home

ミステリの祭典

login
反射
競馬シリーズ

作家 ディック・フランシス
出版日1982年02月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 7点 ことは
(2024/08/26 00:55登録)
これはうまいなぁ。「写真の謎を解く」、「騎手としての進退」、「妹を探す」の3つの話が、主人公の人生の岐路に関わってくる。
それぞれの話は事件として直接つながるところはないのだが、3つの話とも「主人公の選択」への影響が感じられて、奥ゆきがある。
ミステリ-としてのシャンル的面白さより、小説としていい小説だ。
終盤、主人公が苦難にみまわれるところはフランシス印。これも主人公の決意に関わってきていい。
やはり、フランシスはこの時期のものが好みに合いそうだ。

No.2 6点
(2018/12/10 23:48登録)
 才能溢れる競馬写真家、ジョージ・ミレスが立ち木に車で激突死した時、更衣室で彼の死を悼む騎手はいなかった。皮肉屋で悪意に満ちた写真ばかりを撮る彼は、競馬界の嫌われ者だったのだ。
 障害騎手フィリップ・ノアは騎手仲間であるジョージの息子スティーヴに、鎖骨を折ったので家まで送ってくれないかと頼まれる。流されるまま生きてきた彼にはとうてい断れない話だった。父親の葬式とほぼ同時に侵入した泥棒により、スティーヴの家は散々に荒らされてしまったのだ。
 スティーヴと共にミレス家に赴くフィリップ。だが彼らはそこで、またもや強盗が侵入した事を知る。強盗は未亡人マリイを傷つけ、さらに家を破壊していた。スティーヴの度重なる懇願を容れたフィリップは、二人の感謝と共にジョージの失敗作が詰まった廃品箱を受け取る。写真家の習性と相反するその箱が、彼の興味を引いたのだ。
 そして数日後、ミレス家は今度は放火により焼失した。廃品箱に隠された秘密に気付いたフィリップは、本格的にフィルムとネガの謎を解こうとするが・・・。
 競馬シリーズ第19作。シリーズを代表する傑作「利腕」の次作。この時期のフランシスはマンネリ打破の試みなのか、主人公や作品構成に様々な工夫を凝らしています。アマチュア写真家でもあるフィリップ・ノアは半ばネグレクト気味に育てられ、極力自分の意志を示さず生きてきた人物。騎手としてのキャリアも引退を意識する年齢に設定されています。
 彼が拠るべき物を見つけ、変化していく過程を描くのが本書のテーマ。謎解きの合間には馬主に不正を強要され、行方不明の妹を探すよう強制され、やがては亡きジョージの写真を武器に、競馬界の不正に対処することを選び取ります。
 全般にくすんだ筆致ですので高得点は付けませんが、この時期の作品としてはまずまず成功した部類に入るのではないでしょうか。悪役ではありますが、フィリップに敗北を強要する馬主、ヴィクター・ブリッグズの人物像がなかなか厚みがあります。彼が成長を認めた主人公が、最後に取った行動も相応に抜け目ない強靭なものです。

No.1 7点
(2012/05/26 20:08登録)
フランシスはもちろん競馬の専門家で、本作の主人公は騎手ですが、一方アマチュア写真家でもあるという設定で、写真現像等についての専門知識もたっぷり披露してくれます。謎解き要素は、事故死(?)した辛辣な写真家が残した特殊加工フィルムに何が写されているのかの解明に集中しているのです。
派手なアクションやスリルはほとんどありません。最後の方で、主人公が二人のごろつきに痛めつけられる程度。むしろモジュラー型に近い、様々な事件のそれぞれに解決をつけていく構成がおもしろい作品です。ただし複数の事件が、写真家のフィルム等の要素でつながっているところがうまくできています。
邦題「反射」に相当する単語はReflectionですが、原題は “Reflex”。内容に即せばもちろん写真用語で、一眼レフの「レフ」です。「写像」というタイトルはどうでしょうか。

3レコード表示中です 書評