home

ミステリの祭典

login
空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1530件

プロフィール| 書評

No.570 6点 シャーロック・ホームズの事件簿
アーサー・コナン・ドイル
(2012/11/01 20:13登録)
知名度抜群のミステリ古典と言えばやはりホームズ。何編かは子ども向け版で読んでいたのですが、本短編集12編を通して読むのは今回が初めてでした。
原題は、有名な『ソア橋』以外すべて、"The Adventure of ~" となっています。その『ソア橋』は "The Problem of Thor Bridge" ですから、後期作品中特にトリッキーな作品だけのことはあると納得の原題です。
確かに『三人ガリデブ』は二番煎じですし、平凡な話も多いし、といった不満はあります。むしろチャレンジャー教授向きと思えるのまで入っています。しかし、『白面の兵士』と『ライオンのたてがみ』をホームズ自身が執筆したという体裁にする(ホームズの言い訳が笑えます)など、語り方に変化を持たせてもいます。『マザリンの宝石』は三人称形式ですが、だからこそ可能なオチを用意しています。ワトソン手記では『サセックスの吸血鬼』、それに最後の『隠退した絵の具屋』も好きですね。


No.569 6点 ケープ・フィアー 恐怖の岬
ジョン・D・マクドナルド
(2012/10/30 21:07登録)
ロス・マク好きであるからには、ロス・マクの筆名変更のせいで混同されたこともあったというこの人のも当然読んでいなければ、と思いながらも、Amazonの古本を買うほどではないかなという状態のままだった作家です。スコセッシ監督の映画は見ていたのですが、当時は原作者がこの作家だということにも気づかず。
そんなわけで今回やっとジョン・D初読ですが、まず意外だったのが、デ・ニーロ演じる悪役と、彼に苦しめられる弁護士との関係が全然違っていたことです。清張の『霧の旗』をも連想させ、悪役の異常さが際立っていたスコセッシ版に比べると、原作の設定は弁護士を始める前の被告人と証人というありふれた関係です。最初の映画化版『恐怖の岬』の粗筋を読むと、これは原作と同じでした。また、クライマックスは「岬」とは全く関係ありません。
弁護士夫婦のなれ初めの追憶まで入れるという、かなりじっくり描きこまれたサスペンスでした。


No.568 6点 よろずのことに気をつけよ
川瀬七緒
(2012/10/27 19:59登録)
呪術をからめた殺人というので、横溝正史系統なのかと思っていたのですが、かなり違っていました。2011年度乱歩賞受賞作ですから、現代的なタッチがあるのは当然ですが、それはともかくとして。
まず、全体構造がパズラーになっていないのです。ノックスの十戒を引き合いに出すまでもなく、真犯人は巻半ばぐらいまでには登場してこなければならない、というパズラーどころか社会派やハードボイルドでもたいてい守られている法則を無視しています。呪術の扱いもホラー的というより、主人公が文化人類学者だけにアカデミックで厳密です。まあ京極夏彦によると呪術に対する認識に致命的と言えるほどの瑕疵があるそうですが。
主人公に相談に来る真由のキャラがなかなかユニークに描けていますし、後半地方を飛び回るようになってからは雰囲気とサスペンスがきいていて、なかなか楽しめました。


No.567 7点 直線
ディック・フランシス
(2012/10/22 20:52登録)
直線ねえ、というのが読み終わって感じたことでした。と言っても原題”Straight”を内容に則した「実直」と訳したのでは、確かに冴えませんが。作中の言葉を使えば、主人公や冒頭で事故死する主人公の兄の「まとも」さということです。競馬の直線コースとは何の関係ありません。
騎手であるその主人公は最初から落馬で左足を骨折していて、動くのにも不自由ですから、彼自身はハードなアクションはほとんどできません。宝石商だった兄が死の直前に取り扱っていたダイヤの行方、強盗事件、さらに書き出し1段落で予告してある主人公が殺されそうになる事件、それらの謎の真相はどれもたいしたことはないのですが、うまく絡めてサスペンスもあり、最後までおもしろく読ませてくれます。
兄が様々なハイテク機器に興味を持って集めていたので、後になってそれらが活用されるのではと思っていたのですが、当然の一つだけだったのが、少々残念。


