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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.545 6点 謎まで三マイル
コリン・デクスター
(2012/08/07 20:43登録)
魅力的な邦題ですが、読後に考えてみると適切ではありません。三マイルかかるのは謎そのものではなく、その解明だからです。原題を直訳すれば「三マイル目の謎」で、これはなるほどと思えますが。
それにしても、登場人物が少ない。デクスターなので当然容疑者リストから外せる(少なくとも今まで読んだ作品から判断すれば)警察関係者を除くと、登場人物表に載っているのはたった5人です。まず提出される謎は、首無し死体は誰か、ということです。その謎でじっくりと読ませてくれるのかと思っていたら、2/3を過ぎるあたりから、第2の殺人を手始めに事件は急展開していきます。モース主任警部の推理ではなく、その「そして誰もいなくなった」的な構成にびっくりさせられました。ただ最後の1人についてはあっさりしすぎていて、不満でしたが。
章ごとに小見出しをつけていて、「早く最初の死体に出会いたがっている読者の期待がみたされる」といったお遊びも愉快です。


No.544 5点 夜の触手
大岡昇平
(2012/08/04 11:31登録)
『俘虜記』等戦争文学が有名な大岡昇平は松本清張と同じ年の生まれで、この最初の長編推理小説は1959年に雑誌連載ですから、『点と線』に遅れること約2年。長さは文庫本で200ページちょっとぐらいのものですが、32もの章に細分されています。第8章が、小説タイトルと同じ「夜の触手」。
実はずいぶん以前に1度読んだことがあったのですが、内容は完全に忘れてしまっていました。謎解き要素ということでは、特筆すべきところはありません。作者は清張について、反骨精神を買いながらも、「英米の傑作と比べては、至極お粗末なもの」とまで書いていますが、それにしてはトリックなどのアイディアは『点と線』等清張作品に比べてもお粗末なものです。もちろんそれ以外のところで見るべきところはあり、作者が描きたかったのであろう人間関係だけでなく、真犯人を追い詰める捜査過程も悪くはありませんでした。


No.543 5点 メグレと宝石泥棒
ジョルジュ・シムノン
(2012/08/01 08:34登録)
現在メグレもの長編は原作発表順に再読していっていますが、前作の続編ともいうべきストーリーになっているのは、本作が初めてです。その前作『メグレたてつく』の完全ネタばらしまで第1章でしてしまっているので、未読の方はご注意を。
頻発する宝石泥棒の事件は前作の時から問題になっていて、前作は、その捜査の途中でメグレが全く別の事件に巻き込まれる話でしたが、今回は宝石泥棒事件の最終決着です。メグレが長年その首謀者とにらんでいた男が殺され、それを契機にすべてのからくりが明らかになります。出来が悪いというわけではないのですが、事件の重要な関係者の人物像の描き方が、この作家にしてはいまひとつ迫ってこないように感じました。
原題の意味は「メグレの忍耐」。宝石泥棒事件を長年追ってきたメグレが、最初の方で「私は我慢強いのです」と局長に言うところがあります。


No.542 6点 死の猟犬
アガサ・クリスティー
(2012/07/28 11:57登録)
戯曲化、映画化(ビリー・ワイルダー監督の『情婦』)で有名な『検察側の証人』の原作は、30数ページ程度の短編です。全体的な構成はさすがですが、短くまとめすぎていてどんでん返しがあわただしくなり、物足らないような気もします。
収録作のうちこの作品を除く他の11編すべてが超常現象がらみということでも、クリスティー短編の中でも特に有名なこの作品は、集中で目立つ存在になっています。まあ他の作品も、超常現象と言っても中にはディクスン・カーのような見せかけだけのタイプもありますが。
多重人格(短編集発表が1933年ですよ!)に対するある解釈『第四の男』、現象から予測はすぐつくものの、最後のひねりがうまい『ラジオ』、痛快とも言える『青い壺の秘密』あたりがよくできていると思います。ただ個人的には、完全に幽霊ホラー系の『ランプ』が怖さと哀しさをあわせ備えていて、一番好きな作品です。


