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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.1125 6点 毒の矢
横溝正史
(2019/10/01 20:18登録)
中編に加筆した作品だそうで、サスペンス重視の通俗的なものではなく、200ページ弱でほどよくまとまった純粋なパズラーになっています。殺人トリックそのものは、英国有名作家の映画化もされた作品とそっくりですが、背中に彫られたトランプの刺青という作者らしい趣向をうまく利用して、さらに重要手掛かりにもしているところが評価できます。ただこの手がかりの与え方は、少々不自然かなとは思えますが。町中にばらまかれる匿名の手紙の動機も、一応納得できる形にしていますし、金田一耕助が殺人事件発生の当夜に事件を解決してしまうという名探偵らしさを見せてくれるのも好印象です。
角川文庫版には、同じ世田谷区緑ヶ丘を舞台にした中編『黒い翼』を併録しています。表題作の原型中編と連続して雑誌に発表されたそうで、テーマ的にも「幸運の手紙」系の葉書という表題作と似たものです。


No.1124 6点 ガールハンター
ミッキー・スピレイン
(2019/09/28 07:48登録)
前年に未発表旧作(一応手を加えているんじゃないかとも思えますが)『縄張りをわたすな』で長編を再開したスピレイン、新作マイク・ハマーものは、作者だけでなくハマー自身の復活物語でもありました。スピレイン自身がハマーみたいにアル中になっていたわけではないでしょうけれど。作品設定としては、ハマーは7年間飲んだくれて落ちぶれていたことになっています。いくら悔恨と悲しみに打ちひしがれたとはいえ、そんなにまでなるかなあとか、恨みを持つ輩によくも狙われなかったもんだとかいう疑問は、この際無視することにして。
冒頭で生きているらしいとわかったヴェルダは、作中では一切登場しません。二人の再会は次作でのお楽しみ、とういうことで。昔みたいな体力はないとかくよくよ考えながらも、殺し屋相手に頑張るハマーには、やはり拍手を。ラストシーンは、伏線がわざとらしいですが、いかにもスピレインです。


No.1123 6点 夜の試写会
S・J・ローザン
(2019/09/23 23:23登録)
日本で独自に編集されたローザンの短編集。
収録7編中、最初と最後にリディアとビルが2人とも登場する(いずれもリディア視点)作品を置き、その間にリディア単独事件を2編、ビル単独事件を3編並べています。すべて、何らかの意味で結末の意外性を狙ったものになっていますが、パズラー系作家に比べると謎解き的にはちょっとワン・パターンかなとも思えます。
巻末解説にはビル主役作はハードボイルド的、リディア主役作はコージーっぽいと書かれていますが、本書の中で最もハードボイルドでないのは、ビルの『天の与えしもの』で、困りもの宗教家撃退法を描いたユーモア・ミステリです。一方重いテーマを持ちハードに徹したのはビルの『ただ一度のチャンス』とリディアの『人でなし』。さらにアメリカ探偵作家クラブ最優秀短編賞受賞の軽快な『ペテン師ディランシー』など、作風的には変化に富んでいます。


No.1122 6点 時の審廷
芦辺拓
(2019/09/18 23:15登録)
戦前のハルビンから現代の日本へと、実際の有名犯罪事件をモデルに壮大なスケールで描く「権力者」の悪徳の限り…
2010年4月に序篇が雑誌に掲載されたことが、前書きに記されていますが、巻末の「+書き下ろし」という記載からすると、序篇執筆の3年後にそれ以降は書かれたということでしょうか。前書きではその間に「…東日本大震災が発生、物語の根底をくつがえす結果となりました」とも書かれていて、意味はわかりますが、フィクションにとっては現実との相違はどうでもいいことでしょう。昭和23年の「大都銀行事件」なんてモデルは明らかですが、だからといって現実の事件の真相も本作の結末に近いものだというわけではありません。
ハルビンで「警尉補」として登場し、戦後の東京では警部になっている人は、日本語での名前は明確にされませんが、ロシア語発音の呼びかけ等から、あのアリバイ崩し名手であることは明らか。


