空さんの登録情報 | |
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平均点:6.12点 | 書評数:1530件 |
No.750 | 8点 | 笑う警官 マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー |
(2014/11/23 17:56登録) この警察小説の傑作に昨年新訳が出たことは、miniさんの書評で知ったのですが、読んだのは高見浩による旧訳版です。 そのことを念頭に置いて読んでみると、途中疑問に思ったところがありました。渋い警察小説という印象のあったこの夫婦作家にしては、バスの中でのマシンガンによる大量殺人という衝撃的な事件以上に意外だったのが、ダイイング・メッセージが出てくるところでした。で、これが英語からの翻訳であることを考えると、原文とは違うのではないかと気になったのです。実際、後から新訳版を立ち読みして確認したところ、やはり2つのセリフのうち1つは変えてありました。ただ、英語版でも納得いく設定にはしています。 また、高見訳ではラストをマルティン・ベックが「…笑いだした。」の文で締めくくっていて、その後の説明的な2行がないのですが、確かにこれは省いた方が余韻があっていいのではないかと思えました。 |
No.749 | 7点 | 裏切りの朝 ジョー・ゴアズ |
(2014/11/19 22:22登録) ゴアズはDKAよりもノン・シリーズ作品の方が気に入っていたのですが、本作もやはり楽しめました。 ハードボイルドと言っても、今回は私立探偵小説系ではありません。泥棒を主人公にした犯罪小説であるとともに、ラブ・ストーリーでもあり、山岳小説要素もあり、フーダニット要素あり、と様々な要素をミックスしてうまくまとめあげています。個人的には出獄した泥棒のラニアンと、その彼にリポーターと称して接触するルイーズとのラブ・ストーリーとしての側面が、最も印象に残りました。ラスト近く、その二人の心情をカットバックで見せていき、最後に事件の全貌を明らかにすると同時にラブ・ストーリーとしても完結するところ、こういうセンチメンタリズムは好きですね。 謎解き面では、途中で小説構造から結末は予測できたのですが、それだけにかえって、この点はこうだったのか、と意外に思った部分もありました。 |
No.748 | 5点 | こぼれおちる刻の汀 西澤保彦 |
(2014/11/16 16:09登録) カデンツァ、オブリガート、コーダのそれぞれA、B、C、全9章からなる作品。それぞれ即興演奏、助奏、終結部等と訳されるそんな音楽用語が章見出しになっているにもかかわらず、音楽とは一切関係ない内容です。カデンツァが遠未来、オブリガートが近未来、コーダが現代を舞台にしています。SFとミステリの融合と謳われていますが、むしろ章立てによる並列と言った方がいいように思われます。 並列といえば、本作のSF部分でも時空のあり方に対するいわゆる並行宇宙の発想がメインになっています。元々ハードSFには謎解き要素を含んだものが多く、ホーガンの『星を継ぐもの』は現在の物理法則の延長上だけで構成された純粋なミステリと言えますが、本作にはむしろ小松左京の『果てしなき流れの果に』等にも通じるところがあります。 コーダのホワイダニット・ミステリには違和感があり、むしろ純粋なSFにしてもらいたかったですね。 |
No.747 | 6点 | 黒いカーテン ウィリアム・アイリッシュ |
(2014/11/09 13:16登録) 最初に読んだアイリッシュ(原書はBLACKシリーズなのでウールリッチ名義)作品で、最後まではらはらさせられっぱなしだったという印象だけは残っていたものの、話の内容については、ほとんど忘れていたのです。ところが、短編『じっと見ている目』を読んだ時、確かこのアイディアは、と思ったのでした。 今回再読してみると、話すこともできない寝たきり老人との意思疎通という共通点はあるものの、その点については本作に先行する短編の方が意思疎通過程にサスペンスがあり、よくできていると思いました。また犯人の使ったトリックは全く異なっていて、本作の方には古典名作短編の先例があります。 冒頭の設定からすれば、ルスの扱いはこうせざるを得ないのでしょう。しかし、殺人の罪を着せられた男自身が事件の記憶を失ったまま捜査するというストーリーを成立させるためとはいえ、ご都合主義が過ぎるのは間違いないでしょうね。 |