No.541 6点 逃げられない女
フランセス・ファイフィールド
(2012/07/25 20:30登録)
ファイフィールドの公訴官ヘレン・ウェスト・シリーズについては、本作を読んで初めて知ったのですが、邦題はすべて「~女」で統一されています。で、原題はと見ると、特に統一性はありません。本作の場合「影絵遊び」というわけで、邦題よりも内容に則しています。
コーンウェルあたりと共通する感じなのか(イギリス作家ですから地味ではあっても)と思っていたら、全然違っていました。訳者あとがきによると本作は特に異色作のようではありますが、警察小説系ではなくて、完全にサスペンスものです。ヘレンもいわゆる探偵役ではありません。犯罪者、ヘレン、さらに実質的な主人公ともいうべきローズの視点を中心としながら、細かく(数ページごとに)様々な登場人物の視点を切り替えていく手法で、特に前半はミステリ的要素が少ないストーリーが語られます。ローズが、読者には早い段階で明かされる秘密を周囲の人に長く隠しすぎかな、と思えますが、まあ。


No.540 5点 三毛猫ホームズの怪談
赤川次郎
(2012/07/21 10:50登録)
ご存じシリーズの第3作です。
猫の化身のような女に片山刑事が夜行列車の中で出会うプロローグの後、本筋西多摩のニュータウン近くにある村の<猫屋敷>で起こった殺人事件の関係者の一人が彼女だったというつながりが出てきます。
ただしそのつながり方は、結局偶然だったのか、なぜその列車に乗っていたのか等あいまいなままでした。その他にも、死体検査で当然ばれるはずの偽装工作があったり、それだけの人を完全に説得できるのかと思えるところがあったり、ある人物の行動が事件を混乱させるためのご都合主義としか思えなかったり、結局何のために傷口に細工をしたのかあいまいだったり、片山刑事の無茶な女難の意味が結局不明だったり、終わってみれば突っ込みどころ満載です。
それでも、横溝正史風とも見える最初の事件から、猫の祟りがささやかれる展開が赤川タッチで描かれているのは、とりあえず楽しめました。


No.539 7点 ヒルダよ眠れ
アンドリュウ・ガーヴ
(2012/07/18 21:22登録)
以前は「悪女もの」の代表作の1つのように言われていた作品で、旧訳で最初に読んだ時には、ちょっと違うかなとも感じたのでした。
ところが数年前に出た新訳版では、カバー作品紹介には「悪女」という言葉はありませんし、巻末解説でもほとんど見落としそうなぐらいさりげなく1ヶ所出てくるだけです。最初に殺されるヒルダの特異な人物像が、現代では一般的にもよりよく理解されるようになったということでしょう。彼女には決して悪意があるわけではありません。悪意というのは、人が自分と異なることを認識できるからこそ、抱けるものですが、彼女はただ自分とは異なる他者の存在が理解できないのです。解説では「ゾンビさながらのモンスター・ペアレント」と言っています。
アイリッシュの『幻の女』とプロットに共通点があることが指摘されていますが、アイリッシュ・タイプの刺激的なサスペンスを期待するのは、的外れです。


No.538 7点 メグレたてつく
ジョルジュ・シムノン
(2012/07/14 20:52登録)
メグレが自宅に帰ってきて、奥さんに今扱っているのは「メグレ事件だ」と言うところがありますが、タイトルもこれに合わせて「メグレ自身の事件」とでもしてもよかったかもしれません。メグレ自身が身に覚えのない罪を着せられそうになるという事件です。パリ警視庁(司法警察)局長は(世代交代もあります)、他の作品にもよく出てきますが、今回メグレを呼び出すのは警視総監です。別の建物の警視総監官房というところにいるということです。
政治家が圧力をかけてきたわけですが、総監から手を出すなと言われているにもかかわらず調べていくと、メグレを陥れようとしている理由はどうも政治がらみではないらしいということになってきます。最後に真相が明らかになってみると、ある偶然と誤解がきっかけになっていたのでした。メグレのたてつきっぷり、犯人の不思議な感じのする性格設定など、かなり楽しめる作品でした。


