空さんの登録情報 | |
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平均点:6.12点 | 書評数:1521件 |
No.741 | 7点 | 殺人保険 ジェームス・ケイン |
(2014/10/16 22:21登録) 『郵便配達は二度ベルを鳴らす』が基本的には犯罪者の人物を描いた作品であったのに対して、本作はよりミステリ要素の強い作品です。保険勧誘員による保険金詐取のための完全犯罪を狙った殺人が中心なのですから、当然とは言えるでしょう。いかにもミステリらしい殺人計画なのですが、それだけでなく、殺され役の娘とその恋人が半分を少し過ぎたあたりから事件に絡んできて、意外な展開を見せてくれます。殺人者の一人称形式にもかかわらず、事件の裏がどうなっているのかについて謎解きの要素がかなりある、という構成が巧みです。一人称形式であることの意味はエピローグによって明かされ、その後の締めくくり方も鮮やかに決まっています。 なお、ビリー・ワイルダー監督による映画化『深夜の告白』はフィルム・ノワールの古典として高く評価されていますが、未見。脚本を担当したチャンドラーは、ケインの原作を嫌っていたそうですけど。 |
No.740 | 6点 | スペイドという男 ハメット短編全集2 ダシール・ハメット |
(2014/10/12 13:32登録) 編者であるクイーンによる序文を載せたサム・スペイドものを中心とした5編に、日本版では5編を追加した短編集です。その序文の「彼は新しい種類の探偵小説を発明したのではない-その新しい語り方を発明したのだった」という最後の文は、分析されている『マルタの鷹』にはあてはまりますが、『赤い収穫』についてはどうかな、という気もします。 本短編集の中で言えば、サム・スペイド3編、コンチネンタル・オプ2編と、やはり私立探偵小説の『殺人助手』では、きっちり謎解きをしています。その中では『一時間』のハードさと真相が印象に残りました。『殺人助手』は二人の人間から同じ人を殺してくれと依頼された男という設定の部分はおもしろいのですが、そのため人間関係が複雑になり過ぎているのが難でしょう。 一方『休日』はもちろん、『夜陰』『ああ、兄貴』もミステリと呼ぶには微妙かな。臣さんも書かれているようにどちらもいい作品なのですが。 |
No.739 | 5点 | 南紀・伊豆Sの逆転 深谷忠記 |
(2014/10/07 23:42登録) タイトルどおり和歌山県南部と静岡県伊豆半島を舞台にした作品で、それらの地方の情景がなかなか丁寧に書きこまれています。最初の殺人は和歌山の方で起こり、警察の捜査が進む一方、探偵役の黒江壮とその恋人笹谷美緒は伊豆下田でくつろいでいるところが交互に描かれます。 それにしても、タイトルに「逆転」が付くのはこのシリーズでも謎解き度の高い作品なのでしょうか。全体的な事件構造もかなり複雑ですが、アリバイ・トリックはクイーンの某有名作のバリエーションで、この原理を目撃者の証言に利用しているのには感心しました。ただし不満点もあります。その証人の記憶がどの程度明確かについて、不安要素が多分にありますし、腕時計の使い方はあまりに不自然でしょう。第3の「逆転」については、壮が謎を解き明かさなくても、犯人は自白せざるを得なくなっていたのではないかとも思えてしまいました。 |
No.738 | 6点 | 吠える犬 E・S・ガードナー |
(2014/10/04 10:13登録) かなり以前に読んだ時は、あまり感心しなかった作品です。 今回再読してみて、見解が完全に変わったわけではありませんが、前回の不満点はかなり解消されました。理由は、この犯人の意外性を許容できるようになったことと、メイスンの法廷戦術がはっきり理解できたことです。特に法廷戦術の方は、これまでに読んだこのシリーズの中でも極めつけの荒業です。後から、あれは証人に対する反対尋問だったのだとメイスンが説明する策略は、検察側の常套的なやり方を見越しての綱渡りですが、確かに違法ではないんだろうけど、と驚かされました。作中でのメイスンについての「聖者と悪魔の申し子」との評にも納得。 それでも、犬は吠えたのかどうか、また吠えたとしたらその理由は何かという点に関してのメイスンの推理は、根拠薄弱だと思えました。また、最後のどんでん返しも一応明確な伏線はあるものの、ちょっと唐突な感じがします。 |
