空さんの登録情報 | |
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平均点:6.12点 | 書評数:1505件 |
No.685 | 5点 | 影の地帯 松本清張 |
(2014/02/23 18:53登録) 『霧の旗』『黒い福音』『砂の器』等と同じ1961年に発表されたかなりの大作です。ともかく膨大な量のミステリを書きまくっていた時期で、それぞれ強烈な個性を感じさせるそれらの有名作と比べると、本作は大作感はありますし、死体処理トリックが工夫されているものの、特に際立った印象は残りませんでした。全体的には、社会派冒険スリラーとでも呼びたいような、リアリズムの中にご都合主義的な荒唐無稽さをミックスしたタイプと言えそうです。 フリーのカメラマンが主役ですが、途中で視点が新聞記者に替わり、探偵役交代かと思っていたら、70ページぐらいしてまた元に戻るという構成になっています。しかし、この新聞記者の部分は手紙だけで済ませた方がよかったように思えました。ラストの決着のつけ方も、唐突かつ安易な感じがぬぐい切れません。それに松本清張にしては、文章が多少雑な感じがするのも気になります。 |
No.684 | 6点 | ドーヴィルの花売り娘 ジョルジュ・シムノン |
(2014/02/18 23:37登録) 4分冊になった14の短編からなるO(オー)探偵事務所の事件簿シリーズその1で、4編が収録されています。全部まとめたずいぶん分厚い原書が、Amazonで売られていたのを見た記憶もあります。しかしこんなに小分けにしなくてもという気もします。 探偵事務所の所長は元刑事のトランス。メグレ警視の部下だった人で、そのことは作中で何度も繰り返されます。ただし翻訳版のシリーズ・タイトルからもわかるように、名探偵役はエミール(姓は不明)という赤毛の男で、彼が実質的な探偵事務所長。 最初の『エミールの小さなオフィス』は主要登場人物紹介にかなり筆を費やしています。ストーリーは全く違いますが、シリーズの最初に持ってくる作品としては、ドイルの『ボヘミアの醜聞』と共通するものがあります。続く3編ともあっさりめのパズラー系で、特に『入り江の三艘の船』はシムノンと思えないほど動機は付け足し程度でした。 |
No.683 | 5点 | 殺戮の天使 ジャン=パトリック・マンシェット |
(2014/02/13 23:41登録) フランスのミステリは、メグレ・シリーズを始め短めのものが多いですが、本作は中編と言っていいでしょう。女殺し屋を描いた作品だというので、全編にわたって次から次へと冷血に殺人を繰り返していく話かと思っていたら、全然違っていました。第1章こそ、突然獲物の前に現れてあっさりと撃ち殺すという、非情なクライム・ノベルらしいオープニングですが、その後しばらくは、過去における殺人が説明されはするものの、彼女が新しく来た町で、町の「金持ち」たちが紹介され、仕事のあたりをつけていく過程が描かれていくのです。そして2/3ぐらいのところでやっと起こる殺人の顛末とその直後の彼女の行動は、予想外で困惑させられます。 しかしその後はまさにタイトルにふさわしい急展開になってきます。救いのない結末で、それは最初から当然だろうとは思っていたのですが、それにしても最後の1ページの文章には、また困惑させられてしまいました。 |
No.682 | 7点 | ハルビン・カフェ 打海文三 |
(2014/02/09 12:14登録) 2002年に発表された本作の時代設定は、携帯電話や登場人物の世代からすると、たぶん2019年頃だと思われます。あいまいな書き方のわりに、中途半端な年だと言われるかもしれませんが、実は有名なSF映画『ブレードランナー』の設定年だからです。異文化が混在する猥雑で暗い感じのハードボイルドな雰囲気には、共通するものがあると思います。ただし、本作ではSF的ガジェットは全く出てきません。 章ごとにさまざまな登場人物の視点から、少しずつ明らかにされていくのは、北陸の架空都市「海市」を中心に起こった約20年間にわたる様々な事件の相互関連です。そしてそれらの事件の影から浮かび上がってくる一人の男の実像。彼がルトガー・ハウアー演じるロイ以上に超人的に見えるのは、さすがにちょっとどうかとも思えますが。 腐敗した警察とギャング世界を重厚なタッチで描いた大作で、読みごたえ十分でした。 |
