空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1515件

プロフィール| 書評

No.535 7点 友よ、戦いの果てに
ジェイムズ・クラムリー
(2012/07/03 21:30登録)
訳者あとがきで、本作に対する表層的な批判として紹介されている「老ランボーのハチャメチャ活劇」という言葉は当たっているのではないかと思えます。けなしているのではありません。まさに文学派ハードボイルドな語り口で、前半はゆったりした地味めの展開であるにもかかわらず、ド派手な活劇にまでエスカレートしてしまうところがおもしろいと思えるのです。まあ最初の方で登場する人物の意味を考えると、とんでもないアクションになりそうな予感はあるのですが。
それでも、あれは結局使われなかったなぁ。ちょっと期待もしたのですが。そのかわり、原題のメキシカン・ツリー・ダック(鴨の一種)を模った工芸品が、最後になって重要な役割を果たします。
主役のシュグルーのみならず、登場人物の大半が覚醒剤やコカインづけという世界ですので、生理的に受け付けない人もいそうです。個人的にはそれより、事件全体の組立がどうも不明瞭なところが気になりましたが。


No.534 4点 赤岳殺人暗流
梓林太郎
(2012/06/30 12:00登録)
山岳ミステリの専門家ということで著書もかなりの数にのぼりますが、今まで読んだことがないどころか、名前も最近まで知らなかった作家です。
プロローグの遭難事故の後、殺人事件が発生してすぐ、2つのつながりはこれ以外ないだろうと予想できます。作中の警察も間もなくそのことに考えつき、容疑者は早い段階で1人に絞られます。さらに動機も自然にわかってきて、以前に起こった別の殺人事件との関係も明らかに…という展開です。で、後は容疑者がどうやって被害者を特定できたのかというところがポイントになってきます。それらの捜査が淡々と描かれていくのですが、平凡な作品という印象はぬぐえませんでした。
巻末解説では、この作家の特徴として人物造形の巧みさと的確な心理描写を挙げていますが、プロットだけでなく文章もあっさりと薄味すぎるように思えました。


No.533 7点 本命
ディック・フランシス
(2012/06/26 23:13登録)
いかにもディック・フランシスらしい作品を求めるのであれば、確かに本作はふさわしくないでしょう。まず主人公が最初から警察と連絡を取りながら事件の裏を追っていくという点が、後続作品と違います。また現在までに読んだ7冊の中では、ホームズとかチェスタトンといった過去の探偵・作家名を引き合いに出しているのも本作だけです。それだけに、主人公の推理は時にクイーンをも思わせるほど論理的なところがあります。そう言えば、綴りはわかりませんし姓ですが、エラリイという名前の人物も登場します。語り口にもユーモアがあったりして、爽やかな雰囲気が感じられます。
しかし、フランシスの出発点はここだという意味では、本作をまず手に取るのもいいのではないでしょうか。最後まで謎解き的な興味も、サスペンスやアクションも続く秀作です。犯人側の人物の行動で1ヶ所、これはさすがにあり得ないというところはありますが。


No.532 7点 メグレとしっぽのない小豚
ジョルジュ・シムノン
(2012/06/22 21:33登録)
邦題を間違えているサイトが多いようですが、「子豚」ではなく「小豚」です。小さな陶器製の豚の置物のことなのです。まあ、本書でも目次だけは「子」の字になってしまっているぐらいですからね。収録9編中、最初の3編がかなり長めの短編です。
最初の『しっぽのない小豚』は人情派サスペンスとは言えるものの、メグレは出てきません。というか、メグレものはわずか2編。
2人の男の因縁を描いた心理サスペンスに皮肉なオチをつけた2番目の『命にかけて』もおもしろいのですが、ミステリとしてなら、次の『しがない仕立て屋と帽子商』が一番です。後に『帽子屋の幻影』として長編化もされますが、この原型の方がミッシング・リンクをテーマとした純粋なミステリになっています。
続く短い6編の内、メグレの『街を行く男』『愚かな取引』も悪くないのですが、それよりもミステリと言えない残り4編、特に熱帯の雰囲気がいい『寄港地ビエナヴァンチュラ』が気に入っています。


