールーは個人的に好みの作家なので、それではノルウェーのこの人はどうなんだろうと気になっていた作家でした。 実際に読んでみると、地味なリアリズムのシューヴァル&ヴァールーに比べるとエンタテインメント性が強く、展開もスピーディーな印象でした。女性捜査官が主役であることもあわせて、むしろコーンウェルと共通するものを感じます。ホルトの主役ハンネ・ウィリヘルムセンは警部補ですが。 かなりご都合主義もあり、重要な目撃者の人物設定とか、クライマックスの登場人物たちの行動とか、まあ後者はエンタテイメントらしいサスペンス盛り上げと言えるでしょう。 最後の法律的決着は、西村京太郎、さらに遡ればクイーンの初期某作品でもっとひねった形で出てきた法律アイディアですが、将来のことを考えると、サンド警視正のように機嫌よくしているわけにもいかないと思えます。 |
No.520 | 4点 | メグレと殺された容疑者 ジョルジュ・シムノン |
(2012/05/26 19:22登録) 邦題にもかかわらず、第1章の最後で殺されるキャバレーの経営者は容疑者というわけではありません。3週間ほど前にやくざが殺された事件で、彼は参考人の一人として警察に呼ばれただけです。過去の事件を担当していたリュカもメグレに問われて、容疑者とは全く思っていないと断言しているのです。一方原題の意味は「メグレの怒り」。よく似たタイトルの『メグレ激怒する』という作品もありましたっけ。怒りの対象は殺人犯です。メグレ自身がダシに使われたせいもあるでしょうが、それほど怒らなくても、という気もします。 水商売を手広くやっているにもかかわらず極めて几帳面な被害者とその家族の生活ぶりは、きっちりと描かれているとはいえ、今ひとつ感情移入できませんし、一方の犯人も、上にも書いたようにそれほどひどい人物と思えません。そんなわけでどうも中途半端な印象の残る作品でした。 |
No.519 | 5点 | 黄色い風土 松本清張 |
(2012/05/26 19:18登録) これも久々の再読ですが、覚えていたのはラスト・シーンだけで、事件概要も黒幕の正体も全然記憶にありませんでした。確かにこのラストは、今読んでみてもなかなかインパクトがあります。 文庫本で750ページ近い大作で、殺される人間の数も10人という多さです。自殺や事故死に見せかけた溺死が多いのですが、明らかな殺人もあり、犯罪者一味はそれらにどう区別をつけていたのか、考えてみればかなりいいかげんです。まあ論理的に詰めていくと、松本清張作品の大部分はかなり穴があるものですが。またseiryuuさんが指摘されている2つの偶然の内でも、由美のことがわかる方は、いくら何でも安易すぎます。 それでも組織の見当がついてくるあたりまでは、やはりおもしろく読ませてくれたのですが、最後に明らかになる黒幕の正体は、何だかなあという感じでした。 なお、雑誌連載時には『黒い風土』のタイトルだったそうですが、作者が好んで使う「黒」をなぜ「黄色」に変えたのか、不思議な気もします。 |
No.518 | 7点 | 永久の別れのために エドマンド・クリスピン |
(2012/05/26 19:14登録) クリスピンは、かなり前に『消えた玩具屋』を原書で読み始めたものの、凝った英語表現に音を上げて、すぐに挫折してしまった記憶があるだけだったのです。翻訳でも、やはり凝った文章は少々読みづらい。 この作家についてよく指摘されるユーモアは、本作では地方警察署長が飼っている猫がほとんど引き受けてしまっています。全体的には、容疑者にされた人物の視点から描かれたサスペンスものにも近いようなタッチで、どうやら他の作品とは雰囲気が異なるようです。 解決部分の直前までは、中傷の手紙に悩まされる村の雰囲気、自殺事件を経て、半分近くになって起こる殺人事件、疑惑とサスペンスの盛り上げと、これは傑作だと思いながら読み進めていったのでした。ただ真相を明かされてみると、犯人の設定に多少不満なところもありました。 ところでこの作品、ディケンズ生誕200年で話題の『エドウィン・ドルード』がらみのところがあったんですね。 |
No.517 | 7点 | ピアニストを撃て デイヴィッド・グーディス |
(2012/04/30 11:03登録) 邦題は、フランソワ・トリュフォー監督による映画タイトルの直訳です。むしろ私小説的な映画が高く評価されている監督で、実際昔見た映画版はさほど感心せず、ほとんど記憶にも残っていませんでした。ただ本作の解説にも書かれているように、確かにトリュフォーにしてはゴダールにも近い即興的演出があったかなという気はします。 で、今回初めて原作を読んでみたわけですが、ヌーヴェル・ヴァーグ風の乾いたそっけない演出(それは確かにハードボイルドやノワールと合いそうなのですが)とは違う、内面的な虚無感を漂わせた作品だと思いました。場末の酒場のピアニストである主人公エディの痛切な心情が、独白的な文章でたっぷりと描かれています。 エディに思いを寄せるどう見ても愚かなウェイトレスも、結局はうまく配されていて、だからこそのラスト・シーンの音楽の切なさには、何とも言えない魅力があります。 |
No.516 | 5点 | 鬼に捧げる夜想曲 神津慶次朗 |
(2012/04/28 09:51登録) 昭和21年、鬼女伝説のある孤島を舞台に、婚礼を挙げたばかりの新郎新婦が密室で惨殺された… というわけで、『獄門島』+『本陣殺人事件』ですかと思っていたら、『本陣』が実際にあった事件という設定になっているという横溝正史ワールドべったりです。さらに『蝶々』まで引き合いに出して。 長さはたぶん『犬神家の一族』と同じぐらいでしょうか。しかしそれにしては、事件の進展や捜査過程はずいぶん単純です。本作については文章をけなしている評をかなり見受けますが、この程度の内容でここまで引き伸ばせたという点では、文章力はそれなりにあると思います。わざと古めかしい文体にしているのですが、読みにくいところはありません。時たま珍妙な表現は出てきますが。 全体の2/3ぐらいのところで説明されるダミー・トリックがバカバカしいおもしろさなので、むしろこれをメインにした方がよかったかもしれません。 |