No.1121 6点 犯罪王カ~ムジン
ジェラルド・カーシュ
(2019/09/14 19:06登録)
2003年にアメリカで編集された17編のカームジン・シリーズには、直訳すれば「最も偉大な犯罪者あるいは最も突飛な嘘つき」という副題が付いています。
英首相チャーチル等愛読者が多いということで、とんでもない作品を期待していたのですが、第1作『カームジンの銀行泥棒』から始まり、全体的に意外にまとも? という感じでした。直前に読んだクレイグ・ライスが予想ほどお笑い要素がなかったのにはむしろ好感を持ったのですが、本作の場合は少々期待外れでした。いや、トリックとしてはなかなかのものなのですが。巨額の金を動かした犯罪者だと言いながら、語り手にコーヒーや煙草をおごらせたりする現在の状況とのギャップも、個人的にはそれほどおもしろいとは思えません。でもまあ『カームジンとあの世を信じない男』とかその続編とも言うべき『カームジンと透明人間』という珍品もあります。
シリーズ外の2編も収録。


No.1120 6点 幸運な死体
クレイグ・ライス
(2019/09/10 20:20登録)
ライスは初読みですが、予想とは違う印象を持った作品でした。
まずはさほどコメディしていなかったのがひとつ。特に笑わせてやろうという感じがしないのです。大げさな比喩表現もありますが、うまくはまる場合にしか使っていないと思いますし、いくらでも派手にできそうな「幽霊」騒ぎも人々のリアクションはむしろ控えめなくらいです。またマローンは酔いどれ弁護士と紹介されることが多いですが、ジェイムズ・クラムリーのミロやシュグルーみたいなことはありません。まあ最後には、酒場で乱闘の挙句留置場に一時ぶちこまれもしますが、これは事情を考えれば当然でしょう。事件がどう決着しようが、マローンにとって「幸運な死体」ことアンナ・マリーとの関係がめでたしめでたしになるわけがありません。
謎解き的には、アクション・シーンの後、これで終わるわけがないしと思っていたら、やはりそう来ましたか。


No.1119 5点 断層
高木彬光
(2019/09/06 22:55登録)
タフな私立探偵大前田英策を主役としたシリーズは、神津恭介との共演のため本領が発揮されていない久々登場の『狐の密室』だけしか読んでいなかったのですが、本作はその第3作、1959年発表という時代性からして、事件の裏に隠された秘密など、多少社会派的な要素も入ってきています。一方謎解き的にはシンプルで、ハウダニットの要素はありません。それは神津恭介とは違うものを期待して読んでいるからいいのですが、最後に犯人が仕掛けた罠を大前田英策が見破る決め手について、後から説明されるだけでフェアプレイが全く守られていないのだけはちょっとどうかと思います。
立風書房版には、同じ大前田英策ものの4短編が併録されていますが、中ではSF的な謎と人情噺を融合した『二十三歳の赤ん坊』が気に入りました。『飛びたてぬ鳥』は、同じ効果を出すには死体発見を遅らせる方がよっぽど簡単だろうと思えてしまいます。


No.1118 6点 追跡
ビル・プロンジーニ
(2019/09/01 15:38登録)
原題の "Bindlestiff" は、訳者あとがきでは「渡り鳥」としゃれた言葉を使っていますが、要するに浮浪者、ホームレスのこと。
前々作『迷路』で私立探偵ライセンスを失うことになった名無しのオプに、無事ライセンスが再交付されるところから話は始まります。そのことがマスコミにとりあげられるのですが、アメリカでは本当にそんなこともニュースになるんでしょうか。まあそれで祝福の電話をかけてきた人の中に、会ったことのある女私立探偵シャロン・マッコーンがいたというのにはにやりとさせられます。プロンジーニ夫人のマーシャ・マラーの探偵役で、本作の翌年には夫婦合作『ダブル』も発表されます。
内容的には、二つの部分に分かれています。前半は浮浪者になっている父親を捜してほしいという娘の依頼で、その問題に一応決着が付いた後、さらにそのことが元で新たな事件が起こるという展開で、この構成は『迷路』よりは気に入りました。