No.531 5点 鬼のすべて
鯨統一郎
(2012/06/19 20:23登録)
読み始めてすぐ、警察官たちの描き方にうんざりさせられました。ほとんどの捜査官によい印象を持てなかったのです。セクハラおやじっぽい植田刑事が一番まともに見えるなんて、どうなっているんだか…マンガ風な書き方と言えそうですが、デフォルメされた絵による表現のない小説では、不自然さを感じるだけです。犯人逮捕場面のための伏線も、あまりに適当。
事件自体は、からくり時計の中から被害者の首が出てくるところから始まり、犯行声明、第2の殺人へと、乱歩の通俗長編なみの派手さです。しかし最後には大げさな犯行の理由もきっちり説明してくれます。途中で何回か挿入される犯人視点の部分で、犯人が子どもの頃いじめられたことが明かされますが、最後に明かされるその理由は意外でしたし、説得力もあります。
動機と関連する「鬼」のテーマを生かすためには、もっと重厚で現実味ある作風の方いいと思えました。


No.530 6点 殺人のH
スー・グラフトン
(2012/06/16 19:49登録)
自動車保険詐取が疑われる事件の調査から始まって、キンジーが警察の囮捜査を手伝う破目になるという展開で、後半は彼女がその詐欺グループと行動を共にする流れになります。というわけで、最後は逮捕に至るわけではありますが、捜査小説よりもむしろ犯罪小説的な話になっています。キンジーが詐欺に加担したりするところ、なかなか楽しく読ませてくれます。
ただし最後のオチは、このストーリーの必要性に根本的な疑念を抱かせるように思えて不満でした。個人的には、ドーラン警部補に少しは活躍の場を与えてもらいたかったですね。最初にちょっと出てきたタイタス副社長の存在は、結局次回作設定のためだけだったようです。
なお、タイトルの「殺人」が重要な要素でない(起こらなくても話は成り立っていた)ところには、Hで始まる他の言葉はなかったのかなと思えました。日本語なら「保険」がそうですけど。


No.529 7点 囁く影
ジョン・ディクスン・カー
(2012/06/12 20:42登録)
その終戦直後の雷雨の日、なぜか殺人クラブには正規会員が誰も来ていなかった。ゲスト3人のみが集まり、数年前に起こった密室殺人の顛末が語られる…
カーの作品を読むと、普通の密室がいかにも魅力的に思えてくるから不思議です。久々に再読した本作でも、章の区切り方とかちょっとした情景描写で、期待を高めてくれるのです。ただし、6割を過ぎたあたりから最初の不気味な雰囲気が薄れ、普通の都会派サスペンス展開になっているのが、ちょっと残念です。
全体的な構造としては、偶然の重なりが新たな事件を引き起こす元になるところ、安易とまでは言えませんが、やはりご都合主義ではあります。ただし終戦直後という時代背景を生かした骨組みは、横溝正史の有名作との共通点も感じさせますが、悪くありません。
第2の事件-殺人未遂の方法も理由も分からないという謎に対する解決もうまく考えられています。またいつものカーとは違ったロマンス味付けも印象に残ります。


No.528 5点 殺意の時刻表
斎藤栄
(2012/06/08 21:42登録)
これは斎藤栄の中でも評価の分かれそうな作品です。まあ高評価派もせいぜい6点どまりでしょうけれど、一方1点以外考えられないという人がいても当然という気がします。
タイトルから『死角の時刻表』みたいな鮎川哲也由来の鉄道利用アリバイ崩しものを予想していると、思いっきり肩すかしをくわされます。ではなぜ「時刻表」なのかと言うと…おっと、これ以上書くとネタバレになってしまいそうです。
余計な付け足しに過ぎない3番目の殺人などやめておいて、その分家族関係について描きこんであれば、この基本的構図なら人情派の感動作にもなり得たかもしれません。しかし作者の文学的感性の欠如では、そのような方向性は求めようもありません。評価分裂の原因である、脱力系と言えなくもない最後の意外な展開(ただし明確な伏線は張ってあります)のみが印象に残る珍品になっています。