No.746 | 6点 | 逃亡者のF スー・グラフトン |
(2014/11/05 21:59登録) 今まで読んだグラフトンの中では、最も率直に楽しめました。恋人殺しの罪を認めて服役したものの、1年ほどで脱獄して逃亡生活を送っていた男が、16年後に偶然の成り行きで逮捕され、その父親からの依頼でキンジーがその男の無実を証明するために調査を開始する、という設定自体もおもしろいのですが、その後の思いがけない展開には驚かされました。ただし、その展開を引き起こすタップの行動と、その行動を起こさせた人物の要求には、さすがに無理があります。それで話に緊迫感が出ることは確かですが、もっと地味にやってもよかったのではないかと思えました。 その無理な部分を除けば、本作ではミスディレクションや動機の意外性など、フーダニットとしてもロス・マク並になかなかうまくまとまっていました。個人的にはハードボイルド系の作品には、謎解き的要素はそんなに求めないのですが、これはこれでよかったと思います。 |
No.745 | 6点 | 霧の塔の殺人 大村友貴美 |
(2014/11/01 15:38登録) タイトルに偽りあり、これは『霧の峠の殺人』であるべきじゃないかと思えました。「塔」はエピローグで象徴的に軽く触れられますが、「殺人」と組み合わされるような使われ方ではありません。 帯には相変わらず「現代の横溝正史」なんて言葉が載っていますが、この第3作では、霧の深い峠のベンチに切断された首が置かれていたという事件の不気味さを除くと、横溝との共通点はありません。ジャンルとして社会派に登録したのですが、本当にむしろ松本清張に近いとも思えるほどです。殺されたのはその地方の有力者で、首相の地位が狙えるほどの政治家ともコネがある人物ですから、事件は当然地方政治がらみで捉えられます。さらに最初の殺人とは無関係に後半に起こる放火殺人では、地方における就職問題も取り上げられています。 小清水警部に関する部分は不必要ではないかとも思えますが、社会派ミステリとしての評価はこれくらいでしょうか。 |
No.744 | 6点 | 英仏海峡の謎 F・W・クロフツ |
(2014/10/27 22:05登録) タイトルどおり海上で起こった殺人事件ですが、今回のトリックは、明かされてみると斉藤栄並の強引さです。したがってそのトリック(どんな種類のものかを書けば、それだけでかなりネタバレになってしまいますが)だけ見れば、つまらないという人もいると思います。ところが、実際に読んでみるとなかなかおもしろく感じられるのは、やはりフレンチ警部のていねいな捜査過程を描いたプロットゆえでしょう。クロフツの作品がおおむね、トリック小説ではなく捜査小説であるところです。 海上に漂うヨットの中での死体発見に始まり、殺人事件の背景となった証券会社倒産の顛末が明らかにされ、会社重役たち一人一人についての調査を、フレンチ警部がていねいに進めていきます。 最後の方、ある重要手がかりとなる品物の存在が明らかにされる部分でのミスディレクションが巧みにできています。 |
No.743 | 7点 | バイオレント・サタデー ロバート・ラドラム |
(2014/10/24 22:48登録) ペキンパー監督による映画化は公開時に見て、あまり感心しなかったのでした。まあ、ペキンパーはアウトロー的な立場からストレートな西部劇系の話でアクションをたっぷり見せるのが得意な監督ですから、ミステリらしいひねりを持つむしろ体制的なこの原作には合わなかったのでしょうか。なお、本作が映画化されたのは出版後10年以上も経ってからの1983年で、結末を含めかなり改変しています(映画版はかなり忘れていたので、WEBで粗筋再確認)。 で、今回初めて読んだ原作、最初のうちは、主役ジョン・タナーの友人たち3組夫妻の名前が覚えにくく、展開がゆるやかで、それほどとも思えませんでした。しかし後半、原題 ”The Osterman Weekend” にも明らかなとおり友人たちの集まる土曜日になってからは、さすがに緊迫感が出てきて、クライマックスに向け盛り上がってきます。映画を見ていても意外な結末が待っていました。 |