No.737 | 7点 | バーニング・シーズン サラ・パレツキー |
(2014/09/30 23:07登録) 毎回、身近な人が事件に巻き込まれる話が続くV・I・ウォーショースキー・シリーズですが、今回は一族の中でも厄介者の叔母エレナが、それこそ厄介事を持ち込んでくることになります。原題は “Burn Marks” で、邦題の「シーズン」は意味不明ですが、いずれにしても、最初の事件は叔母が住んでいたぼろホテルの放火。そこからさらに、どうも殺人らしい事件に発展していき、ヴィクも殺されそうになります。ただし、本作で死ぬ人間は結局、工事中の建物でのクライマックスを含め、2人だけ。 レギュラー・メンバーの中では、今回はボビー・マロリー警部補がかなり重要な役割を担っています。理由は詳しくは延べられませんが、最後の「誰だってへまはするが、それをくよくよ嘆くのはバカものだけだ」という台詞(これも誰の言葉かは伏せておきます)で、ヴィクとの口げんかにもとりあえず終止符を打ち、穏やかですっきりした幕切れとなります。 |
No.736 | 4点 | 浅草殺人ラプソディ 梶龍雄 |
(2014/09/25 22:31登録) 途中はストリッパー名探偵チエカの無茶な活躍がかなりおもしろかったのですが、読み終えてみると、釈然としないことだらけの作品でした。 メイン・トリックは某海外有名古典短編のバリエーションですが、その古典に比べて成功の確率が格段に低いのです。どんなに注意しても、せいぜい3回に1回成功するかどうかでしょう。しかも失敗すれば明瞭な証拠が残るはずのものです。またそこまでする動機も、明確でありません。 犯人の意外性を出すために無理やりな偶然を設定してストーリーを進めていたのも興ざめですし、ちょうど同じ日時という偶然も、安易です。ホームレス殺しの動機がまたあまりに乱暴で、常軌を逸しています。最後の意外性については、事件がこじれたあげく結局うまくいきはしましたが、元々の計画は、どの程度の成算があったのかはっきりしません。というわけで、点数は低くなってしまいます。 |
No.735 | 6点 | 侵入 ディック・フランシス |
(2014/09/22 23:02登録) 2冊ある騎手キット・フィールディング登場第1作とまずは言っておきますが、フランシスは同一主人公を通常使わない作家ですから、『大穴』だってそうですが、本作もシリーズ化を最初から考えていたわけではないでしょう。 読後に振り返ってみると、ミステリとしては実に地味な事件です。大筋は、主人公の妹夫婦の経営している厩舎が、悪意の中傷記事によって窮地に追い込まれたのを、何とかして救い出すというだけで、殺人は1件も起こりません。中傷記事が書かれた背景には、義弟の父親(何とも嫌な奴です)に対する陰謀があるのですが、そのからくりも大したことはありません。しかしそれでも、ストーリー展開の仕方はうまく、それをフランシスの文章で書かれるとおもしろいのです。 また、レース・シーンの描写が特に多く、競馬小説として充分楽しめるのも本作の特徴となっています。馬主のカシリア王女がいいキャラクタですね。 |
No.734 | 6点 | 裏切りの銃弾 スチュアート・カミンスキー |
(2014/09/18 22:25登録) 老刑事リーバーマン・シリーズの1冊ですが、必ずしも彼を絶対的な主役に据えていない、警察小説らしい作品です。 ある刑事が自分の妻とその不倫相手をショットガンで打ち殺し、アパートの屋上に爆弾を持って立てこもるという事件で、どんな派手な展開になるかと思わせられますが、巻末解説にも書かれているように、登場人物たちそれぞれの思惑がじっくり描かれた渋めの作品になっています。ただ、途中で出てきてこの大事件に勝手に関わることになる2人組については、必要だったのかなとも思えます。その後の見せ場の1つとの対比を作者は当然考えていたのでしょうが、かえってしつこくなり過ぎたように感じました。 また、最初の登場シーンではなぜこんな男が出てくるのか疑問に思った登場人物がいたのですが、これは全然別の事件でした。こっちの方は最終的な解決はつかないままで、解説によれば次回作に持ち越しだそうです。 |