No.681 | 7点 | マンハンター ジョー・ゴアズ |
(2014/02/05 23:22登録) 麻薬の取引仲介相手を殺してヘロインとその支払金の両方を持ち逃げした男と、その彼を追う側の視点を交互に描く手法をとった作品です。読み始めてすぐ、なんだか通俗ハードボイルド系な書き方だなあという印象を持ったのでした。ゴアズはこんなタイプも書くんだ、と少々びっくりしたのですが、半ばあたりで何となく全体構想の見当がついてきてから、かえっておもしろさが増してきました。後半、迫力の格闘、カーチェイスと話は盛り上がっていきます。そして読み終えてみると、確かにハメット系のシリアスな描き方では、結末がしらじらしく感じられてしまうだろうと納得できました。粗を探せばいくらでも疑問点が出てくる解決ではありますが、通俗っぽいからこそ、そんな細部は気にせず楽しめるのだと思えたのです。 原題は ”Interface”(取引の仲介役を意味していると思われます) で、現代ならそのまま邦題になるかもしれません。 |
No.680 | 7点 | ポンスン事件 F・W・クロフツ |
(2014/01/31 22:54登録) クロフツ第2作で活躍するのはタナー警部で、たぶん後のフレンチ警部もの『スターヴェルの悲劇』で言及される人と同一人物でしょう。ただし、別の素人探偵役によって捜査の不備が指摘されるのは前作と似ています。 今回は、殺人容疑者が2人いて、その両方にアリバイがあるのですが、そのそれぞれを別の探偵役が崩してしまいます。一方は足跡利用、もう一方は時刻表タイプと変化をつけていますし、鮎川哲也の某作品のような偶然の重なりではないところが、うまく考えられています。さらにその後3人目の容疑者まで出してきて、逃亡したこの容疑者をタナー警部が様々な乗物を駆使して追跡していくところは、サスペンスもあります。 クロフツらしい試行錯誤捜査の果てにたどりつく真相については、肩すかしだと言う人がいるのもわかるタイプではありますが、個人的には論理的に納得のいく解決でした。 |
No.679 | 6点 | 日蝕の檻 小林久三 |
(2014/01/28 00:20登録) 映画の助監督や脚本家の経験もある小林久三が、第二次世界大戦後の日本映画界の影の部分を描いた大作です。 作中では、日本映画がどん底状態だという見方が常識であるように書かれていますが、1977年発表ということは、たとえばその前年に『犬神家の一族』が公開され、むしろ上向きになってきた時期のように思えます。また作者の言うごく一部の「良心的な映画」には寅さんも入りそうにないのですが、まあそこはテーマを明確にするための誇張なのでしょう。事件の黒幕の正体は最初からわかり切っていますが、社会派的な部分は充実しています。 ただ構成的に見ると、ベテラン刑事、若手のプロデューサー、脚本家の妻の3人の視点を切り替えていく手法とか、フラッシュバックで捜査過程を説明する手法など、さほど効果がないように思えます。シリアスな作風だけに、もっとストレートに書いてもらった方がいいような気がしました。 |
No.678 | 5点 | ひきがえるの夜 マイクル・コリンズ |
(2014/01/23 22:50登録) 片手の探偵と言えばディック・フランシスのシッド・ハレーがまず思い浮かびますが、マイクル・コリンズ描くニューヨークの私立探偵ダン・フォーチューンは左腕がないのです。本作はそのハードボイルド・シリーズ第3作ですが、シッドに比べると片腕であるハンディキャップは強調されていません。 演劇界の人気俳優兼演出家を中心とした展開ですが、話を広げていきにくい事件と感じました。結局は3人の人間が死に、フォーチューン自身も死にかける爆発まで起こるのですが、全体的にはこじんまりとまとまった印象なのです。それはそれでいいのですが。 文章的には、表現に多少不器用なところがあると思いました。ただこれは翻訳のせいかもしれません。実際、この翻訳には明らかな疑問があります。テイブル、コウト等、確かに英語の発音に近いでしょうが、あえて外来語として定着した表記と異なる書き方にする意味があるとは思えません。 |
