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ミステリの祭典

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わが名はアーチャー
リュウ・アーチャーシリーズ

作家 ロス・マクドナルド
出版日1961年01月
平均点6.00点
書評数3人

No.3 6点
(2019/11/27 20:34登録)
『逃げた女』から『女を探せ』まで、邦題にはすべて「女」をつけた7編ですが、原題では女を表す言葉のあるのは Girl、Woman、Lady、それにBlonde も入れるとしても4編だけです。
邦訳ではそんなふうにタイトルはあえて統一されていて、作品自体も1954年、長編では『犠牲者は誰だ』発表年までの初期作品だけなのですが、中田耕治の翻訳には統一がとれていないところがあります。全体的にはこの翻訳者の粗野な感じは、殴り合いや銃の撃ちあいも多い初期ロス・マクにかなり合っていると思うのですが、リュウの一人称代名詞は『逃げた女』だけが「俺」で他は「私」です。その『逃げた女』の一節「ぼくの車に乗った。…(中略)…俺はノックした。」と同じ段落の中で代名詞が変わるのは、どう言い訳してもだめでしょう。
全体的にはやはり特に短い作品は解決が忙しく、もう少し長くした方がよかったかなとも思いましたが。

No.2 6点 クリスティ再読
(2018/06/20 19:03登録)
ロスマクの短編集である。創元の「ミッドナイト・ブルー」とは「女を探せ」と追いつめられたブロンド(罪になやむ女)」の2作が重複する。創元は小鷹信光訳だが、こっちは中田耕治訳で下世話な口語体がハードボイルドらしい。
でだが、やはり思うのは「女を探せ」の特異性みたいなものだ。どうやらロスマクは兵役前に書いた「暗いトンネル」と復員後の「トラブルはわが影法師」でドッド・ミード社のスリラー描き下ろし作家でデビューしたわけだが、それ以前には商業誌での短編掲載があったわけではない。三作目の「青いジャングル」からはクノップ社に移っているわけで、たぶんドッド・ミードの2作はそれほど注目されなかったのでは、とも思われる...しかし、復員直前の太平洋上で「女を探せ」を書いて、EQMM 短編コンテストに応募したら入選して、ロスマクを長らく贔屓にしてくれたアンソニー・バウチャーともご縁ができる。でしかも「女を探せ」は主人公名をリュー・アーチャーに直してこの短編集のラストに入ることになった。レトコンみたいだがアーチャー初登場作といえばそうだ(キャラは印象が少し違う)。本作こそが「暗いトンネル」「動く標的」以上に「ロスマクの出世の糸口」というものかもしれない。
やはり中田耕治訳で読むと、とくに本作の「ハードボイルドらしさ」みたいなものが際立つんだね。しかも本作ロスマクでは珍しいことにトリックと解釈可能なネタがある。復員兵士の妻、という当時のありふれたネタなんだけども時事的な背景、重厚なんだがささくれた不吉な雰囲気と、社会的な空気感というあたりで後にロスマクが切り捨てていったところの「(評者に言わせれば本当の意味での)ハードボイルドとしてのレーゾンデートル」が決して暴力的ではない本作にちゃんとある。
まあそういう意味で、「ミッドナイト・ブルー」で読んですぐに「わが名はアーチャー」で再読することになったけど、本作再読した意味があったように感じる。
まああとはどうだろう、普通に書けているくらいの感じ。「自殺した女」が結構な地獄絵図だが、これそういえば「悪魔がくれた五万ドル」だ。なつかしい。ロスマクの長編だとプロットが錯綜してジュブナイルには向かないから、短編を子供向けにしたんだね。

No.1 6点 kanamori
(2013/08/11 13:35登録)
私立探偵リュウ・アーチャー登場の短編集。デビュー作の「女を探せ」(1946年)をはじめ50年代半ばまでに発表された7作品が収録されています。女性が重要な役割をしている話ばかりなので、邦題全てに「女」が入っていますが、原題とかけ離れたタイトルのものは少し違和感がありました。

タフガイ探偵ぶりを前面に出した普通のハードボイルド風作品もあるものの、中期以降のものは、長編並みに複雑な人間関係と入り組んだプロットになっていて、意外性の追及とともに悲劇的な結末も用意されています。続けて読むと疲れてしまう濃さがありますが。
また、「雲をつかむような女」や「ひげのある女」など、EQMMに掲載された作品は本格ミステリ顔負けのトリックもあります。
ロスマクの短編はそれほど作品数も多くなく、長編に比べてあまり話題にもならないように思いますが、期待以上で満足です。

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