No.742 | 6点 | 人工心臓 小酒井不木 |
(2014/10/20 22:42登録) 11編の短編の他、エッセイ・犯罪実話9編、全集未収録作品4編を収録。ただし犯罪実話に分類されている『誤った鑑定』は実話をもとにしているのかもしれませんが、小説として構成されています。また「全集」の意味は明記されていませんが、たぶん昭和4~5年に改造社から出版されたもののことでしょう。4編中『被尾行者』が小説らしい小説になっています。 生理学・血清学者であった作者らしく、医学に題材を採った作品が多く、その要素がないのは11編中『犬神』と『外務大臣の死』だけです。とは言っても、学者作家っぽい堅苦しさはありません。1926年1月に発表された『人工心臓』と『恋愛曲線』は医学系SFですが、発明・開発過程を描きながらもむしろ人間性を重視した内容になっています。 『二重人格者』のあほらしいオチには、作中の患者ではありませんが笑うに笑えず、といったところでしたが、その他の作品はなかなか楽しめました。 |
No.741 | 7点 | 殺人保険 ジェームス・ケイン |
(2014/10/16 22:21登録) 『郵便配達は二度ベルを鳴らす』が基本的には犯罪者の人物を描いた作品であったのに対して、本作はよりミステリ要素の強い作品です。保険勧誘員による保険金詐取のための完全犯罪を狙った殺人が中心なのですから、当然とは言えるでしょう。いかにもミステリらしい殺人計画なのですが、それだけでなく、殺され役の娘とその恋人が半分を少し過ぎたあたりから事件に絡んできて、意外な展開を見せてくれます。殺人者の一人称形式にもかかわらず、事件の裏がどうなっているのかについて謎解きの要素がかなりある、という構成が巧みです。一人称形式であることの意味はエピローグによって明かされ、その後の締めくくり方も鮮やかに決まっています。 なお、ビリー・ワイルダー監督による映画化『深夜の告白』はフィルム・ノワールの古典として高く評価されていますが、未見。脚本を担当したチャンドラーは、ケインの原作を嫌っていたそうですけど。 |
No.740 | 6点 | スペイドという男 ハメット短編全集2 ダシール・ハメット |
(2014/10/12 13:32登録) 編者であるクイーンによる序文を載せたサム・スペイドものを中心とした5編に、日本版では5編を追加した短編集です。その序文の「彼は新しい種類の探偵小説を発明したのではない-その新しい語り方を発明したのだった」という最後の文は、分析されている『マルタの鷹』にはあてはまりますが、『赤い収穫』についてはどうかな、という気もします。 本短編集の中で言えば、サム・スペイド3編、コンチネンタル・オプ2編と、やはり私立探偵小説の『殺人助手』では、きっちり謎解きをしています。その中では『一時間』のハードさと真相が印象に残りました。『殺人助手』は二人の人間から同じ人を殺してくれと依頼された男という設定の部分はおもしろいのですが、そのため人間関係が複雑になり過ぎているのが難でしょう。 一方『休日』はもちろん、『夜陰』『ああ、兄貴』もミステリと呼ぶには微妙かな。臣さんも書かれているようにどちらもいい作品なのですが。 |
No.739 | 5点 | 南紀・伊豆Sの逆転 深谷忠記 |
(2014/10/07 23:42登録) タイトルどおり和歌山県南部と静岡県伊豆半島を舞台にした作品で、それらの地方の情景がなかなか丁寧に書きこまれています。最初の殺人は和歌山の方で起こり、警察の捜査が進む一方、探偵役の黒江壮とその恋人笹谷美緒は伊豆下田でくつろいでいるところが交互に描かれます。 それにしても、タイトルに「逆転」が付くのはこのシリーズでも謎解き度の高い作品なのでしょうか。全体的な事件構造もかなり複雑ですが、アリバイ・トリックはクイーンの某有名作のバリエーションで、この原理を目撃者の証言に利用しているのには感心しました。ただし不満点もあります。その証人の記憶がどの程度明確かについて、不安要素が多分にありますし、腕時計の使い方はあまりに不自然でしょう。第3の「逆転」については、壮が謎を解き明かさなくても、犯人は自白せざるを得なくなっていたのではないかとも思えてしまいました。 |