No.677 | 7点 | 鉄の門 マーガレット・ミラー |
(2014/01/19 22:38登録) なぜだかわかりませんが、この作品は以前に読んだことがあるはずなのに、内容を全く覚えていないのです。『殺す風』に比べるとシンプルな構成で明らかに覚えやすいにもかかわらず。この記憶の喪失はミラー的な不安を感じさせるほどに… 忘れてはいたのですが、読み始めてすぐ、フェイクなのか真相なのか明確にはならないにしても、ともかく一つの仮説は思いつきました。実際、これはほとんどの人が考えるのではないでしょうか。そして結局それが真相の一部ではあるのです。しかし、大きく3部に分かれたこの小説の第2部に入ってタイトルの意味がわかるあたりからの展開には驚かされます。奇をてらった意外性ではなく、人間関係の歪みや思い込みから自然に発生してくることが納得できるけれども、型にはまった小説とは異なる展開になるところが意外なのです。 サンズ警部による事件の締めくくり方にも、驚かされました。 |
No.676 | 4点 | ハードフェアリーズ 生垣真太郎 |
(2014/01/16 22:47登録) 舞台はニューヨークで登場人物たちはアメリカ人という小説。提出される謎と、20年後に明かされるその真相は、偶然が過ぎると思えるところもありますが、悪くありません。しかし… この作者の、一人称形式で事件と無関係なとりとめのない思考をひたすら長々と(ただしやたら改行を入れながら)連ねる文章には辟易させられました。通俗的な意味での「詩的抒情性」に満ちた文体です。探偵役の一人称形式と言えば、内面描写を避けるハードボイルドもそうですが、この作者の感覚はまさにその対極。ハードボイルドっぽく簡潔に描けば、小説の長さは1/3程度で済みそうです。 作中の映画評論家はルイ・マル監督をどうでもいいとか言っていましたが、私自身マルの中ではその甘さがあまり好きでない『恋人たち』を、さらに引き延ばして何十倍も甘ったるくしたような作品です。 |
No.675 | 7点 | 第八の地獄 スタンリイ・エリン |
(2014/01/11 12:28登録) エリンというと異色短編作家としてのイメージが強いですが、長編も10冊以上あり、特に本作は1959年のエドガー賞を受賞した代表作です。 ニューヨーク現代社会(1958年当時)の腐敗ぶりをダンテの描く第八の地獄になぞらえているわけで、テーマ的にも、主役が私立探偵社の社長であることからしても、正統派ハードボイルド系という感じがします。ただし、エリンの文章は古典文学の素養をちりばめていて、ハメット等の簡潔な文章とはかなり違います。ストーリーは平の巡査が賭博師から賄賂を受け取った事件について、理想主義の弁護士からの依頼で、主人公が冤罪証明調査に乗り出す(冤罪であると信じないまま)というもので、地味な内容ですが、最後まで飽きさせません。 ただし訳文は、小笠原豊樹にしては、同じ人物の会話の調子が丁寧だったりぞんざいだったり統一されていなくて、気になるところもありました。 |
No.674 | 3点 | 心地よく秘密めいた場所 エラリイ・クイーン |
(2014/01/07 22:25登録) マンフレッド・リーの死去によって結局クイーン最後の長編となった本作、構成は凝っていますし、最初のうちは、左右の問題とそれに対する解答など、なかなかおもしろく読ませてくれます。 ところが、最初の殺人事件が疑念を残したまま「一応」片付いた後、しばらくして第2の殺人が起こってからが、どうにも冴えません。パターン的には『最後の一撃』と似た、ミッシング・リンク的な謎なのですが、それほどと思えなかった『最後の一撃』と比べても、謎そのものに魅力がありませんし、その解決にも説得力がないのです。元々登場人物が少なすぎて、犯人には『真鍮の家』『最後の女』のようなそれなりの意外性もありませんし、かといって犯行計画もそんなに巧妙と思えません。そんなたいしたことのない計略にひっかかるエラリーの論理ミスも、ちょっといただけないものです。 どうも残念な出来の最終作でした。 |
