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ミステリの祭典

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死体が空から降ってくる
チビ医者の犯罪診療簿1

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1958年07月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 クリスティ再読
(2022/06/11 11:58登録)
「シムノンの数多い短編中でも最も本格探偵小説的な短編集」とわざわざ銘打った非メグレのシリーズ・キャラクター、「チビ医者」ジャン・ドーランの短編集。二分冊で後編が「上靴にほれた男」になる。都筑道夫が力を入れて紹介するんだけども、日本の「本格の鬼」のマニアの間ではウケが悪くて困る....こんな状況なので、「じゃあ、シムノンでもパズラーっぽい作品ならいいんだろう!」という狙いのようである。実際、本作の紹介のあとは映画がらみがないと、ハヤカワのシムノン紹介が途絶えてしまう...

だから、一応パズラー風味がある作品。でも、読みどころは「チビ医者」という素人探偵が、自分の意外な探偵の才能に気がついて、それをサイドビジネスみたいに生かしたくて、事件に首を突っ込んでいくプロセスの面白味。そんな自意識とヘンなプライドを満たすような成功もあるし、またそれを逆に取られて失敗する話、あるいは解決できるのだけどもそれによってチビ医者が反省することになるような話...いやいやなかなか奥深い。
だから、本作はパズラー風味とはいえ、その「パズラー」の扱いに込められた、シムノンの余裕とヒネった狙いを楽しむ短編集だと思う。

まあ、この本は前半。ということは、まさにチビ医者が自分の意外な「探偵の才」に気がついて、いろいろ試行錯誤するあたり。「上靴にほれた男」じゃ最後は大捜査線の指揮をまかされて「アマチュア探偵の本懐」を遂げるわけだが、本作の失敗も成功もそれぞれに、チビ医者が浮かれたり落ち込んだり、それが楽しい。一番イイ意味で「アマチュア探偵」の面白さを楽しめる。

ミステリ自体としては、新婚夫婦の不和の原因を調査する「十二月一日の夫婦」がリアルでありそうな陰謀で面白い。あと表題作の「死体が空から降ってくる」の田舎地主との駆け引きと、殺人事件の意外な真相。

No.1 6点
(2012/08/21 21:18登録)
田舎の開業医ジャン・ドーランを探偵役にした、謎解き要素の強い短編集の前半6編を収めています。1編平均ハヤカワ・ポケミスで40ページ以上で、全部だと長すぎるため2巻に分けたものです。なお巻末解説では全部で12編としていますが、実際には13編です。シムノンはメグレものを始める直前頃に、『13の秘密』等謎解き要素の強い短編(掌編)集を3冊発表していますが、これらもすべて13編。メグレもの以外の謎解きミステリ短編集については、シムノンは収録作品数にこだわりがあるのでしょうか。
謎解きと言っても、ドーラン医師の推理方法はメグレと同じように事件関係者の立場になりきるというのが中心で、大げさなトリックなどはありません。しかし、どの作品も事件の中心となる謎を明確にした上で、なかなかきれいに解決して見せてくれます。
ただ翻訳については、明らかな誤訳や日本語として変なところも目立ちました。

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