No.566 6点 メグレの財布を掏った男
ジョルジュ・シムノン
(2012/10/18 20:10登録)
早春のパリの明るい雰囲気から始まる作品です。タイトルどおり、バスの中でメグレが身分証明のメダルも入れた財布を掏られるのが事件の発端ですが、これもユーモラスな筆致で描かれています。
ところが死体が発見され検死が終わった後は、何となく初期作品を思わせるような雰囲気になってきます。メグレと顔なじみの男が経営するレストランでの食事風景にもそんなところがありますが、特にラストの中庭での会話から殺人事件のあったアパートに踏み込むあたりの情景に、雰囲気小説とも言われていた時期に近い味があるのです。これを後ろ向きと批判する人もいるでしょうか。
真相自体はオーソドックスなパターンにはまっている上、メグレも途中でそのことを気にしているので、すぐに見当がつくでしょう。まあ、意外性より犯人の心理に対するメグレの最後のセリフが印象に残るような作品ではあります。


No.565 7点 鬼畜の家
深木章子
(2012/10/14 14:10登録)
4章に大きく分けられたうち、第1章と第3章は証人たちが話した内容のみで構成されています。その最初の証人である医者の話で読者の興味を引きつけておいて、二人目の証人の話で、タイトルの意味が示されます。さらに三人称形式の第2章で私立探偵の依頼人が登場してくると、事件の全体像が見えてきます。ここまでが、異様な家族の人間関係を描き出していておもしろいのです。人によっては、こんな不愉快なのはいやだというかもしれませんが。
その後、それまで築き上げてきたものに疑問を持たせ、意外な結末を付ける段取りになってきます。読み進んできて面食らうのが、第3章における某証人の話。最後にこの証人の話が二重の意味でうまく回収されているところには、感心しました。
ちりばめられていた手がかりはあまり冴えませんが、元弁護士らしい相続や慰謝料の問題も絡めていて、全体的にはなかなかよくできていると思いました。


No.564 7点 偽りの契り
スティーヴン・グリーンリーフ
(2012/10/11 20:06登録)
私立探偵タナーのシリーズを読むのはこれが2冊目ですが、親しい人からはマーシュと呼ばれている理由が、このシリーズ10作目では説明されています。以前には触れられてなかったのでしょうか。
今回は代理出産に関わる事件で、タナーは代理母に選ばれた人物が本当に信頼できるかどうかの調査を依頼されます。しかし半分にもならないうちに明かされる事実からすると、タナーに調査を依頼する必要があったと思えないのが、疑問点として残ります。
チャンドラー、ケイン、スピレインの名前も引き合いに出されていますが、富豪家族の隠された過去が現在に影を落としているという構図からして、最も近いのはやはりロス・マクでしょう。似すぎて、しかも年代的にも近いのであえて名前は出していないのだと思われます。といっても、ロス・マクほど複雑ではありません。構造は単純だけれどもどんでん返しはある結末になっています。


No.563 6点 裁くのは俺だ
ミッキー・スピレイン
(2012/10/07 11:32登録)
この作家もぜひ読んでおかなければとずいぶん前から思っていながらも、やっと初読したスピレイン。
意外だったのが、マイク・ハマーの女性に対するモラリストぶり。文章については、ハメットやチャンドラーとは比較できないとしても、ハドリー・チェイスほどの迫力が感じられないのは、ちょっとつらいところでしょうか。
ハマーを始めとする登場人物のキャラクターにしても文章にしても、まさに通俗ハードボイルドという呼称がふさわしい内容です。ただしストーリー展開は、miniさんも書かれているように意外に正統派ミステリっぽいところを持っています。
発表当時ブーイングを巻き起こすインパクトを放っていた作者の暴力や性に対する感性も、落ち着いてごく普通に楽しめるようになってしまったことには多少悲しみを感じながらも、このある意味「古典」にやっと接することができたことにとりあえず満足して…