No.673 | 5点 | 黄金流砂 中津文彦 |
(2014/01/04 15:59登録) 高木彬光の『成吉思汗の秘密』でも扱われていた、源義経は平泉では死んでいなかったという言い伝えの紹介から始まるミステリです。盛岡で起こった歴史学者殺害事件を、新米新聞記者と、その学者の弟子だった高校教師が探っていきますが、義経北行説よりもむしろ、義経を匿った藤原家にまつわる歴史的謎の方が、現在の殺人事件と重要なつながりを持ってきます。 第28回乱歩賞を岡嶋二人の『焦茶色のパステル』と分け合った作品。前半が退屈だという審査員の意見もありますが、個人的にはむしろ前半の地味な展開を最後まで続けてもらいたかったように思いました。半ばで藤原家関係の、判読不能文字文書が出てきてからは、高木彬光のような歴史考証から虚構世界に移行していき、最後の現在の事件の全貌が明かされるシーンは、もう伝奇冒険小説と言ってもいいほどです。全体的なバランスを失していると思えます。 |
No.672 | 6点 | わが兄弟、ユダ ボアロー&ナルスジャック |
(2013/12/29 22:45登録) 殺人者の視点から描かれた犯罪心理小説です。それにもかかわらず、連続殺人の動機を隠すことでホワイダニットにもなっているのは、謎解き要素も忘れない作家らしいところと言えるでしょうか。ただ、クイーンのショートショートにちょっと似たアイディアを謎ではなく基本設定として使っているものがあり、そのため早い段階で動機の見当はついてしまいました。 もちろん、その謎だけの作品ではありません。タイトルのユダはもちろんイエスを裏切った弟子なわけですが、最後の方になってある登場人物によってユダに対する新解釈が語られます。それでタイトルの意味も明らかになるわけで、宗教団体に題材を採った理由もわかります。初期には心理ホラー的な要素が強かったコンビ作家ですが、本作は強烈なサスペンスよりも、自らが属する宗教団体の発展のためを思う犯罪者の苦悩を描いた作品として評価できる作品だと思います。 |
No.671 | 6点 | 酔いどれの誇り ジェイムズ・クラムリー |
(2013/12/22 23:49登録) 巻頭に短い引用を置く小説は多いですが、本作は、リュウ・アーチャーの言葉を載せています。しかし、ロス・マクと同じハードボイルドといってもタイプはずいぶん違います。 ストーリーの骨格そのものは非常にシンプルですが、主人公のミロが自分の過去を語る部分が多く、そこが読みどころでもあると同時に、複雑な構成を期待するミステリ・ファンには物足らないところでもあるのでしょう。実際、真相はあまりに地味すぎて、ダミー解決ではないかと疑ってしまったほどでした。 また、本作はクラムリー最初のミステリということで、後の作品に比べるとクラムリー節が未だ確立されきっていないと感じました。まず各シーンの印象が、後年ほど強烈ではないのです。ミロを始めとする酔いどれぶりにも今ひとつ説得力が感じられません。登場人物たちは魅力的ですし、ラストの意外性もチャンドラーには及ばないものの、衝撃力はあると思うのですが。 |
No.670 | 5点 | シーラカンス殺人事件 内田康夫 |
(2013/12/18 22:32登録) 巻末解説によると、作者が「最も愛着の深い作品」の一つとしている作品だそうです。実際シーラカンス捕獲を題材にした事件転回は、なかなかおもしろく読ませてくれます。 とは言え、気になる点があったのも確かです。岡部警部シリーズ作ですが、岡部警部以外の警察官がみんな間抜けというのは、名探偵役が警察官であるだけに、浅見光彦もの以上に好ましくないと思われるのです。何より、凶器のバットについていた指紋が現場状況からして犯人のものでない可能性がかなり高いと捜査本部が最初は認識していながら、その指紋の人物を犯人だと思い込んでしまうのは、いただけません。 この指紋に関する岡部警部の推理はクロフツ1930年台の某作品とよく似ていて、警察としては当然検討すべき問題のはずですし、死体処理トリックも海外古典的作品そのまんまということで、謎解き的にはたいしたことはありません。 |
