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ミステリの祭典

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煙幕
競馬シリーズ

作家 ディック・フランシス
出版日1978年05月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点
(2019/03/31 22:00登録)
 スタントマン出身の人気映画俳優エドワード・リンカンはスペインでの過酷なロケを終えてバークシャーの我が家へ戻るが、帰宅後まもなく母親代わりの保護者ネリッサ・キャヴィシィに呼び出される。グロスタシャの自宅で彼ら夫婦を出迎えたネリッサは余命いくばくもない事を告げ、エドワードにある依頼をする。
 彼女が南アフリカに所持する持ち馬が不自然な連敗を続け、資産価値がほとんど無くなってしまったのだ。馬たちは去年の冬に亡くなった姉ポーシャの遺産で、夫から受け継いだ財産のすべてと共に、ネリッサに遺されたものだった。彼女の死後には甥のダニロに譲られるが、その前にどういうことなのか調べてほしいのだという。
 彼は固辞するが、しょせんネリッサの頼みを断ることは出来なかった。エドワードは自分のエイジェントに連絡を付け、南アフリカでの映画公開のてこ入れという名目で、一路ヨハネスブルクに飛ぶ。
 1972年発表のシリーズ第11作。「骨折」の次作で、今回の舞台はイギリスではなく英連邦圏の南アフリカ共和国。リセプションでの感電事故から中盤の金鉱山内でのピンチ、冒頭の撮影シーンと重ね合わせたクライマックスでは野生動物保護区、クルーガー国立公園で炎天下の拘束放置と、手を変え品を変え主人公を危険が襲います。
 そもそもの目的である平地競走馬の不調の原因は軽く触れられる程度ですが、それを試みた動機はミステリ的になかなか面白い。実の所はおまけ程度で、真の目的のための撒き餌だったかもしれません。それならば"Smokescreen"という原題にも納得がいきます。
 主人公リンカンは中盤から終盤にかけて犯人にアタリを付けるも決め手がないままいつしか絶体絶命の危機に陥り、最後にはそれを逆手に取って逆転。車内でのサバイバルシーンは尺を取っており読み応えがあります。
 坑道内の描写などもかなり興味深く、全般にリサーチも場面転換も行き届いていて読ませますが、フーダニット寄りで敵役の印象が薄いのが難。ラスト付近の対峙で犯人をもっと強烈に印象付けることが出来れば、ワンランク上の作品になった事でしょう。採点は水準よりやや上の6.5点。

No.1 7点
(2012/08/11 08:50登録)
これは一流と言われるプロフェッショナルに対する讃歌だ、と断言してしまいたい作品です。そのことを端的に示しているのがラスト数行で、最後の決め台詞も、いかにもではありますが、いいなあと思わせられます。そして、フランシス自身一流の作家であるのも間違いのないこと。
プロット自体はいたってシンプルで、えっ、もうクライマックスに突入しちゃったの、と驚かされたほどです。このじわじわとしんどさが増してくるクライマックス部分の描き方はさすがです。しかし一方ミステリ的な点では、馬を不調にする動機がおもしろい程度で、それも考えてみれば少々不自然です。
乗馬スタントマンから出発したスター俳優が主役という点は、ちょっと意外性があります。冒頭シーンは当然のように撮影現場で、競馬とは何の関係もないのですが、映画ファンでもある自分としてはこれだけでもなかなか楽しめました。

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