No.562 7点 仮面法廷
和久峻三
(2012/10/05 19:41登録)
土地売買をめぐる詐欺から殺人事件へと、事件は進展していきます。この最初の殺人事件の被害者が誰かという点もかなり意外ですし、刑事事件だけでなく民事訴訟もからめたところが、いかにも弁護士作家らしい発想です。当然殺人事件の裁判も読みどころの一つではありますが、むしろ民事訴訟の行方の方がおもしろいくらい。まあこれは、ミステリに何を求めるかによって評価がわかれるかもしれません。
密室殺人については合鍵の有無に関する議論が不足しているため、不可能性が明確でないのが少々不満ではあります。また針金のこういう使い方はあまり好きではないのですが、考えてみれば密室にした理由がそれでうまく説明できる点は、高く評価できます。
弁護士作家ならではの逆転の発想の意外性には、全く別の観点から犯人を特定できた後だったにもかかわらず、なるほどと感心させられました。


No.561 7点 別れの顔
ロス・マクドナルド
(2012/09/30 18:54登録)
盗まれた金の函の捜査から始まる事件は、最初の殺人を手始めに、次から次へと関係者を増やしながら、意外な方向へ複雑な展開を示していきます。誰と誰がどうつながっているのだか、途中でストーリーを整理しながら読み進めないと、よくわからなくなってしまいます。最初の方で、これは重要な要素なんだろうなと思ったことがあったのですが、話が広がっていくうちにいつの間にか忘れかけていました。
そのややこしい事件も、最後にある登場人物の重要な秘密が明かされることによって、一気に解決していきます。ただし第1の殺人事件については、結局犯行の状況はあまり明確にされません。犯人は間違いなくこの人物だろう、ということにはなるのですが。犯人の最後の行動も、そうならざるを得ないかなあとは思うのですが、なんとなくもやもや感が残ります。とりあえずこの後、若い2人に救いのある未来を願って…


No.560 6点 メグレと賭博師の死
ジョルジュ・シムノン
(2012/09/27 21:40登録)
メグレの友人パルドン医師の奇妙な体験から始まる作品です。それが殺人事件と関連してくるところは、非常にあっさりしています。
作中で、「ナウール事件」として報道されたことが述べられていて、原題も「メグレとナウール事件」となっています。被害者の名前ですが、この男はルーレット等に対して数学的(確率的?)なアプローチをするプロの賭博師という設定です。しかし、ツキとかでなく数学的なことを言い出せば、カジノでの賭博なんてバカバカしいと思えるのですが。ともかく、そのナウールが自宅で殺された事件で、容疑者はほとんど最初から3人に限定されています。
犯人逮捕後、裁判でメグレが証言して有罪判決があるところまで、簡単にではありますが描かれているのは、シムノンに限らず珍しいことではないでしょうか。それにはテーマ的な理由があり、最後のメグレの一言が苦い味わいを出しています。


No.559 4点 「黒い箱」の館
本岡類
(2012/09/23 12:29登録)
なんとも気楽に読める小説でした。田舎の旧家で起こる連続殺人で、3代にわたる呪いなんて話も出てきますが、作者自身意識していることを1ページ目から認めている横溝正史とは、全然雰囲気が違います。だいたいタイトルの「館」が新築の現代的な建物なのですから、ギャップ感は意図的です。
最初の「自殺」事件のトリックは、その道具を使うというアイディアは悪くないと思いますが、実現のための詰めがあまりに甘い。あれを切り取るというのが何を意味するか、考えてみてください。道具の置き場所も不明なままですし、計算根拠にも誤りがあります。
また第2の事件については、方法はわからなくても犯人は当然この人物だろうなとすぐに気づいてしまいます。犯人の狙いが見え透いているのです。
ところで探偵役の水無瀬が冒頭で読んでいた横溝正史の文庫本が何だったのか、ちょっと気になりますね。