No.1117 5点 殺したくないのに
バリ・ウッド
(2019/08/28 20:41登録)
本作に興味を持ったのは、デイヴィッド・クローネンバーグ監督の映画『戦慄の絆』の原作者(の一人)の小説だからということでした。そして読み始めてみると、なんとクローネンバーグ監督を有名にした『スキャナーズ』―頭が爆発する衝撃映像が話題になった超能力SF映画と同じ題材ではないですか。本作が発表されたのは『スキャナーズ』公開の5年前、1975年です。
しかし、SFと言うには科学的側面が弱いのです。超能力者ジェニファーの周辺と、彼女が正当防衛で殺した(と思われる)強盗の不可解な死因を異様な執念で突き止めようとする警部の視点を組み合わせた構成で、その意味ではミステリ的要素の方が強いと言えます。法律的にはばかばかしい警部の執念の理由は、最後の対決部分で明確になります。筆力がある作家なのは間違いないのですが、警察官がこんなことを考えては、という思いが先に立ってしまいました。


No.1116 7点 めぐり会い
岸田るり子
(2019/08/24 23:02登録)
絵が得意な主婦華美と、バンドのボーカル祐の二人の視点を章ごとに切り替えていくカットバック手法で、最後にその二つの話がどう結びつくかという点に興味の焦点を置いた作品です。岸田るり子はこのように小説構成で読者を惹きつけるのが得意な作家ですが、本作は中でもかなり成功した例でしょう。
今回その手法で提示される謎はSF的な時間のずれで、真相解明直前には「タイムスリップ」という章まであります。トリックはごく簡単ですが、その章まで時間的な謎は読者にだけ示して、登場人物たちは全く知らないように話を組み立てているのが、なかなかうまいと思います。
華美と祐のどちらも家族、特に「愛」の問題に悩んでいて、そこがじっくり描き込まれた作品でもあります。最後にタイトルどおりの結末になるのは当然ですが、どのように「会う」ことになるのか、そこは読んでのお楽しみ。ただ、連続放火事件の真相だけはちょっとなあ…


No.1115 6点 魔人
金来成
(2019/08/19 22:49登録)
韓国ミステリの祖と言われる金来成(キム・ネソン)が1939年に新聞に連載し、すぐ単行本で出版されてベスト・セラーになった作品。執筆時期にもかかわらず、内容的には日本の影は全く感じられません。
論創社邦訳の帯には「江戸川乱歩の世界を彷彿とさせる怪奇と浪漫」とされていて、確かに展開には乱歩並みに通俗的に派手なところはあるものの、『蜘蛛男』等に比べると、全体的な事件構図ははるかに論理的にできています。ただトリックの独創性はなく、最初の仮面舞踏会での事件については、アメリカの某有名作を連想する人は多いでしょう。まあ作者自身それは承知の上で、探偵役にその作家名だけは言わせています。そのシーンで真相の大部分は解明されたかに思えるのですが、さらにひねりを加えて盛りだくさんな作品に仕上げています。
ところで名探偵の劉不亂(ユブラン)、1か所(第26章)、ルビを「ルブラン」と誤植したところがあります。


No.1114 8点 センチュリアン
ジョゼフ・ウォンボー
(2019/08/15 22:22登録)
原題は "The New Centurions"。"Century" には古語で「百人隊」の意味もあり、その隊長のことだそうです。本書は文庫化された時にミステリ文庫ではなく「NV」つまりノベルズの方で出版されています。実際、警察小説ではあるものの、ミステリとは呼びにくいところがあります。この作家は21世紀に入ってからのハリウッド警察シリーズしか読んでいないのですが、このデビュー作は警察官の日常を描いているものの、そもそも全体を通してのメインとなる犯罪事件がありません。主人公は同時期に警察官になった3人。1960年初夏のプロローグ(研修期間)から始まって、毎年8月、最後は1965年8月まで続きます。まあこの最後の年には現実に取材した大事件が起こり、そこで3人が久しぶりに出会うことにもなるのですが。
ともかくドキュメンタリーを読んでいるような気にさせられる臨場感がすごい作品です。


