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ミステリの祭典

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メグレと賭博師の死
メグレ警視

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1979年04月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点
(2019/05/13 13:29登録)
 深夜に鳴った電話のベルでメグレ警視は夢から揺り起こされた。相手はその夜、夫婦で月例の晩餐会を済ませた友人のパルドン医師。寝入りばなを起こしてしまってすまないが、すぐこちらへ来てもらえないかと言う。マイナス十二度を越す一月の寒気の中、ヴォルテール通りを訪れたメグレに、パルドンは犯罪の匂いがすると思われる出来事を語る。
 メグレ夫妻と別れた後、背中を射たれた女が二十五、六の青年と一緒に診療所にあらわれ、治療中に二人ともいなくなったと言うのだ。女は三十そこそこのブロンドで、通りがかりの車に銃撃されたのだという。そのくせ男は警察にも病院にも連絡していなかった。名前と住所を書き留めるよう告げると、こちらがそばを離れた隙に姿を眩ましてしまったのだ。二人は彼の患者のような貧しい人たちではなく、特権階級といった感じで、かなり親密な間柄に見えた。
 メグレは雪で封鎖された街道の状態から飛行機で移動したと睨み、オルリー特別空港警察に該当者の人相その他を問い合わせる。二人の乗った赤のアルファ・ロメオはパリのナンバー・プレートをつけて空港駐車場に停まっており、カップルは三時十分発のアムステルダム行きに乗ったとのことだった。
 翌朝自宅で遅めの朝食を摂るメグレのもとに、パルク・モンスリ街にある邸宅で男が射殺されたとの連絡が入る。被害者はフェリックス・ナウールという四十二才のレバノン人。昨夜のカップルは、オランダ人とコロンビア人。彼はふたつの事件に、関連する匂いを嗅ぐ。
 1966年発表のメグレ警視シリーズ第93作。「メグレたてつく」「メグレと宝石泥棒」両姉妹編の次作で、作品としては後期に属するもの。原題 "Maigret et l'affaire Nahour(メグレとナウール事件)"。 被害者フェリックス・ナウールは賭博シンジケートと組んで行動する賭博師で、ソルボンヌで専攻した確率論を武器にカジノと遣り合う一匹狼。当然事件は注目を集め、ナウールと別れた後アムステルダムで再婚するはずだったオランダ人妻エフェリーナも傷ついた身体を抱え、フランスに帰ってきます。彼女とコロンビアの金鉱王の息子ビセンテ・アルバレドに、ラウールの秘書で同じくレバノン人のフアド・ウエニを加えた四角関係がストーリーの読み所。メグレの苦手な上流階級の事件ですが、事前にある程度大枠が掴めているからか、今までほどには苦労しません。とはいえ、食えない証人連中に梃子摺らされるのは変わりませんが。
 子供のまま大人になった、母親の自覚の無いシンデレラが引き起こした事件。一種の復讐譚ですね。後期の例に漏れずあっさりめな作品ではありますが、舞台や人物設定は結構考えてあります。メグレと尋問で再三対峙するフアドは、なかなかに手強い相手です。

No.1 6点
(2012/09/27 21:40登録)
メグレの友人パルドン医師の奇妙な体験から始まる作品です。それが殺人事件と関連してくるところは、非常にあっさりしています。
作中で、「ナウール事件」として報道されたことが述べられていて、原題も「メグレとナウール事件」となっています。被害者の名前ですが、この男はルーレット等に対して数学的(確率的?)なアプローチをするプロの賭博師という設定です。しかし、ツキとかでなく数学的なことを言い出せば、カジノでの賭博なんてバカバカしいと思えるのですが。ともかく、そのナウールが自宅で殺された事件で、容疑者はほとんど最初から3人に限定されています。
犯人逮捕後、裁判でメグレが証言して有罪判決があるところまで、簡単にではありますが描かれているのは、シムノンに限らず珍しいことではないでしょうか。それにはテーマ的な理由があり、最後のメグレの一言が苦い味わいを出しています。

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