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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1515件

プロフィール| 書評

No.515 6点 バルカン超特急―消えた女
エセル・リナ・ホワイト
(2012/04/25 21:39登録)
これはやはりヒッチコックの有名作と比較せざるを得ない作品でしょう。といっても、映画版を見たのはもう20年以上前で、冒頭のセットを利用した移動撮影とか、列車の窓とか、切れ切れに覚えているだけなのですが。
列車の中で一人の女が消え、しかも同じコンパートメントに乗っていた人たちは、そんな女は最初からいなかったと主張するという設定は同じですが、このアイディアは、作中でも言及される事件が発想源でしょうか。途中で失踪原因について真相とは異なる想像が披露されるところがありますが、ヒッチコックはこの想像の方を真相として採用しています。
最初、本筋の列車とは無関係な部分が50ページ近くあって、映画と比べてすいぶんのんびりしているなと思ったのですが、最後まで読んでみると、これはヒロインを描き出すためには必要だったんだなと納得させられました。


No.514 7点 ベベ・ドンジュの真相
ジョルジュ・シムノン
(2012/04/22 19:59登録)
ある夏の日曜日、夫を砒素で毒殺しようとしたベベ・ドンジュ。企ては未遂に終わり、彼女は犯行を自供し、すぐさま逮捕されます。
過去の生活を通して探求される動機を扱ったホワイダニットの一種と捉えることもできます。本作では殺されかかった夫の視点から、その探求はなされます。しかし彼に「おわかりでしょう!」と言われても、一般的なミステリのように動機が明瞭に示されるわけではありません。夫婦関係の微妙な心理的すれ違い、「蚊が、ときには、大きな石が水溜りに投げ込まれた時よりも、もっとはげしく水面をかき乱す」という冒頭部分の意味は、読者によって感じ取られなければなりません。殺人未遂を契機に、夫が妻を理解しようと努めるところは、似た素材を扱ったモーリアックの『テレーズ・デスケルウ』と異なる点だと言えます。
なお、ちょっとだけ登場する刑事の名前はジャンヴィエとなっていますが、舞台はパリでもありませんし、メグレの部下とは別人ですね。


No.513 6点 葉煙草(シガリロ)の罠
山村美紗
(2012/04/18 22:18登録)
アメリカ産より安いフィリピン産の葉煙草の輸入についての政治的駆け引きをめぐり、フィリピンの大物貿易商が殺されるという、全体的な事件の骨格は松本清張をも思わせるような社会派的作品です。
殺人はさらに連続して起こり、これは山村美紗らしく、ついには自動車を使った目張り密室まで出てきます。トリックについては、このタイプの密室の嚆矢であるディクスンの『爬虫類館の殺人』は、当然念頭に置いていて、その方法が使えないことまで確認していますので、ネタバレには注意。しかしロースンによる別アイディアがあることを知らなかったのは間違いないでしょう。しかし、トリックそのものよりも不満だったのが、狩矢警部によるそのトリックや、真犯人指摘の段取り、読者に事件の全体像を説明していく手際でした。
社会派的なストーリーと、最後1ページぐらいの女流作家らしい視点には感心したのですが。


No.512 6点 クリスマス・プディングの冒険
アガサ・クリスティー
(2012/04/15 13:16登録)
中編3編、短編3編からなる作品集で、その内5編がポアロものです。
表題作は長い割に謎解き的には特にどうということもないのですが、いかにもクリスマス・ストーリーらしい楽しい作品で、ポアロの計略が笑えます。
『スペイン櫃の秘密』は某短編を倍ぐらいの長さに書き直したものですが、膨らませ方が中途半端だと感じました。おもしろいアイディアなので、もっと長くして、人間性を描きこめばよかったのに、と思えます。
『負け犬』は最も長い作品で、地味ではあるもののかなり好印象を持ちました。ただし、この作品には謎解き内容以外で、非常に不満な点があります。どこがということを明かせば、完全にネタバレになってしまいますが。
後に続く短い3編については、内容に共通点があることにびっくりしました。クリスティーはなぜこれらを1冊の中にまとめたのでしょうか。ミス・マープルものの『グリーンショウ氏の安房宮』はいくら何でも無理があります。