No.515 | 6点 | バルカン超特急―消えた女 エセル・リナ・ホワイト |
(2012/04/25 21:39登録) これはやはりヒッチコックの有名作と比較せざるを得ない作品でしょう。といっても、映画版を見たのはもう20年以上前で、冒頭のセットを利用した移動撮影とか、列車の窓とか、切れ切れに覚えているだけなのですが。 列車の中で一人の女が消え、しかも同じコンパートメントに乗っていた人たちは、そんな女は最初からいなかったと主張するという設定は同じですが、このアイディアは、作中でも言及される事件が発想源でしょうか。途中で失踪原因について真相とは異なる想像が披露されるところがありますが、ヒッチコックはこの想像の方を真相として採用しています。 最初、本筋の列車とは無関係な部分が50ページ近くあって、映画と比べてすいぶんのんびりしているなと思ったのですが、最後まで読んでみると、これはヒロインを描き出すためには必要だったんだなと納得させられました。 |
No.514 | 7点 | ベベ・ドンジュの真相 ジョルジュ・シムノン |
(2012/04/22 19:59登録) ある夏の日曜日、夫を砒素で毒殺しようとしたベベ・ドンジュ。企ては未遂に終わり、彼女は犯行を自供し、すぐさま逮捕されます。 過去の生活を通して探求される動機を扱ったホワイダニットの一種と捉えることもできます。本作では殺されかかった夫の視点から、その探求はなされます。しかし彼に「おわかりでしょう!」と言われても、一般的なミステリのように動機が明瞭に示されるわけではありません。夫婦関係の微妙な心理的すれ違い、「蚊が、ときには、大きな石が水溜りに投げ込まれた時よりも、もっとはげしく水面をかき乱す」という冒頭部分の意味は、読者によって感じ取られなければなりません。殺人未遂を契機に、夫が妻を理解しようと努めるところは、似た素材を扱ったモーリアックの『テレーズ・デスケルウ』と異なる点だと言えます。 なお、ちょっとだけ登場する刑事の名前はジャンヴィエとなっていますが、舞台はパリでもありませんし、メグレの部下とは別人ですね。 |
No.513 | 6点 | 葉煙草(シガリロ)の罠 山村美紗 |
(2012/04/18 22:18登録) アメリカ産より安いフィリピン産の葉煙草の輸入についての政治的駆け引きをめぐり、フィリピンの大物貿易商が殺されるという、全体的な事件の骨格は松本清張をも思わせるような社会派的作品です。 殺人はさらに連続して起こり、これは山村美紗らしく、ついには自動車を使った目張り密室まで出てきます。トリックについては、このタイプの密室の嚆矢であるディクスンの『爬虫類館の殺人』は、当然念頭に置いていて、その方法が使えないことまで確認していますので、ネタバレには注意。しかしロースンによる別アイディアがあることを知らなかったのは間違いないでしょう。しかし、トリックそのものよりも不満だったのが、狩矢警部によるそのトリックや、真犯人指摘の段取り、読者に事件の全体像を説明していく手際でした。 社会派的なストーリーと、最後1ページぐらいの女流作家らしい視点には感心したのですが。 |
No.512 | 6点 | クリスマス・プディングの冒険 アガサ・クリスティー |
(2012/04/15 13:16登録) 中編3編、短編3編からなる作品集で、その内5編がポアロものです。 表題作は長い割に謎解き的には特にどうということもないのですが、いかにもクリスマス・ストーリーらしい楽しい作品で、ポアロの計略が笑えます。 『スペイン櫃の秘密』は某短編を倍ぐらいの長さに書き直したものですが、膨らませ方が中途半端だと感じました。おもしろいアイディアなので、もっと長くして、人間性を描きこめばよかったのに、と思えます。 『負け犬』は最も長い作品で、地味ではあるもののかなり好印象を持ちました。ただし、この作品には謎解き内容以外で、非常に不満な点があります。どこがということを明かせば、完全にネタバレになってしまいますが。 後に続く短い3編については、内容に共通点があることにびっくりしました。クリスティーはなぜこれらを1冊の中にまとめたのでしょうか。ミス・マープルものの『グリーンショウ氏の安房宮』はいくら何でも無理があります。 |
No.511 | 7点 | 長い日曜日 セバスチアン・ジャプリゾ |
(2012/04/12 21:43登録) 『家族の行方』に続いて、ミステリと呼べるかどうか疑問な語り口の作品。謎解き的な興味は確かにありますし、調査によって真実が明らかにされるという構成になっています。しかしその謎は犯罪とは関係ありませんし(戦争を犯罪だと言うなら別ですが)、前知識なしに読み始めたら、誰でも純文学系作品だと思うでしょう。実際、本作が受賞したアンテラリエ賞とは、第1回(1930)をマルローの『王道』が受賞したという文学賞です。 まあジャプリゾと言えば、本作の前に書かれた『殺意の夏』はアジャーニ主演の映画を見ただけなのですが、少なくとも映画はミステリとは言えないような作りでしたしねえ。本作も『ロング・エンゲージメント』のタイトルで映画化されたことがあるそうです。オリジナル・タイトル直訳は小説・映画の邦題を合わせた「婚約の長い日曜日」。 会話が特に最初の方非常に少なく、決して読みやすいとは言えませんが、最後の感動はさすがです。 |