No.733 | 8点 | 張込み 松本清張 |
(2014/09/14 12:34登録) 表題作は25ページほどのものですが、野村芳太郎監督は張込み刑事を1人から2人に増やし、その刑事の1人の家族生活の回想を付け加えたぐらいで、これを2時間近くもある映画に仕立てています。それでも映画が間延びした感じになっていないのは、監督の腕でもあると同時に、原作がそれだけの内容を凝縮しているということでもあるでしょう。強盗殺人犯人よりも、犯人の愛人であった現在は平凡な主婦を、刑事の視点から描いた作品で、サスペンスはありますが、ミステリ度は希薄です。 他の作品もそれぞれおもしろいのですが、特に印象に残ったのは次の3編。『顔』は二重のどんでん返しが用意されています。犯罪者は余計な事をしなければよかったのに… 『鬼畜』は犯罪小説としてすさまじいものがあります。リアリズムでここまで描かれると、主役夫婦に嫌悪感を通り越した感情を持ってしまいます。『投影』はまさに社会派謎解きミステリ。 |
No.732 | 6点 | 危険なやつは片づけろ ハドリー・チェイス |
(2014/09/10 22:11登録) これまでに読んだ2作が相当気に入って、今回も期待を持って読み始めたハドリー・チェイスだったのですが。 いや、やはりおもしろいことは間違いありません。しかし『ミス・ブランディッシの蘭』『蘭の肉体』のようなとんでもないところがないのも、確かなのです。雑誌記者が失踪人の行方を追っていくと、次々に殺人が起こって、彼自身も危険にさらされ…という粗筋は、まさにハードボイルドど真ん中のプロットですからね、派手なアクションや誇張された悪徳警官に牛耳られた町の扱い等はさすがチェイスらしい楽しさですが、意表を突く展開にはなりようがありません。ラストも、いかにもなパターンに主人公の密かな考えをひねりにしてあって決して悪くないのですが、上述2作ほどのインパクトはありません。 考えてみれば、最初の密室状況からの失踪を、共犯者を使ってまで演出する理由など全くないのですが、こういう作風ですから、まあいいでしょう。 |
No.731 | 6点 | グリフターズ ジム・トンプスン |
(2014/09/06 22:00登録) スコセッシが製作したスティーヴン・フリアーズ監督による映画化は未見。 サブ・タイトルのとおり、意味が「詐欺師たち」なので、『白昼の死角』みたいなスケールの大きさは最初から期待していないにしても、気の利いたクライム・ストーリーかと思って読み始めたのですが、いつまでたっても話はミステリになりません。本作の大部分は、詐欺師というより作中の言葉では詐話師である若者の視点から描かれています。彼の日常生活や生い立ちが中心で、母親と愛人との3人のうまくいかない関係が、どうなることかと気をもませます。仕事は最初の釣銭詐欺(かなり知られたやり方で、失敗します)と途中のさいころいかさまの2回だけ。 全体の8割を過ぎるぐらいになって、やっとミステリ的になってきたかと思ったら、話は急激な展開を見せ、意外でかなり後味の悪い結末を迎えます。途中まで地味な異色作としては、これくらいの点数でしょうか。 |
No.730 | 6点 | 魔弾の射手 高木彬光 |
(2014/09/02 22:19登録) 「魔弾」トリックは、海外有名作のコピーであることより、魔弾でなければならない理由が、その元ネタに比べて弱いのが気になりました。しかしそれは、本作においては実は付け足し程度のもので、むしろ顔のない死体のアイディアの方が中心でしょう。このアイディアの変形は、後に国内の某有名作でも使われていました。 冒頭の神津恭介に送られてきた招待状からそのいかにもな「顔のない死体」殺人へと、新聞連載だからということもあったのでしょうが、はったりめいた見せ場を連続させる通俗スリラーっぽい展開です。ただ、その雰囲気も途中からは控えめになり、怪しげな登場人物たちの動向を小出しにして読者の興味をつないでいきます。 犯人の意外性にこの手を使うなら、もっと明確な容疑回避ができそうな点、不満はありますが、動機の問題に対する答等感心するところもあり、かなり楽しめました。 |