No.511 7点 長い日曜日
セバスチアン・ジャプリゾ
(2012/04/12 21:43登録)
『家族の行方』に続いて、ミステリと呼べるかどうか疑問な語り口の作品。謎解き的な興味は確かにありますし、調査によって真実が明らかにされるという構成になっています。しかしその謎は犯罪とは関係ありませんし(戦争を犯罪だと言うなら別ですが)、前知識なしに読み始めたら、誰でも純文学系作品だと思うでしょう。実際、本作が受賞したアンテラリエ賞とは、第1回(1930)をマルローの『王道』が受賞したという文学賞です。
まあジャプリゾと言えば、本作の前に書かれた『殺意の夏』はアジャーニ主演の映画を見ただけなのですが、少なくとも映画はミステリとは言えないような作りでしたしねえ。本作も『ロング・エンゲージメント』のタイトルで映画化されたことがあるそうです。オリジナル・タイトル直訳は小説・映画の邦題を合わせた「婚約の長い日曜日」。
会話が特に最初の方非常に少なく、決して読みやすいとは言えませんが、最後の感動はさすがです。


No.510 6点 家族の行方
矢口敦子
(2012/04/09 21:35登録)
創元クライム・クラブ版の解説では、本作を「地図を持たずに踏み込むべき」とし、余計な前知識なしで読むことを勧めています。しかし、むしろ多少前知識を持った上で読み始めた方がいいのではないかと思います。その方が、ある先入観に捉われることなく読み進めることができるからです。
その先入観とは、「ミステリ」であるということ。解説は最初の7行だけでストップし、すぐに作品を読み始めたのですが、それでも通常のミステリ(社会派やサスペンスも含む)とは異なる感触、具体的には事件以外の人間関係要素が多いことには、早い段階で気づきました。そしてその感触は、結局最後まで続きます。
個人的にはこういったタイプの小説は好きで、最終的な決着もこれでいいとは思うのですが、当然「ミステリじゃない」という意見も聞こえてきそうです。実は、論理的に絶対ここは怪しいにもかかわらず、全く言及されていなかったところがあったのだけは、不満でしたが。


No.509 7点 湖中の女
レイモンド・チャンドラー
(2012/04/05 22:19登録)
チャンドラー、謎解きミステリの王道トリックに挑戦。まあメインの方は、最初からその可能性が高いと思っていた、と言う人が多いでしょうが。また最後のマーロウによる推理にしても、この作家にしては重要な伏線が意外にちゃんと張られていました。他の作品では独特な味を出している無駄な回り道捜査も、本作にはありません。そういう意味では、チャンドラー嫌いの人にも受け入れられやすい作品と言えそうです。しかし、やはりいかにもと思える雰囲気は感じられます。
本作で印象に残った登場人物は、警察官たちです。ウェバー警部の真面目さも悪くないのですが、それより他の二人の主要な(登場人物表にも載っている)警察官が魅力的に描かれているのです。一方は初登場時にはただ強面の嫌な奴って感じですが、いつの間にかかなり好感を抱かせるようになって、最後でのもう一人の実に渋い警察官とのやり取りにはうならされました。


No.508 5点 メグレとルンペン
ジョルジュ・シムノン
(2012/04/02 22:48登録)
3月25日、春らしい天候になり、メグレが久しぶりにコートを脱いでラポワント刑事と殺人未遂事件現場に向かうメグレ警視。この暖かな空気が、作品全体を覆っています。
途中で短編集『メグレと無愛想な刑事』収録の『誰も哀れな男を殺しはしない』事件を引き合いに出して、セーヌ川の橋の下で静かに生活しているルンペンをわざわざ殺そうとする人間なんていないものだが、というのが謎だと言えます。メグレが夫人に手掛けている事件のことを語るのも珍しいことで、そんな妙な雰囲気のある話です。
ミステリとしてなら、人情派ホワイダニットとしてもたいしたことのない結末ですが、それよりも殺されかけたルンペンの生活と人生観を描いた作品という感じがします。犯人がどうなるかという部分も、普通なら不満があるでしょうが、ラストのメグレと被害者の会話で、なんとなく納得させられてしまいました。