No.527 7点 オールド・ディック
L・A・モース
(2012/06/04 21:39登録)
78歳の探偵と言ったって、頭脳派であれば年齢も名前も不詳の隅の老人を始めとして、高齢者は何人もいます。しかし行動派のハードボイルドでは、確かにめったにお目にかかれません。
1981年に発表されてMWA最優秀ペーパーバック賞を受賞した本作はモースの長編第1作ですが、ネオ・ハードボイルド世代作家のようなシリアス路線ではなく、ハメットやチャンドラー、スピレイン等のパロディといった趣があります。書き出しからして、そのことを宣言しているようなものですし、殴られて気絶する部分でも、『さらば愛しき人よ』を思い出すといった調子です。
ストーリーもかなりひねっていますし、ちょっと走ればすぐに息が切れ、足が動かなくなりそうだというジェイク・スパナーのハードな活躍ぶりもよくやるなあという感じ。一方でオブライエン親子の扱いはちょっと感動的です。最後のオチまでなかなか楽しめた作品でした。


No.526 6点 メグレと幽霊
ジョルジュ・シムノン
(2012/05/31 00:06登録)
メグレの直属の部下ではありませんが、『メグレ警視と生死不明の男』等いくつもの作品に登場する、無愛想な刑事ことパリ18区警察署のロニヨンが路上で撃たれて重傷を負うという事件です。
ロニヨンが意識を失う前に呟いた、タイトル(原書も同じ)にもなっている「幽霊」という言葉は、謎めいたメッセージとしては期待を抱かせますが、読了後振り返ってみると、結局彼がその言葉を口にする必然性はあまりないように思えました。事件は夜中の2時頃に起こり、24時間も経たないうちに解決してしまうので、ロニヨンは意識を取り戻す間もありません。まあ目の付け所さえ間違えなければすぐ解決してしまうような、簡単な事件ではあります。
そんなわけで実際の登場場面はないにもかかわらず、手柄をたてようと、同僚たちに何も知らせず一人だけで密かに捜査していたロニヨンの人物像の方が、殺人未遂犯人たちよりも印象に残るような作品でした。


No.525 5点 人間豹
江戸川乱歩
(2012/05/28 20:44登録)
泡坂妻夫のあくまで合理的な『猫女』と違い、本作に登場する悪役は本当にホラー的な存在です。真面目に扱えば『モロー博士の島』みたいにもなりそうに思えます。しかし、事件が終わった後のエピローグになって、一応「人獣混血の説が喧伝された…科学の肯んじない憶測である」という説明がつくだけ。
その荒唐無稽さは、途中でいったん明智の策略にかかって捕えられた人間豹の、安易というか無茶苦茶な逃亡方法にも表れています。『蜘蛛男』等のようなとりあえず納得させる展開など全く無視して、クライマックスのサーカスのテントまで暴走です。逆に縛り上げられてしまった明智の脱出方法の方は、通俗的とは言えさすがに名探偵らしい手際ですが。
こんな事件を引き起こす前に、人間豹とその父親がどんな人生を歩んできたのか、疑問も感じますが、そんなウェルズ的観点はやはり無視しちゃいましょう。


No.524 7点 反射
ディック・フランシス
(2012/05/26 20:08登録)
フランシスはもちろん競馬の専門家で、本作の主人公は騎手ですが、一方アマチュア写真家でもあるという設定で、写真現像等についての専門知識もたっぷり披露してくれます。謎解き要素は、事故死(?)した辛辣な写真家が残した特殊加工フィルムに何が写されているのかの解明に集中しているのです。
派手なアクションやスリルはほとんどありません。最後の方で、主人公が二人のごろつきに痛めつけられる程度。むしろモジュラー型に近い、様々な事件のそれぞれに解決をつけていく構成がおもしろい作品です。ただし複数の事件が、写真家のフィルム等の要素でつながっているところがうまくできています。
邦題「反射」に相当する単語はReflectionですが、原題は “Reflex”。内容に即せばもちろん写真用語で、一眼レフの「レフ」です。「写像」というタイトルはどうでしょうか。