No.729 | 6点 | 赤い箱 レックス・スタウト |
(2014/08/29 22:08登録) 巻末解説にはそれまでのネロ・ウルフ・シリーズの集大成的な作品としてありますが、初期作品を読んでいないので、その点は何とも言えません。全体的には、ウルフを辟易させるようなうるさい人物は登場するものの、むしろじっくり型です。動機の基になった秘密はミステリとしてはよくあるパターンと言えるでしょう。事件関係者はごく限られていて犯人の意外性はそれほどありませんし、特にミスディレクションもなく、事件の構造としては非常にストレートです。それでも、真相はそれなりに満足できるものになっていました。また、解決部分での赤い箱の使われ方には驚かされました。 ウルフがグルメや蘭のためではなく、事件捜査で外出するのは(もちろんそんなこと、めったにありません)、ある意味お約束的なギャグなのかもしれませんが、事件の性質から見て必要だったとは思えませんでした。 |
No.728 | 7点 | ファーガスン事件 ロス・マクドナルド |
(2014/08/25 22:29登録) ロス・マクドナルドが『ウィチャリー家の女』の前に書いた本作は、久々にリュウ・アーチャーの登場しない小説です。ただしやはり一人称形式で、私立探偵でこそありませんが、弁護士が活躍する話ですから、アーチャーものとそれほど違うところはありません。探偵役が変わったことによって多少雰囲気は変わりますが。また、真相はその弁護士が見破るのではなく、事件関係者から説明されることになりますが、必ずしもそうしなければならなかったわけでもないでしょう。 巻末解説では、様々な要素を詰め込みすぎていると評していますが、ストーリーの流れは自然で、複雑すぎるという印象はありませんでした。久々の再読で、内容もすっかり忘れていたので、記憶が理解を助けたわけでもなさそうです。この作者らしく、最後には様々な出来事がきれいに収束していきますが、その最後の「事故」だけはちょっと作り過ぎかなと思えました。 |
No.727 | 6点 | 浜名湖殺人事件 富士ー博多間37時間30分の謎 津村秀介 |
(2014/08/21 22:41登録) トラベル・ミステリと呼ぶには、地方の雰囲気が伝わってきません。やはりアリバイトリックの専門家による純粋なアリバイ崩しミステリです。 と言っても、構成に工夫は凝らされています。プロローグはどう見ても叙述トリックが仕掛けられているなとはわかるのですが、全体の2/3ぐらいのところに挟まれた(珍しい)ミドローグでなかなかうまく解説してくれます。ただしエピローグは、どうということもありません。 そのミドローグの前まででアリバイの前半は解明されてしまいますし、実際ありふれたトリックなのですが、犯行後の部分が時間的に無理だということになってくるのが、本作のポイントでしょう。この後半部分のトリックでは、珍しいものが使われているのですが、その使い方にもひねりが加えられていました。 犯行計画そのものが、そんな人目を引くことをしなくても、と思えるところはあるのですが、かなり楽しめました。 |
No.726 | 7点 | 細い線 エドワード・アタイヤ |
(2014/08/18 22:51登録) アタイヤは、英語版Wikipediaによればレバノン人で、むしろ自伝やノンフィクションの方が重要な作品とみなされているようです。しかし邦訳はこの1冊だけ。バウチャーや乱歩の称賛もあってか、成瀬巳喜男監督の映画以外にも3回もテレビドラマ化されています。また、フランスでもシャブロル監督が1971年に映画化しています。視覚的に派手なところは一切なく、映像向きとはあまり思えないのですが。 簡単に言えば、友人の奥さんを殺してしまったピーターの罪悪感による心理葛藤を描いた犯罪心理小説で、彼が殺人現場を離れるところから話は始まります。警察の捜査は全く描かれませんし、ピーターの仕事も登場人物表ではジャーナリストとなっていますが、会社が通信社だというだけで、具体的な仕事内容は不明。ひたすら個人的な面のみで構成された作品です。タイトルの「細い線」とは心理的な境界線のことで、第3章と第9章にこの言葉は出てきます。 |
