バイオレント・サタデー 旧邦題『オスターマンの週末』 |
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作家 | ロバート・ラドラム |
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出版日 | 1975年01月 |
平均点 | 7.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 8点 | 人並由真 | |
(2023/10/07 17:22登録) (ネタバレなし) 1970年前後のある年の7月。ニュージャージー州の高級住宅街サドル・バレーの町では、TV報道番組のディレクターでピューリッア賞の候補にもなったジョン・タナーとその妻アリスが近所の友人たち、弁護士トレメイン家の夫婦、元スポーツ選手でイタリア系のカルドーネ夫婦、そして久々にニューヨークから戻るテレビ作家のオスターマン夫婦を迎えて、次の週末にホームパーティを開こうと考えていた。そんな矢先、CIAの高官ローレンス(ラリー)・ファセットによってワシントンに呼び出されたタナーは、サドル・バレーの町にソ連の謎の大物工作員「オメガ」が潜み、そしてその正体が3組の友人夫婦たちの誰か、あるいは複数の人物だという容疑があると聞かされる。市井にまぎれて一般市民のひそかな醜聞を掴んで脅迫し、東側の秘密工作員を増産してゆくオメガの正体とは? タナーはファセットから、自宅の身辺に厳重な警備を敷くという約束のもとに半ば強引に囮役を求められ、やむなく謎の敵のあぶり出しにかかる。だがくだんの謎の敵は、タナー家の周辺で人身を殺傷する凶行に及んだ。 1972年のアメリカ作品。 1970年代半ばの時点で、冒険小説またはスパイスリラーの分野での新鋭「怪物作家」と、この日本でももてはやされながら、2020年代の現在では、ほぼ忘れられた80~90年代の巨匠ロバート・ラドラムの第二長編。 私事ながらここしばらく今年の新刊ばっか読んでて飽きてきたので、そろそろ旧作も読もうと、これを手に取った。数十年ぶりの再読である。 考えてみれば評者が本サイトの末席を汚すようになってからもう6年目だが、この間にラドラムは一作も読んだことはなかった(汗)。まあ『スカーラッチ家』も『マトロック・ペーパー』も『悪魔の取引』も『ホルクロフト』も『マタレーズ』もそして『暗殺者』も初期からの主要作はみんな既読ではあるが。 個人的に、シリーズものとなった人気作『暗殺者』(の第一作)はそんなに評価していない。いま名前をあげたなかで最高傑作と評価する&偏愛してるは断然『マタレーズ』、骨太な面白さなら『スカーラッチ家』、妙に思い入れがあるのは『悪魔の取引』などなど……。 で、本作だが、実は最初に読んだラドラムの長編がこれ。もちろん、元版の邦訳ハードカバー『オスターマンの週末』の方で、少年時代に読んだ。当時のSRの会では一時期ラドラムが高評価で(いまではとても信じられないが)、これもその年度の海外ミステリ全作のなかで、たしかベスト2位であった(1位がなんだったかは忘れた。調べればわかると思うが)。 とにかく確かにエラく面白く、一気読みしたことと、終盤の意外性だけはその後もずっと数十年おぼえていた。そういう意味では、先に名前をあげたラドラムの初期の諸作群にまぜても上位にくるし、それなり以上に思い入れのある一冊である。 で、今回はたまたま、一週間~半月ほど前に本作の文庫版『バイオレント・サタデー』を最寄りのブックオフの100円棚で発見。 元版のハードカバー『オスターマン』はいまだ持ってるし、映画化(まだ観てない)にあわせて改題されたこっち(文庫版)のタイトル『バイオレント~』もなんか安っぽい印象であまりなじめないんだけど、最後のサプライズはともかくお話の細部はほとんど忘れてるので、内容を再確認したい興味もある。ここで文庫版に出会ったのも何かの縁だと購入し、昨夜、読み始めた。 主人公はタナーだが、物語を語る視点は自在にとび、サドル・バレーの住人たち(メインキャラの夫婦たち)のもとに続々と、絨毯爆撃風に怪文書が届いたり謎の人物の接触がある。潔白な住人(いるのか?)もふくめて一同を巻き込みながら「オメガ」をあぶりだそうとするCIAの謀略作戦にタナーほかの面々が直面し、この辺りの展開が実にサスペンスフル。まあ半世紀前の作品なので、通信環境や生活文化そのほかでの時代感はどうしてもあるが、個人的にはその辺はさほど気にしないで、読み進められた。 目次でいきなりわかるように、物語のほぼ全域は一週間内の物語なので、筋運びも十分にスピーディでもある。 強烈なラストは記憶のままの通りだったが、サブ部分のサプライズは完全に忘れていたので、その意味では再読でも楽しめた。やはり面白い。 とはいえ半世紀前の高評価そのままという気分にもなれず、これはたぶん、本作というかラドラムの作風や作劇術を吸収・消化した後続作家たちの諸作(特に誰とはぱっと言えないのだが)に、この手のスパイスリラー(一部は本作のような巻き込まれ型スパイスリラー)の印象を上書きされてしまっているためでもあろう。 そういう意味での時代と寝た? 作品ともいえるが、この手のものが好きなら、いま読んでも相応に面白いとは思う(……で、これから本書を楽しむ人の場合、たぶん、作品の周辺の雑念の取り込み如何で、感想や評価が影響されることはある……かもしれない)。 ただ、あまりにも余韻の深いラストの一行はやはりいい。主人公タナーたちの人生をほんの一週間だけ巻き込み、そして多くの爪痕を残した物語の締めとして、この一行は数十年間、ずっと評者のミステリライフの心の一角にあった。 再読した評価で7.5点。このラストの一行の良さをしみじみ再確認して1点おまけの8.5点の意味で、この評点。 |
No.1 | 7点 | 空 | |
(2014/10/24 22:48登録) ペキンパー監督による映画化は公開時に見て、あまり感心しなかったのでした。まあ、ペキンパーはアウトロー的な立場からストレートな西部劇系の話でアクションをたっぷり見せるのが得意な監督ですから、ミステリらしいひねりを持つむしろ体制的なこの原作には合わなかったのでしょうか。なお、本作が映画化されたのは出版後10年以上も経ってからの1983年で、結末を含めかなり改変しています(映画版はかなり忘れていたので、WEBで粗筋再確認)。 で、今回初めて読んだ原作、最初のうちは、主役ジョン・タナーの友人たち3組夫妻の名前が覚えにくく、展開がゆるやかで、それほどとも思えませんでした。しかし後半、原題 ”The Osterman Weekend” にも明らかなとおり友人たちの集まる土曜日になってからは、さすがに緊迫感が出てきて、クライマックスに向け盛り上がってきます。映画を見ていても意外な結末が待っていました。 |