No.523 6点 フレンチ油田を掘りあてる
F・W・クロフツ
(2012/05/26 19:34登録)
実際には油田を掘りあてるのはフレンチではありません。
フレンチが警視になってからの小説は、本作しか読んだことがないのですが、昇進しても彼の捜査方法には何の変化もありません。まあ今回は、上司から地位にふさわしくない仕事かもしれないが、と言われているのですが。一見列車事故と思えた事件にフレンチは疑念を抱き、死体解剖で彼の推測は確かめられます。
途中でホームズもの『プライオリ・スクール』を出してきていますが、ドイル作品を犯行の参考にした経緯と最終的な解決との間に、少々矛盾が生じているように思われます。
たぶん約30年ぶりの再読であるにしても、さっぱり記憶に残っていなかった作品ですが、決してつまらないわけではありません。半分を過ぎてから倒叙ものの要素を取り入れるという展開の工夫もあり、特に目新しいトリックは使われていませんが、なかなか楽しめました。


No.522 5点 猫女
泡坂妻夫
(2012/05/26 19:31登録)
泡坂妻夫が今回テーマとして選んだのは「化け猫」。当然、昔は何度も映画化された鍋島の猫騒動も言及されています。しかし本当に化け猫だったとは…
いや、もちろん合理的な説明はつけてくれるんですがね。しかし、第1章での黒猫出現によるショック死(これは本当に事故というべき偶発事です)から猫の目撃状況にいたるまで、ちょっと偶然が過ぎるように思われます。被害者たちの共通点も偶然。語りの視点は主人公の男に限定され、警察の捜査状況は最終段階に至ってやっと明らかにされるぐらいなのですが、どうもすっきりできません。それでも最初から伏線を堂々と張り巡らしているのは、いかにもこの作者らしいところではあります。
焼物の世界を舞台とし、唯一性を身上とする芸術と大量生産の製品とを比較しているところにも、紋章上絵師でもある作者らしさは表れています。


No.521 7点 土曜日の殺人者
アンネ・ホルト
(2012/05/26 19:25登録)
北欧の警察小説と言えば、スウェーデンのシューヴァル&ヴァールーは個人的に好みの作家なので、それではノルウェーのこの人はどうなんだろうと気になっていた作家でした。
実際に読んでみると、地味なリアリズムのシューヴァル&ヴァールーに比べるとエンタテインメント性が強く、展開もスピーディーな印象でした。女性捜査官が主役であることもあわせて、むしろコーンウェルと共通するものを感じます。ホルトの主役ハンネ・ウィリヘルムセンは警部補ですが。
かなりご都合主義もあり、重要な目撃者の人物設定とか、クライマックスの登場人物たちの行動とか、まあ後者はエンタテイメントらしいサスペンス盛り上げと言えるでしょう。
最後の法律的決着は、西村京太郎、さらに遡ればクイーンの初期某作品でもっとひねった形で出てきた法律アイディアですが、将来のことを考えると、サンド警視正のように機嫌よくしているわけにもいかないと思えます。


No.520 4点 メグレと殺された容疑者
ジョルジュ・シムノン
(2012/05/26 19:22登録)
邦題にもかかわらず、第1章の最後で殺されるキャバレーの経営者は容疑者というわけではありません。3週間ほど前にやくざが殺された事件で、彼は参考人の一人として警察に呼ばれただけです。過去の事件を担当していたリュカもメグレに問われて、容疑者とは全く思っていないと断言しているのです。一方原題の意味は「メグレの怒り」。よく似たタイトルの『メグレ激怒する』という作品もありましたっけ。怒りの対象は殺人犯です。メグレ自身がダシに使われたせいもあるでしょうが、それほど怒らなくても、という気もします。
水商売を手広くやっているにもかかわらず極めて几帳面な被害者とその家族の生活ぶりは、きっちりと描かれているとはいえ、今ひとつ感情移入できませんし、一方の犯人も、上にも書いたようにそれほどひどい人物と思えません。そんなわけでどうも中途半端な印象の残る作品でした。