No.537 5点 能登の密室
津村秀介
(2012/07/11 00:09登録)
タイトルの密室は、オート・ロックでないホテルの部屋を利用したものですが、どうということもないトリックで、しかも気づかれれば犯人に直接つながる証拠がすぐに見つかってしまうという問題を抱えた方法です(実際にそういう話になります)。それよりもメインになるのはアリバイ崩しです。作中では列車を密室に見立てたりもしていますが、それはこじつけでしかないでしょう。
作者は鮎川哲也から多大な影響を受けたそうですが、アリバイというだけでなく、容疑者を絞り込んでいくあたりの展開も、ちょっと感心させてくれました。偽アリバイの構築方法も、凝ったことをやってくれていますが、鮎川と比較すると、トリック解明のプロセスに論理性が乏しい点、不満が残ります。また複雑な方法を採った理由が不明確で、推理小説というよりトリック小説になっているのが、クイーン好きの鮎川とは違うところです。


No.536 6点 薔薇荘にて
A・E・W・メイスン
(2012/07/07 12:10登録)
1910年発表作なので、複雑な謎解きは期待していなかったのですが、全体的にはかなり楽しめました。
アノーがその人物を怪しむきっかけになったある証言は、最後になって実は、と明かされるだけです。まあその証言はあまりに直接的なので、読者に早い段階で知らせるわけにもいかなかったでしょうが。
また論理性の面で、甘いところがあります。犯人の一人は被害者に招待されるのですから、薔薇荘に手引者が住んでいる必要はありませんし、玄関ではなく窓から出たことについては疑問視されてしかるべきです(理由は最後に示されますが)。
しかし犯罪計画の全体的な構成、苦境に陥った犯人の機転など、なかなかよくできています。事件解決後に、当夜の出来事を関係者の視点からかなりのページを費やして描いているのも、悪くないと思いました。
しかしアノーはパリ警視庁の探偵というだけで、地位もファースト・ネームも明かされないというのは…


No.535 7点 友よ、戦いの果てに
ジェイムズ・クラムリー
(2012/07/03 21:30登録)
訳者あとがきで、本作に対する表層的な批判として紹介されている「老ランボーのハチャメチャ活劇」という言葉は当たっているのではないかと思えます。けなしているのではありません。まさに文学派ハードボイルドな語り口で、前半はゆったりした地味めの展開であるにもかかわらず、ド派手な活劇にまでエスカレートしてしまうところがおもしろいと思えるのです。まあ最初の方で登場する人物の意味を考えると、とんでもないアクションになりそうな予感はあるのですが。
それでも、あれは結局使われなかったなぁ。ちょっと期待もしたのですが。そのかわり、原題のメキシカン・ツリー・ダック(鴨の一種)を模った工芸品が、最後になって重要な役割を果たします。
主役のシュグルーのみならず、登場人物の大半が覚醒剤やコカインづけという世界ですので、生理的に受け付けない人もいそうです。個人的にはそれより、事件全体の組立がどうも不明瞭なところが気になりましたが。


No.534 4点 赤岳殺人暗流
梓林太郎
(2012/06/30 12:00登録)
山岳ミステリの専門家ということで著書もかなりの数にのぼりますが、今まで読んだことがないどころか、名前も最近まで知らなかった作家です。
プロローグの遭難事故の後、殺人事件が発生してすぐ、2つのつながりはこれ以外ないだろうと予想できます。作中の警察も間もなくそのことに考えつき、容疑者は早い段階で1人に絞られます。さらに動機も自然にわかってきて、以前に起こった別の殺人事件との関係も明らかに…という展開です。で、後は容疑者がどうやって被害者を特定できたのかというところがポイントになってきます。それらの捜査が淡々と描かれていくのですが、平凡な作品という印象はぬぐえませんでした。
巻末解説では、この作家の特徴として人物造形の巧みさと的確な心理描写を挙げていますが、プロットだけでなく文章もあっさりと薄味すぎるように思えました。


