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ミステリの祭典

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テロリスト
マルティン・ベック

作家 マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー
出版日1979年02月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 クリスティ再読
(2021/05/22 19:41登録)
マルティン・ベックも本作でグラン・フィナーレ。
というか、実質前作の「警官殺し」で、大河ドラマとしての「マルティン・ベック」は終わっているんだと思うんだ。アメリカ上院議員のスウェーデン訪問の広域警備を、ベックと殺人課の面々が仰せつかり、見事国際テロリストによる襲撃を阻止してみせるこの話、真に受けるというよりも、寓意的なファンタジーみたいに評者は読んでいたよ。ベックもラーソンもルンもメランデルもスカッケも、実に有能というか抜群の分析&指揮能力を見せて、超人的な大活躍を見せる反面、このシリーズのチョイ役・敵役たちも万遍なく姿を見せて、お約束のようにドジを踏んで見せている。勧善懲悪というか、リアリズムってなあに?な印象の話なんだから、これは作者が意図した「グラン・フィナーレ」みたいな顔見世興行だと思うのがいいように感じている。
いやだから逆に、こういう「夢オチ」に近い幸福感でしか、話のフィナーレをつけれない、というこのことに、命の終わりの近づいた作者(の一人)の、スウェーデン社会に対する絶望感が深い、ということを感じ取るべきなんだと、評者は思うんだ。決してフォーサイスまがいの国際謀略小説を書こうとしたわけではない。その枠組みを借りて「テロ対策の名を借りた市民生活への干渉と抑圧」の鼻を明かしてやろうという目的で、わざと仕組んだマンガ的な明朗さでアイロニーをぶちかました作品なんだろう。

このマルティン・ベック・シリーズは、後半になればなるほど、いわゆる「警察小説」の保守性を嘲笑するような話になってくるあたり、奥深いものがあるように感じる。それこそ「消えた消防車」までしか読んでいないと、オーソドックスな「警察小説」を深刻な方面で深めたシリーズ、ということになるんだろうけど、後半の展開は「警察小説」を自らの手でアイロニカルに破壊していくような過激さを秘めている。なので、「穏当なエンタメ警察小説を読みたいなら前半だけが無難、もっとヘンで過激でオリジナリティ溢れる小説を読みたいならぜひ後半も」を、評者のシリーズ全体への評価としたい。

No.1 7点
(2020/01/02 23:09登録)
1965年に『ロセアンナ』で始まったマルティン・ベックとその仲間たちシリーズは、1975年に発表されたこの第10作で打ち止めになりました。夫君のヴァールーは同年に没していますが、もっと長生きしていたらシリーズはどうなっていたのでしょう。本作自体は、これで「完結」という感じはしないのですが。
さて、その最終作、1/3近くまでは、最初の方でどこかの国に出張したラーソンがテロ事件に遭遇するエピソードは入るものの、銀行強盗事件の裁判とポルノ映画監督殺害事件が中心です。その後、テロリストの視点から描かれる部分をところどころに加えながら、来訪したアメリカ上院議員の暗殺計画をめぐる攻防が始まります。
ベックたちの暗殺阻止計画は、ごく早い段階で見当がつきましたが、その後起こる展開には驚かされます。ラストの緊迫感が今ひとつとも思えましたが、充分楽しめる作品でした。

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