No.507 7点 殺人の駒音
亜木冬彦
(2012/03/30 22:48登録)
将棋の世界を扱ったエンタテインメントとしてよくできていると思いました。
作者自身のあとがきによると、純文学系の短編も書いていたそうですが、それだけにさすがに文章が手慣れています。読み始めてすぐ感じたのですが、ちょっとした風景描写を入れるタイミングなどがうまいのです。何度も繰り返される将棋の勝負の場面も、文章に迫力があります。出番はごく少ないものの話の要の一人にもなっている谷山名人の他、以前の名人として犬山、長原なんていかにもな名前を出してきているだけでなく、金田耕助、野里小五郎、神津警部補と、どこかで見たような登場人物名を並べるお遊びもあります。
謎解きミステリとしては、ちょっとしたどんでん返しがあるとはいえ、驚くようなところはありませんが、事件解決後もさらに将棋小説としての話は続き、そういったところがおもしろいのです。エピローグだけは、ちょっと長すぎたかなとも思えますが。


No.506 6点 思い乱れて
ボアロー&ナルスジャック
(2012/03/27 01:17登録)
タイトルは、作中に出てくるシャンソンの題名でもあり、また作品そのものの内容を示したものにもなっています。
あとがきにも書かれているように、ミステリとして見れば、『死者の中から』等に比べると「迫力も劣る」ことは間違いありません。愛人の夫であるシャンソン界の重鎮作曲家を殺してしまったピアノ奏者ルプラの視点からほぼ描かれた作品です。死んだ作曲家のメッセージが録音されたレコードが送られてくるという謎とサスペンスはそれほどでもありませんし、さらに起こる殺人事件で使われるトリックにしても、現代ではありきたりなものです。
しかし、真相の見当は簡単についても、だから結末はどうなるのかという点については、かなり意外な展開が用意されています。最後のルプラの一見矛盾したような行動については、シムノンの純文学系作品を想起させるところもありますし、ラスト1ページの息詰まる心理的葛藤にはさすがだと思わせられました。


No.505 8点 象牙色の嘲笑
ロス・マクドナルド
(2012/03/24 00:14登録)
確かにラストは衝撃的です。ロス・マクにしてはかなり早い段階で、なんとなく真相の概要が見えてしまう作品だと思うのですが、それでも最後20ページぐらいには驚かされます。これはやはり核になるアイディアというより書き方、盛り上げ方の問題なんでしょうね。このラストの決め方で評価がアップします。初期にしてはあまりハードボイルドらしくない筋立てなのも本作の特徴でしょうか。
翻訳で主語を「おれ」としていることについては、ロス・マクには合わないという人もかなりいるようですが、個人的にはそれよりも、地の文で「おれ」なのに、会話の中でリュウは「ぼく」と言っている点に違和感を覚えました。
なお原題の”grin”は、ニヤリと笑うということなので、それこそハードボイルド探偵がたまに浮かべる笑みなどもそんな感じ。”mock”(嘲る)の意味はありません。そのことを意識して最後部分を読んでみると、タイトルの味が伝わってきそうです。


No.504 4点 太陽と戦慄
鳥飼否宇
(2012/03/20 11:02登録)
本作を読んでみた理由はやはりタイトル。もちろんキング・クリムゾンの代表的アルバムから採っているわけです。さらに目次にもクイーンの『ギリシャ棺』由来の細工がほどこしてあり、イエスとピンク・フロイドの名盤タイトルが。なんとも凝ったプログレ尽くしです。
しかし作中で出てくるバンドの音楽がパンクで、影響を受けたのがTレックスとニルヴァーナというのでは、タイトルと内容の方向性が違いすぎます。まあそれでもそんなロック・バンド・ストーリーとしての前半は、怪しげな伏線はいろいろあるものの、ミステリとしてではなく、なかなか楽しめました。
この前半(Part 1)の最後になって、ライブ・ハウスでやっと殺人事件が起こるのですが、密室の謎は最後に告白の形で明かされてみると、警察が解決できなかったことが不思議というもの。さらにPart 2での大げさなテロ事件への展開は、ばかばかしく感じられてしまいました。