No.725 | 6点 | モーおじさんの失踪 ジャネット・イヴァノヴィッチ |
(2014/08/14 18:50登録) 本作は英国推理作家協会のシルヴァーダガー賞を獲ったステファニー・プラム・シリーズ第3作です。第3作であることは原題からもわかることで、”Three to Get Deadly”、使われる数字がシリーズ番号を示しています。 イヴァノヴィッチを読むのは2冊目ですが、前回は番外編だったので、本来のシリーズ・スタイルは本作が初めてということになります。で、感想はというと、なるほど、これなら巻末解説に出てくるパレツキーやグラフトンとの比較も可能かなというところ。ただし、この作者の持ち味であるユーモアが、中心となるモーおじさん失踪事件と結びついていないことが多いのも確かです。軽トラックや髪の毛、チキンなどの印象に残るギャグは、モジュラー型的にステファニーが並行して扱う小事件の方に関係しているのです。削除してもミステリの本筋には影響ないのですが、中心事件はかなりシリアスな真相ですので、しかたないのかもしれません。 |
No.724 | 6点 | 松本恵子探偵小説選 松本恵子 |
(2014/08/11 12:55登録) 名前だけは記憶にある作家だなと思っていたら、そうか、クリスティー等の翻訳者として有名な人でした。『青列車の秘密』を最初に読んだのは、この人の翻訳本だったのです。この選集にはそんな人らしく、翻訳・翻案もたぶん珍しいと思われるものが4編収められています。翻案の2編は原作者も不明な作品ですが、翻案のひとつ『懐中物御用心』が、ミステリ要素とユーモアのブレンド具合がよく、最も気に入りました。 松本恵子自身の創作作品は11編。そのうち2編はミステリではありません。その非ミステリの1作『ユダの歎き』は、集中最も長い作品で、ユダがイエスを裏切った理由、ユダの性格に対する新解釈を示した力作です。1938年作であることを考えると、当時の軍国主義批判とも受け取れそうな内容になっています。 他の作品は軽いタッチでちょっとひねったオチのあるものが多く、気軽に楽しめました。 |
No.723 | 6点 | 魔女の隠れ家 ジョン・ディクスン・カー |
(2014/08/03 15:16登録) フェル博士初登場の本作は、カーにとって一つの節目となる作品だと思われます。といっても直前の『毒のたわむれ』は読んでいないのですが。 初期バンコランものでは衝撃的な現象がこけおどしに過ぎず、トリックやロジックにいいかげんなところがあったのですが、後の作品では怪奇性は保持しながらも結末の意外性、合理性をむしろ重視するようになります。本作でも廃れた監獄の不気味な雰囲気はたっぷりですが、一家に伝わる肝試し的儀式の手順を犯人が殺人トリックに利用し、さらに偶然を組み合わせることで不可能性を強調しているところなど、論理的整合性を重視して、解決はなかなか鮮やかです。そんな事件を捜査するフェル博士の磊落でユーモラスな人柄設定(本作ではこれまた楽しい性格のフェル夫人も登場)は、対比効果を考えてのことでしょう。 ラスト、犯人が供述書を書いた後の行動(というより不行動)が、なかなか印象的でした。 |
No.722 | 7点 | 恐怖の掟 マイクル・コリンズ |
(2014/07/31 00:45登録) マイクル・コリンズのデビュー作の原題はAct of Fear。確かに”Act” には法令の意味もあり、作者自身その意味も含めているのかもしれませんが、読み終えてみると、やはりこれは基本的には通常使われる「行為」のことでしょう。最終章では、犯人の恐怖ゆえの行為についてじっくり考察されています。 最初のうちは、社会的な問題などに対する言及が多少うるさい感じもしたのですが、そういったタイプの描き方が最後の動機考察とも結びついていたわけで、巻末解説にはロス・マクによる絶賛が掲載されていますが、それも納得できます。事件の大部分に対する解答(それ自体かなり満足できるもの)が出てしまった後、早川ポケミスで後50ページも残っているのです。いったいこの後何を書くのだろうと思っていたら、そこからが本作のテーマを語る部分になっていたわけで、私立探偵ダン・フォーチューンが片腕であることも活かされています。 |