No.558 7点 スーパー・カンヌ
J・G・バラード
(2012/09/20 20:52登録)
現代社会病理をテーマとした小説が多いバラードですが、前作『コカイン・ナイト』と同工異曲という意見もある作品です。ただし読み終えてみると、むしろ本作の方が前段階と言ってもいいようにも思えました。登場人物の一人が、最後の方になって『コカイン・ナイト』的な台詞を言うのです。
バラードはある意味クローズド・サークルを描く作家です。とは言っても、彼が取り扱うのは一つの地域、コミュニティー全体。ミステリ界から強いて似た傾向を挙げれば、クイーンの『ガラスの村』や『第八の日』あたりでしょうか。
ラストについては、訳者あとがきによると「そうくるか!と膝を叩いた人と、これはどうしたことだ!と激怒した人に」評価が分かれたそうですが、早い段階から、この作家なら結局そうなるんじゃないかとは思っていました。いわゆる意外な結末を期待しているわけではないので、いいのですが。


No.557 6点 青列車は13回停る
ボアロー&ナルスジャック
(2012/09/17 08:29登録)
パリとフランス南東部マントンとの間を走る特急「青列車」と言えば、クリスティーにもこの列車を舞台にした長編がありましたね。その青列車が停まる13の市を舞台にした短編集といっても、中にはただその町で事件が起こるというだけで、青列車どころか駅さえ出てこない作品もいくつかあります。また、その地方を舞台とする必然性を感じないものが多いです。
連作ではありますが、統一性よりもバラエティに富んだ短編集になっています。不可能犯罪の謎解きものならばトゥーロンとニースの2編、狂気の屁理屈がサスペンスを高めるリヨン、人情派風な後味がいいサン・ラファエルとカンヌ、皮肉なツイストが効いたマルセイユとモンテカルロなど、様々な趣向が楽しめます。
個人的には、どうということもないシンプルな内容ながら、夫の毒殺にゆれる人妻の心理を描いた、冒頭のパリが好みです。なお、メインの事件が実際に青列車内で起こるのはこの作品のみ。


No.556 6点 女郎蜘蛛 伊集院大介と幻の友禅
栗本薫
(2012/09/13 20:50登録)
伊集院大介シリーズは、だいぶ前に1冊番外編的なのを読んだことがあるだけ。
かなりの大作です。まあ、長いのが得意な作家ではあります。長くなっているのは、着物、その中でも当然友禅が中心になるわけですが、それに対する薀蓄が延々と書かれているからです。複数の登場人物が自分の言葉で似たようなことを語るのを積み重ねていくわけで、その意味では実にわかりやすい着物講座です。また、主要登場人物たちはなかなか個性的に描かれていて、そこも読みどころです。
タイトルにもなっている女郎蜘蛛になぞらえられる人物が事件の中でどんな役割を演じているのかについては、読み終えてみると、はぁそうなるんですねという感じですが、まあこれはこれで問題ないと思います。ただ最初の殺人の真相が、かなり安易です。なぜ安易なのかという点は納得できなくはないのですが、ミステリなんですから。


No.555 5点 殺人犯はわが子なり
レックス・スタウト
(2012/09/10 21:15登録)
最初の設定がおもしろい作品です。失踪人(というか11年前に追い出した息子)探しの事件から、邦題どおりの状況の意外な展開になるところがうまくできているのです。ネロ・ウルフがとりあえず依頼人にはどうなっているかを隠したまま調査を続ける理由も納得できます。スタウトらしいウィットに富んだ表現は、個人的には少々気取りすぎと思えるところもありますが、まあいいでしょう。
殺人事件の概要は早いうちからわかるものの、容疑者になりそうな人物はなかなか登場しません。登場した後も、ネロ・ウルフの家に集まるシーンでうまく描写されているところがあるとはいえ、それぞれの人物像が今ひとつはっきりしないように思えました。
事件が立て続けの連続殺人にまで発展していくわりには、最後の解決部分には特に意外性もありませんし、論理性にも見るべきところはありません。竜頭蛇尾とまでは言いませんが、どうも…