No.503 6点 殴られたブロンド
E・S・ガードナー
(2012/03/16 23:49登録)
タイトルの「殴られた」の部分は原題では”black-eyed”、つまり殴られて目のまわりに青あざのできた、ということです。
メイスンものの中でも、カバー作品紹介にも書かれているように特に劇的な展開を見せる作品です。最初のうちは、ブロンドの依頼人登場から事件がどう転がっていくのか、見当もつきません。一瞬、このシリーズでまさかこんなことが、と思わせる殺人を起こしておいて、いかにもなパターンに戻したりしもます。さらに真ん中あたりですでに、予審ではありますが裁判になってしまうのです。これ以後延々と裁判シーンになるなんだろうか等と思っていたら、裁判の途中(裁判はもちろん何日もかけてやっていくわけですから)、法廷外で事件は新たな展開を見せます。
設定を複雑にしすぎて、小説としての全体のつながりが今一つすっきりしなくなってしまっているのが難点ですが、なかなか楽しませてくれました。


No.502 6点 メグレと妻を寝とられた男
ジョルジュ・シムノン
(2012/03/13 23:04登録)
原題直訳は第1章の中でもその言葉が出てくる「メグレと土曜の客」ですが、河出書房では同シリーズですでに『メグレと火曜の朝の訪問者』(原題直訳「メグレの不安」)が出ていたので、あまりに似たタイトルを避けたのでしょうか。
土曜日に何度も司法警察に来ていながら、メグレに会わずに立ち去ってしまっていた男が、ついにメグレの自宅を訪問してきて、「女房を殺したいんです…」と告げるという奇妙な発端を持つ作品です。メグレについては「運命の修繕人」という言葉も使われますが、そのような人としてのメグレに対する相談、告解とでも言いましょうか。
その後に起こる事件そのものは、いったい何が起こったのかはっきりしないままという、不安定な感じを抱かせます。結局のところ真相はミステリ的に言えばどうということはないのですが、この土曜の客の悲哀をじっくり描きこむということでは、うまく構成された作品だと思いました。


No.501 7点 加田伶太郎全集
福永武彦
(2012/03/10 09:11登録)
作者は「誰ダローカ」なんて、いまだにこの名前を表に出しているんですね。著者名は本名の福永武彦になっているのに。生と死を見つめた『死の島』『忘却の河』などの純文学で知られる作者ですが、ミステリについては文学的テーマなど不要と主張していた人(ただし後にはロス・マク好きになります)だけに、謎解きに徹した短編集になっています。特に第1作『完全犯罪』は、密室・多重解決を50ページほどのうちに詰め込んだ古典的類型踏襲ぶり。その後はカー風の怪奇的謎にクイーン風の意外な論理を当てはめた『幽霊事件』、一人称サスペンス・タッチの『眠りの誘惑』、最初から冗談めかした『湖畔事件』など様々なパターンが出てきます。
本サイトの作品登録は「昭和ミステリ秘宝」ということで扶桑社から出版された版ですが、自分が持っているのは新潮文庫版で、伊丹英典シリーズ8編のみ。船田学名義で書かれたSF『地球を遠く離れて』等は入っていません。


No.500 9点 ギリシャ棺の秘密
エラリイ・クイーン
(2012/03/07 22:39登録)
本作が出版されたのは1932年ですが、事件が始まるのが10月5日火曜日で、しかもエラリーがまだ大学を出て間もない頃というデータからすると、おそらく1920年のことではないかと思われます。
特にトリックと言えるのは、せいぜいすぐ明かされる死体隠匿方法ぐらいのものでしょうか。しかし、その死体発見に至る流れはうまくできています。そしてエラリーの最初の(失敗した)推理は、真相より犯人の意外性があると言ってもいいくらい。その後平凡な某人物犯人説を経て、「読者への挑戦」少し前あたりから盛り上がってくる謎解き興味は見事です。
ネクタイに関する設定には科学的な勘違いがありますし、タイプライターの手がかりは日本人にとっては(パソコンが普及していても)何のことやらですし、と不満の声もあるでしょうが、個人的にはクイーン節を最も長く楽しめる複雑さということで、最も好きな作品です。
ダ・ヴィンチの完成しなかった有名な壁画「アンギアリの戦い」の部分油絵が存在していたなんてホラ話設定も楽しめました。


