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ミステリの祭典

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危険なやつは片づけろ

作家 ハドリー・チェイス
出版日1964年01月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 人並由真
(2020/04/18 19:40登録)
(ネタバレなし)
「わたし」こと、雑誌「犯罪実話」のライター、チェット・スレードンが、編集長のエドウィン・ファイエットから受けた指示。それは14ヶ月前にウェルデン市のナイトクラブ「フロリアン」から行方不明になった23歳の美人ダンサー、フェイ・ベンスンの失踪事件を洗い直せというものだった。早速、相棒のライター、バーニー・ロウとともに現地に向かうスレードンだが、二人は事件に関係するらしい複数の人物の変死を確認。さらにスレードンたちが出会った何か情報を秘めていそうな人物までが口封じされる。そして危険な魔手は、スレードンたち自身にも迫ってきた。

 1954年の英国作品。骨っぽいノワールから、窮地に立たされた主人公の矜持を見せつけるキャラクタードラマ、小粋なクライムサスペンスまで、似たようで実は幅広い主題を器用にこなすチェイスだが、本作では完全に通俗B級ハードボイルド(今回はかなり乱暴にこの言葉を使ってるが)の世界を、実に職人的な熟練の手際で仕上げている。

 おおざっぱに分類すれば、発覚していない悪事とその黒幕を暴けば記事(金)になるし、正義のためにも貢献できると決め込んだ文筆家が、悪徳の町(スモールタウン)へ乗り込んでいく王道パターンだが、主人公コンビの所属雑誌「犯罪実話」が意外によく読まれていて、捜査(取材)先の事件関係者や物語前半の舞台であるウェルデン市の警官たちにも通りがいいのが、なんか笑える。おかげで物語の前半は実は、そんなに危ないスモールタウンという感じはしない(物騒な殺し屋は向こうから寄ってくるが)。
 おかげでこの手の作品としては、意外なほどにマジメでマトモな警官たちが味方についてくれて、物語の半ばには悪党を迎え撃つ正義のチーム的な布陣になるのがちょっと驚いた。
 だが悪事の本陣は実はもうひとつのスモールタウン、タンバ・シティであり、そこは正に、ほぼ完全にギャングと悪徳警官が結託する場。所轄の事情からウェルデン市のマトモな警官たちも表立った支援はできず、ストーリーの後半では単身敵地に乗り込んでいく主人公スレードンがゲリラ的な奮闘を強いられるという二段構えの構成もよくできている。ストーリーが、ホップ・ステップする躍動感が半端じゃない。
 
 美人ダンサー失踪事件の背後に何があるのかというミステリ的な興味の真相も、なかなか手の込んだもので(評者は別の可能性を考えたがハズれた)、ラストの微妙にノワールっぽい落としどころも気が利いて洒落た味わい。
 お腹いっぱいでこの手のものはしばらく読まなくていいやという思いと、面白いのでもうちょっとこーゆーものを読みたいという欲求、二律背反の気分がせめぎあっている。たぶん、それだけ良かったということであろう(笑)。

No.1 6点
(2014/09/10 22:11登録)
これまでに読んだ2作が相当気に入って、今回も期待を持って読み始めたハドリー・チェイスだったのですが。
いや、やはりおもしろいことは間違いありません。しかし『ミス・ブランディッシの蘭』『蘭の肉体』のようなとんでもないところがないのも、確かなのです。雑誌記者が失踪人の行方を追っていくと、次々に殺人が起こって、彼自身も危険にさらされ…という粗筋は、まさにハードボイルドど真ん中のプロットですからね、派手なアクションや誇張された悪徳警官に牛耳られた町の扱い等はさすがチェイスらしい楽しさですが、意表を突く展開にはなりようがありません。ラストも、いかにもなパターンに主人公の密かな考えをひねりにしてあって決して悪くないのですが、上述2作ほどのインパクトはありません。
考えてみれば、最初の密室状況からの失踪を、共犯者を使ってまで演出する理由など全くないのですが、こういう作風ですから、まあいいでしょう。

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