No.519 5点 黄色い風土
松本清張
(2012/05/26 19:18登録)
これも久々の再読ですが、覚えていたのはラスト・シーンだけで、事件概要も黒幕の正体も全然記憶にありませんでした。確かにこのラストは、今読んでみてもなかなかインパクトがあります。
文庫本で750ページ近い大作で、殺される人間の数も10人という多さです。自殺や事故死に見せかけた溺死が多いのですが、明らかな殺人もあり、犯罪者一味はそれらにどう区別をつけていたのか、考えてみればかなりいいかげんです。まあ論理的に詰めていくと、松本清張作品の大部分はかなり穴があるものですが。またseiryuuさんが指摘されている2つの偶然の内でも、由美のことがわかる方は、いくら何でも安易すぎます。
それでも組織の見当がついてくるあたりまでは、やはりおもしろく読ませてくれたのですが、最後に明らかになる黒幕の正体は、何だかなあという感じでした。
なお、雑誌連載時には『黒い風土』のタイトルだったそうですが、作者が好んで使う「黒」をなぜ「黄色」に変えたのか、不思議な気もします。


No.518 7点 永久の別れのために
エドマンド・クリスピン
(2012/05/26 19:14登録)
クリスピンは、かなり前に『消えた玩具屋』を原書で読み始めたものの、凝った英語表現に音を上げて、すぐに挫折してしまった記憶があるだけだったのです。翻訳でも、やはり凝った文章は少々読みづらい。
この作家についてよく指摘されるユーモアは、本作では地方警察署長が飼っている猫がほとんど引き受けてしまっています。全体的には、容疑者にされた人物の視点から描かれたサスペンスものにも近いようなタッチで、どうやら他の作品とは雰囲気が異なるようです。
解決部分の直前までは、中傷の手紙に悩まされる村の雰囲気、自殺事件を経て、半分近くになって起こる殺人事件、疑惑とサスペンスの盛り上げと、これは傑作だと思いながら読み進めていったのでした。ただ真相を明かされてみると、犯人の設定に多少不満なところもありました。
ところでこの作品、ディケンズ生誕200年で話題の『エドウィン・ドルード』がらみのところがあったんですね。


No.517 7点 ピアニストを撃て
デイヴィッド・グーディス
(2012/04/30 11:03登録)
邦題は、フランソワ・トリュフォー監督による映画タイトルの直訳です。むしろ私小説的な映画が高く評価されている監督で、実際昔見た映画版はさほど感心せず、ほとんど記憶にも残っていませんでした。ただ本作の解説にも書かれているように、確かにトリュフォーにしてはゴダールにも近い即興的演出があったかなという気はします。
で、今回初めて原作を読んでみたわけですが、ヌーヴェル・ヴァーグ風の乾いたそっけない演出(それは確かにハードボイルドやノワールと合いそうなのですが)とは違う、内面的な虚無感を漂わせた作品だと思いました。場末の酒場のピアニストである主人公エディの痛切な心情が、独白的な文章でたっぷりと描かれています。
エディに思いを寄せるどう見ても愚かなウェイトレスも、結局はうまく配されていて、だからこそのラスト・シーンの音楽の切なさには、何とも言えない魅力があります。


No.516 5点 鬼に捧げる夜想曲
神津慶次朗
(2012/04/28 09:51登録)
昭和21年、鬼女伝説のある孤島を舞台に、婚礼を挙げたばかりの新郎新婦が密室で惨殺された…
というわけで、『獄門島』+『本陣殺人事件』ですかと思っていたら、『本陣』が実際にあった事件という設定になっているという横溝正史ワールドべったりです。さらに『蝶々』まで引き合いに出して。
長さはたぶん『犬神家の一族』と同じぐらいでしょうか。しかしそれにしては、事件の進展や捜査過程はずいぶん単純です。本作については文章をけなしている評をかなり見受けますが、この程度の内容でここまで引き伸ばせたという点では、文章力はそれなりにあると思います。わざと古めかしい文体にしているのですが、読みにくいところはありません。時たま珍妙な表現は出てきますが。
全体の2/3ぐらいのところで説明されるダミー・トリックがバカバカしいおもしろさなので、むしろこれをメインにした方がよかったかもしれません。

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