No.738 | 6点 | 吠える犬 E・S・ガードナー |
(2014/10/04 10:13登録) かなり以前に読んだ時は、あまり感心しなかった作品です。 今回再読してみて、見解が完全に変わったわけではありませんが、前回の不満点はかなり解消されました。理由は、この犯人の意外性を許容できるようになったことと、メイスンの法廷戦術がはっきり理解できたことです。特に法廷戦術の方は、これまでに読んだこのシリーズの中でも極めつけの荒業です。後から、あれは証人に対する反対尋問だったのだとメイスンが説明する策略は、検察側の常套的なやり方を見越しての綱渡りですが、確かに違法ではないんだろうけど、と驚かされました。作中でのメイスンについての「聖者と悪魔の申し子」との評にも納得。 それでも、犬は吠えたのかどうか、また吠えたとしたらその理由は何かという点に関してのメイスンの推理は、根拠薄弱だと思えました。また、最後のどんでん返しも一応明確な伏線はあるものの、ちょっと唐突な感じがします。 |
No.737 | 7点 | バーニング・シーズン サラ・パレツキー |
(2014/09/30 23:07登録) 毎回、身近な人が事件に巻き込まれる話が続くV・I・ウォーショースキー・シリーズですが、今回は一族の中でも厄介者の叔母エレナが、それこそ厄介事を持ち込んでくることになります。原題は “Burn Marks” で、邦題の「シーズン」は意味不明ですが、いずれにしても、最初の事件は叔母が住んでいたぼろホテルの放火。そこからさらに、どうも殺人らしい事件に発展していき、ヴィクも殺されそうになります。ただし、本作で死ぬ人間は結局、工事中の建物でのクライマックスを含め、2人だけ。 レギュラー・メンバーの中では、今回はボビー・マロリー警部補がかなり重要な役割を担っています。理由は詳しくは延べられませんが、最後の「誰だってへまはするが、それをくよくよ嘆くのはバカものだけだ」という台詞(これも誰の言葉かは伏せておきます)で、ヴィクとの口げんかにもとりあえず終止符を打ち、穏やかですっきりした幕切れとなります。 |
No.736 | 4点 | 浅草殺人ラプソディ 梶龍雄 |
(2014/09/25 22:31登録) 途中はストリッパー名探偵チエカの無茶な活躍がかなりおもしろかったのですが、読み終えてみると、釈然としないことだらけの作品でした。 メイン・トリックは某海外有名古典短編のバリエーションですが、その古典に比べて成功の確率が格段に低いのです。どんなに注意しても、せいぜい3回に1回成功するかどうかでしょう。しかも失敗すれば明瞭な証拠が残るはずのものです。またそこまでする動機も、明確でありません。 犯人の意外性を出すために無理やりな偶然を設定してストーリーを進めていたのも興ざめですし、ちょうど同じ日時という偶然も、安易です。ホームレス殺しの動機がまたあまりに乱暴で、常軌を逸しています。最後の意外性については、事件がこじれたあげく結局うまくいきはしましたが、元々の計画は、どの程度の成算があったのかはっきりしません。というわけで、点数は低くなってしまいます。 |
No.735 | 6点 | 侵入 ディック・フランシス |
(2014/09/22 23:02登録) 2冊ある騎手キット・フィールディング登場第1作とまずは言っておきますが、フランシスは同一主人公を通常使わない作家ですから、『大穴』だってそうですが、本作もシリーズ化を最初から考えていたわけではないでしょう。 読後に振り返ってみると、ミステリとしては実に地味な事件です。大筋は、主人公の妹夫婦の経営している厩舎が、悪意の中傷記事によって窮地に追い込まれたのを、何とかして救い出すというだけで、殺人は1件も起こりません。中傷記事が書かれた背景には、義弟の父親(何とも嫌な奴です)に対する陰謀があるのですが、そのからくりも大したことはありません。しかしそれでも、ストーリー展開の仕方はうまく、それをフランシスの文章で書かれるとおもしろいのです。 また、レース・シーンの描写が特に多く、競馬小説として充分楽しめるのも本作の特徴となっています。馬主のカシリア王女がいいキャラクタですね。 |