No.533 7点 本命
ディック・フランシス
(2012/06/26 23:13登録)
いかにもディック・フランシスらしい作品を求めるのであれば、確かに本作はふさわしくないでしょう。まず主人公が最初から警察と連絡を取りながら事件の裏を追っていくという点が、後続作品と違います。また現在までに読んだ7冊の中では、ホームズとかチェスタトンといった過去の探偵・作家名を引き合いに出しているのも本作だけです。それだけに、主人公の推理は時にクイーンをも思わせるほど論理的なところがあります。そう言えば、綴りはわかりませんし姓ですが、エラリイという名前の人物も登場します。語り口にもユーモアがあったりして、爽やかな雰囲気が感じられます。
しかし、フランシスの出発点はここだという意味では、本作をまず手に取るのもいいのではないでしょうか。最後まで謎解き的な興味も、サスペンスやアクションも続く秀作です。犯人側の人物の行動で1ヶ所、これはさすがにあり得ないというところはありますが。


No.532 7点 メグレとしっぽのない小豚
ジョルジュ・シムノン
(2012/06/22 21:33登録)
邦題を間違えているサイトが多いようですが、「子豚」ではなく「小豚」です。小さな陶器製の豚の置物のことなのです。まあ、本書でも目次だけは「子」の字になってしまっているぐらいですからね。収録9編中、最初の3編がかなり長めの短編です。
最初の『しっぽのない小豚』は人情派サスペンスとは言えるものの、メグレは出てきません。というか、メグレものはわずか2編。
2人の男の因縁を描いた心理サスペンスに皮肉なオチをつけた2番目の『命にかけて』もおもしろいのですが、ミステリとしてなら、次の『しがない仕立て屋と帽子商』が一番です。後に『帽子屋の幻影』として長編化もされますが、この原型の方がミッシング・リンクをテーマとした純粋なミステリになっています。
続く短い6編の内、メグレの『街を行く男』『愚かな取引』も悪くないのですが、それよりもミステリと言えない残り4編、特に熱帯の雰囲気がいい『寄港地ビエナヴァンチュラ』が気に入っています。


No.531 5点 鬼のすべて
鯨統一郎
(2012/06/19 20:23登録)
読み始めてすぐ、警察官たちの描き方にうんざりさせられました。ほとんどの捜査官によい印象を持てなかったのです。セクハラおやじっぽい植田刑事が一番まともに見えるなんて、どうなっているんだか…マンガ風な書き方と言えそうですが、デフォルメされた絵による表現のない小説では、不自然さを感じるだけです。犯人逮捕場面のための伏線も、あまりに適当。
事件自体は、からくり時計の中から被害者の首が出てくるところから始まり、犯行声明、第2の殺人へと、乱歩の通俗長編なみの派手さです。しかし最後には大げさな犯行の理由もきっちり説明してくれます。途中で何回か挿入される犯人視点の部分で、犯人が子どもの頃いじめられたことが明かされますが、最後に明かされるその理由は意外でしたし、説得力もあります。
動機と関連する「鬼」のテーマを生かすためには、もっと重厚で現実味ある作風の方いいと思えました。


No.530 6点 殺人のH
スー・グラフトン
(2012/06/16 19:49登録)
自動車保険詐取が疑われる事件の調査から始まって、キンジーが警察の囮捜査を手伝う破目になるという展開で、後半は彼女がその詐欺グループと行動を共にする流れになります。というわけで、最後は逮捕に至るわけではありますが、捜査小説よりもむしろ犯罪小説的な話になっています。キンジーが詐欺に加担したりするところ、なかなか楽しく読ませてくれます。
ただし最後のオチは、このストーリーの必要性に根本的な疑念を抱かせるように思えて不満でした。個人的には、ドーラン警部補に少しは活躍の場を与えてもらいたかったですね。最初にちょっと出てきたタイタス副社長の存在は、結局次回作設定のためだけだったようです。
なお、タイトルの「殺人」が重要な要素でない(起こらなくても話は成り立っていた)ところには、Hで始まる他の言葉はなかったのかなと思えました。日本語なら「保険」がそうですけど。