No.554 5点 上靴にほれた男
ジョルジュ・シムノン
(2012/09/07 16:59登録)
チビ医者の犯罪診療簿の第2巻で、7編が収録されています。最初の『オランダ人のぬれごと』の冒頭に登場するのはメグレものでもおなじみのリュカです。トランス刑事の名前も出てきますが、メグレもの常連とはイメージが違うような…
犯罪診療簿も後半に入って、名探偵として知られるようになったジャン・ドーラン医師、パリなどへ事件の依頼を受けて出かけていくようになります。7編中最も気に入ったのは『提督失踪す』。ごく短時間での不思議な人間消失事件の上に、さらに1件人間消失が起こる展開で、解決もなかなか鮮やかにうまく処理してくれています。『非常ベル』はこのシリーズ中の異色作というべきで、謎解き要素もありますが、むしろドーラン医師の身に迫る危険のサスペンスが中心になっています。
最後の方になると、多少息切れが感じられるところもありますが、全体的にはそれなりに楽しめました。


No.553 6点 招かれざる客
笹沢左保
(2012/09/03 20:38登録)
久々に再読してみると、笹沢左保も最初はこんながっちりした渋めの本格派を書いていたんだなあと多少びっくりさせられました。特に第1部後半は警察の調書をそのまま載せたという体裁です。
メインのアリバイ・トリックは、気づかれる危険性がかなりあったのではないかという点が気になりましたが、おもしろいアイディアではあります。シンプルな暗号は、一般読者にとっては変換方式がわかるはずがありませんが、これはこれでいいと思います。第2の殺人の手順については、犯人の計画に、都合の良い偶然がなければ成り立たない部分があるのがちょっと不満です。
渋めといっても、最後の方タイトルの意味が明らかになる部分には、後の作品をも思わせるメロドラマチックさがありました。その秘密は意外だったのですが、本当にそのことをしなければならなかったのかという疑問も感じます。その心理を納得させるような結末にはできなかったのかなあ。


No.552 7点 死の統計
トマス・チャステイン
(2012/08/31 20:22登録)
カウフマン警視シリーズの番外編ということですが、元のシリーズを読んだことがないため、他作品とのスタイル比較はできません。しかし本作に限って言えば、私立探偵が活躍するハードボイルドで、途中にマーロウやサム・スペードの名前も(実在の人物という設定でしょう)出してきています。カウフマン警視を始めとするたぶんシリーズの常連警官たちは、脇役に徹しています。
この私立探偵スパナーの女性関係が奇妙で、印象に残ります。離婚歴2回で、その2人の元妻と一緒に探偵事務所をやっているという設定なのですから。そんな人間関係を嘘っぽく感じられないようにまとめあげる作者の手際は、たいしたものです。
事件の展開も、スパナーによる目撃から死体盗難、行方不明者とのつながりの有無、さらに起こる殺人など、おもしろくできていますし、各章の始めに添えられている小見出しというか引用の中にも伏線を入れてあるなど、よくできた作品です。


No.551 6点 エラリー・クイーンの事件簿1
エラリイ・クイーン
(2012/08/29 13:47登録)
映画のノベライゼーションであることを意識して再読してみると、収録2作ともいかにも映画的な場面展開ですし、カーチェイス、尾行など視覚効果を意識した作りになっています。軽いノリは、少し前の『ドラゴンの歯』にも通じます。
『消えた死体』の元になった長編は小説らしい重厚な作品でしたが、全く異なるシチュエーションにして、なかなかよくできたヴァリエーションだと思えます。映画公開が1940年であることを考えると、あの原作長編を選んでこのような形に変えたのは、当時のアメリカ世情を考慮してのことかもしれません。
翌年製作の『ペントハウスの謎』は当時の中国政情を背景にして、スパイ小説的な味を加えています。しかし映画でも、電球に関する推理にはクイーンらしさがありました。
『靴に棲む老婆』より前、ニッキー・ポーターが別設定で登場する2作品でもあります。しかも『ペントハウスの謎』依頼人名はシーラ・コッブねぇ…

1530中の書評を表示しています 961 - 980