No.1113 4点 夜行列車
森村誠一
(2019/08/11 22:38登録)
220ページほどという、森村誠一にしては短めの長編です。講談社文庫の帯には、「ドラマティックミステリー 本格長編推理傑作」と書かれていますが、「本格」ねえ、という感じはします。謎解き的な部分としておもしろいのは、ひき逃げと殺人の犯人が逮捕されても、まだ謎は残っているという構成と、最後の決め手となる証拠だけでしょう。全体的な流れを読後に振り返ってみると、あまりに偶然が多いですし、後段の犯人設定に何の工夫もないことにがっかりさせられます。容疑者が浮かんできた段階で、もう一ひねりあるのではないかなと、この段階に入った部分を思い返して予想したのですが、違っていました。
細かく言えばナンバープレートに指紋がその時期まで残っているかといった疑問もありますが、それより容疑者を逮捕する時、隠し玉の証拠があるから逮捕に踏み切ったことだけは読者にも説明しておくべきでしょう。


No.1112 4点 見えない敵
F・W・クロフツ
(2019/08/07 23:41登録)
1945年に発表された、第二次大戦中の殺人事件を扱った作品です。軍の倉庫から盗まれた手榴弾で行われた爆殺ということで、時にはスリラーっぽい作品も書いているクロフツですし、スパイ小説をも思わせるタイトルでもありますが、純粋な謎解き捜査小説です。
地方で起こった事件にスコットランド・ヤードから応援に出張するのはご存知フレンチ警視-いや、これは井上勇氏の階級名称翻訳の問題で、まだ警部のはずでしょう。これもお馴染みカーター部長を連れていますが、この人ヴァン・ダイン(作中の)並みに影の薄いことがあります。
これも以前に盗まれていた電線を使っての遠隔殺人であることは、フレンチが捜査を始めた直後に明らかになるのですが犯人の特定はなかなかできません。トリックが解明されてみると、そんな複雑なことをしなくてもいい方法があったのではないかと思えてしまう点が不満でした。


No.1111 10点 雪は汚れていた
ジョルジュ・シムノン
(2019/08/03 10:49登録)
シムノンの膨大な作品中でも一般的に最も高く評価されているのが、ジッドを驚嘆させたという本作でしょう。実際、犯罪小説らしい前半も充分面白いのですが、主人公が逮捕されてからの後半には圧倒されます。
しかし、シムノンらしい代表作とは言えないかもしれません。むしろ異色な要素もあるのです。まず長さですが、文庫本で200ページ前後のものが多い作家なのに、本作は約300ページと、普通の長編といった長さです。もっと長い、いわゆる大作だと、『ドナデュの遺書』、『フェルショー家の兄』、未訳の “Le voyageur de la Toussaint” 等もあるのですが。また、舞台の町がどこかが明記されないのも、珍しいことです。雪の積もった地方で、登場人物たちは主人公フランク・フリードマイヤー、隣人のゲルハルト・ホルストといったドイツ系の名前。
なお、読んだのは早川書房シメノン選集の永戸俊雄訳で、文章は古めかしいですが、作品評価としてはやはりこれで。


No.1110 5点 海の墓標
水上勉
(2019/07/29 23:29登録)
北海道根室半島の突端にある珸瑤瑁の村に住む男が、コンブ採りに出てソ連に拿捕されるという事件がプロローグに置かれています。地方の村、特に海浜の寒村を描くのが巧みな水上勉らしい雰囲気のある作品です。昭和37年11月から翌年12月まで雑誌掲載されたもので、この時期は作品内容と密接な関係を持っています。ソ連との間に漁業協定が結ばれたのが昭和38年6月で、連載中だったわけです。犯人逮捕に向かうラストはこの協定を受けて、当初の予定に変更を加えたものでしょう。小説のテーマとしてはうまく結びついていますが、そのため警察が多少間抜けな感じになり、また警察に協力した被害者の友人の存在意義が希薄になってしまっているとも言えます。
真相の大まかな部分は途中で見当がつくものの、証拠不足がネックという展開ですが、十善警部補がいつの間にか事件全容を解明してしまい、捜査過程が描かれていないのはいただけません。


