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ミステリの祭典

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アンクル・アブナーの叡智
アブナー伯父

作家 M・D・ポースト
出版日1976年01月
平均点8.20点
書評数5人

No.5 7点 蟷螂の斧
(2023/07/10 21:31登録)
①手の跡 7点 自殺した弟の遺書には遺産の大部分は兄へ、自分の子供へははわずかなものであった・・・弟の手には血がついていた
②死者の家 5点 保安官の家が放火された。郡税が盗まれ、保安官や保証人たちは破産した・・・保安官は父親の墓の前に
③奇跡の時代 8点 散弾銃が暴発し兄が死亡。弟が遺産を引き継ぐ・・・つぎはぎだらけの葬儀用の手袋
④第十戒 6点 森の中で木の洞から銃を発見した。アブナーはそのまま放置した。そして銃声が・・・法と正義
⑤金貨 5点 牛飼いの老人が殺された。老人は家のどこかに金貨を隠しているはず・・・「牛の中をさがしてみな」
⑥禿鷹の目 6点 禿鷹と呼ばれた男と純な娘が結婚することになった。アブナーは待ったをかける・・・男は荒くれ牛を殺したという
⑦血の犠牲 6点 男は銃で撃たれ死んでいた。妻は「あの人は狂っていた」と言い、老人は自分が男を殺したという・・・奴隷解放問題
⑧ドゥームドーフ殺人事件 7点 世界推理短編傑作集2(新版)で書評済 
⑨神の使者「天の使い」5点 以下「アブナー伯父の事件簿」で書評済
⑩神のみわざ「不可抗力」 7点
⑪宝さがし「海賊の宝物」 8点
⑫黄昏の怪事件「私刑」 6点
⑬黄金の十字架「悪魔の道具」 7点
⑭魔女と使い魔「地の掟」 5点
⑮藁人形 9点
⑯神の摂理「偶然の恩恵」 5点
⑰養女 7点
⑱ナボテの葡萄園 8点

No.4 9点 斎藤警部
(2021/04/22 23:40登録)
アメリカ開拓時代。危うい治安環境でキリスト教に縋る心情が濃い空気の中、法治と民主主義への道を手探りする志ある者たちが牽引する、他のミステリでは得られないこの独特の熱気と真摯な緊張感、そして暗闇の中で出逢う眩しい光の感慨。どれも掌編サイズでありながら何故か重厚無比な魅力を誇って憚らない、所謂黄金期に少し先行する、古典的本格ミステリ集です。

ドゥームドーフ殺人事件/手の跡/神の使者/神のみわざ/宝さがし/死者の家/黄昏の怪事件/奇跡の時代/第十戒/黄金の十字架/魔女と使い魔/金貨/藁人形/神の摂理/禿鷹の目/血の犠牲/養女/ナボテの葡萄園

「藁人形」の真犯人特定に至る、ポースト独特の痛み。「養女」のハウダニット暴露へぎらぎら、じりじりと至るスリル。 「ナボテの葡萄園」の結末に向かっての熱すぎる大進行劇。 等々等々。。。。

語り手の少年(アブナーの甥)の成長を追って時系列に、オリジナル短篇集から抜粋+追加で再編成した創元版『アブナー伯父の事件簿』と異なり、早川版のこちらは収録順含めオリジナル短篇集そのままの翻訳(そのため時系列は行ったり来たり)。大クライマックス「ナボテ」を最後に持って来る気持ちは分かるが、同作を早々と前半に置く創元『事件簿』の方が全体通しての緊張感は上回っているかと思わなくはない。

某作の古式ゆかしい物理トリックが突出して知られる不幸があるが、実際は、仮に表面は物理的でもどこまでも心理に軸足の、人間心理の動きを神の摂理に照らし合わせて事件と人生の解決に持ち込もうとする気概の作品が多い。 探偵役アブナーの、コミュニテイでの申し分無い名士というかヒーロー性も特筆出来よう。