No.669 | 7点 | 混戦 ディック・フランシス |
(2013/12/15 18:31登録) 今回の主人公はフランシスには珍しく、競馬にはほとんど興味がないと明言する男です。彼-作中の「私」の職業はエア・タクシーのパイロットということで、専ら航空アクションを引き受け、競馬関係は常連客である他の登場人物たちに任せています。 3つのヤマ場が非常にはっきりした作品です。1つめは多少不安感を与えておいた後で突然意表をつく派手な事件。その事件の犯人を主人公が推測するに至る穏やかな部分の後、2つ目が緊迫した飛行機サスペンス。そして3つ目が最終対決部分、ということになります。 事件と恋愛との絡め方もなかなかいいですし、動機を中心とした謎解き興味もあります。フランシスの中でベストの1つと推す人もいるようですが、ヤマ場と平坦な部分とが明確に分かれすぎているのが、多少リズム感を崩しているようにも思えました。 |
No.668 | 7点 | 夜の終り ジョン・D・マクドナルド |
(2013/12/10 22:40登録) 4人の若い男女の電気椅子による死刑執行の模様を、死刑執行人が友人に書き送った手紙で幕を開ける犯罪小説。通常の三人称小説形式に、死刑になった若き犯罪者たちの弁護士の覚書や、犯罪者の一人が留置所内で書いた手記を取り混ぜる手法は、効果を上げていると思います。 読んでいて、何となく『郵便配達は二度ベルを鳴らす』を連想してしまいました。若者たちの「理由なき」凶悪犯罪を描いたということでは、むしろカミュの『異邦人』やシムノンの『雪は汚れていた』が近いのかもしれませんが、やはりアメリカらしいハードボイルドっぽい雰囲気が、ケインとの類似性を感じさせるのでしょうか。ただし、本作では弁護士の覚書を通して、グループであるからこその犯罪であることが強調されています。 また、犯罪者の手記により、最初の殺人に至る彼等の心理状況が説得力を持って描かれているのが、本作の特徴と言えるでしょう。 |
No.667 | 7点 | 大庭武年探偵小説選Ⅰ 大庭武年 |
(2013/12/06 22:57登録) 作者はむしろ純文学を志していたそうですが、坂口安吾や福永武彦みたいなわけにはいかず、現在知られているのはほとんどミステリ系作品のみのようです。ただしミステリはこの第1集を読む限り、その2人の文豪以上とも思える厳格な謎解き派。ディケンズの『二都物語』が卒論テーマだったのも、ミステリ好きであることを窺わせます。 それにしても、これにはかなり驚かされました。最初の『十三号室の殺人』は中編ですが、作者が住んでいた大連を舞台に、異国的雰囲気のホテルで起こった密室殺人で、トリックはカーをも思わせるアイディアなのです。1930年雑誌『新青年』の懸賞募集に投稿した作品ですから、カーのデビュー年ですよ。さすがにフェアプレイは完全に守られているわけではありませんが。 他の作品もホームズものを元にかなりひねりを加えたり、笹沢左保の某長編と同一原理トリックとか、ほとんどバカミス系など、それぞれに読みどころがありました。 |
No.666 | 6点 | 火刑法廷 ジョン・ディクスン・カー |
(2013/12/02 23:29登録) miniさんの意見に賛成。miniさんは、カーに対する評価は私と近いと書かれていたことがありましたが、ホントにそうなんですね… この評価になったのは、写真の件から始まる怪しげな雰囲気に加え、何と言ってもその雰囲気があるからこそのごく短い最終章のさりげなさが好きだからです。新聞が床に落ちてめくれ…なんて、この感覚がいいのです。この部分は、説明すればするほどバカバカしくなってしまいます。そのいい例が本作の最終章を意識したという高木彬光の某作品。 最終章がなくて、謎解き要素だけに関して言うならばその高木作品の方がむしろよくできているぐらいです。墓場からの死体消失トリック説明は、そんなものかというところでした。またもう一つの魔術的現象は、まず部屋周辺の見取図があるべきですし、カー自身が以前に書いた某作品のネタの使い回し、しかもその作品に比べて工夫が足りないとしか思えないのです。 |