No.734 | 6点 | 裏切りの銃弾 スチュアート・カミンスキー |
(2014/09/18 22:25登録) 老刑事リーバーマン・シリーズの1冊ですが、必ずしも彼を絶対的な主役に据えていない、警察小説らしい作品です。 ある刑事が自分の妻とその不倫相手をショットガンで打ち殺し、アパートの屋上に爆弾を持って立てこもるという事件で、どんな派手な展開になるかと思わせられますが、巻末解説にも書かれているように、登場人物たちそれぞれの思惑がじっくり描かれた渋めの作品になっています。ただ、途中で出てきてこの大事件に勝手に関わることになる2人組については、必要だったのかなとも思えます。その後の見せ場の1つとの対比を作者は当然考えていたのでしょうが、かえってしつこくなり過ぎたように感じました。 また、最初の登場シーンではなぜこんな男が出てくるのか疑問に思った登場人物がいたのですが、これは全然別の事件でした。こっちの方は最終的な解決はつかないままで、解説によれば次回作に持ち越しだそうです。 |
No.733 | 8点 | 張込み 松本清張 |
(2014/09/14 12:34登録) 表題作は25ページほどのものですが、野村芳太郎監督は張込み刑事を1人から2人に増やし、その刑事の1人の家族生活の回想を付け加えたぐらいで、これを2時間近くもある映画に仕立てています。それでも映画が間延びした感じになっていないのは、監督の腕でもあると同時に、原作がそれだけの内容を凝縮しているということでもあるでしょう。強盗殺人犯人よりも、犯人の愛人であった現在は平凡な主婦を、刑事の視点から描いた作品で、サスペンスはありますが、ミステリ度は希薄です。 他の作品もそれぞれおもしろいのですが、特に印象に残ったのは次の3編。『顔』は二重のどんでん返しが用意されています。犯罪者は余計な事をしなければよかったのに… 『鬼畜』は犯罪小説としてすさまじいものがあります。リアリズムでここまで描かれると、主役夫婦に嫌悪感を通り越した感情を持ってしまいます。『投影』はまさに社会派謎解きミステリ。 |
No.732 | 6点 | 危険なやつは片づけろ ハドリー・チェイス |
(2014/09/10 22:11登録) これまでに読んだ2作が相当気に入って、今回も期待を持って読み始めたハドリー・チェイスだったのですが。 いや、やはりおもしろいことは間違いありません。しかし『ミス・ブランディッシの蘭』『蘭の肉体』のようなとんでもないところがないのも、確かなのです。雑誌記者が失踪人の行方を追っていくと、次々に殺人が起こって、彼自身も危険にさらされ…という粗筋は、まさにハードボイルドど真ん中のプロットですからね、派手なアクションや誇張された悪徳警官に牛耳られた町の扱い等はさすがチェイスらしい楽しさですが、意表を突く展開にはなりようがありません。ラストも、いかにもなパターンに主人公の密かな考えをひねりにしてあって決して悪くないのですが、上述2作ほどのインパクトはありません。 考えてみれば、最初の密室状況からの失踪を、共犯者を使ってまで演出する理由など全くないのですが、こういう作風ですから、まあいいでしょう。 |
No.731 | 6点 | グリフターズ ジム・トンプスン |
(2014/09/06 22:00登録) スコセッシが製作したスティーヴン・フリアーズ監督による映画化は未見。 サブ・タイトルのとおり、意味が「詐欺師たち」なので、『白昼の死角』みたいなスケールの大きさは最初から期待していないにしても、気の利いたクライム・ストーリーかと思って読み始めたのですが、いつまでたっても話はミステリになりません。本作の大部分は、詐欺師というより作中の言葉では詐話師である若者の視点から描かれています。彼の日常生活や生い立ちが中心で、母親と愛人との3人のうまくいかない関係が、どうなることかと気をもませます。仕事は最初の釣銭詐欺(かなり知られたやり方で、失敗します)と途中のさいころいかさまの2回だけ。 全体の8割を過ぎるぐらいになって、やっとミステリ的になってきたかと思ったら、話は急激な展開を見せ、意外でかなり後味の悪い結末を迎えます。途中まで地味な異色作としては、これくらいの点数でしょうか。 |