No.529 7点 囁く影
ジョン・ディクスン・カー
(2012/06/12 20:42登録)
その終戦直後の雷雨の日、なぜか殺人クラブには正規会員が誰も来ていなかった。ゲスト3人のみが集まり、数年前に起こった密室殺人の顛末が語られる…
カーの作品を読むと、普通の密室がいかにも魅力的に思えてくるから不思議です。久々に再読した本作でも、章の区切り方とかちょっとした情景描写で、期待を高めてくれるのです。ただし、6割を過ぎたあたりから最初の不気味な雰囲気が薄れ、普通の都会派サスペンス展開になっているのが、ちょっと残念です。
全体的な構造としては、偶然の重なりが新たな事件を引き起こす元になるところ、安易とまでは言えませんが、やはりご都合主義ではあります。ただし終戦直後という時代背景を生かした骨組みは、横溝正史の有名作との共通点も感じさせますが、悪くありません。
第2の事件-殺人未遂の方法も理由も分からないという謎に対する解決もうまく考えられています。またいつものカーとは違ったロマンス味付けも印象に残ります。


No.528 5点 殺意の時刻表
斎藤栄
(2012/06/08 21:42登録)
これは斎藤栄の中でも評価の分かれそうな作品です。まあ高評価派もせいぜい6点どまりでしょうけれど、一方1点以外考えられないという人がいても当然という気がします。
タイトルから『死角の時刻表』みたいな鮎川哲也由来の鉄道利用アリバイ崩しものを予想していると、思いっきり肩すかしをくわされます。ではなぜ「時刻表」なのかと言うと…おっと、これ以上書くとネタバレになってしまいそうです。
余計な付け足しに過ぎない3番目の殺人などやめておいて、その分家族関係について描きこんであれば、この基本的構図なら人情派の感動作にもなり得たかもしれません。しかし作者の文学的感性の欠如では、そのような方向性は求めようもありません。評価分裂の原因である、脱力系と言えなくもない最後の意外な展開(ただし明確な伏線は張ってあります)のみが印象に残る珍品になっています。


No.527 7点 オールド・ディック
L・A・モース
(2012/06/04 21:39登録)
78歳の探偵と言ったって、頭脳派であれば年齢も名前も不詳の隅の老人を始めとして、高齢者は何人もいます。しかし行動派のハードボイルドでは、確かにめったにお目にかかれません。
1981年に発表されてMWA最優秀ペーパーバック賞を受賞した本作はモースの長編第1作ですが、ネオ・ハードボイルド世代作家のようなシリアス路線ではなく、ハメットやチャンドラー、スピレイン等のパロディといった趣があります。書き出しからして、そのことを宣言しているようなものですし、殴られて気絶する部分でも、『さらば愛しき人よ』を思い出すといった調子です。
ストーリーもかなりひねっていますし、ちょっと走ればすぐに息が切れ、足が動かなくなりそうだというジェイク・スパナーのハードな活躍ぶりもよくやるなあという感じ。一方でオブライエン親子の扱いはちょっと感動的です。最後のオチまでなかなか楽しめた作品でした。


No.526 6点 メグレと幽霊
ジョルジュ・シムノン
(2012/05/31 00:06登録)
メグレの直属の部下ではありませんが、『メグレ警視と生死不明の男』等いくつもの作品に登場する、無愛想な刑事ことパリ18区警察署のロニヨンが路上で撃たれて重傷を負うという事件です。
ロニヨンが意識を失う前に呟いた、タイトル(原書も同じ)にもなっている「幽霊」という言葉は、謎めいたメッセージとしては期待を抱かせますが、読了後振り返ってみると、結局彼がその言葉を口にする必然性はあまりないように思えました。事件は夜中の2時頃に起こり、24時間も経たないうちに解決してしまうので、ロニヨンは意識を取り戻す間もありません。まあ目の付け所さえ間違えなければすぐ解決してしまうような、簡単な事件ではあります。
そんなわけで実際の登場場面はないにもかかわらず、手柄をたてようと、同僚たちに何も知らせず一人だけで密かに捜査していたロニヨンの人物像の方が、殺人未遂犯人たちよりも印象に残るような作品でした。

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