No.499 6点 熱い十字架
スティーヴン・グリーンリーフ
(2012/03/04 09:51登録)
庭で十字架が燃やされる事件も起こる本作ですが、原題”Southern Cross”は普通に訳せば南十字星。内容に則せば、南北戦争の南部軍旗を意味することになります。舞台はサウスカロライナ州チャールストン。サンフランシスコを拠点としているタナーは、同窓会で久しぶりに会った弁護士をしている友人から依頼を受け、差別意識のまだ強く残っているこの町にやって来ることになります。人種差別の象徴ともいえる南部軍旗が、作品テーマを明確に示しています。
最初の同窓会にもかなりのページが割かれていますし、さらに事件自体も考えてみればずいぶん地味です。途中でタナーが銃を突き付けられ、殺すぞと脅かされるシーンはあるものの、結局殺人は最後まで起こりません。ただタナーの友人に対するいやがらせは、誰がなぜしているのか、ということだけで、ハヤカワ・ボケミス300ページ強の分量を支えているのですが、それでも飽きさせず読ませてくれます。


No.498 7点 幻の殺意
結城昌治
(2012/02/29 21:42登録)
最初に読んだ結城昌治作品が、本作でした。そのため、作者に対しては叙情的ハードボイルドという印象がしばらくは残っていたものです。今回再読してみると、初読時に感心した人間関係による謎作りとその解答は、多少記憶に残っていたことを考慮しても、たいして意外でもないなと思いました。犯人の設定も、いまひとつ。それでもその人間関係の描き方、事件解決後部分でのテーマの盛り上げ方はやはり感動的です。登場人物中、逮捕された息子の中学時代の同級生だった男が、意外になかなかいい役です。
初版時のタイトルは『幻影の絆』で、その方が内容には合っているでしょう。改題後の角川文庫版を持っているのですが、これは1971年3月が初版出版となっています。一方同年4月には本作を基にした映画『幻の殺意』が公開されているので、ひょっとしたら映画の方にタイトルを合わせたのではないかと勘ぐりたくなります。


No.497 6点 メグレと善良な人たち
ジョルジュ・シムノン
(2012/02/26 11:30登録)
原題の意味も邦題と同じで、まさに善良そのものといった感じの家族の中で起こった殺人が扱われています。強盗などでない個人的な殺人がこんな家族の中で起こるとは考えられないと、誰もが口にする事件で、どこから手をつけたらいいのか戸惑うような状況に、メグレは善良な人たちに対してほとんど恨みを感じそうになるぐらいです。
それでも殺人後の犯人の行動が判明し、さらに地道な聞き込み捜査を続けるうちに浮上してくる家族の抱えるある秘密が明らかになった時、事件は一気に収束していきます。メグレものの中でも短めな作品ではあるにしても、そのあまりのあっけなさには不満を感じる人も当然いると思います。しかしシムノンの手にかかると、『メグレと老外交官の死』のようなひねりのある結末よりも個人的にはむしろ好感が持ててしまえるのですから、妙なものです。


No.496 7点 バルコニーの男
マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー
(2012/02/23 21:09登録)
第1章は、バルコニーの男が夏の夜明けにストックホルムの街を見下ろしている思わせぶりなシーンです。この夜明け、午前2時45分というのが、まさに北国らしいところ。で、その後は公園に出没する強盗から、本筋の幼女連続殺人事件へと話は進展していきます。ここでも午後9時に、まだ明るいから子どもたちが外で遊んでいるという状況が最初の殺人のきっかけ。
第1章が事件にどう絡んでくるのかは、読者にはすぐに見当がつきます。そこにマルティン・ベックがなかなか気づかないのは、読者に比べて情報が少ないので、しかたありません。なお、後に『消えた消防車』で大活躍するラーソン警部は初登場だそうで、署内ではあまり評判がよくないようですが、個人的には彼の豪放さには好ましい印象を持ちました。
最後の犯人逮捕が完全に偶然頼みなのは、いくら「本格派」じゃないと言ってもね、という気はしますが、全体的にはコクのある、よくできた作品だと思います。

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