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ミステリの祭典

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メグレと殺された容疑者
メグレ警視

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1983年04月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 7点 クリスティ再読
(2022/02/26 09:59登録)
メグレ長編では比較的珍しい、パズラー的な味わいがある作品。でも、この「パズラー的味わい」が、いわゆる本格マニアが喜ぶタイプのものではなくて、たとえばハメットなら大喜び、とでもいうような市井のリアルな感覚のものなのが興味深い。

いろいろな謎の中心となる盲点のような事情が判明すると、事件がするっと解明される面白味がある。そしてそれが、綿密に描写されたユニークな被害者のキャラとも合致していて、意外かもしれないけど、こういう生き方する人間っているんだよね、と思わせる(やや捻った)「人間のリアル」が浮かび上がる。で、この盲点というのが、司法関係者やミステリ読者であればこそ気づきにくいものでもあるから、そこに注意したらやや「メタ」な味かもしれない。

ブーレイというのは、根はひじょうに小市民的な人間でしたよ。彼の家にいると、女の裸を見せて商売している人間だとはどうしても思えない

と評される、やり手でも堅実な、モンマルトルのナイトクラブの経営者が被害者。葬儀も盛大で、ナイトクラブ業界の重鎮だったのが窺われる。

原題は「メグレの怒り」くらいなんだが、でも「殺された容疑者」の訳題はかなり疑問が多い(苦笑)。この被害者はとあるギャングの襲撃事件に絡んで、リュカの事情聴取を受ける予定になっていたけども、その前に行方不明....という状況で、とくに「容疑者」というほどの立場でもない。「小市民的」と評されるそのままの人物だから、ギャングとの裏のつながりが?という容疑があるわけでもないのである。
しかし、この件が実は真相にしっかり繋がっているし、メグレ自身も真相に間接的ながらかかわりがあって、皮肉な面白さがある。
まあだから、ちょっとヒネッて評者がタイトルを考えるなら「メグレの事情聴取」、どうかなあ?

No.1 4点
(2012/05/26 19:22登録)
邦題にもかかわらず、第1章の最後で殺されるキャバレーの経営者は容疑者というわけではありません。3週間ほど前にやくざが殺された事件で、彼は参考人の一人として警察に呼ばれただけです。過去の事件を担当していたリュカもメグレに問われて、容疑者とは全く思っていないと断言しているのです。一方原題の意味は「メグレの怒り」。よく似たタイトルの『メグレ激怒する』という作品もありましたっけ。怒りの対象は殺人犯です。メグレ自身がダシに使われたせいもあるでしょうが、それほど怒らなくても、という気もします。
水商売を手広くやっているにもかかわらず極めて几帳面な被害者とその家族の生活ぶりは、きっちりと描かれているとはいえ、今ひとつ感情移入できませんし、一方の犯人も、上にも書いたようにそれほどひどい人物と思えません。そんなわけでどうも中途半端な印象の残る作品でした。

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