No.1109 5点 マクシム少佐の指揮
ギャビン・ライアル
(2019/07/25 23:17登録)
ライアルが1980年台になって始めたマクシム少佐シリーズの第2作です。
マクシム少佐がSAS(空軍特殊部隊)時代の部下から、困った事件の処理について依頼を受ける前、第1章で正体不明の女性ピアノ教師のことがちょっと描かれます。で、この人の持つ秘密が最終的には本作の謎の中心部分にあることになります。
まあその秘密は意外ではあるのですが、不満もあります。特にマクシム少佐が依頼の件を上司に報告した後開かれる会議は、出席者が多くて誰が誰やらわからなくなります。その会議もそうですが、最初のうちテンポが遅く、読みにくさを感じました。
冷戦時代、東西ドイツを話の中心にしたスパイ小説と言えば、ル・カレ等シリアスなものは大好きですし、逆に荒唐無稽なものも楽しめます。しかし本作は最後には派手なアクションを見せてくれるものの、全体的なバランスは今一つといった感じでした。


No.1108 6点 運のいい敗北者
E・S・ガードナー
(2019/07/21 23:33登録)
冒頭に工夫を凝らしてくれることの多いシリーズですが、今回最初の依頼は、ひき逃げ事件裁判を傍聴して、意見を聞かせてくれというもの。ところがそれが実は殺人事件だったことが後でわかるというのは、まあよくある展開と言えるでしょう。
殺人事件裁判が始まった直後にメイスンが提示する法律上の問題点には、死体再調査の時点で疑問を感じたのですが、メイスンに指摘されるまで法律の専門家である裁判官や検事がそれに気づかないのは、あり得るのかなと思ってしまいました。これは他にも例があるアイディアですが、なかなかおもしろい使い方です。最終的な真相は、これも有名アイディアのヴァリエーションですが、手順にちょっと煩雑すぎるところはあるものの、かなり鮮やかに決まっています。
それにしても今回のバーガー検事は、ただ間抜け役を演じるために裁判の最後の方で登場するだけ。この人初期には厳格さが好感の持てる検事だったんですが。


No.1107 7点 てのひらの闇
藤原伊織
(2019/07/18 23:06登録)
飲料会社の宣伝部課長堀江が六本木のバーの前の道で、酔いつぶれて寝ていたのが雨で目が覚める、というシーンから始まる作品です。その日、彼は部長と一緒に、会社の会長に呼び出されてある依頼を受けるのですが…という展開で、最初のバーがある建物も実は会長の依頼と関係を持っていることがわかってきます。このバーをやっているナミちゃんとマイクのキャラが実に楽しいのです。堀江の人物像も、彼の過去をかなり早い段階から少しずつ明かしていくことで、鮮明にしていきます。
しかし印象に残る登場人物と言えば、最初の方で会長の通夜に姿を見せた坂崎組長です。なんともクールで礼儀正しくかっこいい。もう1回、最後に彼は顔を見せなければならないはずと思っていたら、こういう登場の仕方でしたか。
しかし事件そのものは解決した後、翌日の最後の数行は、あまりにもベタに抒情的すぎるかなあ。


No.1106 6点 ディミティおばさまと古代遺跡の謎
ナンシー・アサートン
(2019/07/12 22:45登録)
ディミティおばさまはミス・マープルの幽霊版みたいなものかしらと思って読んでみたのです。もちろんクリスティーみたいな大胆な欺しのテクニックは全然期待していませんでしたが。
ところがディミティおばさまは少なくとも本作については、全く探偵役ではないのです。双子が生まれて、育児にてんてこ舞いのロリの優しい相談相手ではああるのですが。おばさまは目に見える幽霊らしい幽霊ではなく、青い日記帳に文字を現すという方法で生きている人間とコンタクトするという設定は、楽しいとも言えますし、なんとなく物足らない気もします。
起こる事件は、村の牧師館からの古い図録盗難。あと、ロリが盗難事件について調査していると、宇宙人を見たという目撃者も出てきますが、これはどうでもよろしい。それより遺跡発掘にまつわる村のトラブルが最後にはすべて円満に解決するほのぼのした雰囲気を楽しめれば、それでいいのでしょう。

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