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ミステリの祭典

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メグレとしっぽのない小豚
メグレ警視、ほか

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1955年01月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 クリスティ再読
(2024/03/27 17:35登録)
大昔の早川「シメノン選集」で唯一の短編集。全9編収録で「しっぽのない子豚」という短編が巻頭なんだけど、これにはメグレは出ない。メグレが出演するのは「街を行く男」「愚かな取引」の2作だけで、他の7編には登場しない。えっ?と思って調べたが、実は本書の底本は「Les Petits Cochons sans queue」であり、底本みたいに表示されている「Maigret et les Petits Cochons sans queue」が嘘?というのが面白い。訳書は1955年出版で、底本は1950年刊のフランスで編まれた短編集。直輸入みたいな感覚で底本そのままに訳したが、「メグレ」を表題にしないのは営業上まずい、という判断があったんだろう。

「街を行く男(街中の男)」ならこの表題のフランスミステリアンソロがあるくらいの「メグレらしい」短編。尾行された容疑者が家に帰れず金がなくなって窮迫していくのをメグレがじっと見つめるスケッチ風の話。「愚かな取引」は珍しくナントの機動警察にメグレがいた時期の話。
本書収録作のどれもシャープな切り口が楽しめる。いうまでもなく、シムノンの筆に脂がノリに乗った時期。その中でも最初の3作が長めの作品で、読み応えがある。
「しっぽのない子豚」は新妻が夫のオーバーのポケットから見つけた、しっぽのない子豚の置物に、古美術商の実父の秘密ビジネスとの関わりを察知して心配する話。視点設定が素晴らしいけど、このアイデアならメグレ物で使っても面白いだろう。
「命にかけて」はコンゴでの過去の因縁を引き継いだ男二人の対決! なんちゃってなオチが皮肉。
「しがない仕立屋と帽子商」は「帽子屋の幻影」の元ネタ短編。とはいえ、この短編はシリアルキラーの帽子商の犯行を察知した、小心な移民の仕立屋が訴えようかどうか懊悩する話を、仕立屋視点で描いている。長編が帽子商視点でうまくネタバレしないように描いているのと対照的で、同じ話なのに「二度美味しい」。全盛期のシムノンの切り口のシャープさと腕前に感服する。
他の作品も切り口のうまさ、いきなり核心に話を持っていく語り口のうまさに惚れる。
(国会図書館デジタルコレクションで。巻末の予告には「メグレと不運な刑事」が載っているけど、これは出なかったんだよなあ。祝「シメノン選集」コンプ)

No.1 7点
(2012/06/22 21:33登録)
邦題を間違えているサイトが多いようですが、「子豚」ではなく「小豚」です。小さな陶器製の豚の置物のことなのです。まあ、本書でも目次だけは「子」の字になってしまっているぐらいですからね。収録9編中、最初の3編がかなり長めの短編です。
最初の『しっぽのない小豚』は人情派サスペンスとは言えるものの、メグレは出てきません。というか、メグレものはわずか2編。
2人の男の因縁を描いた心理サスペンスに皮肉なオチをつけた2番目の『命にかけて』もおもしろいのですが、ミステリとしてなら、次の『しがない仕立て屋と帽子商』が一番です。後に『帽子屋の幻影』として長編化もされますが、この原型の方がミッシング・リンクをテーマとした純粋なミステリになっています。
続く短い6編の内、メグレの『街を行く男』『愚かな取引』も悪くないのですが、それよりもミステリと言えない残り4編、特に熱帯の雰囲気がいい『寄港地ビエナヴァンチュラ』が気に入っています。

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