「理性とは人間特有のものなんだ。神が理性を必要とするなんて、万が一にも考えられん。理性とは、真実を知らん人間が、一歩一歩真実に近づいてゆく手立てなのだ。」

No.3 8点
(2019/11/11 23:09登録)
久々の再読。文庫本で平均18ページ程度のパズラー系18編というと、小説としてのおもしろ味のない推理パズル系のものが多いと思われますが、本作は別格。いずれも重厚な小説に仕上がっているところが驚きです。
謎解き的には、最も長い(と言っても22ページですが)『神の使者』はアブナー伯父の推理の時間的経緯が今一つはっきりしないとか、『魔女と使い魔』が密室的興味をかきたてながら、それに対する解答が明確にできていないとかいった不満のある作品もありますが、まあいいでしょう。また犯人像がかなりワン・パターンで(『黄金の十字架』などの例外もありますが)、最後に置かれた代表作『ナボテの葡萄園』なんか、それまでの作品を読んできていればすぐ真犯人の見当がついてしまいますが、これも狙いが犯人の意外性ではないので、それで結構。『神のみわざ』は推理部分だけでも実際の単語を取り上げてもらいたかった気もしますが。

No.2 10点
(2019/10/05 20:54登録)
 シャーロック・ホームズやブラウン神父ものと並び称される名シリーズ。作品数は両者より少ないものの、各篇いずれも開拓初期のヴァージニアを舞台とした力強いドラマ性と重厚なタッチ、風景描写と何より卓越した探偵像が光る。15Pから多くても僅か20P程度の分量にこれだけの要素を盛り込むのは凄い。そういう訳で、読むなら断然ハヤカワ文庫版の方を推します。エドマンド・クリスピンの簡にして要を尽くした序文も収録されててお得。
 収録全18篇中主要な10篇が創元版とのダブり。本文庫独自収録は世界短編傑作集収録の「ドゥームドーフ殺人事件」を除き、手の跡/死者の家/第十戒/金貨/血の犠牲/奇跡の時代/禿鷹の目 の7篇(配列は発表順)。中では有無を言わせぬ証拠を提示する「第十戒」と、「養女」のストーム医師初登場の「金貨」が読み応えありました。いずれも甥っ子のマーチン君が登場する作品。初期は彼が主な語り部なので、覚えておくと配列が見分け易くなります。ブラウン神父ものと同じく1911年からの連載ですが、あっちには全然子供の影がありませんね。
 発表誌は『サタデー・イブニング・ポスト』と『メトロポリタン・マガジン』がほぼ同数。次いで『The Red Book』が数篇に、『Pictorial Review』に「奇跡の時代」が掲載。更に「禿鷹の目」が初版刊行時のボーナストラックとして付属。これに創元版収録の4編が加わります。〆て全22編。
 ベストは法の源泉を露にして燦然と輝く名編「ナボテの葡萄園」、次いで秀逸な手掛かりを扱った「神のみわざ」。この2篇はトリックのみならずドラマ的にも優れています。その次に来るのはアンソロジーピースの「ドゥームドーフ殺人事件」でしょうか。焦点トリックばかりが云々されますが、本編に代表されるようにそれに加えて、舞台設定とテーマが完全に一体化しているのがアブナーシリーズの魅力です。
 他にも証拠解釈の絶対性に意義を唱える「黄昏の怪事件」、論理性で皆さん推しの「藁人形」、巧みな小道具使いの「養女」など佳作クラスも多数。自治の精神と法とは何か?というテーマ性、善意に裏付けられた力強さの必要性を訴える、ミステリ史上のマイルストーンです。久しぶりにお腹一杯。

No.1 7点 nukkam
(2018/08/04 15:54登録)
(ネタバレなしです) 米国ミステリー史においてメルヴィル・D・ポースト(1869-1930)はミステリーの始祖エドガー・アラン・ポーと米国本格派推理小説黄金時代を築き上げたヴァン・ダインの間を埋める作家として高く評価されています。弁護士ランドルフ・メイスンやスコットランド・ヤードのヘンリー・マーキス卿やパリ警視庁のムッシュウ・ジョンケルなど色々な主人公の作品がありますが最も名高いのが22作の中短編で活躍するアブナー伯父シリーズです。法律遵守を説く一方で法律では解決できない問題に独自の判断を下す時もありますが、正義感と神への信仰心が全くぶれないため説得力が非常に強力です。1918年に18編を収めた本書(ハヤカワミステリ文庫版)が生前に出版された唯一の短編集です(全22作を収めた短編集は1974年に限定版が、1977年に通常版が米国で出版されました)。謎解きとして気に入ってるのは、最後に提示された手掛かりを事前に伏線にしておけば完璧な本格派推理小説になったのではと思われる「藁人形」、独創的なトリックで知られる「ドゥームドーフ殺人事件」、人間ドラマとして気に入ってるのは「黄金の十字架」と「ナボテの葡萄園」です。ちょっと変わったどんでん返しの「黄昏の怪事件」や動機に唖然とする「血の犠牲」も印象に残ります。

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